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第二章 勇者の事情
11話~絶望の魔王さんと何でも屋さん~
しおりを挟む「魔王様は童貞なのですか?」
「うぁあああああーーー!!聞くなァーー!!」
真顔で再度聞き直すニヒツに魔王ゼーベは、机に額を強く打ちつけ塞ぎこむ。魂の叫びを上げ耳を手で覆い、聞きたくないと頭を激しく左右に振る。
「魔王様は……」
「ニヒツちゃん!?止めてあげてくださいスッ!!魔王様の心が修復不可能なぐらい砕け散っちゃうスッ!!」
「うぅ……うぅ……何故……何故だぁ……」
砕け散り寸前のゼーベを更に追い討ちをかけるように再度口を開き同じ言葉を繰り返そうとするニヒツの口を、ハイルは慌てて覆う。主の心をこれ以上傷つけまいと庇うハイルの姿はまさに忠義を誓う部下だろう。
「……何故我は……いまだに童貞なのだ……」
「ま……魔王様!お気を確かに持ってくださいスッ!魔王様は男のオイラから見てもカッコいいスッよ!」
「……ハイル……」
「研ぎ澄まされた戦闘技術に精錬された容姿!溢れんばかりのカリスマ性!若くして序列八位に君臨する魔王!これに惚れない女はいないスッよ!」
「……本当にそう思うか?」
「そうスッよ!だから自信持ってくださいスッ!」
必死に励まそうとゼーベを褒め倒す、それにゼーベは目元に涙をため少しずつ顔を上げハイルを見つめる。主と家臣の絆を確かに感じさせる。
「……そうか……そうであるな!我は魔王ゼーベ・オルドヌングである!」
「そうスッ!」
「我はまだ若い!寿命も長い!チャンスはまだある……ある……と思う……思いたい……なぁ、あると思うか……?」
「あるあるスッよ!!ありありスッ!」
立ち直ったかと思うと、また枯れ木のように萎んでいくゼーベをひたすら励ますハイルを横目にニヒツはメニューを見ている。そもそもの原因をつくったニヒツを憎々しそうにハイルは声をかける。
「ニヒツちゃんもそう思うスッよね!!」
「……ニヒツ……あると思うか?」
ニヒツはメニューから目を放し机にうつ伏せになりながら希望と願望に満ちた目で見てくるゼーベを目をやる。そして、さすがに可哀想になったのかゼーベに僅かに目を細めるニヒツにハイルは笑顔になる。きっと一緒に励ましてくれるのだろう、と。
しかしながら、現実はそこまで慈愛に満ちていないことをハイルは知ることになった。
「今のうじうじジメジメ魔王様を客観的に見ると無理だと思いますよ?」
「…………」
「うぁああああああーー!!」
奈落の底に落ちていく亡者ような深く暗い悲鳴をゼーベは発し、堰をきった水が目から溢れ出す。日々の鬱憤と絶望がいり混じった血涙だ。
「ニヒツちゃんは悪魔スッか!?魔王様大丈夫スッよ、何が大丈夫なのか分からないけど大丈夫スッよ!」
「……大丈夫じゃ……ない」
「あぁーー!魔王様元気出してくださいスッ!きっと希望はまだあるスッよ!」
「…………ない……あるのは絶望だけだ……」
「我求めと欲し与えられん!希望は自分で掴み取るものスッよ!魔王様ならなんでも手に入れられるスッよ、なんたって魔王なんスッから!」
「……我先に見えしは絶望の淵なり……世の中そんな上手く行くわけないであろう……気休めは止めろ……」
ハイルがどんなに励ましの声をかけても否定の言葉以外返ってこない事に放心する。駄目だこれどうにもならねぇってか気休めってかりにも魔王がそれを言うか、とハイルは刹那に思った。
そこに、ニヒツが手を上げオーダーをとっていた店員を何事もないように平然と呼び掛ける。
「すいませんー、この【アサムの酒蒸し】と【ハテテのカルパッチョ】お願いしますー」
「…………」
「この状況でよく注文できるスッね……」
余談だが【アサムの酒蒸し】は酒の摘まみに合うと漁師の男衆に仕事終わりの一杯の付け合わせとして人気の料理とされている。
◆◆◆◆◆
まず、本当に申し訳ありません。この頃忙しくて更新が出来ませんでした。このままでは「り」とついて「ん」で終ることになりかねないので、今までの自堕落に首を絞められております。来月になるとましになると思います。
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