ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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「二人の名前はカインとアベルで、仲の良い兄弟だった・・・・・・なぜ、世界は啀み合いをしていたか分かるかい?凪ちゃん」
グイッと腰にある手が動く。何か「意見しろ」と、言われていると思うが、口を開く気力もない夜神は軽く頭を横に振って「分からない」と意思表示をした。

「私達の食事は何だか分かるよね?」
もう一度、グイッと動く。どうしても声に出して答えて欲しいらしい。
小さな掠れた声で答えるのが、今の夜神には精一杯だった。
「・・・・血・・・・」
「そうだよ。血液だよ。けど、今みたいに豊富ではなかった。それに、「人間」なんていなかったんだ。昔の人達は動物の血や、花の蜜、果物を食べて生き延びていた。動物を増やすには土地がいる。狭い国では動物を増やすには限界がある。だから奪って土地を増やしていった。食料がないから争いは絶え間なく続いていた」

食料による争い・・・・夜神はよく話を聞く「スパイス戦争」を一瞬思い出した。けど、それ以上の深刻な問題だと分かる。

「そんな、争いを憂いたのが二人の兄弟のカインとアベルだ。世界を統一して、土地を整備して生き物を飼育し、どんな者にも行き渡る平和な世界を願った。けど、そんな夢物語、周りの奴らは笑った。馬鹿馬鹿しい話だとね。勿論、本人達も理解している。そんな夢のような話が現実になったらどれだけ幸せなのかと・・・・」

確かに夢物語だ。世界の統一など無謀な話だ。けど、この世界は、吸血鬼の世界は統一されている。
そして、隣にいるこの吸血鬼はこの世界を掌中している存在・・・・皇帝と呼ばれる。

「そんな兄弟の前に一人の旅人が現れた。その旅人は兄弟の夢物語を聞いて感動した。何故ならその旅人は国を奪われた小国の王だった。そして、我々、吸血鬼の始祖の力を持つ者でもあった・・・・・きっとローレンツはこのあたりは知らないんじゃないかな?」
話を振られたローレンツは黙っていたが、ため息をする。
「・・・・・・はい。旅人のくだりは初めてです。兄弟は一夜にして力を手に入れて統一していった・・・・・が、我々が習う話ですからね・・・・吸血鬼の始祖など初耳です」

ふっと、鼻で笑うのが隣から聞こえる。けど、それ以上何かを追求することはなく、話は淡々と進められる。
「歴史は常に捻じ曲げられるのさ。そして、その旅人は兄弟に自分の力を託した。きっとこの兄弟ならこの偉業を成し遂げられると・・・・・始祖の力を持つものは一種の不老不死に近い力を持っている。旅人の国が失くなって既に数百年経っていたんだよ。そして、この力を次の誰かに受け継がせないと自分は死ぬことも出来ない。一種の呪いだね・・・・だからといって簡単に受け継がせられない。だから旅人は旅をしながら見極めていたのさ。自分の力を継ぐに値する人物を・・・・そして、その兄弟に白羽の矢が立った」

死ぬに死ねない呪い・・・・・まるで自分のようだ。きっとこの小国の王は何度か試したのかもしれない。
自分は試す事すら出来ない。それをしたならば即刻、隣で楽しそうに話している皇帝が命令するだろう。私の眼の前で笑いながら「蹂躙しろ」と・・・・ゾクッと一瞬背中が寒くなる。
身震いした事に気付いたルードヴィッヒは掴んでいた腰を軽く二・三度撫でる。

あぁ、この小国の王と自分を重ねたのだろう。死にたくても死ねない状況を・・・・

「「力が欲しいか」と言われたら、兄弟は揃って「欲しい」と・・・・その眼差しや思いが、力を与えるに適していると旅人は判断して力を与えた。そして、自分の様に始祖の力を受け継ぐ者はいると。仲間にするか、今のように力を受け継げばいいと。そしたら自分達の理想とする世界になるだろうと・・・・・・そして旅人は何処かに行ってしまった。ひっそりとね・・・・・」

「陛下、その旅人はどうなったのでしょうか?」
ローレンツは気になってしまった。そんな偉大な力を持った人物が、このまま歴史からフェードアウトするなどあり得ない。
「元々、旅人は死に場所を求めて旅をしていた。大事な人を亡くし、自分も後に続きたいのに力が邪魔をするからね・・・・そうして、兄弟を見つけてやっと肩の荷が下りたんだ。なら、後は察するだろう?」

━━━━━━死んだんだ・・・・・・・

夜神はその言葉で旅人の最後を悟った。大事な人を亡くして、呪いのような力を持ちながら彷徨い、長い時間を過ごしてやっと終わったんだ。
私も不老不死ではないが吸血鬼にされた・・・・なら、私も人間より長い時間彷徨うのだろうか?
「わたし・・・・吸血鬼になった・・・・」
ポロッと言葉に出してしまっていた。その小さな呟きをルードヴィッヒは聞き逃すことはなかった。

「凪ちゃん?残念・・・・元が吸血鬼なら数百年生きられるだろうが、凪ちゃんは元、人間だから寿命は人と一緒だよ。良かったね・・・・私としては同じ時を過ごしたかったが・・・・仕方がない」
耳元で、何を懸念しているのか言い当てた皇帝は、笑いながら答える。その言葉に夜神は安堵した。
スカートを掴んでいた手は無意識に、ブラウスの胸あたりを掴んでいる。
ドキドキと鼓動が激しい。ずっと気掛かりだった事が一つ解消される。
それが、寿命だ。吸血鬼は五百年以上生きていると軍大学で習った。
自分も無理矢理、吸血鬼にされたのだ。もしかしたら寿命も人より長くなるのでは?と、懸念していた。そんな長い期間を過ごすなど頭が可笑しくなる・・・・

安堵のため息をしていた。けど、次の瞬間悲鳴を上げそうになった。
「ひっ!」
耳元で話していた皇帝が、夜神の耳朶を舐めたのだ。何度も滑った舌が往復して、耳の穴に舌を捩じ込み、甘噛をする。
「ぃ・・・・やぁ・・・」
必死に抜け出そうと、両手で皇帝の胸辺りを突っぱねる。ビクともしない体に焦りだす。
自分は耳を愛撫され、そのせいで力が思うように出せなくて悔しい。

変な声を出そうになるので、これ以上は聞かせられなくて下唇を噛んで声を抑える。
自分の眼の前にはローレンツと言われる宰相がいて、冷ややかな目でこちらを見ている。
「ぅ・・・・・」
悔しくて涙が出そうになるのを止めるため、目をギュッと瞑る。

飽きたのか、やっと舌が離れていき夜神は「ハァハァ」と小さく息をして体を整えていく。
「ごめんね?なんか安心しているのが気に食わなくてね・・・・だから意地悪してしまったよ。あぁ、ローレンツもそんな蔑んだような目で見ないでほしいな・・・・」
「真面目な話ししている時に余計なことを・・・・そして、力を持った兄弟はどうなったんですか?・・・・・そういえばもう一人重要な人物がいましたね?」
深い溜息をしながら、皇帝の行動を非難したが、いつもの事なので流すことにした。

そして、歴史の中ではもう一人、重要な人物がいる事を思い出した。
話の流れと、旅人の話からこの人物は・・・・
「もしかしなくても、その人物は吸血鬼の始祖の一人なのですか?」
ローレンツの鋭い考察にルードヴィッヒは笑顔になる。
「御名答!流石、ローレンツだね。そして、ここからが凪ちゃんに知ってほしい事になるんだよ?」
腰にあった手がすすっと、動いてお腹辺りに来て更に抱き寄せられる。
「ちゃんと聞いてね?」
何かを含んだ声は愉悦に満ちた声をしていた。
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