ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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朝日が差し込む廊下を歩き、「第一室」と書かれたプレートが掲げられている扉をノックして入室する
「おはようございます」
「おうーおはよう!庵青年!」
「おはよう。庵伍長」
「おはようございます。七海中佐、相澤中佐」
「おはよう。いい天気ね。庵伍長」
「おはようございます。式部大尉」
三人の先輩に挨拶をして、隣の部屋にある自分の机に向かおうとした庵を七海が引き止める。
「青年!ちょっと待て!」
「どうしましたか?七海中佐」
「昨日、夜神と一緒だったんだろう?」
無精ひげを撫でながらニヤニヤ顔で聞いてくる七海に嫌な予感がして、庵は一歩後退る。
「え~と・・・ですね~」
「よく分かった。一緒だったんだな?なら、そろそろ報告してもいいんじゃないか?」
「うっ・・・・・」
その様子を見て、何故か目をキラキラしてくる式部大尉と「はぁ~」とため息をする困り顔の相澤中佐が視界に映る。

「・・・・使いました」
もの凄い小声で報告すると、七海中佐は「クックク」と笑っている。
「誰のを使ったんだよ?」
「残りの三つ全て使用しました」
「えぇ~!庵伍長やるわね・・・・」
「知らんぞ」
二人の正反対の反応を見て、七海は庵の肩をバン!バン!と叩きながら笑う
「亀より鈍い夜神によくやるよ!流石、青年!見直すぜ!」
「自分、生きた心地しないですよ。短期決戦に臨んだので一気に使いましたが、終わったあとの夜神大佐が物凄く怖かったです」

そう、気絶してしまった夜神が起きた時に一言「覚えておいてね?」と言ってから、今に至るまで会話らしい会話をしていないのだ。それは非常に怖い。きっと何かある。間違いなくある。絶対ある。

四人で色々と話していると扉が開き、今まさに話題の人物である夜神が、とてもいい笑顔で入室してくる。
「おはよう。みんな早いね?」
「おはよう夜神大佐」
「あぁ、おはよう」
「おはようございます」
「うーすっ!」

それぞれが返事すると、夜神は手に持っていた書類の束を七海に押し付ける
「ん?何だこれは?」
疑問の声をあげる七海に、いつもの微笑みで答える
「長谷部室長には許可をもらっているから。虎次郎、式部、相澤中佐と野村大尉、それと庵君の五人は暫く、私と一緒に強化訓練をすることになったからね!それの書類!」
「「「!!!」」」
「夜神さ~ん?何ですと?」
この場を代表して、七海が口を開く
「だ・か・ら・強化訓練。部隊の底上げだよ?理由は・・・・知ってるよね?」
微笑みが一段上がって笑顔になる。けど、その笑顔はなにかが怖い。

「「「・・・・」」」
「天下の第一が今更・・・・なぁ?」
「それに胡座をかいていたら駄目だよ?」
小首を傾げて七海を見る目はとても、そう、とても冷たい。
「み~んなで強くなろうね?私もと~~ても頑張るからね!もちろん庵君は全部に参加するからね!!」

その一言で庵は乾いた笑いをする以外なかった。その笑いを見た三人も同じように笑うしかなかった。
そして、部屋には異様な笑い声が暫く続いていた。


そんな穏やか?な日常が続いていたが、ある定期連絡が二つの国から突然なくなった。
それは、日本と同じような島国のイギリスとオーストラリアだ。
不審に思った各国が、呼びかけるが返答はなく非常事態になっていると判断される。

そこから情報収集を開始すると、それぞれの国の近くにあるゲートから、大量の吸血鬼の軍勢がそれぞれの国に移動していたのが確認できた。

そして、軍の施設を次々に破壊、陥落、軍の人間は対抗するもその圧倒的な力で次々と捕まったり、命を落としていった。
民間にも影響が出始めてきた。人が多く行き交う場所での吸血行為・・・・それを見た人間達はパニックになり、蜘蛛の子を散らすよう逃げていく。
それが一箇所にとどまらず、何箇所も起こった。本来こうならないように軍が吸血鬼を討伐していくのだが、肝心の軍は既になくなり、何とかして逃げた軍人が最後まで頑張っていったが、呆気なく終わってしまった。

それぞれの国を恐怖で支配していく吸血鬼討伐をと、各国の軍が話し合いをしているが、それぞれの国にある上層部と言われる組織が「国の判断」を理由に討伐に赴く事を阻止している。
軍と上層部とでいがみ合いが続く中でも、待ったをかけることなく吸血鬼は次々と二つ国を支配していく。

藤堂元帥を始めとした幹部や室長達は、会議室に籠もり話の通じない上層部と議論を交わす。
上層部も何かを待っているような素振りを見せつつ、頑なに討伐に赴く事を拒否している。
それを何故だ!!と問われれば「国の決定」と印籠のように振りかざし話し合いから逃げる。
それを繰り返すばかりの会議が続いていた。

軍の人間は何時でも討伐任務に行けるよう、密やかに準備をしていた。
それは夜神達もだ。たとえ自分は行かなかったとしても、軍からの命令があれば、速やかに動けないといけない。一分、一秒も今は惜しいのだ。

そんなモヤモヤの続く中、ある映像で全ての事態が急激に動き出した。それは一人の判断で世界が吸血鬼に蹂躪されるか、されないかと、あまりにも重い判断を突きつけられた。
その細い肩に伸し掛かるにはあまりにも重すぎるものだった。
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