枯れない花

南都

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第四章 「戦闘」と「曼殊沙華」

第二話

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 晴れ渡る空、快晴という言葉がよく似合う天気。

 夕暮時、西の空は茜色に染まっている。太陽は直視できないほどに煌々とし、山や鳥の影を強調させる。
 対して東の空は既に藍色に染まっており、星明かりさえ目に映っている。藍と茜の狭間、空はこんなにも異なる表情を持っている。

 山を下り、向かったのは麓にある駐車場。百台近くの駐車スペースがあるそこは、いつもがらんどうだった。
 あっても一台二台、まばらに駐車されている程度。

 今日も例外ではない、茜に照らされ影を落とす駐車場にあるものは、白い軽自動車と黒い八人乗りの自動車だけだ。光沢のある塗装が光を反射し、車輪から影が長く伸びている。

 唯一の移動手段である俺たちからしてみれば、好都合な話だ。

 仮に能力に頼れば『空を飛ぶ』だって可能な話だ。しかしモノクロームが共にいる以上、無効化の能力は常にアクティブでなければならない。
 自分の力で彼女を開花させるわけにはいかないのだから。

 だからと言って、アクセサリーだけ手にして俺が単騎で動くのは危険だ。一人で強制開花後に隔離させるのはリスクが高い。
 どんなに手際が良くとも、危険なことには変わりがない。たった一回の失敗が命取りなのだ、モノクロームと協力する以外の手はないだろう。
 
 運転席へと入る。座席につけばシートベルトを斜めにおろす。左隣を見れば、既にモノクロームも助手席についている。
 シートベルトを下ろし、飲み物の準備などを済ませていた。

「いいですよ」

「了解です」

 エンジンをふかす。我ながら手慣れた動きだ、ここ数日の日課になっている。

 モノクロームと出会ってから運転する機会が増えた。出会って初の運転の時は手が汗ばんだものだ。
 たいした稼ぎもなかった俺は車など持っているはずもなかった。自動車免許こそあれど、それは身分証明書の代わりという方が適していただろう。ペーパードライバーという名にふさわしい。

 しかしそれも一転した。最初こそおぼつかない運転であった。しかし彼女が隣にいればいざとなればアクセサリーの力でどうにでもなる、その事実が俺の気を落ち着かせた。
 そもそも、そこにモノクロームがいるということが精神安定剤になっていたのもあるだろうか。

 それにしても運転免許証を普段から持ち歩いている甲斐があったものだ。おかげさまで無免許運転の罪状にも問われやしない。

 我ながら随分と真面目さを貫いているものだな、俺は。糞真面目という言葉がよく似合う。
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