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紅茶の天使と 珈琲の魔王4
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「……華子さん?」
諏訪乃の怪訝そうな声に、我に返った。
そうだ、今は妄想にふける時間ではない。
「これならどうですか?」
「天使のテーブルクロスか」
「嫌なんですか?」
「いや、ここはティーミッシェルの店舗だからちょうどいいんじゃないか?」
諏訪乃は肩をすくめ、ミッシェル様とカメラマンを手招きする。
どうやら全員のお眼鏡にかなったようだ。
ホッと胸を撫で下ろすと、目の前にハンカチが出てきた。
ハンカチはミッシェル様のものだ。
少し困った顔でミッシェル様が私を見下ろしている。
「あの……これは?」
「スカーフの代わりに使って」
チェック柄のブランドのハンカチだ。
少し皺が入っているのは、ミッシェル様が自分で洗濯をしているからだろう。アイロンがけまではしていない。
「そのままだと、ちょっと支障があるから」
目をそらすミッシェル様の目じりがほんのりと赤い。
上から自分の胸元を見下ろす。谷間が見えた。
「えっと……ありがとうございます」
素直に受け取って、スカーフの代わりにハンカチを胸元に挟み込んだ。
おしゃれでハンカチを使っているように見せるため、織り方や挟み方に注意する。
いかにも意識している雰囲気では恥ずかしい。
「洗ってお返ししますね」
ミッシェル様はほっとしたようにうなずいた。
長身のミッシェル様が気を抜いた表情は、人懐こい大型犬のようで可愛い。
しかし、これはティーミッシェルの「ミッシェル様のキャラ」ではない。
気を抜かれては困る。まだ撮影は終わっていない。
「ミッシェル様、駄目ですよ」
「え」
「ちゃんとキャラを作ってください」
私では手本にならないのが口惜しいが、こればかりは仕方ない。
まっすぐに魔王を指さす。
「せっかくお手本がいるんです。しっかり再現してください。ミッシェル様は大天使ミッシェル様なんです。優しくておおらかだけど、尊大な話し方をしなければなりません」
「うん、昔の諏訪乃みたいにすればいいんだよね」
「魔王味は出さなくていいですけど、あんな感じです」
「分かった」
ミッシェル様は頷くと、ネクタイを整えて姿勢を正した。
スカーフがかかった簡易撮影台には、紅茶のセットがおいてある。いつの間にか、友岡が用意していたらしい。
ミッシェル様は一度うつむくと、長い指で前髪をかきあげ、そのまま両手を開きつつ天を仰いだ。
「さあ、君たちに紅茶のすばらしさを教えよう!! 私についてきたまえ!!」
美しい!
完璧だ!
真っ白な天使の羽が見えるようではないか!
「ああ、ミッシェル様……! 鳥の囀りが、祝福のファンファーレのようです」
「耳鼻科で健診を受けたほうがいいのではありませんか?」
魔王のツッコミを無視して私はてのひらが痛くなるほど拍手をした。
「ミッシェル様! 素敵です!!」
「……いや、あいつの本名、山田連太郎だからな」
魔王のつぶやきなど聞こえない。
ミッシェル様の美しさの前では、鳥の騒音すら祝福になるのだ!
2022/01/07加筆修正
諏訪乃の怪訝そうな声に、我に返った。
そうだ、今は妄想にふける時間ではない。
「これならどうですか?」
「天使のテーブルクロスか」
「嫌なんですか?」
「いや、ここはティーミッシェルの店舗だからちょうどいいんじゃないか?」
諏訪乃は肩をすくめ、ミッシェル様とカメラマンを手招きする。
どうやら全員のお眼鏡にかなったようだ。
ホッと胸を撫で下ろすと、目の前にハンカチが出てきた。
ハンカチはミッシェル様のものだ。
少し困った顔でミッシェル様が私を見下ろしている。
「あの……これは?」
「スカーフの代わりに使って」
チェック柄のブランドのハンカチだ。
少し皺が入っているのは、ミッシェル様が自分で洗濯をしているからだろう。アイロンがけまではしていない。
「そのままだと、ちょっと支障があるから」
目をそらすミッシェル様の目じりがほんのりと赤い。
上から自分の胸元を見下ろす。谷間が見えた。
「えっと……ありがとうございます」
素直に受け取って、スカーフの代わりにハンカチを胸元に挟み込んだ。
おしゃれでハンカチを使っているように見せるため、織り方や挟み方に注意する。
いかにも意識している雰囲気では恥ずかしい。
「洗ってお返ししますね」
ミッシェル様はほっとしたようにうなずいた。
長身のミッシェル様が気を抜いた表情は、人懐こい大型犬のようで可愛い。
しかし、これはティーミッシェルの「ミッシェル様のキャラ」ではない。
気を抜かれては困る。まだ撮影は終わっていない。
「ミッシェル様、駄目ですよ」
「え」
「ちゃんとキャラを作ってください」
私では手本にならないのが口惜しいが、こればかりは仕方ない。
まっすぐに魔王を指さす。
「せっかくお手本がいるんです。しっかり再現してください。ミッシェル様は大天使ミッシェル様なんです。優しくておおらかだけど、尊大な話し方をしなければなりません」
「うん、昔の諏訪乃みたいにすればいいんだよね」
「魔王味は出さなくていいですけど、あんな感じです」
「分かった」
ミッシェル様は頷くと、ネクタイを整えて姿勢を正した。
スカーフがかかった簡易撮影台には、紅茶のセットがおいてある。いつの間にか、友岡が用意していたらしい。
ミッシェル様は一度うつむくと、長い指で前髪をかきあげ、そのまま両手を開きつつ天を仰いだ。
「さあ、君たちに紅茶のすばらしさを教えよう!! 私についてきたまえ!!」
美しい!
完璧だ!
真っ白な天使の羽が見えるようではないか!
「ああ、ミッシェル様……! 鳥の囀りが、祝福のファンファーレのようです」
「耳鼻科で健診を受けたほうがいいのではありませんか?」
魔王のツッコミを無視して私はてのひらが痛くなるほど拍手をした。
「ミッシェル様! 素敵です!!」
「……いや、あいつの本名、山田連太郎だからな」
魔王のつぶやきなど聞こえない。
ミッシェル様の美しさの前では、鳥の騒音すら祝福になるのだ!
2022/01/07加筆修正
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