ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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233 流血表現あり

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自分の横にがあるのが分かった。そこから漂う匂いにクラクラする。だって、その匂いは自分の喉を潤し、腹を満たす匂いと同じものだった。

ギギギィと、壊れた人形が首を動かすように、直ぐ側にある生暖かいものを見る。
そして、ぼやけた意識が鮮明になった。
見てはいけないものを見てしまい、声が出てしまった。悲痛な悲鳴を出してしまった。

さっきまで悪鬼のような顔で、首を締めていた女性の顔が直ぐ側にあって、瞳孔の開いた、恐ろしい眼差しで見ていたからだ。
口から一筋の血が伝い、地面を濡らしている。けど、それよりも多くの血が首から流れ出て、赤い血溜まりを作っていた。

「あ・・・・・あ、あ・・・と、もちゃん?」
痛いぐらい掴まれていた腕の拘束はなくなり、自由になった腕を使い体をゆっくりと起こしていく。
その間も視線は女性の目と合わさったままだ。
そして、大の字で掴まれていた腕あたりにはうつ伏せで二人の男性が背中から血を流して倒れている。
「れい、くん?しょうくん?・・・・・」
さっきまで夜神を殺そうとした三人の変わり果てた姿を見て再び声を出してしまった。

「ゃ、やだ!・・・やぁ・・・・あ、あ、いゃあぁぁ!!やだ!やだ!やだ!起きて・・・・ねぇ、起きて!起きてよ!!」
気が付かなかったのか、白練色の髪にも、顔にも赤い血が所々飛んでいる。けど、そんな事を気にする事もなく、両手で頬を無造作に擦り、自分の髪を掴み今、見た事も、起きた事も全て拒絶するように顔を振り続ける。

嘘だと言って欲しい・・・・
今、見ていることは夢であって欲しい・・・・
こんな事あるはずない。夢だ。悪夢だ。
何で、私に関わった人は目の前で死んでいくの?
私がいけないの?存在してはいけないの?
生まれてはいけなかったの?
教えて・・・・誰でもいいから教えて!!

「やだぁ・・・・・ごめ、んなさい・・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・」
今、私が出来ることは謝ることだけだ・・・・
謝ったからといって、何が変わるのか分からない。けど、「ごめんなさい」しなきゃ・・・・
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
全部、全部私が悪いんだ。悪いんだ・・・・・

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・」
頭を振ることはなくなり、全ての音を遮断したいのか両耳を塞ぎ項垂れる。
力の無い、精彩の無くなった赤い瞳から、とめどなく涙が溢れては頬を伝い、土で汚れた深緑色のスカートに落ちていく。

「怖かったね、凪ちゃん。もう、大丈夫だよ?」
夜神の後ろから優しく抱きしめて、声をかける。愛しむように、優しい声で。
「ぁ・・・・んで、なんで・・・・なんで殺したの?」
後ろをゆっくりと振り向く。
そこには、優しい顔で見つめる皇帝がいた。金色の瞳を細めて、優しそうに。
「なんでって・・・・ローレンツも言っていたけど、人間の世界の法律は知らないけど、ここは吸血鬼の世界だから。知っているかい?人間は、餌は吸血鬼に殺傷行為はしてはいけないんだよ?もし、してしまい、見つかったら死刑だよ?だって凪ちゃんは人間じゃなくて吸血鬼だからね?」

しっかりと聞いて欲しいのか、両耳を塞いでいる手を優しく掴み、ゆっくりと夜神の膝におろしていく。そして、夜神の体を自分の方に向けさせるため夜神を方向転換する。
正面に来た夜神の首を優しく撫でていく。
引っ掻き傷と、締められてついた跡を愛おしいそうに撫でていく。
「あと、「しるし」を持つ者に対しての吸血行為ならびに、殺傷行為は禁じられている。こちらも見つかり次第死刑だ。凪ちゃんは私の「スティグマ」を持っているからね。死刑はぜったいだよ?だから近衛騎士達は忠実に仕事をしたのさ・・・本来なら凪ちゃんがお礼を言わないといけない立場なのだけど・・・・あぁ、無理そうかな?」

鼻で笑う皇帝がまともに見れない。
何を言っているのか分かるのに、その全てを拒絶したくなる。
無理矢理、吸血鬼にされて、付けて欲しくない「スティグマ」を勝手に付けられて、挙げ句、吸血鬼の世界の法に則り死刑?
吸血鬼に害するもの、「しるし」も持つ者に害するものは死刑?
三人はそれに該当するから死刑?

皇帝の後ろに控えている騎士達を見てしまう。いつの間にかいて、持っている剣は赤い血で濡れている。
今しがた、この三人の騎士が三人の命を奪ったことが分かる。
「やだ・・・・・望んでいない!私は、私は!」
「あぁ、仕方ないよね?だって凪ちゃんが吸血鬼で「しるし」持ちなんて知らなかったもんね。けど、この世界の法はこの世界にいるなら守ってもわないと・・・・あ~ぁ・・・・凪ちゃんので、人が死んだね?一体何人殺せば気が済むのかな?」

耳元でうっとりと囁く声に、膝に置いた手がスカートを掴む。
「ちが・・・・・・違う!ちが」「違わない!凪ちゃんのでみんな死ぬんだよ!凪ちゃんに関わった者はみんな死ぬんだよ?思い出して?お母さんは?先生は?村の人は?さっきの友達は?みんな、み~んな凪ちゃんに関わっている。あぁ、大丈夫だよ?怖くないよ?」
否定していたのに、それに被せるように皇帝が次々に呪いにも似た言葉を浴びせていく。

全てが本当で、全てが当てはまる。まごうことなき事実。
私に関わった人は、遅かれ早かれみんな死んでいる。
そう、死んでいる・・・・・・・
「あ・・・・あぁぁ・・・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・」
寒くて、震えそうで自分を守る為、自分で自分を抱きしめる。
けど、少しも温まらない。むしろ、どんどんと寒くなっていく。

ルードヴィッヒはガタガタと震え、自分で自分を抱きしめた夜神を見つめる。
大きく開いた赤い目は、光がない。精彩の欠片もない。まるで人形のようだ。大粒の涙を途切れさせることなく泣き続けている。
赤い唇から紡ぎ出される言葉は「ごめんなさい」と馬鹿の一つ覚えのように繰り返す。

あぁ、色々と決壊してしまったのかな?仕方ないよね。全部事実だから。まぁ、それを先導したのは私だけどね?
「ねぇ、もう、痛いのも、怖いのも、辛いのもしたくないよね?もう、やだだよね?教えて凪ちゃん?」
優しく、所々血が飛んでいる白練色の頭を撫でていく。
繊細な硝子を扱うように、落としたら直ぐにでも割れてしまいそうな氷の像を扱うように、優しく。

皇帝の言っている言葉に考えてしまう。
もう、痛いのも、怖いのも、辛いのもやだ。
もう、本当に嫌だ。私に関わるとみんな死んでしまう。
なら、どうしたら良いのか答えは決まっている
「して・・・・・・ころして・・・・殺して・・・・もう、やだ!もう、見たくない!もう、もう、やだぁ・・・・・」

私がいなくなればいいんだ。
自死が駄目なら、殺して。
もう、全てが嫌だ・・・・

「大丈夫だよ?他の方法もちゃんとあるからね?安心してね?・・・・心を壊せばいいんだよ。壊して、人形のようになればいい。愛らしい、愛らしい愛玩人形・・・・私だけのお人形さんピュップヒェンになればいいんだよ?そうしたら痛いのも、怖いのも、辛いのも全部、ぜーんぶ私が跳ね除けてあげよう。だから、お人形さんピュップヒェンになろうか?」

耳元で囁く誘いの言葉は、とても甘美な猛毒だった。
けど、その猛毒が魅力的にも見えたのは間違いなかった。
お人形さんピュップヒェン?」
「そうだよ・・・・簡単だよ?私に縋って、「ルードヴィッヒ」と名前を呼んで、助けを乞えばいい。そうしたら、助けてあげるよ?」

既に私の心は崖から落ちたのに、寸出の所で崖を掴んで落ちないようにしている状態だった。
けど、腕は痺れて、体を持ち上げる力もなく、落ちるのを只々、待っている状態だ。
手を離したら、あの崖の下の海面に叩きつけられて、死んでしまい、死体は海の荒波に揉まれて沈んでいくのだろう。

あぁ、それでもいいのかもしれない。
疲れた・・・・
心が疲れた。もう、踏ん張る事が出来ない程、疲れた。休みたい。休んでいいよね?

「たす、けて・・・・もう、辛いよ・・・もう、やだよ・・・ルードヴィッヒ・・・お願いルードヴィッヒ助けて・・・・たすけてょぉ・・・・」
自分の腕を掴んでいた手はいつの間にか、皇帝の詰め襟の軍服を掴み、笑っている金色の瞳を真っ直ぐに見つめて、「ルードヴィッヒ」と名前を呼んで助けを乞う。

何度も、何度も名前を呼んで助けて欲しいと、手を差し伸べて欲しいと願う。

「あぁ、助けて欲しいよね?助けてあげようね。大丈夫だよ。次に目を覚ましたときは愛らしいお人形さんピュップヒェンだよ。私だけを見て、私だけに微笑んで・・・・さぁ、おやすみ」

ルードヴィッヒが涙の溢れ出る瞳を隠すように手のひらで覆う。
「おやすみ」の言葉と共に、夜神は意識を失いルードヴィッヒの胸に倒れ込む。
白練色の頭を優しく撫でながらルードヴィッヒは微笑んだ。

「おやすみ、私の可愛いお人形さんピュップヒェン。もう、誰にも渡さないよ。あの、愚者ナールにもね・・・・あぁ、やっとだ・・・やっと手に入れた。全て奪って、壊して、まっ更にして、一から作り上げて・・・・・ずっと側に入るんだよ?もう、逃さないから・・・・」
微笑んだ瞳は仄暗い、深淵の炎がチロチロと見えていた。

逃さない、逃がしてたまるものか、永遠に閉じ込めて、私だけに愛されていればいい。
他の何者いらない。ただ、一人夜神 凪いればいい。

唇を歪ませてルードヴィッヒは静かに笑った。
悦楽の笑みを浮かべて。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

切りよくしたら長くなりました。
とことん歪みまくりのルードヴィッヒは、逃げ道として「人形」になる事を提案。
そして、それを受け入れた大佐でした。
この後、どうなるんでしょうね?

とりあえず、ルードヴィッヒは、ヤベーやつ認定なのは間違いないです(笑)
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