探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

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ホイップたっぷり、さくら待ちラテはいかがでしょうか。

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「田中さん、モテるって言ったじゃないですか。だから、田中さんが夜勤の時って用もないのに宿舎に泊まる女の人が多いんですよ。動物の様子次第で急な当直があるのはおかしなことじゃないんですが、田中さんのときだけ、人が増えるっていうんで、上の人たちはそろそろ注意をしないとって言っているところでした。でも、動物の体調が、とか、様子がいつもと違うからなんて言われたら、何も言えないし」
「しかし、あそこは公立の動物園ですか?」
「正しくは公益法人が運営しています。殆ど公務員みたいな感じですね。だから余計にそういうのは許されないんですよ。真面目で熱心な職員が必要な夜勤もできなくなっちゃうから」
「爾志君の言う通りですね。その高橋さん以外に、問題視されていた方はいらっしゃいますか?」
「カンガルー担当の鈴木さん、コアラ担当の浅見さん、事務員の藤木さんです」
「皆さん独身でしょうか」
「はい、20代から30代前半で、あわせて4名です」
「被害者は非常に魅力的な方だったようですね」

 紗川の言葉に、爾志は「うーん」とうなった。

「確かにカッコいいとは思うけど、そこまで騒ぐこともないと思うんですよね。紗川先生のほうがよっぽどカッコいいと思いますよ。三枝から色々聞いててもそう思うし」

 三枝はギョッとして爾志を見る。

「ありがとうございます、恐縮です」

 紗川は控えめに微笑んで礼を述べた。言われ慣れているのがよくわかる。河西も顔をしかめていた。

「本気でいってるの、爾志くん? こいつさ、高校のころ、喫茶店でこうやって店員呼ぶような奴だったんだぞ?」

 そう言って河西は足を汲み、片手をあげて指を鳴らすしぐさをした。

「パチン――『オーダーを頼みます』って」

 キメ顔で三枝たちを見つめた後、足と姿勢を崩した河西はへらへら笑いだした。

「なあ、どうよ。この厨二っぷり。こんなことする高校生って嫌だろ」
「若気の至りだ」
「面白くなーい。そこはさ、テンション高いこと言おうよ。もっとホストごっこするとかさ」
「悪いなニシ。僕の見た目が悪くないのは昔からだ」
「うわ……サイテー。こいつ自分がカッコイイの分かっててかっこつけてるからホント、たち悪い」
「客観的事実だろう。それより、君は忘れているようだが、仕事中だ。爾志君の話を邪魔するのはよせ」
「ああ、そうだったそうだった、お前って、そういうやつだった。はい、どうぞ爾志君。どんどん話して?」

 制服を着た高校生の紗川が、嫌味なほどカッコつけて指を鳴らしているのを想像してしまった三枝は、顔が引きつってしまった。

(同級生でそんなことをする奴がいたら、ドン引きするよ)

 そう思いながらも、間違いなく似合うであろう仕草に、頭を抱えたくなった。
 紗川は、やれやれと前髪を書き上げてけだるげにため息をついている。これも計算の上の仕草なのかと思うと、三枝こそため息をつきたくなった。

「こっちのニシをつるし上げるのはあとにするとして……爾志君」

 突然呼ばれた西は、びくりと肩を揺らした。

「現場にいた人物を覚えている限り教えていただけますか?」
「はい。後は、俺の父親と、俺と……あと他の動物園の飼育員が2、3人かな……。勉強のために来たらしくて、獣医さんたちとずっと一緒でした。記録映像を撮ってる人もいました」
「その映像は……」
「お産のシーンしか映ってません。人の会話も入ってません。警察はそれを見てがっかりしてました」
「その方々の名前は分かりますか?」
「すみません、外部の人なので把握してません。でも、ずっと複数でいたのと、田中さんとは全く交流がなかったらしいです」
「わかりました。あとは……」
「あ、はい。俺と父親です。警察では、ほとんどの人が昼飯前に帰らせてもらえたんですけど、何人か、容疑者だって言われて残された人もいます」
「容疑者として残ったのは?」
「最後に会話したっていう理由で俺と、高橋さんと鈴木さんと浅見さんと藤木さんです」
「それは、被害者に好意を寄せていた女性でしたか」

 紗川の視線が三枝に向いた。思考力、推察力が優れている代わりに、紗川は人の名前を覚えるのが苦手だ。
 それを補うのが自分の役目だと三枝は思っている。

「ショートヘアの可愛い夜勤の人と、カンガルーの人と、コアラの人と、事務の人です」

 三枝のサポートを、爾志は目を見開いて聞いていた。

「何て言い方するんだ、三枝」

 呆れて目をまるくする爾志に、三枝は紗川のするように肩をすくめてみせた。

「しょうが無いよ。こういう言い方でないと先生の頭の中に入らないんだ」
「失礼に当たるかとは思いますが、覚えるためにご容赦ください」

 紗川が申し訳なさそうに言ったので、逆に爾志は恐縮してしまった。

「いえ、そういう事なら俺も、その言い方に合わせます。あ、でも、田中さんは覚えましたよね?」

 紗川が頷くと、爾志は「なら、田中さんだけ名前でいいですよね」と、了解を取った。

「えっと。四人は田中さんが好きだったみたいです。刑事の話だと、四人は田中さんを取り合って牽制し合ってるって感じだったみたいです」
「被害者は困っているようでしたか?」
「むしろ、田中さんはそれを面白がってるトコがあった気がします。俺、田中さんが死ぬ前に会ったんですけど、何か、嫌な男でした。カンガルーの人とコアラの人がキリンの所で喧嘩始めちゃったんですよ」
「手が出るような喧嘩を?」
「いえ、口喧嘩です。確認した訳じゃないですけど、俺の印象だと、田中さん、四マタかけてたような感じで」
「それは凄いですね」
「弄んでる感じがして、嫌いでした。死んだ人をこういうのは悪いとは思うけど、自業自得って思ってます」

 爾志の気持ちは分からなくもないが、三枝は親友の意外な一面を見た気がした。

「事件のあった日って、クリスマスじゃないですか」

 死体の発見が25日で、当直の夜だったという事は、彼らは24日の夜から泊まり込んでいたという事になる。

「四人は手作りのお菓子を用意していました」
「容疑者の女性からすれば、特別な日だからこそ一緒にいたいと思ったのでしょうね。それにしても4人とも手作りですか」
「田中さんは長いこと一人暮らしで、手作り料理が好きだって言ってたそうです。手作りのものが食べたいって」
「へえ、それは性格が想像できるね」

 河西が口をはさんできた。今度は紗川もうなずく。

「え、どういうことですか?」

 三枝の問いに答えたのは紗川ではなく河西だった。

「手作り料理が――ってさ、女を自分の部屋に連れ込む常套手段だからねえ。一人暮らしで家庭の味が懐かしくて、なんてさ。わかりやすすぎ」
「もちろん、違う可能性も考えているぞ?」
「それは清明の仕事な? 俺は素直に想像するだけだからさ」

 河西の言っていることに、三枝はうなってしまった。言われるとその通りだとうなずいてしまう。
 なにしろ、4人の女性と同時に付き合っているほどだ。計算高くなければできない。
 寂しさゆえに家庭の味が懐かしいと思っているとは考えにくかった。

「普段からそう言っていたのですか?」

 紗川の問いに、爾志は頷いた。

「いつも、高価な品物より手作りの食事がいいって言ってるらしくて」
「それだ。高価な物より素朴な手作り。動物園で働こうって女の子は、真面目で優しいだけじゃなくて、母性本能も強そうだからさ。そういうところ、くすぐられると弱いんじゃないかな。全部計算づくの発言だと思うよ。ねえ、清明?」
「……その話の振り方に悪意を感じるのは僕だけか?」
「そんなことないって。天然タラシの清明からすると、どうなのかなあって思っただけ」
「推理をするうえで決めつけは危険だが、計算しているだろうという点については同感だ」
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