最弱勇者の無敗譚

bakauke16mai

文字の大きさ
3 / 4

キルヤ兵長

しおりを挟む
王都レーニアはその大部分が平らな土地だが、その中にも小さな丘のような土地が存在する。
その上に立つのは大抵少し大きめの、貴族などが住む屋敷が多い。

シュンとレイアのやってきた屋敷も、そんな貴族の1人が住む場所だ。

「こんにちは」

「お邪魔しても宜しいですか?」

「・・・・・・・・(コク)」

頷くことで肯定をしめした男性は、扉を開けたまま屋敷の中へと入って行った。
それに続くように、2人も屋敷の中へと招かれる。

心地の良い香草ハーブの匂いだ、とシュンは思った。
眠くなる草の匂いかな?とレイアは思った。

入った直後に漂ってきたのは、馴染みのあるレーニア王国特産の樹を使用した家の香り。
最高樹齢5000年にも及ぶと謂われる樹は<アイジの老神樹>と呼ばれている。
その巨木の天辺は、誰にも見ることが出来ない高さに位置している。

そんな樹が易々と手に入る訳も無く、だからこそこの屋敷が凄いというのは素人のシュンですら理解出来た。

「入っても良かったのですか?敗者の模範ルーズ・ティーチャーが」

それは、シュンの自虐が含まれた言葉でもあった。
敗者の模範。
それを口にした人物は、帝国の人間だった。

勇者という最強の称号を持っているのに誰も倒せないその実力。
決して成ってはならないという反面教師の意味も込めてそう呼んだのだろうが、その言葉は今でもシュンの心の奥底にこびり付いている。

――が、そんなことは露知らずにキルヤ兵長はシュンを睨んだ。

その瞳に映された意思を想像することは容易いが、それを信じることは出来ない。
「何を馬鹿な事を言っている?」そんな事が良いたいのかな、なんてシュンは思いながら、レイアを見つめた。

その視線に晒されたレイアも理解しているように頷く。

実はこの3人、面識はほとんど無い。
それなのにあたかも知人のように話すのには、当然のように訳があった。

「【我が契約に誓い 主の秘とするものを隠したまえ――<音遮断結界>】」

薄い紫の膜がベール状に3人を囲い込む。
(これで良いですか?)とシュンはレイアに視線を送ると、そこには微妙な顔で小さく頷くレイアが居た。
その視線は、(今なら敬語でなくても良いだろう?)という意思が込められていて――

「どうしましたか?レイア様?」

まったく気にしていないように、シュンは問いかけた。
それも、嬉しそう・・・・な笑みで。

「い、いや、なんでもない。・・・・・それよりも、キルヤ兵長」

視線をキルヤ兵長に送る寸前で、レイアはシュンに云った。
(後で覚えておれよ?)と。

「(さあ?何のことでしょう?)」

誰にも聞こえない声で、シュンはそう言った。


話は、レイアとキルヤ兵長へと移る。
2人の、見ている側が甘くなるような展開を見守っていたキルヤ兵長は、いまやその面影を残さない。
兵を纏める長としての顔が、雰囲気を伴って表れていた。

それはひとえに、レイアの見せた雰囲気が原因か。

「(この歳で、ここまでの風格・・を持っているとはな・・・・)」

キルヤ兵長は、幼少から軍人として育ってきた。
37で兵長に昇格し、それからは降格も昇格もせずに維持してきた。
彼の時代には黄金とも呼べる若者が多く、彼自身が昇給の道を断っていた。

しかし、その指揮力を評価されて部隊を任されている。

「(兵全てを指示することは無理だが、部隊ならば負けない・・・・・)」

そんな自負ともいえる自身が、キルヤ兵長にはあった。

そんな彼が、レイアを見て思ったこと。

「(恐ろしい・・・・・・・・・・・・)」

その歳で群を率いる風格と、その”顔”を持っている。
芽吹けば必ず、世界を震わす才覚を現すと、そう断言できた。
最前線で戦うその実力と、奥の方に垣間見える鬼のような才能。

100年に一度の奇跡と、彼は思った。

「貴方に、お願いがあります」

だからこそ、その言葉を疑った。

「私の―――」

そして、夢を見た。

「(この歳になって、まだ性懲りも無く血が残っているとはな)」

キルヤ兵長、42歳である。
この世界での定年退職まで、あと3年。














「それで、何がしたいんだ?」

「どういうことですか?」

剣を握る筋肉がしっかりと付けられた、細い腕がシュンの背後にある壁へと押し付けられる。
シュンの視界に、真っ白の肩が入った。
袖の隙間から見える肩に、思わず視線が釘付けになる。

「さっきのこと、忘れたとは言わせんぞ?」

出来れば忘れた、って言いたいですね。なんて言葉を飲み込んで、シュンは視線をレイアに合わせた。

「落ち着いてください。僕にも事情があるんですよ?」

「その事情を聞いているのだ」

「あの時、レイア様は少しだけ緊張していました。戦いの前みたいな顔してました」

怖かったですよ?なんておどけた顔で、シュンは言った。
それを聞いて、レイアの顔は少しだけ朱に染まる。
姫としての教養が充分あり、その言葉が意味する(下手に刺激しない方が良いでしょう?)ということは理解出来た。

「そうか・・・・・・・・・なら、今回だけは許してやる。だが、次は無いぞ?位は高くなくても貴族の前だ。ふざけた顔は見せられない」

もう手遅れですよ、という言葉は飲み込んで、シュンは頷いた。
どちらにしろ、レイア自身が気付くのも時間の問題だからだ。

「それじゃあ、次は―――」

続く言葉は、遠方からの巨大な魔力に掻き消された。
その暴力的なまでの魔力量に、思わずシュンとレイアの雰囲気が変わる。

「あの位置は、王城か!?」

「いえ、違います」

魔力という、可視化されていないモノの位置を大体で把握できるレイアは異常だが、シュンはそれ以上だ。
その、黒から赤に変わった瞳で・・・・・・・・・・・一点を見つめる。





「あの位置は、”召喚の部屋”です」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~後書き~

読んでくださり、ありがとうございます。
最近、話がグダグダになってしまっている感が否めなくて困っています。
どうにか、スムーズに話を進められないものでしょうか。

もし宜しければ、ブックマーク登録と感想をお待ちしております。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

祝☆聖女召喚!そして国が滅びました☆

ラララキヲ
ファンタジー
 魔物の被害に疲れた国は異世界の少女に救いを求めた。 『聖女召喚』  そして世界で始めてその召喚は成功する。呼び出された少女を見て呼び出した者たちは……  そして呼び出された聖女は考える。彼女には彼女の求めるものがあったのだ……── ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...