宛先の見つからないラブレター

神永 遙麦

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宛先の見つからないラブレター

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 萌花は授業中に目を覚ました。
 愛してる、と誰かに言ってみたい衝動に駆られた。

 *
 誰に言えばいいんだろう?
 沙月や小鈴たちは論外。好きでも嫌いでもないし、イジメのターゲットになるよりマシだからいるだけ。友愛の欠片もない。

 教壇を見た。
 先生に言ったらややこしいことになるし、臭いからやだ。って古文の授業じゃん。変なこと考えた原因こいつか。

 *

 学校が終わった。
 沙月は今日、野球の先輩とデートがあるからって椅子で先輩を待ってる。
 私も一緒に待つべきだと思った。けど今日はバイト先が忙しい日。だからさっさと学校を出た。

 バス停でバスを待ちながら、周りを見た。
 あのくたびれたリーマンは奥さんに愛してるって言ったことあるのかな?子ども部屋おじさんかもしんないけど。
 あのカップルはどうなんだろう?あのカップルの片割れうちの兄貴だから、言ってたとしても知りたくないけど……。
 親はどうなんだろう?母さんはよく「亭主元気で留守がいい」って言ってる。父さんは典型的な昭和親父だから小っ恥ずかしくて言えないな。
 私から親に、は。ムリだな。家出たいし。大学は一人暮らしにするし。
 ってか、愛してるって言うのより、アイラブユーって言う方が楽じゃね?
 ま、いっか。

 バスが来たから乗った。
 スマホとイヤホンを出して、とりあえず動画サイトに飛んだ。
 そもそも愛って何だっけ?

 商店街の近くのバス停に着いた。

 降りた時、夕方の5時。
 通りにはまあまあ人がいる。商店街だからか、どの時間も主婦が多い。土日は家族連れが増えるけど、他に行く所がないのかな?
 チラホラと高校生くらいの子もいる。向こうにイ○ンがあるから、そっち目当てだろうなぁ。
 バイト先の店が近づいてきた。
 アーケード屋根に陽が差している。パリとかにあるような天窓だったらステンドグラスみたいになったんかな?
 魚住のおっちゃんが呼び込みしてる。よく喉枯れないな。
 あ、パン屋のお兄さんも呼び込みしてる。後1時間で閉店だもんな。
 店が見えた。吉井さんも呼び込みしてる。

 私は駆け出した。駆けて、吉井さんに挨拶してからバックヤードに入った。おばちゃんっぽいデザインの制服に腕を通しながら、ふと思った。
 私はこの町が好きだなぁ。
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