最弱勇者の無敗譚

bakauke16mai

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お姫様

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シュンの育ったアルディア帝国の隣に位置する、レーニア王国。
山岳が多く存在する所為か統治が厳しく、その国土は狭い。
しかし、その中でも野心強く暮らす人々の根気か、全12カ国の中でも4位という発言権を持っている。

屈強な戦士達と、卓越した知力。

そして、”勇者”の存在がその地位まで上り詰めさせている。
そんな王国が戦争をしている国こそが、アルディア帝国。
シュンが王国へ渡ってから2年の間は隠すことが出来たが、ついに3年目にして発見された。

それから4年。帝国と王国は、互いに領土を取り合いながら小さな戦いを多く起こしていた。

「これで17戦。私が前線で戦い始めてから数ヶ月なのに、もうそこまで増えていたのか」

およそ姫とは遠い喋り方をする少女。
赤い髪が特徴の少女は、名をレイアという。
レーニア王国の第4王女が公の名だが、最近は違う名で多く呼ばれる。

<契約の赤姫騎士>

その赤い髪と、戦う最中の覇気、最前線で戦う強さ、そして何よりも、勇者と契約していることから、そう呼ばれている。
何でも、色々な呼び名を繋げていったうちにそうなったとか。

本人は表向きは否定しているが、まあ嫌いでは無い様子である。
何よりも、帰国してからは1つのことに集中する。






「シュン。ほら、出掛けよう?」

「分かりました。今日も可憐な服装ですね。とてもお似合いです」

「む。違うだろう。私と2人だけの時は――」

「こうやって喋れば良いんだよね?」

ニコッ、と擬音の付きそうな笑みで言われ、レイアは頬を朱に染め、次いで膨らませる。

「最初からそうしていれば良いのだ!」

そんなレイアの言葉にも、シュンは笑みを崩さない。
さらに嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「ごめんごめん。レイアはやっぱり可愛いな、って思ってさ」

「な、なにを言ってっ・・・・・//」

誰が見ても、思わず2度見をすることは必須な2人組み。
レーニア王国王都<レーニア>において、この2人を知らない者はいない。

「さ、レイア。今日は何処に行く?」

俯いたままのレイアの手を優しく包み、シュンは問いかけた。

「っ・・・・・//・・・・・あ、ああ。そうだな。今日は、貧民街スラムに行こうと思う」

幾分かマシになった声音で、真っ赤な顔を隠すようにレイアは答える。

シュンの顔に、小さな陰が浮かんだ。

が、それも一瞬のことで、次の瞬間には優しい笑みを浮かべている。
そして、何事も無かったかのように頷いた。

「分かった。それじゃあ、出発だね」

太陽がレイアの顔を照らして、シュンの顔が隠れた。
一瞬、レイアが手を額に掲げると同時に、シュンは”動いた”。

まず、誰も見ないようなくらい小さく揺れて、次いで何かを呟いた。
およそ超音波の類にも成るほどの小ささで呟かれた言葉で、レイアとシュンの姿が薄い膜で覆われる。

「ありがとう、シュン」

「僕は、何もしてないよ」

この膜は、誰にも見えない。
シュンですら見えないのであれば、見える者など居ても魔王くらいだ。
それでも、レイアは知っている・・・・・

彼が自分のために何かをしてくれる少年だと知っている。

彼がそれを隠すことも知っている。

だから、何も言わない。
何も言わないから、シュンも何も答えない。
聞かれれば答えるだろうが、聞かれないから答えない。

聞けば答えてくれるはずだけど、聞いてはいけない気がするから、聞かない。

互いに互いで、微妙に擦れ違っている。
それでもー―

「さあ、行こうか?」

「そうだね」

「今日は良い天気だな」

「うん。一日中暖かくて、気持ち良いね」

「ああ」

――これで良いと、互いが互いに思っている。










レーニア王国王都<レーニア>
初代国王が700年前に造ったこの国の最初の都は、山岳の中心に位置している。
周囲を山々に囲まれた位置にある王都は、他国との交通が盛んとは言えないが、自給率は100%を維持している。

山の中の自然や、流れる川。
湖や広大な平原もある地帯であり、食料には困らないのだ。

それと同時に、支出額も最も少ない国を維持している。
なんと、年間の収入の10分の1しか使っていないといえば、その凄さは分かるだろう。

国民が、贅沢をしない性格なのと、お金をあまり使わない生活をしているのが主な要因である。
それでも、貧民街が出来てしまうのには訳があった。


――<急化性能力欠乏印>


シュンも患っている、何かの能力が0の値になってしまうという凶悪なモノ。
これによって、何らかの能力でも0になれば、それだけで社会的な生活が窮地に陥る。

攻撃力の発症は歴史上でもほとんど観測されていないため、あまり心配はされていない。

問題は、防御力と俊敏力、魔力、の三つだ。
防御力が0の場合、風でもすり傷が出来る可能性がある程貧弱になってしまう。
俊敏力が0の場合、自力で移動することが出来ない。
魔力が0の場合は、少し特殊である。

この世界での魔力は、それすなわち個性と気配、感情にまで作用する。
「魔力には色がある」なんて言う学者が居るらしいが、まったくその通りである。
攻撃的な色をする魔力なら、気性が荒い人が多く、他人に恐怖を与えやすくなる。

それと同じで、魔力によって人は無意識のうちに他人を判断するのだ。

それが無い場合。
つまり、判断する方法が無い場合は恐ろしい。
無意識のうちに、対象を”人間と思えない”場合が増えてしまうのだ。

咄嗟の場合、例え家族であってしても「人間の方が大事!」という意味不明な理屈で捨て置く場合もある。
さらに酷いことに、この魔力が0の場合が、最も多い。

このように、社会的に自力で生きるのが難しい人々が住む街、それが貧民街だ。
元は、<欠乏介護街>という名で存在したのだが、時代ともに変わってきた。
他国から来て生活に馴染めない者や、仕事に失敗した者も集まるようになり、それが次第に広がっていった。

今となっては、欠乏症の人間の方が少なくなっている。











貧民街にやってきた2人。
貧民街と呼ばれる境界線は無く、自然と建物が古くなってくると住民がそう呼んでいる。

「何時も通りだね」

「ええ。何時も通りね」

2人の声には、少なくない落胆が含まれている。
互いに教えたことは無いが、互いに抱えているモノはある。

似た境遇の、似た2人だからこそ、なのかもしれない。

無言のまま進むにつれて、2人の間に陰は落ちてくる。
この場所には良く来るが、その度にこうなってるな、とシュンは思った。
暗い空気の中でも、それを何処か懐かしむ自分にも気付く。

そう思うと、不思議と苦笑が浮かんできた。

「どうした?」

「なんでもないよ」

――そう、なんでもない。

たった1人の、消したい記憶が浮かんできただけ。

「これからどうする?」

「そうだな。なら、一度戻ってキルヤ兵長に会いに行かないか?」

無愛想な顔が、自然と脳裏に浮かんでくる。
喋らないし、愛想も良くないのに、何故か周囲からの評判は良い。
不思議な兵長だな、とレイアは良く思っている。

少し考えてから、シュンは頷いた。

「そうか、なら行こう」

「うん」

そうして、2人はまた歩き出す。






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~後書き~

シュン「そういえば、レイアのキャラはあれで固定?」

作者「多分そうなるかな」

レイア「だが、本当は違うキャラの予定だったのだろう?」

作者「そうだね。プロットの時点ではお淑やかな”お姫様”って感じのキャラにするつもりだったからね」

レイア「そうなると、やはり私のキャラを保つのは難しく・・・・・・?」

作者「うん。だから、一話に掛ける時間も増えてしまうかもね」

レイア「なるほど。読者の皆様には、それについては大変申し訳なく思います。で、私とシュンの関係はどんな感じなのだ?」

作者「それについては、自分よりもシュン君からかな」

シュン「さて、やっと回ってきた出番だね。まあ、あんまり説明が長くなるとネタバレになるから少しだけだね」

レイア「分かった」

シュン「まず、僕達の関係としては既に言った通りに主従関係だね。僕がしもべで、レイアが主人。そこで問題なのは、作者が描写力と語彙力が無くて上手く書けていない”恋愛関係”についてだね」

レイア「そうだな。原作、というより今話では私がシュンに好意を抱いているような表現があったのだが・・・・・?」

シュン「それについても解説するよ。まあ、簡単に一言で表すなら『レイアはシュンに淡い恋心を抱いている』になるかな。それを僕自身薄々と気付いている、って感じかな。けど、作中で語られた通りに僕もレイアも何かしらを抱えているから、”それ以上”の関係に成ることは無い。って感じ。」

レイア「シュンの抱えてるモノは大きそうだな」

シュン「そうだね。でも、レイアも抱えてるモノなんてあるんだね?」

レイア「そりゃあ、私だって抱えているものだってある。さて、今回は長く語り過ぎてしまったな。この当たりで終わりにしようか」

作者「そうですね。それでは、読者の皆様へ。今回はこのような長い文章を後書きという括りに入れて投稿させて頂きまして、真に申し訳御座いませんでした。このような場所に書かせて頂くことが出来ましたのも、読者の皆様が広い心を持ってくださるお陰です。ありがとうございました」

シュン「ありがとうございました」

レイア「ありがとうございました」


此処まで読んでくださりありがとうございます。
宜しければ、ブックマーク登録、感想をお待ちしております。
それでは、また次回の後書きでお会いしましょう。
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