ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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それからの対応は早かった。未だに呆然とし、動けない夜神を横抱きにしてルードヴィッヒは部屋を出ていく。
不安定な体の状態に臆したのか、詰襟の軍服を掴み安定を求める夜神に自然と笑みが溢れる。
長い廊下を歩き、城を出て、色とりどりの花で彩られた庭を歩き、目的の赤い薔薇が咲き乱れる場所まで来る。

ゆっくりと地面に立たせると、ルードヴィッヒは近くにあるベンチまで一人で行き、腰掛けていく。
一人になった夜神は何故か不安になり、自分を抱きしめる。

怖い・・・・
一体、何が起こるの?
なぜ、外に出たのだろう?
もう、分からない・・・・

夜神の頭の中は混乱していた。あまりにも色々とありすぎたのだ。
帝國に来てから人間を奪われて、吸血鬼になってしまった。
そして、自分の中に流れる血は恐ろしい存在だった。
「この」や「あの」と、常に忌々しい存在として会話に出てきた。
敵視していた。誰かの会話に出てくる時は悍ましい存在として感じていた。

「やだ・・・・・・」
小さな声で拒絶してしまった。
自分の先祖が「ブラッドゲート」を生み出した。この扉のせいで多くの命が、人生が奪われた。
自分も被害者だと思っていた。けど、事実は違う。私は加害者だ。それも多くの罪を背負った加害者だ。

庭には色々な赤い薔薇が咲いている。鮮やかな物から、深紅の赤、ロゼット咲き、ディープカップ咲きと様々な種類があり、本来なら通り過ぎる人を喜ばせるのに、今の夜神には虚しさしかない。

茫然自失の今の状態に、ルードヴィッヒは座りながら微笑む。
ローレンツより早く来てしまったが、まぁ、それでも構わない。
大切なのは最後だ。分岐点は多くとも最後が同じならそれはそれで構わない。

暫く夜神と、美しく咲いた薔薇を見ていたが、ローレンツの姿が見えたのでそちらに視線をやる。
ローレンツの後ろには、黒髪のアジア人の男女三人が、辺りをキョロキョロと警戒しながら付いてきていた。

「遅かったね、ローレンツ。待ちくたびれたよ。あぁ、その三人がお願いしていたものかな?」
「色々と手間取りましたが説明は終わりました。あなた達、あの髪色の女性に心当たりはありますよね?」
ローレンツが指差す所には夜神がいる。白練色の髪が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

突然の訪問者に夜神も驚いた。ローレンツは分かるが残りの三名は知らないからだ。
分かるのは同じアジア人・・・・日本人?
指をさされ「心当たりがあるだろう」と言われてもさっぱり分からない。
けど、何故だろう?何処かで昔、会った記憶がある。面影があるのだ・・・・・そう、昔一緒に遊んだ記憶が・・・・・

ローレンツの指差す方を見て三人の顔は最初、混乱していた。けど、一人が思い出したようで、ポッリと呟く
「なーちゃん?」
「なーちゃんだって?・・・・・確かにあの頭は一人しか思い出せない」
三人の中で唯一女性の一人が呟くと他の男性二名がざわつきはじめる。
そこまでを確認したローレンツは、徐々に離れていきルードヴィッヒの所までやってくる。
後は、四人に任せるつもりだ。勿論、それはルードヴィッヒも同じだ。

「なーちゃん!!」
久しぶりに聞いた「なーちゃん」にビクッと、体が驚く。
だって、そのあだ名は幼い頃、集落の友達が付けてくれたあだ名だから・・・・・
そして、そのあだ名を知っている事は、同じ集落の出身で、友達だった子たち・・・・・
よくよく、見れば面影が見える。あの時まで、みんなと別れるまで一緒に遊んでいた・・・・
「ともちゃん?れいくん?しょうくん?」
夜神も驚いて、呟いた。

会いたかった三人だからだ。気を失って、助けられた時に、一緒に先生と探した。
けど、子供は、友達は誰一人見つからなかった。その代わり友達の親や祖父母の無惨な死体だけは見つかった。
あの時、生きていたのは夜神と、たまたま集落を離れていた大人たちだけだった。

自然に足が動き出す。先程まで強張って全然動かなかったのに、今は自然に動き出す。
それは三人も同じで夜神に向かって駆けてくる。
そして、あと少しで、夜神と女性が抱擁するのかと思った瞬間、乾いた肌を打つ音が薔薇の庭に響く。

パ━━━ン
・・・・ドサッッ!

女性が夜神の頬を平手で打ち、そのまま夜神が地面に倒れたのだ。
軍人の夜神なら、暴力の一つぐらい対応可能だ。
それも、訓練もされてない一般人の女性の暴挙は難なく制圧出来る。

けど、それが出来ない程だった。
直前まで聞かされた「ルルワ」の事、「ブラッドゲート」の事、そして、目の前の三人は、きっと連れ去られた友達だと本能が言っている。
その三人はきっと夜神を受け入れることはしてくれない。なじられると、何処かで思っていたからだ。
打たれて、赤くなった頬を庇いながら座り込んだ地面から三人を見上げる。
その顔は悪鬼に出会い、忌々しいと、退治してくれようと、歪んでいる。

「全部、宰相閣下から聞いたわ!!全部あんたのご先祖のせいだって!!返してよ!!お母さんとお父さんを!!集落を!!私達の生活を!!」
「返せ!!疫病神め!!」「ぐぅぅっ!!」
ドカッと背中が蹴られる。痛みと衝撃で更に地面に倒れてしまう。

夜神が倒れたのをいい事に、三人は足で夜神を踏みつけ、蹴っていく。呪いにも似た罵詈雑言を吐きながら。三人の顔も思考も歪んでいた。
「ご、めんさ・・・い・・・ごめ・・・なさい・・・・」
夜神は頭を守りながら、丸くなる。背中には絶え間なく足で思いっきり踏みつけられ、蹴られる。
けど、体の痛みよりも心が痛かった。
きっと許されないと分かっていた。けど、それが目の前に現れると対処出来ない。
出来るのは三人の気が済むまで、受け入れ続けることだけだ。

「返せ!!返せよ!!」
「宰相閣下は言ってくれたよね「ここは人間の世界ではないので、人間の法律は通用しませんよ」って!なら、殺してやるよ!!」
一人がとんでもないことを言い出す。すると、他の二人もその意見に賛同する。
もう、憎しみの、自分達の生活を変えてしまった対象である夜神を消す事しかないと、極論の意見が出てしまう。
冷静なら他の意見もあったのかもしれないが、ヒートアップしてしまい、周りが見えなくなった三人は冷静になどなれない。

そうと決まったら、行動は早かった。頭を守っていた夜神の腕を掴み、仰向けにさせると、動けないように大の字にさせてしまう。
地面に縫い付けるように左右の腕を男二人が抑え込む。
腹に跨り、引っかき傷の残る首を力の限り掴み、締めていく。
「がぁ・・・・あ゛・・・・あ゛ぁ゛」
「死ね!死ね!あんたさえ居なければ!こんな奴隷みたいな生活なかったのに!全部、全部あんたのせいよ!!」
「返せよ!オヤジとオフクロを!俺の生活を」
「なんで、テメーだけそんな良い服着てんだよ!ふざけるな!こっちは必死に生活してんのによ!!」
三人の罵詈雑言を浴びせられ、少しずつ霞んでくる意識の中で夜神は別の事を思ってしまった。

これで、私の人生は終わる?
自死は認められない。それをしたら私は後悔してしまう。
けど、これは自死ではない。
・・・・・・いいよね?
もう、嫌だ。自分のせいで誰かが嫌な思いをするのも。傷つくのも。
だって、今でもこうして三人の友達から殺意のこもった視線を送られて、「死ね」と言われ、殺そうと首を締められている。

もう、限界だった。
だから、いいよね?
お願い・・・・私の息の根を止めて!

段々と脳に酸素が行かなくなり、意識が混濁してくる。
出てくるのは視界を歪ませる涙と、潰れた声と涎だけ。
もう、限界だ・・・・と、目を閉じて全てを受け入れようと思った時、首を締めている力が突然、緩んでいく。

━━━━━━ドサッ

耳元に何か重いものが落ちた音がすると思ったら、腹に跨っていた重みが無くなる。
「ひっっ!!」「ゆるしてっ!!」
何か切羽詰まった声がしたと思ったら同じく、両手を抑え込んでいた重みがなくなり、代わりにドサッ、ドサッと音が聞こえる。

そして、漂うのだ・・・・・忌々しい、けど、知ってしまった匂いが。
そう、血の匂いが・・・・・
夜神は恐る恐る目を開いた。これから見る光景を受け入れたくなかった。嘘だと言って欲しかった。
けど、嘘でも冗談でもなかった。
その光景に対して出来た行動は悲鳴を上げることだけだった。
「いやぁぁぁぁ━━━━━━━━━!!」
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