青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

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 私は大急ぎでみずきと香苗の元へ走った。心臓が有り得ないほどバクバク言っている。顔が赤いのも分かっている。本当なら床に転がって絶叫したいくらいだ。

「お、志穂~! こっちこっち……て、」
「ちょっと、どうしたの?」
 明らかに動揺している私を見て、二人が驚いた顔をする。
「顔真っ赤だし!」
「涙目じゃん!」
「もしかして……」
「志穂!?」

「キスでもした?」
「チューしちゃった?」

 最後の言葉はハモっていた。

 私はきゅっと唇を噛んで二人を交互に見、真剣な顔で答えた。
「してませんっ!」
 途端に二人がつまらなそうになる。
「なんだ、してないのかぁ」
「志穂もキスしたのかと思っちゃった」
 と、ここで私はフリーズする。聞き逃してはいけない一言。

「今、香苗……志穂『も』って言ったね?」

「あ!」
 しまった、とばかり口元を抑える香苗。
「志穂もキスしたのかと思った……ということはつまり?」
「香苗!?」

 今度はみずほと私できゃーきゃー盛り上がる。香苗が彼と付き合いだしたのは確か二週間くらい前? だったと思うが、もうキスまで進んでいるのか。

「別に、秘密にしてたわけじゃないよっ? 言いたかったけど、だって昨日からそんな暇なかったじゃない?」
 恥ずかしそうに言い訳をする。
「も~! どこでよ、どこで?」
「えっと、四日前……かな。帰り道に」
「ヒュ~!」
「どうやってされたのっ? 何か言われたわけ?」

 とにかく年頃女子にとってこの手の話はどんなスイーツより甘美で、大好物なのだ。

「帰り道さ、神社のとこ通るんだよね」
「ああ、山上神社?」
「そう。で、ちょっとお参りしようかって寄ったの。その時に…ね」
 香苗が恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「どんな感じでっ?」
 みずきが先を促す。
「んっと、なにをお願いした~? とかそんな話から、ずっと一緒にいられるといいね、なんて話になって、それで……、」
「でっ?」
「もうこれ以上は無理~! 恥ずかしすぎるってばっ!」
 香苗が両手で顔を隠し悶絶する。
「聞いてるこっちだって恥ずかしいよ~! でも、いいなぁ、香苗」
 みずきがしみじみとそう言う。

「みずき、告らないの?」
 香苗が訊く。
「ええっ? 私、無理だよ~! 自信ないもんっ」

 みずきがモジモジし始めた。空手で全国一桁取っていることを除けば、女子力も高いし顔面偏差値は間違いなくいい! サバサバした性格ながらも相手への気遣いは上手だし、明るいし。

「絶対自信もっていいと思う!」
 私は迷わず太鼓判を押した。
「優キング…原君だって悪いやつじゃないし、二人がくっつくの、私は大賛成だな」
 なんとなく付き合ってる二人を想像してほんわかしてしまう。想像以上にしっくりくるんじゃなかろうか。
「そういうことならさぁ、」
 みずきがふふん、と笑う。
「志穂と大和君だって悪くないんじゃない?」

 ブッ!

 飲んでいたイチゴオレを吹く。
「ゲホッ、ゲホッ、な、なにを」
「私も思った! さっきの大和君、なんかよかったよねっ?」
「うんうんっ、姫を攫っていく王子様感出てたよねっ!」
 おいおい、王子なら姫を攫う必要はないだろう……。
「で、なにされたのっ? 告白?……はもうされてるもんね」
「壁ドンとかっ?」
「違うしっ」
 ぶっきらぼうに答えるが、二人の目は爛々と輝いている。
「抱きしめられたりとかっ?」

 ドキーーーン

「え? 図星?」
 香苗が目をキラキラさせてこっちを見る。
「きゃー! 抱きしめられたのねっ!」
「なんて言われたのっ?」
「……いや、別に、」
 言葉を濁す。
「いいじゃん、教えてよぉ!」
 急かされ、仕方なく触りだけ話すことにする。

「なんか、大和君も昨日の、私と原君の話を誰かにされたみたいでさ。二人はどんな関係なの、って。ただの同中だから、そう答えた」
「え? 大和君もその話知ってたんだ! 早耳だねぇ」
「どうせ大和君狙いの女子がここぞとばかり言いつけたんじゃないの?」
「ありそう~!」
「でしょ~?」
 香苗とみずきで盛り上がる。
 私も、そう思う。大和君に気がある誰かが話したんだろうな、って。
「それだけ大和君が人気ってことだもんね」

 実際、私は少し羨ましい。香苗やみずきみたいに、誰かを「好きだ~!」と言えるほどちゃんとした恋をしたことがないから。

「志穂はさ、どういうタイプが好きなの?」
 改めて聞かれると困る。
 恋愛経験すらほとんどないのに、タイプなんかあるわけもなく。芸能人ですら特に誰かを好き、と思ったりしないのに。

「タイプなんかないよぉ」
「まぁ! 好きになったらその人がタイプ、ってやつ!?」
 香苗が盛り上がる。
「私は、男らしい人かなぁ」
 みずきが言う。
「私は、優しい人だな」
 香苗が言う。
「私は……、」
 なんだろう。

 青くない人……?

 でもそんなこと言うとなんだか人種差別っぽい気がしてしまうのだ。皮膚や目の色で判断するのか、って。そういう意味では、タケルが言っていた『俺のことを見て』って言葉は妙にしっくりくる。
「ああああ、わかんない」
 私は頭を抱えるしかなかった。

*****

 その日の放課後。

 相変わらずみずきは部活で、香苗は彼氏と一緒。私は昨日のこともあり、辺りを警戒してはいたのだけど、今日は誰かに呼び止められることもなく正門まで行けそうだった。

 グラウンドでは野球部、サッカー部、テニス部が部活を始めている。中でもひときわ目立つのはサッカー部。黒い人だかりが出来ているのだ。
「なに、あれ?」
 目を凝らすと、サッカー部のユニフォームに身を包んだ青い…タケルがボールを蹴っている。そういえばサッカーやってるって言ってたっけ。

 何とはなしに目で追う。
 サッカーのルールなんて何も知らなかったが、彼がとても上手いのだということはわかった。目の前に立ちはだかる選手をスイスイとかわし、一直線にゴールへとボールを押し込む。それと同時に黒い人だかりから一斉に歓声が上がった。

「なるほど、ありゃモテるわけだ」

 スポーツが出来る男子というのはモテるものだ。そのくらいの認識は私にもある。
 更にイケメン(?)で甘いことも出来るのだから、きっと最高の彼氏になるのだろう……などと想像して、慌ててかき消す。

「違う違う。何想像しちゃってんの」

 こんなところで道草食ってる場合じゃない。早く帰ろう。

 私はサッカーの練習をしているコートを避け、グラウンドをぐるっと周るようにして、正門へと向かった。
 正門を出る手前で何の気なしにサッカー部の方に目を遣る。と、青い人影がこっちを見て手を振っている…ように見えた。

 え? 気付いた!?

 結構な距離である。
 私はタケルを色で見分けられるのですぐわかるが、向こうからしたら大勢歩いている同じような背格好の生徒にしか見えないはずなのに。

「え? もしかして大和君、今私に手振ってなかったっ!?」
 近くにいた女の子がそう言った。
「うそっ、いいなーっ!」
 隣を歩く子が羨ましがる。

 そんな二人を横目に、私は急ぎ足で正門を出たのだった。
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