魔王討伐からの無双人生 ―日本も案外ファンタジー―

bakauke16mai

文字の大きさ
7 / 8
日本をイチャイチャとチートで無双する――!

ネミと俺と、それからそれから。

しおりを挟む


「ぎるてぃ」
「えー……まじっすか」
「ん、マジ」

 容赦の欠片も無い言葉を前に、やむなく項垂れる。

(でも、いや、そうか……だめ、かぁ~……)

「ん? なに」
「い、いや、何でもないけど。して、じゃあどうするかなぁ」
「あ、え、えっと……その、ご、ごめんなさい……?」

 事の発端たる少女は、戸惑いつつも頭を下げた。
 その拍子に、どこかに付けている鈴がチャランチャランと鳴る。

 家の玄関で仁王立ちするネミを前に、頭を下げる少女を後ろに挟まれた俺は、苦笑しつつ頭を掻いた。



――あの後、少女を助けた後、泣きじゃくる彼女を何とか慰めてから、速攻で魔物を片付けた。

 もともと、強い敵も居らず(俺にとっては)、基本的に射程の問題しか無かったから、討伐自体はすぐに終わった。
 問題はその後だ。

『でー、えっと……』
『あ、え、えっと弥桐やすぎり美奈みなです』
『ふむふむ……さてじゃあ美奈さん、家はどこ?』
『わ、私……家を追い出されてて』
『えー……』

 という会話があったのだ。
 実際はもう少し長く、正確には彼女の感謝の言葉とか質問の嵐とかがあったのだけれど、省略する。

 なにはともあれ、そういう理由でアパートまで連れて帰ってきたのだが――。

「無理」
「はぁ……」

 ウチのお嬢様がこの調子のようで。
 いや確かに婚約関係であると周囲には認識されてるし、少なからず好意が俺にもネミにもあるのは知ってる。

 だからもう事実上の婚約関係(?)なのだけれど、俺の金で借りてるアパートに許可が必要になるとは……。

(ホントにどうしよ……)

 そう思いつつ、美奈さんの方を見やる。
 多少期待していたのか、落胆の表情を隠せず、その上で申し訳無さそうな顔をしていた。
 
 まぁ申し訳ない気持ちだけなら俺も結構ある訳だけど。

 だって連れてきて無理でした! って言う訳だし?

「ぅ……そんな顔しても嫌だよ大翔」

(おー、すんなり俺の名前言えてるじゃん)

 とか思いつつも、口には出さない。面倒事をわざわざ持ち込むような性癖は無い。

――今回の美奈さんの事は含まず。

 仕方なく、本人から理由を聞くことにした。

「えー、えっと……何でネミは嫌なんだ?」
「だって大翔が……る……で……だもん」
「え?」

 思わず聞き返すと、ネミは顔を赤くしながらも口を近づけてきた。
 すわキスか! と思春期みたいな脳は鼓動を速める。

 が、まぁ予想通りと言っちゃあ予想通りだが、そんなことは無かった。
 
 けれど、まぁ。それに匹敵するくらいの事はあったりした訳で。

 耳元に近づいたネミの口から、小さな囁きが脳を打つ。





「(だって……大翔が取られるみたいで……嫌なんだもん)」

―――ッ!?!?!??!?!


 オ持チ帰リシタイ。

 とかオークみたいな思考になりつつも、冷静ではいられない俺の心臓。
 マジ破裂しそうな程ドクンドクン鳴ってるんだけど!?

 真っ赤だと自覚できる顔でネミの方を見れば、俺に負けず劣らず顔を真っ赤にしていた。

(おいおいおいおい……? 自滅技ですかメガ〇テですかッ?)

 ぐるぐる回る頭を感じながら、俺は必死に深呼吸を繰り返した。
 なんということだ。元勇者の俺に対する最大ダメージな気がする。

 っていうか。

(これ、こんなにドキドキするって……)

――そういう、ことだよな……?

 思わず発見にさらなる自滅。ネミに自滅するなよとか言えなくなるじゃん。
 でも、やっぱりその気持ちが少し嬉しい自分がいて。

(あー! どうしたら良いんだよこれ!?)

 思わずドブにハマった気分。
 最悪な展開なのに最高な気分が恨めしい。

「あー、えーっとだな……」
「っ!」

 俺の声に、ネミが目に見えてビクリとした。
 顔を真っ赤にしたたま、潤んだ瞳で俺を見上げる。瞳の奥に、不安が入り混じっていた。

――可愛過ぎかよこんちくしょうがッ!

 頭真っ白になっタ。
 言おうとしてたこと忘れてしまっタ。

(えー……? ……えー……)

 もうどこのロボットだよとか思うくらいに呟きが繰り返される。
 しょうがないじゃんこんなの初めてなんだから。誰にともなくそう言い訳しながら、俺は言葉を探した。




「あの……あぅ……す、すいません……お手洗い、貸してくれませんか?」
「あ……」

 かんっぜんに忘れてた。同じような事があった気がしないでもないが、今回のは不可抗力だと思う。

 茫然としている間に、未だ頬は赤いもののある程度復帰したネミが頷き、美奈さんを案内した。
 そうして、扉の奥に2人で消えていく。

 その姿が、完全に視界から居なくなり――

「ッ……はぁ……」

 思わず溜息を吐いた。

 人助けに始まりこんなにも一度に多くの事が起きたのは、こちらの世界で初めてかもしれない。
 いや、きっとそうだ。

 顔が熱を持っている。夜風が頬を靡かせ、体を包み込む。
 
 やがて次第に熱も引き始め、それと同時に頭の中が妙にクリアになってきた。

(……じゃ、こんな事考えてる余裕無かったしな)

 毎日を戦うことで生きていた日々を思い出し、俺は小さく苦笑した。
 
「しょうがない……とりあえずは、美奈さんから色々聞かなきゃな」

 今日泊まる場所は後回しだ。
 正体不明の不思議エネルギーと、なぜ追い出されたのか。

 なによりも、彼女が白い紙についてからにしようと思う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...