ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

文字の大きさ
121 / 325

109 流血表現あり

しおりを挟む
一ヶ月の内勤勤務も終わり、討伐任務をいくつかこなしていく。
復帰した時は、下位クラスを学生の庵と一緒に討伐していったが、一緒に行動をしていなかった間に、随分と力を付けていることに夜神は嬉しくなった。

問題だった、判断力も随分と改善されて、確実に相手の弱点を見ながらの攻撃や、反撃された時の次の動きを行う動作の切り替えがスムーズに出来ているのが分かり、庵の成長を頼もしく思う夜神だった。

そして、夜神も何体かの下位クラスの討伐任務をしていく。
そして今、七海と一緒にSクラスの討伐をする為、行動を共にする。

「スティグマ」を皇帝に付けられたことにより、帝國では身体に殺傷行為は禁止されていたが、今は違う。帝國ではない為この「スティグマ」が通用するのかわからないのだ。

万が一のため、今回は七海とその隊員と一緒に行動する。
夜神が前線に立つが、相手が拒否したら七海が代わりに討伐する。

「夜神、緊張してるのか?お前らしくないなぁ?」
「緊張はしてない。けど私ののせいで何かあれば、役立たずのレッテルを貼られるのかと思うとね・・・・・高位クラスの討伐任務が出来ない軍人なんて、必要ないから」

皇帝によって付けられた所有物の証の「スティグマ」のある部分を押える。人間には見えない「スティグマ」も吸血鬼には見えている。もしかしたら皇帝が何かしらの命令しているかもしれない。

「例え、何があっても夜神は夜神だろう。自分が討伐出来ないなら部下を持って育てろ。自分が前線にたてないのなら、別の方法を考えて軍の力になれば良い。そうだろう?」
七海は無精ひげを撫でて、笑う。
それを見て、夜神も伏し目がちだった目線を上げて、七海を見る。七海の目は「違うか?」と問いかけている。
それを見て、夜神は苦笑いをする
「そうだね・・・・・その時は庵君を鍛えようかな?」
「えっ?!本当ですか?」

突然、話を振られて驚いたが、夜神の決意のこもった目を見て頷く。
「その時は、宜しくお願いします!」
「おーおー頼もしいね~さて、お喋りはここまでだ。そろそろ、あちらさんとご対面だぞ。夜神に庵青年準備はいいか!」
「いつでもいいよ」
「大丈夫です」
夜神と庵は、帯刀している刀に手をかけて、いつでも抜刀出来るようにする。

二人の返事を聞いて七海は軽く笑い、インカムから自分の部隊に指示をしていく。
『目標は二体。どちらもSクラスだ。赤色のクラバットは夜神大佐が討伐する。緑色は俺ら七海隊だ。知っていると思うが、赤色のクラバットが何らかの拒否をしたら、俺らは二体相手にするからな。体力温存しとけよ!』
「「「了解!!」」」

『カウントゼロで行動開始。5、4、3、2、1、0!!』

七海のゼロの掛け声と共に、夜神達は一斉に吸血鬼の前に現れる。
赤いクラバットの吸血鬼の前に、夜神は立つとネクタイを引き抜いて首を見せる。
皇帝によって付けられた「スティグマ」を見せるようにして、刀を構える。これは七海からの指示なのだ。


━━━━『嫌だろうが、Sクラスの吸血鬼と対峙する時は「スティグマ」をわざと見せて相手の反応を見ろ。そして何か喋ったら誘導して、話を聞け』


「「白目の魔女」だと!!これはこれは・・・ほぉー「スティグマ」が本当にあるのだな?では、貴様を殺せば私の地位は約束されたようなもの!死ね!」
吸血鬼は腰の剣を一気に引き抜くと、夜神に向かって走ってくる
「私を殺せば良いことでもあるの?誰が言ったの?」
夜神も蒼月を抜刀して、相手の攻撃に対応する為構える
「皇帝陛下だ。「スティグマ」を持っている「白目の魔女」を、餌の世界なら殺しても構わないとおしゃった。その褒美として、揺るがない地位を授ける約束もしてくださった!死ね!我のために!」

吸血鬼と夜神の剣がぶつかり合う。金属音を響かせて、そのまま自分達の後ろに飛んでいく。

「なら、私はこの世界にいる限り、命を狙われるのね?」
「そうだ!帝國では何も出来ないが、ここなら殺せる!」
剣を構えて走ってくる吸血鬼の顔は、悪鬼の様にも見えるほど歪んで、血走ったまなこで夜神捉えている。

夜神は話を聞いて安堵してしまった。
この忌々しい「スティグマ」のせいで、自分は討伐任務から外されて、教官としての道を歩むのかもしれないと思っていたからだ。
教官としての道を嫌だとは思ってはいない。少しでも軍人として、役に立てるのならそれは本望だ。
けれど、どうしてもこの手で吸血鬼の崩壊をやり遂げたいと思ってもいる。

答えが分からなかった━━━━吸血鬼と対峙するまでは。

そしてその答えはすぐに導き出された。
吸血鬼は帝國では手は出せないが、この世界なら殺しても構わない、むしろ殺した方が地位や、名誉といった褒美を貰える。
それを言ってのけたのは皇帝だった。

あの忌々しい金色の目を、声を思い出す。家族も貞節も全てを奪った吸血鬼は、愉悦に満ちた表情で命令したのだろう。
ならば、その命令を実行する為に刃を向ける吸血鬼は、全て自分の手で討伐するのみ。

「抜刀!!蒼月!吼えよ!」
走ってくる吸血鬼を迎え撃つために、構える。切っ先は悪鬼の形相の吸血鬼の首を捉える。
自分の間合いに吸血鬼が入った瞬間、スッと動いていく。それは風に揺れる花のように、音もなく、静かに。
そして次の瞬間、刀を吸血鬼の首に打ち付ける。それと同時に、青い光の虎がその鋭い爪を吸血鬼に振り下ろす。

振り下ろしたと同時に、刀が首を斬り落としていく。
「がぁぁ━━━!」
断末魔と共に首は刎ねられ、地面に音をたてて落ちた。そして首を無くした体も、ぐらついてドサッと重い音をたてて倒れる。

夜神は赤くなった瞳で刀を見る。鈍色に輝く刀身は、吸血鬼の血で妖しい輝きを放つ。
そして、地面に向けると、斬られた首からは血が流れて地面に染みをつくる。

一ヶ月以上前はコレがいつもの事だった。
先生を亡くした時から、死物狂いで己を追い込み、叩き上げて力を付けて、軍最強の称号を手に入れた。そして皇帝をこの手で殺すためだけに頑張ってきたのだ。

だが、赤子の如くあしらわれ、恐怖を植え付けられてしまった。
今でも、時々思い出しては体が震える。
それらをさとられないように、接しているが感のいい長谷部室長や、七海は知っているだろう。それでも普段と変わらない対応をする事に感謝しかない。

刀に付いた血を落とすために、振ってから刀を納める。
七海達を見ると、既に討伐は終わっていた。
こちらの動きを観察するように眺めて、対応をどうするか考えているのが分かる。

充分すぎるほど、みんなの優しさを知っているから、これ以上は心配をかけられないと分っている。
「虎次郎!ちゃんと言われたことしたよ~」

地面に落ちているネクタイを拾って、みんなにいつもの微笑みを向ける。
「後で報告するね。庵君も大丈夫だった?」
ネクタイを結びながら、庵の安否確認をする
「大丈夫です。夜神大佐も大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。それにいつもと変わらず、相手は襲ってくるし・・・・どうやら教官の道はなくなったみたい」
「ハッハハハ!そうか、そうか!教官はまだまだかぁ~夜神が教官とか考えられねーもんな!みーんな飛ばして「鬼!鬼畜の夜神教官」なんて言われるのがおちだもんな」

七海は笑って無精ひげを撫でる。けどその笑いは少しだけ安堵の色が見える。
「誰が鬼で鬼畜なの?失礼極まりない言葉ね。虎次郎!」
「本当の事だろう?俺を飛ばしまくったのは誰だよ!」
「・・・・・私だけど?でも指導ではなくて、稽古だから。関係ないよ?」
「それでも飛ばしただろうが。普段からしてきたら出るんだよ!それは庵青年がよ━━く分かっている。なっ?」

突然話を振られた庵は驚いて、視線を右や左とウロウロさせて、空を見上げて静止する。
「庵君?」
「・・・・すみません!ノーコメントでお願いします!!」
庵の絶叫が響く。それを聞いた七海は笑いだしてしまう。それを見ていた、七海の部隊もつられて笑い出す。

周りを見ていた夜神はただ一人、不満な表情を浮かべていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「夜神教官」もいい響きですが、その道はまだまだ程遠いようで・・・・・
頑張って討伐任務をしていって下さい!!と言うしかないです。それにしても最近は庵君もあしらいが上手くなりましたね・・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...