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この手を伸ばす先:ティレアヌス
冬の汽車と忘れられた町
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馬車が止まった。私は駅に着いたことに気付いた。
アンネリースに手早く毛布でぐるぐる巻きにされ、抱きかかえられた。アンネリースは私を抱きかかえたまま汽車の客室内へ入り、私を寝台に置いた。布団を掛けられたあと、汽車が動いた。私はハイド伯爵の命令に従い、アウレリオへ向かうため、この汽車に乗り込んだ。
暇な私は羊を数えていた。けれどこんなに揺れていたら100年の眠気も吹っ飛ぶ。胸元くらいまで切った髪が頼りなげに揺れている。
「アンネリース。私、座りたいわ」
アンネリースは無言で私の上体を抱き起こした。腕くらいならもう簡単に動かせるけど、上体を動かすのはまだ重い。窓の外に広がる白い雪景色がどこまでも続くのを見ながら私はくったりと壁に寄りかかった。
この療養は本当に必要なのかな。せめて年末年始は首都に留まるべきじゃないの? 体調を回復させるためだけに、12日間も汽車で揺られることが、果たして本当に必要なのかな。さすがに分かっている、ハイド伯爵は悪い人じゃないって。きっと私の体を真に心配してのことだろう。けど私を遠ざけたいだけじゃないかな、という気もする。久しぶりにペンダントを服の上に出し、ぎゅっと握った。
静かな車内に響くのは汽笛と蒸気の音のみ。長いまつ毛が影を落とすのを感じながら私は目を瞑った。
アウレリオに到着したのは年が明けた後だった。
車両から出ると、冷たい風が頬を打つ。アンネリースに馬車の中まで運ばれた。「冷えるから」という理由でブラインドが下ろされているから外が見えない。街の外れにある別荘に到着し、アンネリースに抱きかかえられ馬車から降りた。私が来るのを知っていたかのように、数人の召使が整然と並んで出迎えてくれた。執事らしき男性が口を開いた。
「奥様、お疲れ様です、どうぞお入りください」
私はこくりと頷いてから、後ろを見た。そして目を見開いた。アンネリースの肩越しには多くの木々があり、その向こうには港町があった。海の青さが冬の寒さが一層際立てているけど、汽笛の音が、行き交う人々が、レンガの色が開放的な雰囲気を作り出している。どこか異国の香りが漂う雰囲気もある。
「すごく綺麗な町」
アンネリースは歩き始めた。彼女は執事の案内に従い、私を部屋に連れて行ってくれた。そして私をベッドに降ろし、布団を掛けてくれた。
「では私は扉の前で控えております」と部屋から出て行った。
目の前にひっそりとした空間が広がった。部屋は暖かい、暖炉があるから。深呼吸をしてみた。静かな部屋に微かな呼吸音が響いた。1人、だだっ広い空間にいる。その空間が幼い頃から苦手だった。胸元に触れた。
バッと上体を起こし掛けた。無理だったから、冷や汗を流しながら胸元を弄った。ない、ない! ペンダントがない!いつから無かった⁈ 記憶にある限り最後にペンダントを認識したのは汽車の中。私はぐったりと脱力した。お母さんから貰った宝物だった。
その時、部屋の外から足音が聞こえた。扉が開き10歳くらいの少年が荷物を持って来た。馬車に置いてきた荷物だった。少年は洗濯はしたのであろう作業服を着ている。
「失礼いたします」とスーツケースの中身をテキパキと片付け始めた。
目元には疲れが滲んでいるけど、どこか落ち着いた大人びた雰囲気を持っている。私はその少年をじっと見つめた。髪は短く、綺麗な黒髪、栗色の瞳。智に似ている。
「あなた、ここで働いているの?」
私は軽く問いかけてみた。少年は緊張したようにシャキッと背筋を伸ばし、すぐに答えた。
「はい! ダニエルと申します!」
「そうなんだ、いくつ?」
「9歳です」
ちっちゃ! おこちゃま! 智はいくつだったっけ? 前会った時は6歳だったから同い年だ。私はぐるぐる渦巻く心中を無視して微笑んだ。
「そう、私は18歳よ。変な質問なんだけどペンダントを見掛けなかった?」
「いいえ」
「そう……、ありがとう」
胸が苦しい。私はギュッと目を瞑った。ダニエル君が何か言いかけて、ふっと口を閉じた。私の顔をじっと見た。ダニエルはお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
ダニー君は片付けを終え退室した。すごい音でドアを閉めたね。
その後、私は部屋で静かに過ごした。
あのペンダントはどこに行ったの? もし駅か汽車の中なら……。あれ、目立たないから誰かに踏まれているかもしれない。私にとってはかけがえのない大切な物なのに……。
顔に熱が集まるのを感じた。体調は回復していない。この新しい場所で少しでも心を落ち着けることができればいいのに。
窓の外に目を向けた。1羽の鳥が鳴いている。頭から爪先まで灰色だけど旨からお腹はオレンジの鳥。何の鳥だろう? 必死に頭を動かした。あ、そうだ! コマドリだ!
アンネリースに手早く毛布でぐるぐる巻きにされ、抱きかかえられた。アンネリースは私を抱きかかえたまま汽車の客室内へ入り、私を寝台に置いた。布団を掛けられたあと、汽車が動いた。私はハイド伯爵の命令に従い、アウレリオへ向かうため、この汽車に乗り込んだ。
暇な私は羊を数えていた。けれどこんなに揺れていたら100年の眠気も吹っ飛ぶ。胸元くらいまで切った髪が頼りなげに揺れている。
「アンネリース。私、座りたいわ」
アンネリースは無言で私の上体を抱き起こした。腕くらいならもう簡単に動かせるけど、上体を動かすのはまだ重い。窓の外に広がる白い雪景色がどこまでも続くのを見ながら私はくったりと壁に寄りかかった。
この療養は本当に必要なのかな。せめて年末年始は首都に留まるべきじゃないの? 体調を回復させるためだけに、12日間も汽車で揺られることが、果たして本当に必要なのかな。さすがに分かっている、ハイド伯爵は悪い人じゃないって。きっと私の体を真に心配してのことだろう。けど私を遠ざけたいだけじゃないかな、という気もする。久しぶりにペンダントを服の上に出し、ぎゅっと握った。
静かな車内に響くのは汽笛と蒸気の音のみ。長いまつ毛が影を落とすのを感じながら私は目を瞑った。
アウレリオに到着したのは年が明けた後だった。
車両から出ると、冷たい風が頬を打つ。アンネリースに馬車の中まで運ばれた。「冷えるから」という理由でブラインドが下ろされているから外が見えない。街の外れにある別荘に到着し、アンネリースに抱きかかえられ馬車から降りた。私が来るのを知っていたかのように、数人の召使が整然と並んで出迎えてくれた。執事らしき男性が口を開いた。
「奥様、お疲れ様です、どうぞお入りください」
私はこくりと頷いてから、後ろを見た。そして目を見開いた。アンネリースの肩越しには多くの木々があり、その向こうには港町があった。海の青さが冬の寒さが一層際立てているけど、汽笛の音が、行き交う人々が、レンガの色が開放的な雰囲気を作り出している。どこか異国の香りが漂う雰囲気もある。
「すごく綺麗な町」
アンネリースは歩き始めた。彼女は執事の案内に従い、私を部屋に連れて行ってくれた。そして私をベッドに降ろし、布団を掛けてくれた。
「では私は扉の前で控えております」と部屋から出て行った。
目の前にひっそりとした空間が広がった。部屋は暖かい、暖炉があるから。深呼吸をしてみた。静かな部屋に微かな呼吸音が響いた。1人、だだっ広い空間にいる。その空間が幼い頃から苦手だった。胸元に触れた。
バッと上体を起こし掛けた。無理だったから、冷や汗を流しながら胸元を弄った。ない、ない! ペンダントがない!いつから無かった⁈ 記憶にある限り最後にペンダントを認識したのは汽車の中。私はぐったりと脱力した。お母さんから貰った宝物だった。
その時、部屋の外から足音が聞こえた。扉が開き10歳くらいの少年が荷物を持って来た。馬車に置いてきた荷物だった。少年は洗濯はしたのであろう作業服を着ている。
「失礼いたします」とスーツケースの中身をテキパキと片付け始めた。
目元には疲れが滲んでいるけど、どこか落ち着いた大人びた雰囲気を持っている。私はその少年をじっと見つめた。髪は短く、綺麗な黒髪、栗色の瞳。智に似ている。
「あなた、ここで働いているの?」
私は軽く問いかけてみた。少年は緊張したようにシャキッと背筋を伸ばし、すぐに答えた。
「はい! ダニエルと申します!」
「そうなんだ、いくつ?」
「9歳です」
ちっちゃ! おこちゃま! 智はいくつだったっけ? 前会った時は6歳だったから同い年だ。私はぐるぐる渦巻く心中を無視して微笑んだ。
「そう、私は18歳よ。変な質問なんだけどペンダントを見掛けなかった?」
「いいえ」
「そう……、ありがとう」
胸が苦しい。私はギュッと目を瞑った。ダニエル君が何か言いかけて、ふっと口を閉じた。私の顔をじっと見た。ダニエルはお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
ダニー君は片付けを終え退室した。すごい音でドアを閉めたね。
その後、私は部屋で静かに過ごした。
あのペンダントはどこに行ったの? もし駅か汽車の中なら……。あれ、目立たないから誰かに踏まれているかもしれない。私にとってはかけがえのない大切な物なのに……。
顔に熱が集まるのを感じた。体調は回復していない。この新しい場所で少しでも心を落ち着けることができればいいのに。
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