枯れない花

南都

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第五章 「結末」

第十二話

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 それでも、この時点で彼と敵対するのは避けるべきだ。そもそも偽善であろうとも、善行を行うならばそれでいい。一貫して悪行を取らないのであれば、それは善であるのだから。偽善に見えるという主観で、鼓と敵対するのは愚行だ。

「誤解がある。別に俺たちは隔離の能力者の仲間ではなかった」

「なら何故助けた」

「敵だから殺す、そんな常識では失うばかりだ」

 その言葉はどうやら効いたらしい。沈黙、彼はそれに身を投じている。

 言い訳を思い浮かべているか、はたまた自身の『正義』を示そうとしているのか、それとも攻撃の言い訳を用意しているのか。どれでもいい俺が取るべき行動は、たった一つだ。

 モノクロームが振り返る、その視線と俺の感情は一致している。『まだ勝負してはいけない、俺たちに分が悪すぎる』、そう告げている。

「協力の道はないか」

「協力?」

 怪訝に俺を見る。その表情、仲間達に見せてやりたいものだ。

 そんなに嫌か、協力の道は。お前は『全て』を持っているというのに、俺たちを受け入れることを拒む。利用できる存在だけが欲しいのか、協力することで得るものなど要らないのか?

「ああそうだ。悪い話ではないだろう? この道を見てほしい、常識なんて通用しない。アスピレーションのリーダーは……危険だ。相手にしなければならないのは俺たちも同じなんだ。鼓と同じように、俺たちも彼らは放っておけない」

 問いかける。

 鼓の横に歩み寄ったのは和乃と呼ばれた女性だった。

 光沢のある腰までの黒髪は、纏められることなく伸ばされている。体系はスレンダー、百六十弱の身長。鼓と同様に黒色のコートを羽織っており、内側には質素な水色のワンピースが見える。そして左首には、開花した花の入れ墨がある。

 分身の能力者、この女性と会うのもこれで二回目となる。

「鼓、良いんじゃない? 敵対して消耗するのも良くないでしょう?」

 片目を閉じ、しょうがないでしょ、と手をふらふらと泳がせる。仕草は多少目につくが、それでも彼女は敵対していない。むしろ思わぬ助け舟となってくれる。身内からの意見だ、無下にはできないだろう。

 しかし鼓は首を横に振るう。そして言い渡すのだ、どこまでも一方的な条件を。

「条件がある。彼女、モノクロームと呼ばれた人のアクセサリーの八割を俺たちに渡してくれ。見えているものを。その力も危険なものだ」

 そんなこと……。

「無理に決まっている。そんなことしたら丸腰で戦うようなものだ」

 どこまでも利己的なことをいう。これ以上、お前は何を望む。仲間を得て、立場を得て、資金を得て、名誉を得て、いけしゃあしゃあと言い渡す条件はなんだ。どこまでも一方的なものじゃないか。

 俺たちが悠々と戦っているように見えたか? この状況で手を抜いて戦えるわけもないだろう。それさえ理解できないままに、この男は『利用』すべく条件を言い渡す。

 そしてそれへの否定の言葉は、そのままに彼の『戦う理由』になるのだ。


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