ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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「な、んで・・・・・殺される必要があったの?みんな、普通に暮らしていただけなのにっ!悪い事なんてしてないのに!!」
みんな、みんな目の前の皇帝に奪われた。そして、私を助けてくれた先生も・・・・・


心細かった・・・・知っている人がいなくなって、大事なお母さん家族を目の前で失った。
怖さで目を覚ましたら誰かの腕の中だった。
先程の恐怖があったから怖くなり暴れた。
「やだ!!やだ!あっちいって!痛いことしないで!お母さん!お母さん!!」
助けて欲しくて必死になって暴れ、腕を伸ばす。

「大丈夫だから。悪い人たちはいなくなったから。安心して。もう、怖くないから、ね?大丈夫だよ・・・・」
先程の男と比べたら心の底から心配している声がした。
何度も「大丈夫」と繰り返す優しい声に安堵したのか、徐々に動きも鈍くなり、やがて嗚咽混じりの声で泣き出す。
本当は知っている。母親が助けに来ないことも。目の前でお腹を撃ち抜かれて絶命した。助かる事はない事も。
「大丈夫、大丈夫だよ。怖い奴らはいないから・・・・・泣いていいんだよ・・・・怖かったね・・・・・」
優しく抱きしめてくれて、何度も何度も背中や頭を撫でてくれる。
その、重みが温かさが少しずつ強張った心を溶かしてくれる。
やがて、落ち着いてきたのか涙は止まった。けど、噛まれた恐怖が徐々に襲い始める。
怖くて、痛かった。死ぬのでは思ってしまうほど恐怖を覚えた。
「私の名前は夜神 嵐山やがみ らんざんといいます。お名前教えてもらえるかな?」
優しい眼差しを向けて名前を言う。それにつられて自分の名前をゆっくりと告げる
「しらつき、なぎ・・・」
「なぎ・・・・そう、君は「なぎ」と言う名前なんだね・・・・」
「なぎ」と言う名前を聞いて一瞬、躊躇いの眼差しや、悲しい眼差しと複雑な眼差しを向けられる。
けど、それがどんな意味合いで向けられたのかは分からなかった。それが分かったのは随分後だった。

「もう、大丈夫だ・・・・・私達が安全な所に連れてってあげるから安心するといい」
そう言ってくれたのは隣にいた軍人だった。その人が後の長谷部室長だ。
「おかあさんは?ひろおじさんは?くみおばさんは?・・・みんなは?ともちゃんに、れいくん、しょうくんは?どこなの?みんな一緒だよね?・・・みんなしんじゃったの?「こーてー」にころされちゃったの?」

「「!!」」

また、涙が溢れてくる。
思い出したくもない事が次々に思い出される。
庭に倒れていたおじさんやおばさん。
「逃げろ」と、言われたのに家族を心配して駆け出していった行方の分からない友達。
そして、助けようとして私の目の前で血を流して死んでいった母親。
全部、「皇帝」と名乗っていた男が奪っていったんだと分かる。

「もしかして、その人物は皇帝・ルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲルと言ってなかったか?どんな感じだった?顔は覚えているかい?なんでもいい。覚えていることは教えてほしい!」
急に色々と言われ、立っていた軍人に詰め寄られる。
それが怖くて、自分の体を起こしている軍人に縋ってしまう。
「っ・・・・」
首を左右に振る。何かいけない事を話してしまったのかと不安になる。相手の詰問が怖い。
「長谷部!落ち着け。先ずはこの子の安全確保が優先だ・・・・大丈夫だよ。これから行くところは君と同じぐらいの子供がいるところだからね。お友達がいるから安心して構わないよ。着替えとか大好きな本とか持っていこうね。大丈夫だからね」
「・・・・・ここにはすめないの?お家はどうなるの?」
ここに、友達はいない。そして、着替えを持っていくのは何故?
「ごめんね。なぎちゃんはここにはもう住めないんだ。でも大丈夫。これから行くところは楽しい所だからね。安心してね」

精一杯、今から行く所が「楽しい」と、説明する。けど、そこは、吸血鬼によって親を殺された孤児がいく、軍が運営している養護施設だ。

そこでは、無意識のうちに吸血鬼に対する恨みを募らせ、復讐心を植え付けられ、己の恨み辛みを晴らすには軍に入隊するしかないと刷り込まれる。
私もそのうちの一人になるはずだった。一年ほどいたが、先生の養子になった。
あの、殺伐とした場所から救ってくれたのが先生だった。

なのに、その先生さえも奪われた。金色の瞳を楽しそうに歪めて、軽薄した笑いの唇をして、私の行動を観察している皇帝に・・・・

「私達が何をしたの?ただ、普通に暮らしていただけなのに。殺される必要があったの?・・・・返して!みんなを!お母さんを!先生を!返して!!返してよっ!!」
色々と限界だった。「返せ」と、どんなに言っても返ってこないことは分かっている。

目の前の男は楽しんでいる。私が何を言うのか。どんな行動をするのか。どんなふうに罵り、罵倒して、稚拙で幼稚な行動をするのか。
けど、出来た事はひたすら「返して」と繰り返す以外なかった。

もう、限界なのだ。「軍人」と言う矜持はあと少しでバラバラに砕け散りそうだった。
例えるなら崖に足裏が半分しか乗っていない感覚だ。バランスを崩したら一気に崖から落ちてしまう。本当にそれぐらいギリギリだ。

涙が絶え間なく伝う頬から、ルードヴィッヒは手を外していく。そして、弱々しい姿になってしまった夜神を再び優しく抱きしめると、耳元に唇を寄せる。

「けど、これらは全部凪ちゃんのご先祖様の「ルルワ」のせいだよ?扉さえなければ凪ちゃんの世界に我々「吸血鬼」は来ることはなかった。扉さえなければ「お母さん」も「友達」も「先生」も死ななかったのかもしれないね?ご先祖様の罪は子孫である凪ちゃんが受け止め、償はないと・・・・そうなれば、凪ちゃんが「人類の敵」で「人殺し」かな?・・・・・あ~ぁ・・・・ひ・と・ご・ろ・しの凪ちゃん?」

耳元で楽しそうな声で皇帝が呟く。その言葉の一つ一つが妙にしっくりとしてしまい、けど、全否定してしまいたいぐらい信じられない言葉で、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「ちがっ・・・・」
違う!!私は「ルルワ」の末裔ではない。子孫ではない。

「違わないよ。血を飲んで確かめたのだから間違いない。凪ちゃんは間違いなく「ルルワ」の血を受け継いでいる・・・・そう、人類の敵の血がね?」
全てが怖くなる。もし、皇帝の言っていることが本当なら、私は・・・・
私は、とんでもない数の人の命を、人生を奪った事になる。

「あぁ、安心してね?餌の世界は知らないけど、私達の世界では「ルルワ」は食料を、食料難から救ってくれた女神として崇められている・・・・そうだよね?ローレンツ?」
「あぁ、えぇ、そうです。我々の生きるための糧を生み出した「ルルワ」は、我々の中では慈悲深き女神、豊穣の豊作の女神として崇めています」

突然話を振られて詰まってしまったが、「ルルワ」の現状を告げた。
そこまで聞いていた皇帝は悪い笑顔になる。瞳になにか仄暗いどろりっとしたものをまとわせる。
「だって・・・・凪ちゃんも向こうの世界で過ごすより、こちらの世界で過した方が良いんじゃない?「人類の敵」と罵られるより、「豊穣の女神」と崇め奉られたほうがいいよね?」

耳元で楽しそうに話される内容が、イマイチ分からなくなってしまった。
私は「人類の敵」でも「人殺し」でもないのに・・・・
何故か、そのことがぐるぐると頭のなかでまわりはじめる。
「違う・違わない」で埋め尽くされる。

「人類の敵の凪ちゃん?凪ちゃんのせいで奪われた者たちは、果たして私達がいけないのかな?それとも扉を作ったルルワ?何方にせよ間違いないのは凪ちゃんは間違いなくルルワの子孫だと言うこと。そして、大量殺人のような事柄を起こしたのも凪ちゃん。ぜんぶ、ぜーんぶ凪ちゃんのせいだよ。あぁ、凪ちゃんの手は真っ赤に染まっているんだね。その赤は一体誰の血かな?」

「あ、あ、っ・・・・・・」
体が冷たくなる。勝手に震えてくる。自分でも制御出来なくて声が漏れてくる。

これ以上何も聞きたくなくて自分で耳を塞ぐ。
だってそれ以上の言葉は、今は一番聞きたくない。自分を守るためにはこれしかなかった。
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