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キルヤ兵長
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王都レーニアはその大部分が平らな土地だが、その中にも小さな丘のような土地が存在する。
その上に立つのは大抵少し大きめの、貴族などが住む屋敷が多い。
シュンとレイアのやってきた屋敷も、そんな貴族の1人が住む場所だ。
「こんにちは」
「お邪魔しても宜しいですか?」
「・・・・・・・・(コク)」
頷くことで肯定をしめした男性は、扉を開けたまま屋敷の中へと入って行った。
それに続くように、2人も屋敷の中へと招かれる。
心地の良い香草の匂いだ、とシュンは思った。
眠くなる草の匂いかな?とレイアは思った。
入った直後に漂ってきたのは、馴染みのあるレーニア王国特産の樹を使用した家の香り。
最高樹齢5000年にも及ぶと謂われる樹は<アイジの老神樹>と呼ばれている。
その巨木の天辺は、誰にも見ることが出来ない高さに位置している。
そんな樹が易々と手に入る訳も無く、だからこそこの屋敷が凄いというのは素人のシュンですら理解出来た。
「入っても良かったのですか?敗者の模範が」
それは、シュンの自虐が含まれた言葉でもあった。
敗者の模範。
それを口にした人物は、帝国の人間だった。
勇者という最強の称号を持っているのに誰も倒せないその実力。
決して成ってはならないという反面教師の意味も込めてそう呼んだのだろうが、その言葉は今でもシュンの心の奥底にこびり付いている。
――が、そんなことは露知らずにキルヤ兵長はシュンを睨んだ。
その瞳に映された意思を想像することは容易いが、それを信じることは出来ない。
「何を馬鹿な事を言っている?」そんな事が良いたいのかな、なんてシュンは思いながら、レイアを見つめた。
その視線に晒されたレイアも理解しているように頷く。
実はこの3人、面識はほとんど無い。
それなのにあたかも知人のように話すのには、当然のように訳があった。
「【我が契約に誓い 主の秘とするものを隠したまえ――<音遮断結界>】」
薄い紫の膜がベール状に3人を囲い込む。
(これで良いですか?)とシュンはレイアに視線を送ると、そこには微妙な顔で小さく頷くレイアが居た。
その視線は、(今なら敬語でなくても良いだろう?)という意思が込められていて――
「どうしましたか?レイア様?」
まったく気にしていないように、シュンは問いかけた。
それも、嬉しそうな笑みで。
「い、いや、なんでもない。・・・・・それよりも、キルヤ兵長」
視線をキルヤ兵長に送る寸前で、レイアはシュンに云った。
(後で覚えておれよ?)と。
「(さあ?何のことでしょう?)」
誰にも聞こえない声で、シュンはそう言った。
話は、レイアとキルヤ兵長へと移る。
2人の、見ている側が甘くなるような展開を見守っていたキルヤ兵長は、いまやその面影を残さない。
兵を纏める長としての顔が、雰囲気を伴って表れていた。
それは単に、レイアの見せた雰囲気が原因か。
「(この歳で、ここまでの風格を持っているとはな・・・・)」
キルヤ兵長は、幼少から軍人として育ってきた。
37で兵長に昇格し、それからは降格も昇格もせずに維持してきた。
彼の時代には黄金とも呼べる若者が多く、彼自身が昇給の道を断っていた。
しかし、その指揮力を評価されて部隊を任されている。
「(兵全てを指示することは無理だが、部隊ならば負けない・・・・・)」
そんな自負ともいえる自身が、キルヤ兵長にはあった。
そんな彼が、レイアを見て思ったこと。
「(恐ろしい・・・・・・・・・・・・)」
その歳で群を率いる風格と、その”顔”を持っている。
芽吹けば必ず、世界を震わす才覚を現すと、そう断言できた。
最前線で戦うその実力と、奥の方に垣間見える鬼のような才能。
100年に一度の奇跡と、彼は思った。
「貴方に、お願いがあります」
だからこそ、その言葉を疑った。
「私の―――」
そして、夢を見た。
「(この歳になって、まだ性懲りも無く血が残っているとはな)」
キルヤ兵長、42歳である。
この世界での定年退職まで、あと3年。
「それで、何がしたいんだ?」
「どういうことですか?」
剣を握る筋肉がしっかりと付けられた、細い腕がシュンの背後にある壁へと押し付けられる。
シュンの視界に、真っ白の肩が入った。
袖の隙間から見える肩に、思わず視線が釘付けになる。
「さっきのこと、忘れたとは言わせんぞ?」
出来れば忘れた、って言いたいですね。なんて言葉を飲み込んで、シュンは視線をレイアに合わせた。
「落ち着いてください。僕にも事情があるんですよ?」
「その事情を聞いているのだ」
「あの時、レイア様は少しだけ緊張していました。戦いの前みたいな顔してました」
怖かったですよ?なんておどけた顔で、シュンは言った。
それを聞いて、レイアの顔は少しだけ朱に染まる。
姫としての教養が充分あり、その言葉が意味する(下手に刺激しない方が良いでしょう?)ということは理解出来た。
「そうか・・・・・・・・・なら、今回だけは許してやる。だが、次は無いぞ?位は高くなくても貴族の前だ。ふざけた顔は見せられない」
もう手遅れですよ、という言葉は飲み込んで、シュンは頷いた。
どちらにしろ、レイア自身が気付くのも時間の問題だからだ。
「それじゃあ、次は―――」
続く言葉は、遠方からの巨大な魔力に掻き消された。
その暴力的なまでの魔力量に、思わずシュンとレイアの雰囲気が変わる。
「あの位置は、王城か!?」
「いえ、違います」
魔力という、可視化されていないモノの位置を大体で把握できるレイアは異常だが、シュンはそれ以上だ。
その、黒から赤に変わった瞳で一点を見つめる。
「あの位置は、”召喚の部屋”です」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~後書き~
読んでくださり、ありがとうございます。
最近、話がグダグダになってしまっている感が否めなくて困っています。
どうにか、スムーズに話を進められないものでしょうか。
もし宜しければ、ブックマーク登録と感想をお待ちしております。
その上に立つのは大抵少し大きめの、貴族などが住む屋敷が多い。
シュンとレイアのやってきた屋敷も、そんな貴族の1人が住む場所だ。
「こんにちは」
「お邪魔しても宜しいですか?」
「・・・・・・・・(コク)」
頷くことで肯定をしめした男性は、扉を開けたまま屋敷の中へと入って行った。
それに続くように、2人も屋敷の中へと招かれる。
心地の良い香草の匂いだ、とシュンは思った。
眠くなる草の匂いかな?とレイアは思った。
入った直後に漂ってきたのは、馴染みのあるレーニア王国特産の樹を使用した家の香り。
最高樹齢5000年にも及ぶと謂われる樹は<アイジの老神樹>と呼ばれている。
その巨木の天辺は、誰にも見ることが出来ない高さに位置している。
そんな樹が易々と手に入る訳も無く、だからこそこの屋敷が凄いというのは素人のシュンですら理解出来た。
「入っても良かったのですか?敗者の模範が」
それは、シュンの自虐が含まれた言葉でもあった。
敗者の模範。
それを口にした人物は、帝国の人間だった。
勇者という最強の称号を持っているのに誰も倒せないその実力。
決して成ってはならないという反面教師の意味も込めてそう呼んだのだろうが、その言葉は今でもシュンの心の奥底にこびり付いている。
――が、そんなことは露知らずにキルヤ兵長はシュンを睨んだ。
その瞳に映された意思を想像することは容易いが、それを信じることは出来ない。
「何を馬鹿な事を言っている?」そんな事が良いたいのかな、なんてシュンは思いながら、レイアを見つめた。
その視線に晒されたレイアも理解しているように頷く。
実はこの3人、面識はほとんど無い。
それなのにあたかも知人のように話すのには、当然のように訳があった。
「【我が契約に誓い 主の秘とするものを隠したまえ――<音遮断結界>】」
薄い紫の膜がベール状に3人を囲い込む。
(これで良いですか?)とシュンはレイアに視線を送ると、そこには微妙な顔で小さく頷くレイアが居た。
その視線は、(今なら敬語でなくても良いだろう?)という意思が込められていて――
「どうしましたか?レイア様?」
まったく気にしていないように、シュンは問いかけた。
それも、嬉しそうな笑みで。
「い、いや、なんでもない。・・・・・それよりも、キルヤ兵長」
視線をキルヤ兵長に送る寸前で、レイアはシュンに云った。
(後で覚えておれよ?)と。
「(さあ?何のことでしょう?)」
誰にも聞こえない声で、シュンはそう言った。
話は、レイアとキルヤ兵長へと移る。
2人の、見ている側が甘くなるような展開を見守っていたキルヤ兵長は、いまやその面影を残さない。
兵を纏める長としての顔が、雰囲気を伴って表れていた。
それは単に、レイアの見せた雰囲気が原因か。
「(この歳で、ここまでの風格を持っているとはな・・・・)」
キルヤ兵長は、幼少から軍人として育ってきた。
37で兵長に昇格し、それからは降格も昇格もせずに維持してきた。
彼の時代には黄金とも呼べる若者が多く、彼自身が昇給の道を断っていた。
しかし、その指揮力を評価されて部隊を任されている。
「(兵全てを指示することは無理だが、部隊ならば負けない・・・・・)」
そんな自負ともいえる自身が、キルヤ兵長にはあった。
そんな彼が、レイアを見て思ったこと。
「(恐ろしい・・・・・・・・・・・・)」
その歳で群を率いる風格と、その”顔”を持っている。
芽吹けば必ず、世界を震わす才覚を現すと、そう断言できた。
最前線で戦うその実力と、奥の方に垣間見える鬼のような才能。
100年に一度の奇跡と、彼は思った。
「貴方に、お願いがあります」
だからこそ、その言葉を疑った。
「私の―――」
そして、夢を見た。
「(この歳になって、まだ性懲りも無く血が残っているとはな)」
キルヤ兵長、42歳である。
この世界での定年退職まで、あと3年。
「それで、何がしたいんだ?」
「どういうことですか?」
剣を握る筋肉がしっかりと付けられた、細い腕がシュンの背後にある壁へと押し付けられる。
シュンの視界に、真っ白の肩が入った。
袖の隙間から見える肩に、思わず視線が釘付けになる。
「さっきのこと、忘れたとは言わせんぞ?」
出来れば忘れた、って言いたいですね。なんて言葉を飲み込んで、シュンは視線をレイアに合わせた。
「落ち着いてください。僕にも事情があるんですよ?」
「その事情を聞いているのだ」
「あの時、レイア様は少しだけ緊張していました。戦いの前みたいな顔してました」
怖かったですよ?なんておどけた顔で、シュンは言った。
それを聞いて、レイアの顔は少しだけ朱に染まる。
姫としての教養が充分あり、その言葉が意味する(下手に刺激しない方が良いでしょう?)ということは理解出来た。
「そうか・・・・・・・・・なら、今回だけは許してやる。だが、次は無いぞ?位は高くなくても貴族の前だ。ふざけた顔は見せられない」
もう手遅れですよ、という言葉は飲み込んで、シュンは頷いた。
どちらにしろ、レイア自身が気付くのも時間の問題だからだ。
「それじゃあ、次は―――」
続く言葉は、遠方からの巨大な魔力に掻き消された。
その暴力的なまでの魔力量に、思わずシュンとレイアの雰囲気が変わる。
「あの位置は、王城か!?」
「いえ、違います」
魔力という、可視化されていないモノの位置を大体で把握できるレイアは異常だが、シュンはそれ以上だ。
その、黒から赤に変わった瞳で一点を見つめる。
「あの位置は、”召喚の部屋”です」
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~後書き~
読んでくださり、ありがとうございます。
最近、話がグダグダになってしまっている感が否めなくて困っています。
どうにか、スムーズに話を進められないものでしょうか。
もし宜しければ、ブックマーク登録と感想をお待ちしております。
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