青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

文字の大きさ
3 / 46

噂話はマッハで

しおりを挟む
「さーて、一体どういうことか説明してもらいましょうかね~?」

 引きつった笑顔で説明を求めてくるのはみずき。香苗はその隣でずっとニコニコしていた。立場が違えば私も同じ顔をしたに違いない。二人の気持ちはよくわかる。
「あーんなイケメン、どこで見つけてきたのかしらぁ?」
 香苗が心底楽しそうに言った。

 そうなのだ。

 私には青い宇宙人にしか見えないのだが、他の人にはめちゃくちゃにカッコいいイケメンに見えるらしい。青くなくて触角取ったらイケメン……かなぁ? もはや私は宇宙人、という括りでしか見られないのでわからない。

「えっとね、公園でね、たまたま……その、」
 説明なんか出来るわけないのだ。しかも宇宙人であることも言えない。
「たまたま出会ってあんなにベタベタに惚れられたって? そんなファンタジーが転がってるわけないでしょうっ? あんたが絶世の美女であるならまだしもっ」

 ディスられた……。

「みずき、そんな言い方はないわっ。志穂だっていいとこはいっぱいあります! でぇ~もぉ~ね~? あのレベルの男子を釣り上げるって、命でも救ったの?」

 ああ、またディスられた。

 あのあと、私はタケルと一緒に教室に戻った。そこでタケルが大々的にみんなの前で発表してしまったのだ。
『自分は有野さんが好きです』
 と……。

 卒倒するかと思った。

 クラスの女子からは刺すような視線。男子は面白がって囃し立てるし、友人二人からはディスられる始末。

 ふと教室の隅を見る。タケルはクラスの女子に囲まれている。それだけではない、さっきから学年を問わず、入れ代わり立ち代わり、学校中の女子たちがこのイケメン転校生を見るために廊下に大集結しているのだ。

「で、大和君が志穂のこと好きなのはわかったんだけどさ、志穂はどうなのよ?」
 みずきがいやらしい視線で尋ねる。
「えっ? わ、私?」
「そうよね、あんなに熱いラブコール受けてなんとも思わないわけないもんねぇ?」
 香苗も同じような視線を向けてきた。
「私は……正直、よくわかんないよ。だって昨日知り合ったばっかりなんだよ? いいも悪いもないよ。それに、」
「それに?」
「どこまで本当かわかんないじゃん。からかわれてるだけかも」
「ええーっ!」
「もしそうだったら大和しばく!」
 ああ、友人たちは私の味方だ……。

「あのさ、二人とも……、」
「ん?」
「なぁに?」
「これから、多分めっちゃ相談させてもらうことになると思うんで、よろしくお願いします」
この二人に見捨てられたら、学校生活終わる気がする……。
 そんな私の予感は、当たりまくってしまうのだった。

*****

「てゆーかぁー、おかしいと思わないんですかぁ~?」

 上からな感じで圧を掛けてくるのは一年生。後輩だ。でも、ちっともそんな感じで話してはいない。今日、これで七組目だ。いわゆる『ちょっと顔貸しな』ってやつである。

「いや、私だっておかしいと思う! おかしいに決まってるじゃない!」

 私は既に、見切っていた。
 圧を掛けてきている後輩ちゃんが一瞬たじろいだ。今だ!

「私はね、からかわれてるんじゃないかって思ってる。どう? そう思わない? だっておかしいもん。それか、なにかの罰ゲームなのかな? もし、だよ。もし万が一にもあれが本気だったとしてもどうよ? 相手は私だよ? 許せる? 許せないでしょう? 私思うんだけどさ、誰かが彼の目を覚まさせればいいんじゃないかって! あなただってチャンスだと思うな! 少なくとも今はフリーっぽいし、私なんかに構うより、ガンガン彼にアタックした方がいいんじゃないかな?」
「えっ、あ、ええ? 私……ですか?」
「そうだよ~! みんなにチャンスがあるんだからさ、早い者勝ちになっちゃうかもしれないじゃん!」
「え? そうか…、」
「頑張ってみたら?」
 駄目押しの、肩ポン作戦。
 怖い顔をしていた後輩ちゃんは、みるみる明るい顔になり、
「先輩、ありがとうございます! 私、頑張ってみます!」
 と言って取り巻きたちと去っていった。

 はぁぁぁ。

 放課後、みずきは部活、香苗は彼氏と待ち合わせ。独りになった途端、ちょっと今いいですか攻撃を受けまくっているのだ。おかげで下校時間から一時間過ぎても校門まで辿り着けない。
「もうほんと、勘弁して」

 独り言まで出る始末。
 私は足元に置いていたカバンを持つと、辺りをきょろきょろしながら裏門へと向かった。多少遠回りにはなるが、待ち伏せ率の高い正門は通りたくなかった。
 たった一日がこんなに長いとは。
 はっきり言って今まで誰かに告白されたことなどない。もちろん、願望は常に持っていたけど。

 でも…違う。思ってたアオハルと違う。大分、違うのだ……残念なことに。

「有野?」
「うひゃあ!」
 後ろから声を掛けられ、思わず変な声を出す。
「なんだよ、その驚きっぷりは」

 声を掛けてきたのは原優希。同中だったのだ。三年の時はクラスも同じで、結構喋っていた。高校に入ってからは同じクラスになったことがない。
「あー、優キングか。焦った~」
 懐かしいあだ名である。
「うわ、やっべ、今その呼び方すんの、学校でお前だけだぞ」
 そう言って、笑う。
「お前、裏門だっけ?」
「あ、ううん違う。ちょっと、今日はこっちから」
「ふーん。じゃ、途中まで一緒に帰る?」
「あ、うんいいよ」

 なんとなく、知り合いに会えてホッとする。さすがに優希と歩いていれば声を掛けてはこないだろう。

「優キング、部活やってないんだっけ?」
 他愛もない話が始まる。
「あー、やってるけど今日は休み」
「何部?」
「演劇部」
「ええええええ!?」
 思わず大きな声が出てしまう。中学の時は、陸上とかじゃなかったっけ?
「なんだよ、その驚き方」
 恥ずかしそうに、優希。
「いや、ごめん。あまりにも意外で……。なんでまた演劇部?」
「あー、うちねーちゃんいるんだわ。で、ねーちゃんが演劇部なの。で、家でよく台本読むのとか手伝わされてたのね、相手役のさ。そんなことやってるうちに、なんか面白くなったっていうか……」
「へぇぇ」
「この高校もさ、演劇部があるから入ったんだよなー」
「すごいね! 将来は役者?」
「まさか! 今はとりあえず好きでやってるけど、役者はないだろうな」
「そうなんだ」

 同中男子はあの頃より背も伸びていて、声も低くなっている。そして自分の話を堂々としている。成長を感じてしまう。
 それに比べ、自分は……。

「有野って、帰宅部?」
「うん、そうだよ」
「それにしちゃ、帰り遅くね? 俺、部活はなかったけど一時間ちょい自主練してから出てきたんだぜ?」
「あー、うん、ちょっと用事片付けてた」
 あはは、と笑って誤魔化す。

 駅までの道のり、そんな感じで雑談をして帰った。ただそれだけのことが、ただそれだけで済まされなくなるなんて、その時は思ってもいなかったのだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】 ※ヒーロー目線で進んでいきます。 王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。 ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。 不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。 才能を開花させ成長していくカティア。 そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。 立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。 「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」 「これからも、私の隣には君がいる」 甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...