ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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長谷部室長と七海中佐は無言で暫く対峙していたが、痺れを切らして七海が口を開く
「室長!!なぜ討伐命令が未だに出されないんですかっ!!俺もその頭の硬い上層部がいる会議に参加させて下さい!!」
机を「バ━━ンッ!!」と叩き、憤りを隠せないまま長谷部に詰め寄る。

いつもの七海からは想像が出来ないほど、上層部に対して怒っているのが分かる。
長谷部は片眉を少し上げただけで、ほとんど無表情のまま、七海を見上げる。
「自分の立場を履き違えるな!!七海中佐!いくら藤堂元帥から信頼されていようと、一階の中佐が会議に参加することは出来ない。参加したいのであれば室長か団長以上になる事だ!!」
それを聞いた七海は悔しそうな顔をして、机に叩きつけた拳を震わせた。
「・・・・・・すまん。私も七海中佐の気持ちは痛い程分かっている。分かっているが現状どうする事も出来ない」

七海中佐の気持ちもよく分かる。国は違えど同じ敵を討伐することを目標に互いに切磋琢磨している仲間だ。
さらに、演習でも互いに頑張っていった仲の国だ。そんな国を見捨てるような真似など出来るはずもなく、いち早く駆けつけたいのに、それを邪魔するように上層部が待ったをかける。

「上層部は何がしたいんですか?庵青年やベルナルディ中佐の時といい、今までのことといい・・・はっきり言って不信感しかありません」
七海の声に様子を静かに見ていた夜神はその考えに賛同した。

自分が初めて高位クラスを討伐するも怪我を負った時や、庵君の討伐時期、そしてベルナルディ中佐の行動・・・・
まるで、引っ掻き回したいのか、それとも何かしらの意図があっての行動なのか分からない事が多すぎる。

「夜神大佐大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、庵君。ちょっと色々考えてしまってね・・・・・」
きっと怖い顔にでもなっていたのかもしれない。それを指摘してくれた庵君にはこれ以上心配をかけさせたくない。
今、自分達で出来ることをしなくては・・・・・

気持ちばかりが焦り出す。けど、深刻な二カ国以外にも奴らは、吸血鬼は休む暇なく自分達の国に、日本にその牙を向けてくる。
一人でも多く、その牙から守る為には自分達がしっかりしないといけない。
考え事をしてしまって少し、ぼーっとしてしまったが、式部の声で現実に戻される。

「えっ!何?」
その声に部屋の全員が自分達のしていた事を止めて、式部を見る。
その式部はテレビのモニターを見ていた。
それにつられて皆も一斉にモニターを見て、周りに集まる。
いつの間にかテレビがついていた。それを見て皆が疑問に思ったが、七海の一言で納得した。

「司令部から何かの指示でもあるのか?もしかしたらやっと上層部からのGOサインが出たのか!?」
もし、そうならば喜ばしいことだ。けど何故か違和感が生まれる。なにか見てはいけないものをこれから見せられるような・・・・・背中がゾワゾワとしてきた。

「何か変じゃない?ずっと砂嵐のままとか・・・・それともテレビの故障?」
テレビはついたが、何か映像が流されることもなく砂嵐が続いている。もしかしたら故障なのかもしれない。

皆がそう結論づけ始めると、少しずつ何かのマークのようなものが浮かび上がってくる。
それは薔薇と周りを囲む月の満ち欠けが書いてある帝國のマークだ。
「?!えっ!これはどう云う意味?」
式部が疑問の声を上げる中、夜神は一歩後退る
「夜神大佐!」
まるで支えるように庵が肩を抱いてくる。その顔は焦りと不安が混ざっている。
夜神自身は気がついていなかったが、その顔色は蒼白で今にも倒れそうなほどフラついていた。

そして、しっかりと帝國のマークが浮かび上がると、一人の男性が椅子に座った映像が流れてきた。
玉座にその長い足を組んで、悠々と座る詰襟の軍服を着た男は、アイスシルバーの髪を緩く括り、右目側に縦に傷がある。高い鼻梁に涼やかな目元、軽薄そうに笑う顔・・・・・

「あ・・ぁぁ・・・」
夜神の引きつった声で周りの人間は、この人物がどんな人物なのか瞬時に悟った。

皇帝━━━ルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲル
吸血鬼の世界、エルヴァスディア大帝國の皇帝で、軍が追っている人物だ。
けど、存在は確認していたが姿は今の今まで確認できなかった。
その人物の姿や顔の作りを知っているのは七海中佐と夜神大佐、そして亡き嵐山大佐の三人しかいない。
そして、「スクランブル交差点襲撃事件」でも確認は出来なかった。ご丁寧に皇帝と思われる人物が映っていたであろう映像は破壊されていたのだ。
なので、軍の人間は七海や夜神の証言を元に描いた顔しか知らない。

軍で確認されている絵姿と同じ顔の男が、玉座に座りモニター越しにこちらを見ている。
その視線に身震いする。この場にいないのに何故か緊張してしまう。
背中を何かが伝い、息をするのもままならない。例えるならば蛇に睨まれた蛙の気分だ。

その場にいる夜神以外はそんな状態だった。
夜神は帝國で皇帝に嫐られ続けられた、蓋をしてしまいたかった記憶が蘇り、胃が冷たくなっていく。
息をするのも、立っているのもままならなくなり、後ろで支えていた庵の胸元を無意識に掴んで立とうとするが、結局それも叶わず地面に座り込んでしまう。

「大佐!大丈夫ですか?返事して下さい」
庵の切羽詰まった声が遠くで聞こえる。息が出来なくて「ハァハァ」と短く息を吐いていく。

見開いた目はモニターから離れることはなく、相手が何をするか、何を喋るのかその一挙手一投足を見ていた。
そして、モニターの人物は喋りだした。

「世界の皆さんこんばんは・・・・・・」
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