枯れない花

南都

文字の大きさ
94 / 123
第五章 「結末」

第四話

しおりを挟む

「それもそうですね。縁起でもない」

 風に乗って香ってくる香水の匂い。花の匂いだ、優しく甘い匂い。官能的という印象よりも上品さの印象が勝る匂い。
 モノクロームにしては珍しかった。彼女は主にはシャンプーの泡のような清潔感のある匂いを好み、稀に変えてもお菓子のような甘い香り、いわゆるグルマン系の匂いをまとっている印象だった。

 「この香り、花の香りですよね」

 すると少し嬉しそうにこちらを見る。無意識だろうか、微かに頬が綻(ほころ)び桃色を帯びた。そんな表情の変化、たまらなく愛おしいものだ。

「ハナアカシアの香りです」

「ハナアカシア? ミモザ、でしたか?」

「はい」

「花言葉……『感謝』ですよね」

 無言で首を横に振るう。モノクロームが左ひじを退け、窓の外へと左手のひらを開く。
 舞い降りてきた一粒の雪。しなやかな腕の先の手のひら、そこに舞い降りた雪はモノクロームの柔らかな白さに同調するようだ。

 その雪をこちらへと差し出せば、モノクロームは手招くような笑顔を見せた。

「ヒントは……色ですよ」

 白、どこまでも突きぬける白だ。

 呆然と見て入れば、迫ってきていた曲道。それに焦るように左方向へとハンドルを切る。
 車にかかる遠心力、同時に後方席から物が崩れた音がする。

「すいません、よそ見させてしまいましたね」

 勢いでこちらに崩れていたモノクローム、彼女がこちらを上目で見れば遠慮がちに笑う。それを横目に見れば、ふっと目を伏せ「いえ、大丈夫です」と返した。そして視線を運転席の後ろへと送る。

「それより荷物が心配ですよ。自動車に置きっぱなしは良くなかったかもしれません」

 車内を見るバックミラーを見れば、映っていたのは大量のお土産だった。

 座席に並べられた袋、敷詰められているものは崩れていない。しかし置き場に困り、上方に乗っけておいたものは地面へと落下している。

「だいぶ溜まってきていますもんね。しょうがないですよ」

 あはは、とその場しのぎ気味に笑うモノクローム。

 笑ってこそいるが、後ろめたさの方が強く表に出ている。俺も乾いた笑いを返せば、とんとんと右手の指で軽くハンドルを打つ。

「お土産、ちょくちょく買っていますから。面倒くさがらずに家に入れるべきでした」

 今回落下したものに入っているのは一個包装のお菓子であった。そのため今回の被害は少ない。しかし種類によっては形が崩れるものもあった。その点も配慮して運転をしなくてはならなければ。

 慎重さを増した運転。窓の外を見れば夜の街並みが見えた。

 都会の景色だ、懐かしささえ思い出す景色。気がつけば俺たちはかなりの間、この道を進んできたようだ。話すことに夢中で気が付かなかった。楽しい時というのは……こんなにも早く過ぎ去っていく。

 ビルや住宅街には明かりがともっている。夜だというのにこの町はあらゆる光に満ちている。星のように無作為に散らばっていて、それぞれに命が宿っている。眩しく、直視できないほどの鋭い光の海だ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

処理中です...