最弱勇者の無敗譚

bakauke16mai

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最弱勇者

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「えいっ!」

キイィン!

幼い声とともに振り下ろされた剣は、何かに防がれたように弾かれた。
その現象は、たった一つの答えしか表さない。

「攻撃力0か・・・・・・・・・・・」

「あれが噂の・・・・・・」

「スライム程度にすら傷を付けられないとは・・・・・・・・・・・」

数々の大人が落胆するようにヒソヒソと話し始めた。
その視線が集まっているのを感じて、幼い少年――シュン――は堪らずに駆け出した。

「ッ!!」

「おい、待て!!」

「兵を呼べ!あの子供を捕らえろ!!」

すぐさま駆けつける兵士達は、シュンの逃げた先からも現れた。
一瞬にして、動けないように拘束される。
これも、全ては攻撃が何一つとして弾かれるため。

捕らわれたシュンは、俯いたまま沈黙した。

「なぜ逃げ出す?」

投げ掛けられた声は、酷く威圧を含んだ声だった。

誰がこんな環境で”善”が生まれようか。
誰がこんな環境で”生”を知ろうか。
誰がこんな環境で”抵抗”を身につけようか。

俯いたままのシュンに、声を掛けた男は静かに近付く。

「チッ!貴様は大人しく我々大人に従っていれば良いのだ!!!」

そんな声とともに、男の拳はシュンの頬へと向かう。
そして、それが衝突する。


―――瞬間。

キイィン!

先程とまったく同じ現象と同時に、男の拳は弾き飛ばされた。
その勢いを止めることも出来ずに、男は後ろに尻を着く。

殴られたシュンは――ただ無機質な瞳を男へと向けるだけだった。

「・・・・・・・チィッ!!」

呻き声とも取れる苛立ちの声を挙げてから、男はシュンを囲う円の中へと入っていった。

シュンを傷付けることは、魔王以上の力を持たなくてはならない。
シュンが傷付けることは、例え神であろうと不可能。

誰からも傷付けられることは無く、誰も傷付けない。


唯一魔王に対する攻撃手段を持つとされる勇者の称号は、そんなシュンの額に刻まれていた。
薔薇を描くように、蒼色の線が刻まれている。
これこそ、古より伝わる勇者の称号。

何かの能力が、0に成ってしまうという恐ろしい現象。
それを示す数字が、シュンには表されていた。
ステータスの<攻撃力>と表示される数値、0。


最強を象徴とする称号を持った少年は、最弱を証明する呪いを手に入れた。

魔王の脅威により、多くの魔物と魔族が人間を滅ぼそうと企み、その状況下で人々は争う。
混沌とした歴史の中に生まれた少年は、やがて14歳に成った。













「【我が願いを叶え 彼の者に磐石なる守護を与えよ!―――<防御強化の鎧>!!】」

少年の声が響くと同時に、兵士達の身体にオレンジの輝きが纏われた。
直後、愚直なまでに兵士達は防御を捨てて攻撃に徹する。

愚か過ぎると思われる行動も、いまや当然のように兵士達は行動した。
相手の兵士の剣も、弓も、魔法すらもオレンジの輝きを突破することは叶わない。
そして、兵士達の攻撃によって殺されていく。

1人分の血が悲惨する毎に、地面が赤く染まり、少年の存在を確かにする。

蒼の輝きを放つ額を隠すでも無く晒し、堂々と佇む少年。
シュンは、14歳になっていた。

幾つもの出会いと別れ、人と接する内に心を持つようになったシュン。
以前、シュンを囲んでいた大人のほとんどが処刑されるか、監獄に送られている。

様々な出来事があり、成長した。と言えば聞こえは良いが、実際は違う。
9年前。当時5歳だったシュンの生活は、およそ人とは呼べないモノだった。

貴族達に囲まれた中で生活していたシュンは、腐った貴族達に隠されて育った。
勇者としての称号が現れたのが4歳の時。

その時、その場に居た大人が、この腐った貴族達のうちの1人だ。
幼い記憶はほとんど無く、シュンは両親をほとんど知らない。
幾つか覚えていることもあるが、それも断片的なモノだった。

「お前は道具だ。我々に従えば良い。決して反抗は許さないからな?」

それが、大人に言われた初めての言葉だった。
それからは、その言葉通りの日々が始まった。
謎の研究室で身体を調べられたり、魔物の巣窟に放置されたこともある。

逃げようとすれば食事が抜かれ、死なないように質素な固いパンのような物を与えられるだけ。

それでも生き抜いたのは、シュンの力だろう。
勇者は、世界を導く光と成る。
誰しもが知る物語に書かれていることだ。

8歳の時に、シュンは解放された。
隣国の姫という少女が来た時に、そのメイドがシュンの紋章を発見したのだ。
奴隷のようなボロボロの貫頭衣を着て、首輪を着けられていたシュンを、連れ出したのだ。

「【我が契約に誓い 我が主の矛となる!――<反転装>!!】」

赤黒い輝きが空へと飛び立ち、次いで返ってきた。
それがシュンの身体に当たると同時に、シュンの身体が淡く輝いた。

誓った。あの色の無い世界から救ってくれた少女に。
心を教えてくれた少女のために、命を使うことを。

反転装という魔法は、所謂職業魔法という物。
生涯全ての命令に誓うという、<血縛盟約>を行った者しかつ変えない魔法だ。
効果は単純で、恐ろしい。

<主人のステータスよりも値の高いステータスのみを一定時間”交換”する>

この魔法によって、シュンは攻撃力以外の全てのステータスを主人に捧げることが出来る。
矛に成る魔法だが、攻撃力が無いシュンは、主人を最強にすることしか出来ない。
全てのステータスが勇者のモノとなった主人は、戦場では凄いモノだ、とシュンはよく言う。

耳を澄ませば、最前線のさらに先から、大きな爆発音が聞こえる。

また暴れてますね、なんて思えるようになったのも、少女のお陰である。
何人も寄せ付けない防御力と、決してダメージの入らない攻撃力。
誰も倒せない勇者であり、誰にも倒せない勇者。

最弱であり、けれど誰にも負けない無敗の勇者。
これは、そんな少年が英雄と成って行く道を辿った物語。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~後書き~

皆さんお久しぶりです。初めての方は初めまして。
数々の設定に手を出してはすぐに頓挫する反面教師に成れそうなbakaukeです。
今回もまた、懲りずに新しい設定に手を出してみました。

この作品を何人の方が目に留めて頂けるかは分かりませんが、なるべく多くの方に見ていただけると幸いです。

それでは、また次のあとがきで会いましょう。


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