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序章
ふわぁ・・・・・眠い
しおりを挟む朝。
「ふわぁ・・・・・あー・・・・【召喚・召使い】」
『朝食で御座います』
「さんきゅー」
黒い人の形をしたナニかが渡してきた、パンに野菜を挟んだサンドイッチ。
パクリと咥えれば、新鮮な野菜の味が染みて、そこにパンの柔らかさがマッチしてくる。
「・・・・美味い」
「お褒めに預かり、光栄に御座います」
恭しく一礼したナニかは、そのまま”瘴気”となって霧散していった。
アイツが消え去るときは、大抵誰かが来るということだ。
「・・・・相変わらず、意味わかんねぇ生活してんなぁ?」
「礼儀がなってないぞ?せめて俺の家でくらい静かにしろ」
「そこは他人の家でくらい静かに、だろ」
そうなのか?
「そうなんだよ」
「ほう。俺の考えが読めるのか?」
「ああそうだな。お前の間抜けな顔面に大きく書いてありましたよ」
刺々しいながらも親しい声音で話してくる男。
確か名前をオムレツとか言った気が・・・・・
「ウイルズだよ。お前もいい加減覚えろよ?」
「ああそうだったな。すっかり忘れてた」
訂正。
ウイルズだった。
そういえば、東の方にある国では、害のある”きん”というモノをウイルスと呼んだ気がするな。
「そうなのか?」
「ああ?何の話してるのか分からねぇよ」
心の底から分からないといった顔で聞いてくるウイルズに、首を傾げる俺。
確か、心が読めるのでは無かっただろうか?
「・・・・・・・・そういう奴だったな、お前」
「その言い方だと、何だか蔑まれているような気がするな?」
「気のせい気のせい。とりあえず、さっきのは言葉の綾だ。人の心なんて読めねぇよ」
そういうことか。
納得したお陰か、苛立ちも収まってきた。
まあ、イライラする時は殺せばきっと収まるだろう
っと。
そういえば、こんな考えになってしまうのは駄目なんだっけな?
確か、400年前程昔に父が言っていた気がする。
何だっただろうか?
確か――
『いいか。お前は人じゃない。だからこそ、その異常性を知られないようにするんだ。いいな?』
だっただろうか。
その忠告をしっかりと聞きうけたお陰で、俺も今ではすっかり人間界に馴染んでいる。
「そうか。まあいい。それで?今日も仕事だろう?」
「ああ、今日も頼むぜー」
文面だけを見ると、かなり怪しい男だなウイルズは。
まあけれど、内心はしっかりとした男だとわかっている。
なにせ、【読心】を使ったんだからな。
「――――って、聞いてるか?」
「ん?すまない、もう一度言ってくれ」
どうやら、物思いに更けていたようだ。
反省反省、と内心で呟きながら、俺は耳を傾けた。
金とやらは家に大量にあるし、稼ぐだけなら1日で国程度買えるくらいには稼げるだろう。
けれどまあ、稼いでも使い道が無いし、何よりも動くのは面倒だ。
体が鈍らない程度で良い。
「――――ホントに聞いてるのか?」
「ん?聞いてないな。もう一度頼む」
にしても、俺も歳を取ったのだろうか。
考え事に集中すると、周りの声が一気に遮断されるようになってしまった。
以前、といっても200年ほどまえは全盛期なのだろうかと疑う程に今の俺の調子は悪いな。
「じゃあ、よく聞けよ?――お前の仕事は、精霊術の取得だ」
「・・・・・・は?」
いや、遂に耳まで壊れてしまったのかもしれない。
なにせ、俺の耳には今精霊術が聞こえたような気がしたのだから。
「だから、精霊術を取得するのが仕事だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死にたいか?」
気付けば、ウイルズの周囲、360度全てに”小規模”の<最上級魔法>が展開され、俺の右手には錬金術によって創り出した<神剣>が握られ、その切っ先はウイルズに向けられていた。
まさに、1秒にも満たない出来事。
しかし、俺にとって1秒とはその程度に過ぎない。
戦闘程度に1秒も掛けるのならば、そいつの程度が知れているだろう。
『天守雨龍』に2秒チャレンジをした時は、俺の貧弱さの所為で殺すのに1.3392秒も掛かってしまった。
思い出すだけで、あの龍には謝罪したくなってくるな。
っと、俺の悪い癖だな。
本題を見失ってしまった。
俺が全盛期より培ってきた、魔王とかいう人類最大の敵を秒で殺せる殺気を放ち、俺はウイルズを睨みつけた。
「・・・・・・・・・・・・」
「?なんだ、この程度で気絶するほどに弱かったのか」
案外、俺の力量を測る”眼”も腐っているのだろうか。
この国の中で最も強い男だと判断されたから少なくとも魔王10体分くらいはあるのかと思っていた。
けれど、この様子からすると・・・・・・・
「んー・・・・・・魔王0.02体分か?」
あくまで、人類の平均能力値の100倍を魔王の力量と判断した場合、だがな。
気絶したウイルズに『二度と精霊術なんていう言葉を放つな。聞かせるな。sの時点で殺す』と書いた紙を放り投げ、家を出る準備をした。
もう、この場所に用は無い。
「【転移】」
さ、次の住居を探すかな。なんて考えながら、俺はその姿は春か遠方の未だ知らぬ地へと飛ばした。
(ふわあ・・・・・眠い)
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