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本日のおやつは、さつま芋パイです。
探偵助手のおやつは、おやきです 1
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土曜の午後、三枝紬(さえぐさつむぎ)は高校の裏門手前で足を止めた。懐に抱えた温かな紙袋を制服のジャケットで隠す。
ここが難関だ。
(ここを使ってる教師は五人。そのうちの三人は駅前に見回りに行ってるから大丈夫として、問題は第二校舎に向かう顧問の先生たちだけど……)
校門付近のアスファルトをよく見ると、土のタイヤ痕があった。
アスファルトが敷いてある場所は来客用で、教師用の駐車用は舗装されていない。一人はすでにこの門を通った後という事だ。
(俺じゃ、タイヤ痕からあたりをつけるなんてできないからな……)
タイヤの太さからSUVか軽自動車か程度はすぐにわかるようになると言われたが、高校生の三枝にはそんな芸当はできない。
耳を澄ませてエンジンの音が校内から聞こえてくるかどうか警戒するのが関の山だ。
(とりあえず、出てくる気配はなし、と)
何食わぬ顔で裏門の前を通り過ぎ、十分距離をとったところでようやく息をついた。
三枝の学校は校則が厳しい。下校中の買い物はもちろんのこと、寄り道も厳重に禁止されている。
土曜の放課後は、あちこちで生徒と教師の知恵比べが繰り広げられている。今のところ、三枝の戦歴は全勝だ。
ここさえ通り過ぎてしまえば、危険はほとんどない。
住宅街の細い道を進んでいくと、やがて石畳の細い道にぶつかった。寺をはさんだ向こう側は蔵造のまちなみが情緒を誘う一番街だ。
(さて、と。ここまでくれば、大丈夫だよな)
三枝は手に持っていた包み紙を開いた。
少し時間がたってしまったせいで表面がしっとりしてしまっているが、チーズとピザソースの香りが鼻腔をくすぐる。
おいしそうな香りに口の中がヨダレで大洪水だ。
包みの中身は、おやき。
ただし、おやきと言っても信州名物のおやきではない。
三枝はたまらずにかぶりついた。
ミートソースに似たピザソースとチーズの旨味だ。
(うまっ!! ピザ風ジャンボ、うまっ!)
何度食べても飽きることがない。
(この皮がピザ生地そのものだし、肉入ってるし。ピザの具のあるところだけ食べてる贅沢な感じがいいんだよなぁ……)
モグモグと咀嚼して飲み込む、食道から胃へ広がる満足感。
(おやきの店のオジサン、今日もいい仕事です、ありがとうございます!)
目の前で焼いてもらっている時から、早く食べたくて仕方がなかったのだ。
三枝にとって、おやきと言えば川越の「おやきの店」のおやき以外、他はない。小麦を練った生地に具をはさんで丸くするところまでは、信州名物と似ているだろうが、これを薄くしてプレートで焼く点で異なる。
みそや茄子、チーズやミートソースと言った洋風の具のほか、イチゴジャムやチョコレートまである。種類は豊富で一枚100円。市内の高校生、御用達の店だ。
良心価格で高校生の小腹を満たしてくれるおやきだが、その中でさんぜんと輝くピザ風ジャンボは200円と倍の価格だ。
もちろん、大きさも二倍、中の具もピザソースとチーズの二種類で、贅沢なひと品だ。
(この、生地のもちもち感と、トマトソースがいいんだよ!)
歯を立てるとかすかな抵抗とともに食されていく生地の間から、酸味と甘みと旨味が一気に広がってくる。
食いちぎると、とろけるチーズがつうっと伸びてくるのもたまらない。
出来立てのアツアツの時間を過ぎてしまったが、おやきはまだ温かく、やけどの心配をせずに食べることができた。
(やばい……食べやすすぎて、あっという間になくなりそう)
出来立ては、ちびちびと歯を立てていかないとやけどをしてしまうが、程よく冷めたおかげでかぶりつくことができてしまう。
しかしそれはもったいない。
おいしいからこそ、ゆっくりと味わいたい。
(でも、今が一番食べごろな温かさなんだよな、これが!)
三枝は、悩ましく思いながら空を見上げた。
ここが難関だ。
(ここを使ってる教師は五人。そのうちの三人は駅前に見回りに行ってるから大丈夫として、問題は第二校舎に向かう顧問の先生たちだけど……)
校門付近のアスファルトをよく見ると、土のタイヤ痕があった。
アスファルトが敷いてある場所は来客用で、教師用の駐車用は舗装されていない。一人はすでにこの門を通った後という事だ。
(俺じゃ、タイヤ痕からあたりをつけるなんてできないからな……)
タイヤの太さからSUVか軽自動車か程度はすぐにわかるようになると言われたが、高校生の三枝にはそんな芸当はできない。
耳を澄ませてエンジンの音が校内から聞こえてくるかどうか警戒するのが関の山だ。
(とりあえず、出てくる気配はなし、と)
何食わぬ顔で裏門の前を通り過ぎ、十分距離をとったところでようやく息をついた。
三枝の学校は校則が厳しい。下校中の買い物はもちろんのこと、寄り道も厳重に禁止されている。
土曜の放課後は、あちこちで生徒と教師の知恵比べが繰り広げられている。今のところ、三枝の戦歴は全勝だ。
ここさえ通り過ぎてしまえば、危険はほとんどない。
住宅街の細い道を進んでいくと、やがて石畳の細い道にぶつかった。寺をはさんだ向こう側は蔵造のまちなみが情緒を誘う一番街だ。
(さて、と。ここまでくれば、大丈夫だよな)
三枝は手に持っていた包み紙を開いた。
少し時間がたってしまったせいで表面がしっとりしてしまっているが、チーズとピザソースの香りが鼻腔をくすぐる。
おいしそうな香りに口の中がヨダレで大洪水だ。
包みの中身は、おやき。
ただし、おやきと言っても信州名物のおやきではない。
三枝はたまらずにかぶりついた。
ミートソースに似たピザソースとチーズの旨味だ。
(うまっ!! ピザ風ジャンボ、うまっ!)
何度食べても飽きることがない。
(この皮がピザ生地そのものだし、肉入ってるし。ピザの具のあるところだけ食べてる贅沢な感じがいいんだよなぁ……)
モグモグと咀嚼して飲み込む、食道から胃へ広がる満足感。
(おやきの店のオジサン、今日もいい仕事です、ありがとうございます!)
目の前で焼いてもらっている時から、早く食べたくて仕方がなかったのだ。
三枝にとって、おやきと言えば川越の「おやきの店」のおやき以外、他はない。小麦を練った生地に具をはさんで丸くするところまでは、信州名物と似ているだろうが、これを薄くしてプレートで焼く点で異なる。
みそや茄子、チーズやミートソースと言った洋風の具のほか、イチゴジャムやチョコレートまである。種類は豊富で一枚100円。市内の高校生、御用達の店だ。
良心価格で高校生の小腹を満たしてくれるおやきだが、その中でさんぜんと輝くピザ風ジャンボは200円と倍の価格だ。
もちろん、大きさも二倍、中の具もピザソースとチーズの二種類で、贅沢なひと品だ。
(この、生地のもちもち感と、トマトソースがいいんだよ!)
歯を立てるとかすかな抵抗とともに食されていく生地の間から、酸味と甘みと旨味が一気に広がってくる。
食いちぎると、とろけるチーズがつうっと伸びてくるのもたまらない。
出来立てのアツアツの時間を過ぎてしまったが、おやきはまだ温かく、やけどの心配をせずに食べることができた。
(やばい……食べやすすぎて、あっという間になくなりそう)
出来立ては、ちびちびと歯を立てていかないとやけどをしてしまうが、程よく冷めたおかげでかぶりつくことができてしまう。
しかしそれはもったいない。
おいしいからこそ、ゆっくりと味わいたい。
(でも、今が一番食べごろな温かさなんだよな、これが!)
三枝は、悩ましく思いながら空を見上げた。
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