青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

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可愛いがすぎる

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 文句なしの秋晴れだ。

 私は昨日買ったばかりのワンピースに、みずきから指定されたアレンジヘア(三十分も掛かった!)で、なんだか気合十分な装いで家を出たのである。

 待ち合わせはあの、公園。そこから駅へ向かい、電車で移動だ。
 ほぼ時間通りに公園に着く。タケルは既に待っていた。緊張してきた……。

「お、おはよ」
 手を振るも、タケルは動かない。あれ? なんで、無視?
「大和君?」
 もう一度声を掛けると、タケルがハッとしたように私の目を見た。
「あああ、有野さんっ?」
「へ? どうしたの?」
 あまりにもおかしな態度過ぎて、こっちが面食らってしまう。私、なにか間違えた?
「いきなりそれはヤバいって……」
 タケルはそう言って背を向けた。
「え? なにっ? なんか、変っ?」
 自分の格好を確認する。
「違う。可愛すぎて直視できない……」
「はぁっ?」
 サラッとなにを言ってくれちゃってんのよぉ! は、恥ずかしい…。
「いつもと違う髪形も、そのワンピースもとても似合ってる。もう、俺どうしていいかわかんない」
 頭の触覚がグルグル回っている。これは「混乱」の意味……?

 って、そんなことはいい!!

「もうっ! 行こうっ」
 私は恥ずかしさを押さえ、言った。

 タケルはというと、ジーンズに白Tシャツ、襟なしのジャケットを羽織ったラフな格好で、とてもよく似合っていた。

 駅からは電車を乗り継ぎ四十分くらいか。少し郊外の場所にあるワンダーランド。絶叫マシンから子供用の乗り物まで色々あり、広さもそこそこある。丸一日遊んでも回りきれるかどうか、という感じだ。

*****

 駅に着くと、ちょうど電車が滑り込んできた。慌てて乗り込むと、乗客の何人かがこちらをチラチラ伺っていることに気付く。中にはコソコソ話をしている女性もいる。私、しばらく「?」だったのだが、

「芸能人かな?」

 という声が漏れ聞こえてきて、理解する。ああ、タケルを見ているのだ。

「大和君て、本当にモテるよね」
 つい、声に出してしまう。
「え? なに?」
「あ、ごめん、なんでもない」
 慌てて誤魔化すも、一度口に出してしまった言葉は取り消せない。
「前の学校にいたときも、そこそこ声掛けられたりはしてたよ。でも、遠巻きに、って感じだったかな」
 わからないではない。
 下手に手を出そうもんなら、相当数の女子を敵に回すことになるだろうし。

「有野さんは?」
 急に振られ、驚く。
「え? 私? まさか! 何もないよっ」
「そうなの?」
「そうだよっ」
「そっかー」
 心なしか、嬉しそうに見える。
「今日はさ、本当に来てくれてありがとう」
「あ、うん」

 駄目だ……やっぱり緊張する。こういう時って何話せばいいんだろう。

「もしかして、緊張してる?」
 俯きがちな私を見て、タケル。
「……実は、そう」
 思わず認めてしまう。
「俺もだよ」
 と、タケルが照れたように言う。
「そう……なの?」
「そうだよ! 有野さん今日いつにも増して可愛いし、一日中一緒にいられるし、絶対楽しい日にしなきゃだし、緊張しないわけないだろ?」
 一気に捲し立てる。
「そんなに気負わなくても…、」
「ねぇ、ワンダーランド、どこか行きたいところとかある?」
「あ、えっとね、香苗が色々教えてくれて」

 私は携帯を取り出すと、香苗お勧めの場所や食べ物なんかを見せた。そうこうしているうちに、あっという間に到着してしまったのである。

*****

「うわーっ、すごいすごい!」

 入園と同時に、目の前を午前中のパレードが通り過ぎる。ワンダー君がパレードフロートの上から手を振っている。賑やかな音楽と、キレのいいダンサーたちが艶やかな衣装で、舞う。楽しい!

「大和君、見て見て! こっちに手振ってくれてる!」
 さっきまでの緊張はどこへやら、はしゃぎまくる私に、タケルは満面の笑みで付き合ってくれていた。

 パレードが通り過ぎると、早速乗り物へ。休日だけあって園内はそれなりに込み合っている。待ち時間も三十分は当たり前、といった感じだ。だけど、不思議に長いとは思わなかった。
 ポップコーンをつまみ、ベンチで一休みしているときだった。

「あの、」
 首からカメラを提げた男性がタケルに声を掛けてきた。
「はい?」
「私、こういうものでして」
 場に似つかわしくない物(名刺)を差し出す。そこには、アートプロダクション、と書かれている。
「いや、いらないです」
 タケルは名刺を差し出した。
「そんなこと言わず話を聞いてくれませんかねぇ? 君、モデルさん?」
 相手も引き下がらない。
「ほんと、困るんで。有野さん、行こう」
 タケルが私の手を取った。
 周りにいる客たちが何事かと足を止める。
「あ、ちょっと。芸能界、興味ないの?」
 男が切れ気味にそう怒鳴る。

「俺は有野さんにしか興味ない!」

 タケルがぴしゃりと言い切る。周りから「ヒュ~!」「やるじゃん!」と声が飛んだ。

 ひゃぁぁぁ……、
 穴があったら入りたい~!

 真っ赤になった私を、タケルはどんどん引っ張って行く。大きなレンガの建物…は確かミニシアターだったか、ずんずんと、中へ。あまり人気のないミニシアターは休憩場所に最適!と香苗は言っていた気がする。

 暗い室内は出入り自由だ。客はまばらで、ほとんどの席が空いている。
「こっち」
 タケルは私の手を取ったまま、ミニシアター内、奥の端っこの席へと向かう。画面にはワンダーランドの歴史のような映像が流れており、客席に人がいない分、音も大きく聞こえるような気がする。

 タケルが私の耳元に口を寄せ、言った。
「大丈夫? 疲れてない?」

 あああ、耳元で囁かないでぇぇ!!

 私は黙って頷く。
 手、離してくれないし……。
「あの、手」
 もぞ、と手を引いてみるが、タケルは離すどころか指を絡めてきた。
「やだ。離したくない」

 だーかーらっ、囁かないでぇ!
 ああ、きっと私今耳まで赤い! 近い! 恥ずかしい!

「学校だとなかなか話せないし、二人きりにもなれないし。だから今日は、誰にも邪魔されたくない」
「誰も邪魔なんかしないよっ」

 一刻も早くここから出なければ、私は茹で上がってしまうのではないかと、今、結構真剣に思っていますぅぅ!!

「さっき邪魔された」
 不満げに、言う。
「きっともういなくなったよ。そろそろご飯も食べたいし。ね?」
 私、必死に外へ誘い出す。
「もっと独り占めしたい」

 充分されてると思うけどなぁっ?

「だって有野さんが悪いんだ。こんなに可愛くて。あんな風にはしゃいでる姿誰にも見せたくない。しまっておきたくなる」

 うわぁぁぁ、監禁したいみたいなこと言うのやめてよぉ!

「私、そんな可愛くないってば」
「可愛いよ……誰よりも可愛い」

 あ、ダメだ。忘れてたけどこの人、こういう人だった。放っておいたらエスカレートするだけだ。

「そろそろ出よう! まだ乗ってない乗り物いっぱいあるよ? ね?」
 駄々っ子相手に説得する親みたいな発言をし、立ち上がる。タケルは若干不満そうではあったが、私の意見をのんでくれたようだ。
「目一杯楽しまないとね!」

 私はテンションの上がった小学生のような勢いで外へと飛び出すのだった。

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