青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

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噂話はマッハで

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「さーて、一体どういうことか説明してもらいましょうかね~?」

 引きつった笑顔で説明を求めてくるのはみずき。香苗はその隣でずっとニコニコしていた。立場が違えば私も同じ顔をしたに違いない。二人の気持ちはよくわかる。
「あーんなイケメン、どこで見つけてきたのかしらぁ?」
 香苗が心底楽しそうに言った。

 そうなのだ。

 私には青い宇宙人にしか見えないのだが、他の人にはめちゃくちゃにカッコいいイケメンに見えるらしい。青くなくて触角取ったらイケメン……かなぁ? もはや私は宇宙人、という括りでしか見られないのでわからない。

「えっとね、公園でね、たまたま……その、」
 説明なんか出来るわけないのだ。しかも宇宙人であることも言えない。
「たまたま出会ってあんなにベタベタに惚れられたって? そんなファンタジーが転がってるわけないでしょうっ? あんたが絶世の美女であるならまだしもっ」

 ディスられた……。

「みずき、そんな言い方はないわっ。志穂だっていいとこはいっぱいあります! でぇ~もぉ~ね~? あのレベルの男子を釣り上げるって、命でも救ったの?」

 ああ、またディスられた。

 あのあと、私はタケルと一緒に教室に戻った。そこでタケルが大々的にみんなの前で発表してしまったのだ。
『自分は有野さんが好きです』
 と……。

 卒倒するかと思った。

 クラスの女子からは刺すような視線。男子は面白がって囃し立てるし、友人二人からはディスられる始末。

 ふと教室の隅を見る。タケルはクラスの女子に囲まれている。それだけではない、さっきから学年を問わず、入れ代わり立ち代わり、学校中の女子たちがこのイケメン転校生を見るために廊下に大集結しているのだ。

「で、大和君が志穂のこと好きなのはわかったんだけどさ、志穂はどうなのよ?」
 みずきがいやらしい視線で尋ねる。
「えっ? わ、私?」
「そうよね、あんなに熱いラブコール受けてなんとも思わないわけないもんねぇ?」
 香苗も同じような視線を向けてきた。
「私は……正直、よくわかんないよ。だって昨日知り合ったばっかりなんだよ? いいも悪いもないよ。それに、」
「それに?」
「どこまで本当かわかんないじゃん。からかわれてるだけかも」
「ええーっ!」
「もしそうだったら大和しばく!」
 ああ、友人たちは私の味方だ……。

「あのさ、二人とも……、」
「ん?」
「なぁに?」
「これから、多分めっちゃ相談させてもらうことになると思うんで、よろしくお願いします」
この二人に見捨てられたら、学校生活終わる気がする……。
 そんな私の予感は、当たりまくってしまうのだった。

*****

「てゆーかぁー、おかしいと思わないんですかぁ~?」

 上からな感じで圧を掛けてくるのは一年生。後輩だ。でも、ちっともそんな感じで話してはいない。今日、これで七組目だ。いわゆる『ちょっと顔貸しな』ってやつである。

「いや、私だっておかしいと思う! おかしいに決まってるじゃない!」

 私は既に、見切っていた。
 圧を掛けてきている後輩ちゃんが一瞬たじろいだ。今だ!

「私はね、からかわれてるんじゃないかって思ってる。どう? そう思わない? だっておかしいもん。それか、なにかの罰ゲームなのかな? もし、だよ。もし万が一にもあれが本気だったとしてもどうよ? 相手は私だよ? 許せる? 許せないでしょう? 私思うんだけどさ、誰かが彼の目を覚まさせればいいんじゃないかって! あなただってチャンスだと思うな! 少なくとも今はフリーっぽいし、私なんかに構うより、ガンガン彼にアタックした方がいいんじゃないかな?」
「えっ、あ、ええ? 私……ですか?」
「そうだよ~! みんなにチャンスがあるんだからさ、早い者勝ちになっちゃうかもしれないじゃん!」
「え? そうか…、」
「頑張ってみたら?」
 駄目押しの、肩ポン作戦。
 怖い顔をしていた後輩ちゃんは、みるみる明るい顔になり、
「先輩、ありがとうございます! 私、頑張ってみます!」
 と言って取り巻きたちと去っていった。

 はぁぁぁ。

 放課後、みずきは部活、香苗は彼氏と待ち合わせ。独りになった途端、ちょっと今いいですか攻撃を受けまくっているのだ。おかげで下校時間から一時間過ぎても校門まで辿り着けない。
「もうほんと、勘弁して」

 独り言まで出る始末。
 私は足元に置いていたカバンを持つと、辺りをきょろきょろしながら裏門へと向かった。多少遠回りにはなるが、待ち伏せ率の高い正門は通りたくなかった。
 たった一日がこんなに長いとは。
 はっきり言って今まで誰かに告白されたことなどない。もちろん、願望は常に持っていたけど。

 でも…違う。思ってたアオハルと違う。大分、違うのだ……残念なことに。

「有野?」
「うひゃあ!」
 後ろから声を掛けられ、思わず変な声を出す。
「なんだよ、その驚きっぷりは」

 声を掛けてきたのは原優希。同中だったのだ。三年の時はクラスも同じで、結構喋っていた。高校に入ってからは同じクラスになったことがない。
「あー、優キングか。焦った~」
 懐かしいあだ名である。
「うわ、やっべ、今その呼び方すんの、学校でお前だけだぞ」
 そう言って、笑う。
「お前、裏門だっけ?」
「あ、ううん違う。ちょっと、今日はこっちから」
「ふーん。じゃ、途中まで一緒に帰る?」
「あ、うんいいよ」

 なんとなく、知り合いに会えてホッとする。さすがに優希と歩いていれば声を掛けてはこないだろう。

「優キング、部活やってないんだっけ?」
 他愛もない話が始まる。
「あー、やってるけど今日は休み」
「何部?」
「演劇部」
「ええええええ!?」
 思わず大きな声が出てしまう。中学の時は、陸上とかじゃなかったっけ?
「なんだよ、その驚き方」
 恥ずかしそうに、優希。
「いや、ごめん。あまりにも意外で……。なんでまた演劇部?」
「あー、うちねーちゃんいるんだわ。で、ねーちゃんが演劇部なの。で、家でよく台本読むのとか手伝わされてたのね、相手役のさ。そんなことやってるうちに、なんか面白くなったっていうか……」
「へぇぇ」
「この高校もさ、演劇部があるから入ったんだよなー」
「すごいね! 将来は役者?」
「まさか! 今はとりあえず好きでやってるけど、役者はないだろうな」
「そうなんだ」

 同中男子はあの頃より背も伸びていて、声も低くなっている。そして自分の話を堂々としている。成長を感じてしまう。
 それに比べ、自分は……。

「有野って、帰宅部?」
「うん、そうだよ」
「それにしちゃ、帰り遅くね? 俺、部活はなかったけど一時間ちょい自主練してから出てきたんだぜ?」
「あー、うん、ちょっと用事片付けてた」
 あはは、と笑って誤魔化す。

 駅までの道のり、そんな感じで雑談をして帰った。ただそれだけのことが、ただそれだけで済まされなくなるなんて、その時は思ってもいなかったのだ。
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