ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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「?!!消滅?消滅しただと?」
「はい!観測部隊からの緊急通信があり、塵芥のように消えていったと・・・・ローレンツ宰相を始めとした各大臣にも報告しております。ローレンツ宰相の指示で緊急の会議をする為、城に登城するのも合せて報告してます。陛下もお越しください」
一気に話をする文官を見ていたルードヴィッヒは、膝の上にいる夜神の変化に気がついた。
震えだしているのが直ぐに伝わる。

「ぁ・・・・ご、めんなさぃ・・・ごめん、なさい・・・・・ごめんなさい・・・・・」
過呼吸のような息を繰り返し、整えられた頭を無造作に掴み、「ごめんなさい」と何度も繰り返す。
瑠璃色のドレスのスカートに水滴が落ちては濃い染みを残す。それは夜神の赤い瞳から零れ落ちた涙だった。

ブラッドゲート・・・・・
ルルワが作ったもの・・・・
沢山の人の命を、人生を奪った扉・・・・
お母さんも、友達も、みんな、犠牲になった・・・・

ごめんなさい
ごめんなさい
私がいけないの・・・・
私が悪いの・・・・
全部、全部、私が奪った・・・・
ご先祖様の罪は子孫が償わないといけない・・・・

「ごめんなさい・・・・・ごめんなさい・・・・・」
繰り返し償いの言葉を呟き、頭をぐしゃぐしゃにして、嗚咽を洩らす。
その様子を間近で見たルードヴィッヒは、冷静な表情を作りつつ、内心は笑っていた。もし、文官がいなければ声を出して笑っていたかもしれない。

「そうか・・・・下がっていいよ。少ししたら私もその席に向かう。ありがとう」
「畏まりました」
文官は頭を下げると部屋を退出する。ガチャと、扉が閉まるのを確認したルードヴィッヒは、膝の上で震え、謝り続ける夜神を抱きしめる。
「どうしたのかな?凪ちゃん?何か怖い事でもあったかな?」

全て分かっているのに、敢えて聞いてみる。すると、自分の頭を掴みながらも、ゆっくりと顔を上げてルードヴィッヒの方を見てくる。
普段は虚ろで硝子のような赤い瞳は、怯えや後悔の色が濃く見える。そこから止めどなく涙が溢れてきては頬を、ドレスを濡らしている。
血を塗ったような赤い唇は震え、悲痛な声を出しながら誰に許して欲しいのか、ずっと謝り続けている。

「ごめんなさい・・・わたしがわるいの・・・わるいの・・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・・」
「あぁ、そんなに泣かないで凪ちゃん?可哀想に・・・・聞きたくない言葉を聞いてしまったんだね・・・・・」
涙を拭いながら自分の唇が釣り上がっていくのを感じ取ってしまう。

もっと、壊れて、縋って欲しいなぁ・・・・

ルードヴィッヒは釣り上がった唇を夜神の耳元にそっと寄せると、静かに囁く。
「でも、しょうがないよね?凪ちゃんはルルワの末裔だもんね?「ブラッドゲート」を作ってのはルルワだもんね?そして、その罪は凪ちゃんが被らないといけないもんね?凪ちゃんは、たぁ~くさんの人の命を弄んだんだもんね?悪い子だもんね?」
ルードヴィッヒが何かを囁く度に、「あ、あぁ・・」と声を出していく。段々と目は開き、涙が止まらない。

段々と酷くなる様子を、愉悦した表情で眺めるルードヴィッヒだったが、哀れな小鳥夜神で遊ぶ事を切り上げる。
ブラッドゲートが消滅したなど、前代未聞の事態だ。
あれは、祖父の代で開き、祖父と父が心血を注いで扉を増やした。
そこには大量の人員を金を命を投入した。命の犠牲のもと作り上げた血の扉━━━━━「ブラッドゲート」だ。

それが消滅したのだ。話によると塵芥のように無くなったと。
そんな事をするのは決まっている。我々の目の敵であり、今も震えている小鳥がいた組織・・・・

我々の邪魔をし続ける、忌々しい組織で世界の至る所にそれはある。呼び名は国によって違うが、この小鳥のいた組織は「吸血鬼殲滅部隊」と確か呼ばれていた。
考えられるのはその組織が何らかの方法で扉を壊したとしか考えられない。

だが、奴らは知能の低い底辺な餌・・・・・
未だにゲートからこちらの世界には来ることが出来ない。
ゲートを囲むシールドが奴らの行く手を阻む。そのシールドを突破する仕方など分からず、手をこまねいているだけだと思っていたが・・・・

考えられるのはスタン侯爵か・・・・
それとも、王弟の末裔か・・・・
何方にせよ面白くもない。私に逆らうなど反吐が出る。
帝國にとっても大切な扉を消したのだ。それ相当の償いをしてもらわなければ・・・・

けど、先ずはこの哀れな小鳥を慰めないといえないね?
あぁ、可哀想に「ブラッドゲート」の言葉を聞いて、可笑しくなったんだね?

「大丈夫だよ?私が何とかしてあげるからね?あぁ、可哀想に沢山泣いてしまってお目々が真っ赤だね。それにこんなに震えて・・・・怖かったね?辛いね?けど、安心させてあげようね?」
ルードヴィッヒは夜神の頬を両手で包み込んで、顔を固定させて動かないようにさせる。そして、涙で濡れてしまった顔をまじまじと見つめて、笑う。

安心?私はいけないことを沢山したのに、安心出来るの?
私の両手は血で真っ赤に染まっているのに?
「あん、しん?」
「そうだよ。今から沢山、話し合いをしてくるからね。凪ちゃんが泣かないようにする為のね?だから、凪ちゃんは安心していいんだよ。今日は頑張ったから眠ろうか?起きたらまた、絵本を呼んであげようね・・・・おやすみ、凪ちゃん。いい夢を見るんだよ?」

ルードヴィッヒは手のひらを、夜神の赤い濡れた瞳に被せる。すると、頭を掴んでいた両手が緩み、ストンと、力なく落ちていく。
それと同時に体も力がなくなり、後ろの方に倒れていく。
ルードヴィッヒは咄嗟に背中に手を回し、夜神が膝から崩れ落ちるのを阻止する。
「おっと、危ない。危うく頭を打ち付けるところだった・・・・眠った顔は相変わらずあどけないね。可哀想に目元が腫れぼったくなってしまったね。冷やして貰おうね?」

額に軽く唇を落とすと、ルードヴィッヒは夜神を横抱きにして立ち上がる。
夜神の居室の隣りにあるベッドに連れて行く。

「これから大変な事になるかもしれないね・・・・一番懸念しているのは王弟の末裔・・・・・「いおり かいと」と言ったか?あの餌だ。アベルはルルワの扉をくぐり、何らかの細工をして扉を開かなくしたのは間違いないからね。何かしらの事を知っているやもしれないね?腹立たしい以外の何ものでもないよ」
夜神に向けていた愉悦していた表情から一変、苦虫を噛み潰したような表情になり、瞳の奥には憎悪の炎が揺らめいている。

「本当に忌々しい。あの時、殺していればよかったのかな?そうしたら凪ちゃんはどんなふうに泣き叫んで、壊れていったのかな?あ~ぁ、己の巻いた種なのか?・・・・悔いてもしょうがないか」
ベッドに壊れ物を扱うようにそっと下ろし、見下ろす。
穏やかに寝息が規則的に聞こえてくる様子に、先程の表情とはまた変わり、和悦した表情になる。
「皇帝の仕事をしてくるよ。そして、凪ちゃんの心を乱すことがないように対策を講じてくるよ。だから安心して、また、私に微笑むんだよ?」
呪いのように、けど、どこか懇願するように眠っている夜神に言葉を投げ掛けると、踵を返し歩き出す。

目的はこれから行われる緊急の話し合い。
ローレンツを筆頭に各方面の大臣と扉について話し合う。
その、話し合いでは、一体何を解決出来るのかは不明しかない。
罵り合い、責任の擦り付けが始まるのかと思うとため息しかない。
それでも、我々にとっては貴重な扉。これ以上は無くしたくないのも本心だ。
「行って来るよ」
寝室の扉をくぐる中、返事などないと分かっているが、ルードヴィッヒは出掛ける挨拶をして扉を閉めた。
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