ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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図鑑を読んでいると、部屋が夕焼けの橙色に染まっていた。その色を見て夜神は図鑑を足元にも落としてしまった。

もうすぐ夕食の時間になる。それが終われば昨日のような事が繰り返される。
あの皇帝に組み敷かれて、出したくもない声を夜直よたた出し続ける。
自分の体なのに、「色の牙」で無理矢理感度を高められて感じてしまう。
そして・・・・・身震いした。心臓が全速力で走ったかのようにバクバクと早く脈打つ。息が上手く吸えなくて息苦しくて、ハクハクと息をする。

━━━━━嫌だ!!

自分の肩を抱きしめて震える。もうあんな悪夢のような出来事を繰り返したくない。
だが、剣を交えたときに皇帝は残酷な言葉を囁いた。

「夜が楽しみだね」

あの時、耳元で言われた言葉が繰り返される。おかしくなりそうで耳を塞いでもこびりついて離なれない。

「嫌だ・・・・・夜が怖い。来なければいいのに・・・・・助けて、誰でもいいから助けて・・・・」

嗚咽がもれる。ここには自分を助けてくれる者などいない。孤立無援━━━━そんな言葉がピッタリと合うだろう。

どれ程の時間、耳を塞いでいたのだろう。外はすっかり夕焼けから夜にグラデーションの景色を映している。
そのせいで部屋は薄暗く、明かりが必要なぐらいだ。だか、夜神はそれで良かった。

この闇に紛れたらいいのに・・・・だが、その願いは虚しく終わる。扉をノックする音と共に案内役の侍女が入ってくると電気を付ける。
部屋は明るくなり、耳を塞いでいる夜神に抑揚のない声で要件のみ伝える。
「食事の用意が整いましたのでいらしてください。拒否は出来ませんよ」

食事を食べないことは自死行為とみなされる。その後の末路を考えたら、夜神は自分を呪うだろう。
「分かりました」
拒否は出来ない。従うのみなのだ。
ゆっくりと立ち上がると、案内役の侍女に従い、廊下を重い足取りで歩いていったい。

無言と味合う余裕のない食事を終わらして部屋に戻る。そこには侍女長と侍女の三人がいて、これから行う作業の準備をしていた。
「湯浴みの支度が整いましたら、ご案内いたします」
侍女長は愛想笑いなどもなく、無表情で話す。
夜神はこれから起こる事に恐怖で支配される。立っていることも出来ずその場に座りこんでしまった。
体が震えて自分の肩を抱きしめて、歯の根も合わずガタガタと震える。目からは涙が溢れて頬を伝う。
「嫌、嫌なの。行きたくない!行きたくない!もう、嫌なの!」

夜神の拒否に驚いた侍女長だったが、無表情から一変、慈愛に満ちた笑顔で夜神をふわりと優しく包み込む。
その行為にビックリして、侍女長の顔を見る。とても優しい笑顔だ。けど、何か不気味なほどの目の輝きがある。

優しいく包み込んでいた侍女長は、夜神の手を優しく手に取り爪を一枚づつ撫でている。その行為に何故か背筋がゾワゾワする。
全身が「警戒せよ」と緊張を伝える。この笑顔は常人にはつくれない。

「そんなに事おっしゃらないでください。陛下に毎夜求められるなど誉れなのですよ?なので綺麗にしなくてはいけないのですよ?」
「嫌だ、放っておいて!」
爪を撫でる行為が怖くて手を引っ込めようとするが、ビクともしなかった。
「知ってますか?この城には人間も働いているんですよ?」
突然、意味のわからない話をする侍女長の顔を見る。何かが狂っているような悦とした顔だ。

「そのもの達の仕事は、重労働など大変な仕事が多いんです。指や腕を失くしたら仕事にも影響があるでしょうね?けど、爪なら・・・・・・・特に問題ありませんよね?」
侍女長は夜神の爪を、指でツゥーと撫でる。全身が粟立つて何か恐ろしいもの見る。

「「白目の魔女」は陛下の「スティグマ」を授かっていますでしょう。ご存知ですよね?「しるし」を持っている者に吸血行為、身体に害する行為は禁じられています。もしそれを犯したならば死罪。一族郎党明日の日の目は見れなくなります。私はわきまえていますよ?たとえ憎い「白目の魔女」であっても。なのであなたに直接何かしらの事をしても、私達が被害を受けます。なので身代わりですよ。貴方が拒否するのであれば、この城で働いている人間全ての爪を剥がしましょうね」

侍女長は夜神の爪を自分の指の腹に引っ掛けて、剥ぎ取るような行為をする。恐怖で言葉がでない。
自分の粗い息だけがやけにうるさく聞こえる。
「人間は我々から見たら、ただの餌。そして人間から見たら「しるし」を持っている人間は上です。現にしるし持ちは付けた相手から保護される対象です。そして「スティグマ」は更に別格。陛下に守られているのですよ?良かったですね。「スティグマ」がなかったら、今頃は生きているのかさえ分かりませんからね?」

『私の庇護のもと守られている』

頭の中で、軍事施設のやり取りが蘇る。
目の前では侍女長が楽しそうに夜神の爪を撫でている。
「目の前で何人かは剥ぎ取りましょうね。残りはテーブルに一枚ずつ並べましょうか?」
自分の行動一つで、関係のない人たちを巻き込んでしまう。胃の中に無理やり氷を入れられたみたいに、胃の底から冷たくなっていく感じがする。

「嫌ですよね?ワガママを言ったばかりに、関係のない者を巻き込むなんて。それが嫌なら、私達の手を煩わせる事は言わないで下さい。さぁ、お立ちになって綺麗にしましょうか。今日は剣の打ち合いをしたので、汗を流さないといけませんからね」
爪を撫でていた手を、夜神の腕に移動させて立ち上がらせる。
そして腰に手を添えて一緒に歩き出そうとする。ヨタヨタと力無く連れられて夜神はお風呂場に連れて行かれた。

昨日と同じように、体や髪を洗われて、甘い花系の匂いのする、香油を体や髪に塗っていく。
下着は着せてもらえず、肩をさらけ出したオフショルダーの寝夜着を着せられる。腕の部位がリボンで結ばれているものだ。

それを着ると案内される。前に侍女、間に夜神そして後ろを侍女長たち。自分の部屋の寝室の扉を開いて、今一番近づきたくない部屋に無理矢理押し込められる。
そして振り向いたときには鍵をかけたあとだった。夜神はその扉を何度も何度も叩く
「嫌!出して!ここから出して!お願、い・・・・出してくださ・・・・い・・・」
返事のない扉を何度も叩いたが、やがてズルズルと床に座り込んで、額を扉につけて嗚咽混じりに泣き始める

「凪ちゃん、何が悲しいのかな?」
突然、後ろから声をかけられる。既に部屋に居たルードヴィッヒが後ろに立っていたのだ。
「ひっ・・・・・・あっ、いや!来ないで!」
「ここからは出れないよ?朝にならないとこの扉は開かないからね・・・・怖い?この部屋は嫌なの?」
後ろから夜神を抱きしめる。背中に鍛えている胸板がぶつかる。
顎を掴まれて顔を固定されると、耳朶をネットリと舐められる。
「っう・・・・・」
「ベッドは嫌なのかな?教えて」
「いや・・・・・」
「そうなんだぁ・・・・それならここ・・でしようか?」

ルードヴィッヒは「仕方がないなぁ~」と楽しそうに耳元で笑うと、夜神の両手を一纏めにして「鎖」を巻きつける。
それを見ていた夜神は倒れそうになった。自分の意志とは関係なく、皇帝がこれからしようとしている行為が、夜神の心を蝕んで嘆く行為であることを。
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