青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

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後夜祭

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「あのねぇ、女の子拘束して連れ回すなんて、犯罪なんだからね? もうちょっとで警察に通報するところだったんだからね? わかってるっ?」

 双子を相手に説教しているのは、なんと牧野つばさである。翔が信吾に事情を説明したところ、一緒にいたつばさまでもが私の捜索に参加。翔が私の発見を信吾に知らせ、駆けつけた信吾とつばさ。そしてつばさの説教が始まったのである。

「はい」
「反省してます」
 双子は、初対面のつばさにえらい剣幕で怒られ、シュンとしていた。
「あの、牧野さんありがとう。ごめんね、せっかく後夜祭楽しんでたのに」
 私が悪いわけではないけど、なんだか申し訳なくなる。
「やだ、有野さんは被害者でしょ? 謝ることないわよっ。怖かったでしょ? 本当に無事でよかった」
 と言いながら私を抱き締めてくる。
 なんとも、複雑だ。
「そんな酷いことなんかしてないしー」
「有野をいじめたりしてないしー」
 双子が口を尖らせる。
「お黙りっ!」
 つばさが切り捨てる。
「それより有野、後夜祭行こうよ~」
「そうだよ、行こう~」
 懲りない二人である。
「そうだね、せっかくだから後夜祭行こうよ」
 翔が外を指す。
 キャンプファイヤーの火と、ミスコンらしき催しの放送が聞こえてくる。

「じゃ、私と信吾はもう行くわね。後はみんなで仲良くやってよ!」

 信吾? いつの間に「信吾」呼び?

「じゃ!」
 つばさは信吾の手をパッと掴むと、さっさと外の暗闇に消えていった。
「……嵐のような女だな」
 仁が呟いた。
「ちくしょう、信吾のやつぅ」
 翔は恨めしそうである。

「あーっ! こんなところにいたーっ!!」

 大きな声を出して走ってくる小さな女の子。
「げっ」
「あずさっ」
 双子が身構える。
「もうっ! ずっと探してたんだからね!」
 小さい彼女は、目一杯双子を見上げて、言った。
「あのー、こちらは?」
 翔が双子に訊ねる。あずさは翔を振り返り、腰に手を当て、言った。
「私は日野あずさ。そういうあなたはサッカー部の相田君ね。それと、ロミオとアリアナ。……あなた、アリアナの人よね?」
 ピッと人差し指を突き出し、あずさ。
「え? あ、はい」
 香苗も小さいのだが、あずさはもっと小さい。双子と並ぶと更に小さく見える。
「ふーん、あなたが有野……さん……ねぇ」
 意味深な視線を向けられ、戸惑う。双子が慌ててあずさに言った。

「で、なんだよあずさ、なんか用なわけ?」
「そうだよ。なんか用?」
 二人の台詞に、ムッとした顔で、あずさ。
「馬鹿ねっ、あんたたちはこのあとのミスターコンに出るの! 早く来なさい!」
「はぁ?」
「ミスターコン?」
「そっ! このあずさ様直々に申し込みしてあげたんだからね! 行くわよ!」
 ぐい、と双子を引っ張る。
「そんなの聞いてねぇ」
「出たくねぇ」
「はぁ? 優勝して景品取ってってお願いしたでしょ?」
 腰に手を当て、あずさ。
「景品?」
「そっ! ワンダーランドのペアチケット。さ、おいで!」
 ガシ、と両腕に双子を絡め、引きずるように野外舞台の方へ歩き出す。
「えええー」
「有野ぉぉ」
 私は黙って手を振った。
 これでやっと開放される。

「行っちゃったね」
 翔が呟く。
「やっと静かになった」
 タケルが大きく息を吐き出す。
「ミスターコンなんてやるんだ」
 私、文化祭のプログラムちゃんと読んでなかったな。
「タケルがエントリーしてたら取れてたな」
 翔が自分のことのように誇らしげに宣言した。タケルは笑って、
「まさか!」
 と言っていたが、ミスターコンは多分女子中心の人気投票みたいなものだから、取れてるかもな、と私も思う。あのロミオをやった後だし。

「なぁ、タケル」
 翔がタケルに小さく耳打ちする。
「ん?」
「俺、どっか行ったほうがいいか?」
 気を利かせているのである。
「バーカ、一緒に回ろうぜ。有野さん救出は、お前の手柄なんだからさ」
 そう言って翔の背中を軽く叩いた。

*****

 後夜祭は大いに盛り上がっているようだった。ミスコン、ミスターコン、クイズ大会、その他諸々、いくつかの会場でバラバラと行われている。そしてやっぱりカップルが目立つ。もちろん、友達同士で来ている生徒もいるが、あちこちでいちゃついているカップルを目にするのだ。

「あの、」
 私たちにおずおずと声を掛けてきたのはどうやら一年生。三人で固まって押し合いながらモジモジしていた。
「なにー? どうしたん?」
 翔が声を掛ける。
「あの、ロミジュリ観ました!」
「すっごく良かったです!」
 熱っぽく感想を述べる。
「えっと、やっぱりその、お二人は恋人同士なんですかっ?」
 三人の中の一人が思い切ったように聞いてくる。
「え?」
 私が絶句していると、何故か翔が代わりに返答した。
「それがさぁ、まだなんだよねぇ。多分そのうちそうなると思うけど。応援してくれる?」
「なっ、」
 私が翔に抗議するより先に、三人がパッと顔を輝かせて、
「します!」
「応援します!」
「絶対付き合って欲しいもんっ」
「ねーっ!」
 等と盛り上がっている。

 おいおいおい、なんでそうなる。これはファン心理っていうものなのだろうか。

「ちなみに俺はフリーだから、よろしくね!」
 ちゃっかり自分を売り込んで笑いを取っていた。

 そこにやってきたのは、椎名亜紀。満面の笑みで手を振っている。
「あ、椎名さん」
 私も手を上げ、応える。
「ちょっと! 大和君、有野さん、相田君聞いてよっ!」
「なん?」
 翔が首を傾げる。
「取った!」
「なにを?」
「クラス賞! ロミジュリ断トツで一位だったんだよ~!」
 ぴょんぴょん跳ねながら喜びを全身で表現する。
「マジでっ?」
 翔が叫ぶ。
「マジで! 二位との差が倍近くあるの! 凄くないっ? もう、嬉しくって!」
 実行委員、大変だっただろうしな。
「おめでとう、椎名さん!」
 私は拍手しながら称える。
「おめでと」
 タケルも笑顔で祝福をした。
「大和君のおかげだよぉ! 本当に嬉しいよぉ! 有野さんもありがとう~!」
 涙目である。
「それでねっ、明日劇メンで打ち上げやろうってことになったから、三人にもあとで連絡するね! みんなでパーッとお疲れ様会、やろうねっ!」
 満面の笑みで、亜紀。
 翔がおおお!と雄叫びを上げている。そしてタケルは……触覚がうなだれていた。

「明日…やるのぉ?」

 亜紀に聞こえないような小さな声で、そう呟く。申し訳ないな、と思いつつ、私は笑ってしまったのだった。
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