ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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「っゔ・・・・・」
武器の澌尽灰滅しじんかいめつを取り上げられ、手は後ろに拘束された状態で地下牢に放り込まれる。
黴臭く、薄暗い部屋の光源は蝋燭の僅かな灯火だけだ。
押し込められるように牢の中に入れられた。

「暫くはそこで過ごして下さい。陛下から何かあればその都度、対応します」
ローレンツは忌々しそうに床に座り込む庵を見下ろす。
「凪さんは、夜神大佐は無事なのか?」
「それを聞いてどうするのですか?たとえ無事であっても、手も足も出ないでしょう?それに白いお嬢さんもあれ程の傷・・・・流れ出ている血の量を見れば分かりますよ。目覚めるのはいつになるやら・・・・けど、陛下はけして死なせないでしょうから命の保証だけはしときますよ」
ローレンツは鋭い視線を庵に向けてため息をする。

状況を見るに陛下はこの濡れ鼠に一太刀するはずが、お嬢さんが割って入って行ったのだろう。
大人しく人形のように壊れたままなら、こんな事にはならなかっただろうに。
犠牲は目の前の餌一人で済むはずなのに。この餌に出会い正気を取り戻したのか?

・・・・そう言えば、餌の世界でお嬢さんと口付けを交わしていたな?そうなれば二人の関係は簡単に想像出来る。
「陛下は丁重なおもてなしをするように仰せでしたので後ほど着替えをお待ちしますよ。その時に手首の拘束も解きます。それまでは大人しくしていて下さい」
友の心の状況を一刻も知りたくて、ローレンツは踵を返す。

早々に立ち去ろうとしている相手に、庵は黒い鉄格子に己の顔を付けて必死に叫ぶ。
「待ってくれ!本当に凪さんはっっ!!・・・・くそっ!こちらの話は端から聞く気なしなのかよっ!!」
ローレンツと呼ばれた男の後ろ姿は、すぐに暗い廊下に吸い込まれいなくなる。
鉄格子に頬の形が変わるほど押し付けていた顔を離して、半回転して鉄格子に背中を預ける。

雨で濡れたせいで縄はしっかり固定されてしまったが、多少手間取るが縄抜けは出来る。出来るが、今はそんな気力も出てこない。
「凪さん・・・・・・」
本気で「死」を覚悟した。どんなに力を付けようと敵わないのかもしれない。
折角見つけたのに、触れ合い、互いの感情を確認したのに・・・・・・

自分でもこの半年間は可笑しかったと自負している。
吸血鬼を討伐するのではなく、生け捕りにして情報を洗い浚いはかしていった。
七海中佐も、長谷部室長も、俺に関わる人達は気が触れたのか?と、心配していた。
至って冷静になっていた自分に今なら笑ってしまう。

国際法も人権も無視した尋問により、奴ら吸血鬼のヘリに関すること聞いた。そして、度重なる説得で何とかして許可をもぎ取り単身、帝國に潜入する事が出来た。
そして、先祖の力を駆使して城に潜り込む事まで成功した。
雨のおかげて此処までこれたと思っている。
そして、バルコニーらしき所を荊を使いよじ登っていった。
目線の先には雨に濡れていても鮮やかな薔薇色のドレスが見え、「しまった!」と、焦ってしまったが、その、後ろ姿をみた時に全ての感情が溢れ出てしまった。

白い髪は数回しか見ていないが、印象ある色だと覚えている。
幾度、その髪にキスをして、撫でたことか。髪から漂う花の匂いが心地よかった。
様々な感情が一気に湧き上がる。今すぐ抱きしめたい。声を聞きたい。頭の中で何度もリピートしている「海斗」と言ってほしい。
吸い寄せられるように体は薔薇色のドレスに足を進める。
そして、その体を後ろから抱きしめた。

長時間、雨にその身を置いていたのだろう。とても冷たくて、このままでいたら風邪を引いてしまう。
だから、咄嗟に出てしまったのだろう。
「風邪引きますよ」と。
耳元で囁くとビクッと震え、そして俺をゆっくりと見てくれた。
待ちわびていた。形の良い通った鼻筋、アーモンド型の瞳、小さな唇・・・変わらない姿なのに、あの時と変わらないのに、違和感が拭えなかった。

そう、瞳の色だ。普段は白い瞳で、戦闘や愛し合う時は赤くなるのに、こんな雨に濡れて冷たいのに赤くなっている。
けど、違和感さえも全て何処かに行ってしまうほど体が、心が歓喜した。
どれ程、会いたかったのか・・・・
どれ程、声を聞きたかったのか・・・・

だから、抱き締めた。そしたら、凪さんも同じだったようで抱き締めてくれた。本当に嬉しかった。
けど、その後は奈落の底に突き落とされた気分になった。
ずっと違和感だったことが解明される。

無言で凪さんが、俺の指を唇に押し当てた時はドキッとしてしまったが、その指が歯の一部を押し当てた時に、背中がゾッとしてしまった。

だって、は自分達の、人類の敵。自分の人生を狂わした、殺された父親の敵。
吸血鬼の牙が腹の指に当っていたのだ。

それから、凪さんは自分の身に起こったこと話してくれた。
最初に拉致された時から全てが始まったと・・・・
自分は皇帝の手のひらで踊らされていたと・・・・

━━━━━━━━だから、帰れないと・・・・・

悔しかった。呪った。気持ち悪くなった。
けど、それは全て凪さんにではない。全てを奪った皇帝・ルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲルに対してだ。

けど、例え吸血鬼になっても凪さんは凪さんだ。体は変わっても、心は変わっていない。
血が必要なら自分の血をあげ続ければ良い。
人に対して害する行動は凪さんはしない。きっと今まで通り人類の敵吸血鬼に立ち向かってくれる。
漫画とかでもあるじゃないか。吸血鬼だけど、人を守ってくれる吸血鬼が・・・・

だから、安心して欲しくて言った。言った時の凪さんは泣いていたのかな?雨でよく分からなかった・・・・

けど、そこからは命の危機だった。皇帝が窓を木っ端微塵にしてこちらにやって来た。
凪さんを守りながら戦うのも辞さない覚悟だった。
けど、凪さんは一瞬でバルコニーに叩きつけられた。皇帝の力の鎖で。
必死に応戦したが、力敵わず、「死」を悟った。自分の力の「荊」を咄嗟に出して少しでも「死」から免れようとした。
そして、自分は「死」から免れた。
凪さんが守ってくれた。その身を犠牲にして。

皇帝の剣が暗く輝いていたのをうっすら覚えている。けど、それ以上に印象のあるのが薔薇色のドレスだった。
その、薔薇色のドレスが目の端にチラッと映ったと思ったら、いつの間にか体全体を包まれた。
そのおかげで自分は傷付かずにいる。
いるのに・・・・・

「凪さん・・・・生きていますよね?」
生きていると思いたい。けど、口から出た声は疑問を投げ掛ける声だった。
今でも怖い・・・・・
自分の服に染み付いたものが恐ろしい
赤黒く変色している服は、凪さんから流れ出た血によって変色してしまった。
自分の半身を染めているその範囲に、寒さとは違う鳥肌がたつ。
一体、どれほどの量の血を流したのか・・・・
今でも手にべっとりとこびりついている。

あれだけの深傷なのに、俺に向けた顔は笑っていた。
いつも見せていた微笑みを、朦朧とした意識の中でしてくれた。
自分が危ういのに、いつ死んでも可笑しくない、そんな状況なのに微笑んでくれた。
涙が出ていたのかもしれない。
これで最後なのかと思ってしまったから・・・・

けど、皇帝の行動には度肝を抜かれた。まさか、自分の血を与えるなんて・・・・・
その血を啜らせる仕草に目が釘付けになってしまった。
それ以上に目を見張ったのは凪さんの行動なのかもしれない。

僅かな躊躇いはあったが、拒否する事なく、ゆっくりと舐め取っては口に運ぶ。
白い喉が上下するたびに嚥下していると分かる。
その行為が、吸血鬼の吸血行動そのもので嫌悪感を生む行動なのに、一つも起こらなかった。

綺麗、美しいとは違う。妖艶とした何かに似ている気がする。
けど、表情が虚ろながら、必死に飲み込んでいる姿は、妖艶の言葉には当てはまらない雰囲気。
さしずめ、生きる為に飲み込んでいる姿は、赤子が乳を飲む姿に似ている。
そうして、必死に皇帝の血を飲んでいった結果、背中の傷は残ったものの塞がり止血に繋がった。

後は流した血の量が多いのでそれを補えばきっと凪さんは生きていてくれる・・・・・と、信じたい。
きっと、皇帝は何が何でも生かそうとするだろう。
あれ程の異常な執着心。簡単に手放すとは思わない。

庵は深いため息を吐きながら、ズルズルと鉄格子に預けている背中を滑らせて床に寝てしまう。
今は座るよりも寝ている方が楽だ。体力が殆どない。
手は後ろで拘束されているので横向きで、しかも、汚い床だが正直どうでもよかった。

今は凪さんの事で皇帝も手一杯で、俺の事は二の次三の次だろう。
凪さんが目覚めるまでは命の保証はある。
けど、目覚めた後は正直分からない。不安の方が大きい。
皇帝は本気で殺そうと剣を構えていた。こうして生け捕りにされた状態で、実際手も足も出ない。

最悪の事が頭を過る。そのせいなのかそれとも雨に濡れた軍服のせいか、体が中から寒くなり震えてくる。
生きたい・・・・・そして、帝國から脱出したい。最愛の人の手を取って。
その、最愛の人を再び思い浮かべ目を閉じた

今も生死の境を彷徨っているだろう、白い色の髪が印象的な人を・・・・
赤い瞳が悲しそうに見つめながらも微笑んだ人を・・・・
鈴のような軽やかな声で「海斗」と呼んでくれた人を・・・・

そして、華奢なのに力強い力で守る為に抱きしめてくれた・・・・
凶刃を体で受け止め、俺を守ってくれた・・・・

「・・・・・・凪さん━━━━━━」
━━━━お願いですから死なないで下さい
━━━━再び微笑んで下さい
━━━━愛しているんです。愛しているから・・・・

手も足も出ない、逃げ出すことも出来ない庵が出来ることは、この世界にもいるのか分からないが神に祈るだけだった。

最愛の人の無事を
己の無事を
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