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今成司令部長はタバコが吸いたくても吸えない口寂しさをガムで紛らわせていた。
ミント味だったものは既に味などなく、ただ、ゴムの塊を噛んでいる感覚だった。
目の前に広がるモニターを見ながら、映し出された第一ゲートを睨んでいた。
一カ月か二カ月前だっただろう。軍の人間が初めてゲートを潜り抜けた。
扉に吸い込まれる瞬間を手に汗握って見守っていた。
常に、失敗続きだった。偵察機もミサイルも鳥さえも「結界」の前で虚しく散っていった。
それが、帝國のヘリを使い難なく潜り抜けて行ったのだ。
そこから音沙汰なしが続いている。半分、いや、半分以上の者は既に生死を諦めている。
単身、敵地の帝國に乗り込んだ。それは「死」以外考えられない。
そう言えば皇帝に求められて連れて行かれた同胞もいた。その人間はきっと生きているかもしれないが、それでも怪しいだろう。
二人の無事を祈るしかないのだろうが、ここまで何もないと諦める方そろそろ頃合いなのかもしれない。
自分の席につき、口の中のガムを紙に包んで捨てる。
冷えてしまったコーヒーを飲んで一息つく。
そう言えば、いつぞやもあったな・・・・・
丁度、軍の中で最強と言われていた人物が帝國に拉致されてしまった事がある。
自分が丁度、当番で司令部にいて、その人物を考えていた時に警報が鳴り、乗っていた人物を特定した時は鳥肌ものだった。
吸血鬼と呼ばれる伝承やお伽話の世界の化け物と戦っているのだ。
摩訶不思議な事など、これまで幾多も経験した。今回も繰り返したら笑い話を通り越して鳥肌ものだろう。
二人の同胞が見つかる事は喜ばしいが、それとこれとでは話は別。
深いため息をして椅子の背もたれに体を預ける。ギギィィ━━━と、椅子が鳴るがそんな事は知らない。
無事を願うしかない。日本軍最強と言われた夜神大佐とその部下の庵伍長。
話によれば庵伍長は不思議な力を駆使していたと聞いた。
荊を操っていたと聞いている。皇帝からは「王弟の末裔」などと言われていたとも聞く。
皇帝に執着されていた夜神大佐と、王弟の末裔などと物騒な呼び名をされていた庵伍長。
謎しかないが、それでも無事を祈る以外ないだろう。理由は何にせよ大切な同胞。共に吸血鬼と戦う大切な仲間。それだけで良いのではないか?
バックグラウンドが複雑だとしてもだ。
今成はもう一度モニターを睨む。開閉する気配は皆無な扉を睨む。
すると、けたたましく警報音が司令部に鳴り響く。
それは扉が開き、我々の敵である吸血鬼が人間を蹂躙する為に、この世界に来たことを意味する音だった。
今成は音を聞いた途端、思案していた事など頭からなくし、「今成司令部長」として指示をする。
吸血鬼は全て殲滅。人間は、この世界の人間には指一本触れさせない為に最善を尽くす。
それが、我々の与えられた使命、役目だと自負しているからだ。
「全員、A級体制に移行。観測班はクラスの判別急げ。動ける部屋の人間を今すぐ調べろ!!一匹残さず殲滅しろ!!」
「「「了解!!!」」」
以前もそうだった。ある人物の考え事をしていてら、現実に引き戻すように警報が鳴り響いた。そして、その人物だと疑わしい事が次々に知らされる。
そして、考え抜いてその人物に関われるであろう人達に知らせた。
「今成司令部長っ!!識別反応に庵伍長の生体マイクロチップが反応してます。状態は不明ですが生きてます。残り一つはアンノウンです!」
「何っ?!!直ちに第一室に連絡。藤堂元帥達もだ!!急げ!!」
「「了解!!」」
一度あることは二度あるのか?前回は衰弱していたが無事に軍に戻ったきた。
けど、今度はどうだろう?マイクロチップは反応している。アレは生きている人間から発せられる微弱な電流で維持されている。
死んでいれば機能はしない作りになっている。
状態は分からない。生きてるが手足が切断されている場合もあるし、死ぬギリギリまで生かされている可能性もある。
そして、識別に反応しなかったアンノウンも不安材料の一つだ。
吸血鬼なのは間違いないが、クラスの判別が出来ないとなると相手の技量が分からない。
我々より強いのは当然だろうが、その強さがAクラスとSクラスとでは違うし、WとTでは更に違う。
判別出来ないとなるとそれ以上?それ以下?願うならばそれ以下であってほしいが・・・・・・
「もう一度、元帥達に丸投げするか?・・・・あぁ~~煙吸いてぇ~~」
現実逃避出来るのであれば、ここからすぐに飛び出して一服したい。思いっきり肺に流し込みたい。それが叶わないことも分かっている。現実は様々な問題が山積みな事も理解している。
慌ただしくなった司令部を全体的に見下ろす位置にいる今成はため息をして、頭をガシガシとする。仲間が帰ってくることの喜びはもちろんあるが、その仲間の状態が気にかかる。
そして、アンノウンの存在。問題が山積みになっていくが、今から割り振られる部屋ならばきっと解決してくれるだろう。
それだけを信じて今成は深いため息をした。
「状況は理解しました。我々、第一室の七海中佐と相澤中佐、式部大尉、第二室の長谷部中佐、第三室の藤堂中佐の五名をヘリの到着点まで向かわせるのですね?」
「そうだ。状況は先の説明通り、庵伍長の存在を確認し保護する事。そして、アンノウンの正体を確認する事。場合によっては殲滅する事。被害は出さないように最小に留める事だ」
長谷部室長の抑揚のない声が確認するように聞くと、藤堂元帥の重々しい声が肯定するように話していく。
二人の会話に入る事など出来ない隊長達は黙って聞いていた。
顔は緊張し、手は汗で湿っている状態で、声を出すことなど出来ない。出来ることは二人の会話を聞くことだけだ。
部屋の仲間であった夜神大佐がいなくなり、それから暫くして庵伍長もいなくなった。
夜神大佐の件で軍自体の被害は、建物と乗り物の破壊と、怪我人が多数出ただけだ。死人がいなかったのが奇跡に近いと思ってしまう程だ。
立て直しや軍の強化、そして内部の整理と慌ただしく過ごしているうちに、今度は庵伍長が「ブラッド・ゲート」をすり抜けて帝國に行ってしまった。
誰もが出来なかったゲート周辺の「結界」をすり抜けたのだ。
凄いと感心してしまうのと同時に、無事に帰ってこれるのか?と不安も生まれる。
単身、帝國に乗り込んだのだ。味方など一人もいない。
そんな絶望しかない場所に行ったのだ。「死」しか考えられなかった。
その行き先不安な人物が「生きているかもしれない」と連絡が来たのだ。
わずかでも希望があるのなら託したいし、望みたい。
それは、この部屋にいる人間みな同じ考えであった。
だけど、それを邪魔するのが「アンノウン」の正体だ。
一体、このアンノウンは何者だろう?
そして、クラスは?強さは?どれ程の力を秘めているのか?謎しかない。だから、慎重に事を進めると同時に、人の選出には慎重さを求められる。
七海は周りを見て考えた。ここにいるのは隊長クラス。そして、誰よりも庵青年の帰りを待っている人間しかいない。
欲を言えば、青年と一緒に夜神も帰ってきて欲しいが、それは叶っていない。
その答えが「アンノウン」だろう。
「長谷部室長!藤堂元帥!メンバーはこれで決まりでしょう?後は、俺達の技量を信じて下さいよ。大丈夫です。庵青年は必ずここに帰ってきますよ」
「七海中佐・・・・分かっていると思うが無理だけはするな。他のみんなもだ。応援が必要ならすぐに呼べ。退避が必要なら直ぐに退避しろ。分かっているな?」
普段と変わらない飄々とした声を聞き、藤堂は難しい顔で七海を諭す。
勿論、技量を疑うことはない。信頼している。しているからこそ心配もする。
幼い頃から成長を見てきたからこその心配だ。
そして、その中には夜神も含まれていた。けど、その夜神はここにはいない。
帝國に行って以降、安否の情報なんてない。ある訳が無い。
藤堂は夜神の事を思いながらも、今、確かな事「庵伍長が生きている」情報を元に、「庵伍長を救出する」に変えていく。
「七海中佐を筆頭に各々準備し、救出に早期に向かうように。我々はここで連絡を待つ。総員、直ちに準備せよ!!」
「「了解!!」」
藤堂の合図で全員が敬礼をすると、振り返ることなく司令室を出ていく。
残ったのは藤堂元帥と七海中将、長谷部室長と今成司令部長の四人だけだ。
それ以外の司令部の人間は各自の仕事をしている。
「せめて、庵伍長だけでも助かってほしい・・・・でなければ何のために帝國などと、危険な所に向かわせたのか・・・・・少しでも凪の情報が掴めればいいが・・・・・・」
藤堂はモニターに映し出された地図を睨んで小さく呟く。
その声は不安と期待、悲しみと色々な感情がまざっていた。
「進行方向は間違いないのよね?虎?」
「あぁ、これで間違いない。後は向こうと鉢合わせしたら最高だね。青年とアンノウン・・・・・少し、いや、かなりモヤモヤするな・・・・・」
各自の「高位クラス武器」を手に持ち進む。
向かう先は帝國のヘリから降りて、歩いているだろう庵達。
「虎と一緒か・・・・・俺もモヤモヤしている。言葉では伝えられないのが悔しいが」
ライフルを構えながら相澤が、自分の感情と七海の感情が同じな事を呟く。
「そうなんだよ・・・・・言葉では伝えられない程モヤモヤしてるんだよ。なんだろう?軍人の「感」とかそんな類いなんだよなぁ~~っと、そろそろ、接触ポイントだ気を引き締めろよ!!」
「「了解っ!!」」
森の中でも比較的に開けた場所に、七海達は武器を構え、隙なく動いていく。
すると、人影が見えてくる。二人で肩を寄せ合い、支えながら歩いている。
その人物は軍のレーダーが反応していた庵だった。そして、もう一人は腹部から出血したのか、半身を赤く染めた女性だ。
白い髪を一瞬見た時は、老婆だと思ったが老婆ではない。若い女性だ。
その雰囲気、懐かしい気配は知っている。
「や・・・・がみ?夜神なのか?!」
言葉よりも体が先に動いていた。軍人らしくない行動だったかもしれない。
それは、七海だけではなかった。他の人も何かを感じだったのだろう。感じてしまったからみんなして駆け出した。
近くまで来るとはっきりと分かる。満身創痍、それどころか瀕死の状態だ。こんな状態で動いていることに驚いてしまう。
みんなして口々に夜神や庵の名前を、無事を怪我を矢継ぎ早に言う。
それに気づいた夜神が顔面蒼白の顔をして赤く染まった瞳を向ける。
体を動かしたり、興奮すると赤くなる瞳は何度も見ているのに、妙な違和感を感じ取る。けど、今はそれどころではない。
「みんな・・・・・・・」
その、小さな掠れた声を出したかと思えば、赤い瞳は閉じられて足元から崩れ落ちる。
「夜神っ!!」
一抹の不安が駆け抜ける。この全ての状況をトータルで考えて導き出される答えは「死」しかないだろう。
だから、みんなして声を出した。
心配の声を
不安の声を
絶望の声を
望みを託す声を
その声を、一塁の望みを夜神に託す以外なかったからだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今成司令部長覚えてますか?飴やガムでタバコを我慢する人です。
そして、一度ある事は二度あると身を持って知った方です。
七海達も大分お久しぶりです。覚えてますか?今回は七海サイドの話でしたが、このあとは普通に進んでいきます。
何事もなければいいんですけどねぇ~~
ミント味だったものは既に味などなく、ただ、ゴムの塊を噛んでいる感覚だった。
目の前に広がるモニターを見ながら、映し出された第一ゲートを睨んでいた。
一カ月か二カ月前だっただろう。軍の人間が初めてゲートを潜り抜けた。
扉に吸い込まれる瞬間を手に汗握って見守っていた。
常に、失敗続きだった。偵察機もミサイルも鳥さえも「結界」の前で虚しく散っていった。
それが、帝國のヘリを使い難なく潜り抜けて行ったのだ。
そこから音沙汰なしが続いている。半分、いや、半分以上の者は既に生死を諦めている。
単身、敵地の帝國に乗り込んだ。それは「死」以外考えられない。
そう言えば皇帝に求められて連れて行かれた同胞もいた。その人間はきっと生きているかもしれないが、それでも怪しいだろう。
二人の無事を祈るしかないのだろうが、ここまで何もないと諦める方そろそろ頃合いなのかもしれない。
自分の席につき、口の中のガムを紙に包んで捨てる。
冷えてしまったコーヒーを飲んで一息つく。
そう言えば、いつぞやもあったな・・・・・
丁度、軍の中で最強と言われていた人物が帝國に拉致されてしまった事がある。
自分が丁度、当番で司令部にいて、その人物を考えていた時に警報が鳴り、乗っていた人物を特定した時は鳥肌ものだった。
吸血鬼と呼ばれる伝承やお伽話の世界の化け物と戦っているのだ。
摩訶不思議な事など、これまで幾多も経験した。今回も繰り返したら笑い話を通り越して鳥肌ものだろう。
二人の同胞が見つかる事は喜ばしいが、それとこれとでは話は別。
深いため息をして椅子の背もたれに体を預ける。ギギィィ━━━と、椅子が鳴るがそんな事は知らない。
無事を願うしかない。日本軍最強と言われた夜神大佐とその部下の庵伍長。
話によれば庵伍長は不思議な力を駆使していたと聞いた。
荊を操っていたと聞いている。皇帝からは「王弟の末裔」などと言われていたとも聞く。
皇帝に執着されていた夜神大佐と、王弟の末裔などと物騒な呼び名をされていた庵伍長。
謎しかないが、それでも無事を祈る以外ないだろう。理由は何にせよ大切な同胞。共に吸血鬼と戦う大切な仲間。それだけで良いのではないか?
バックグラウンドが複雑だとしてもだ。
今成はもう一度モニターを睨む。開閉する気配は皆無な扉を睨む。
すると、けたたましく警報音が司令部に鳴り響く。
それは扉が開き、我々の敵である吸血鬼が人間を蹂躙する為に、この世界に来たことを意味する音だった。
今成は音を聞いた途端、思案していた事など頭からなくし、「今成司令部長」として指示をする。
吸血鬼は全て殲滅。人間は、この世界の人間には指一本触れさせない為に最善を尽くす。
それが、我々の与えられた使命、役目だと自負しているからだ。
「全員、A級体制に移行。観測班はクラスの判別急げ。動ける部屋の人間を今すぐ調べろ!!一匹残さず殲滅しろ!!」
「「「了解!!!」」」
以前もそうだった。ある人物の考え事をしていてら、現実に引き戻すように警報が鳴り響いた。そして、その人物だと疑わしい事が次々に知らされる。
そして、考え抜いてその人物に関われるであろう人達に知らせた。
「今成司令部長っ!!識別反応に庵伍長の生体マイクロチップが反応してます。状態は不明ですが生きてます。残り一つはアンノウンです!」
「何っ?!!直ちに第一室に連絡。藤堂元帥達もだ!!急げ!!」
「「了解!!」」
一度あることは二度あるのか?前回は衰弱していたが無事に軍に戻ったきた。
けど、今度はどうだろう?マイクロチップは反応している。アレは生きている人間から発せられる微弱な電流で維持されている。
死んでいれば機能はしない作りになっている。
状態は分からない。生きてるが手足が切断されている場合もあるし、死ぬギリギリまで生かされている可能性もある。
そして、識別に反応しなかったアンノウンも不安材料の一つだ。
吸血鬼なのは間違いないが、クラスの判別が出来ないとなると相手の技量が分からない。
我々より強いのは当然だろうが、その強さがAクラスとSクラスとでは違うし、WとTでは更に違う。
判別出来ないとなるとそれ以上?それ以下?願うならばそれ以下であってほしいが・・・・・・
「もう一度、元帥達に丸投げするか?・・・・あぁ~~煙吸いてぇ~~」
現実逃避出来るのであれば、ここからすぐに飛び出して一服したい。思いっきり肺に流し込みたい。それが叶わないことも分かっている。現実は様々な問題が山積みな事も理解している。
慌ただしくなった司令部を全体的に見下ろす位置にいる今成はため息をして、頭をガシガシとする。仲間が帰ってくることの喜びはもちろんあるが、その仲間の状態が気にかかる。
そして、アンノウンの存在。問題が山積みになっていくが、今から割り振られる部屋ならばきっと解決してくれるだろう。
それだけを信じて今成は深いため息をした。
「状況は理解しました。我々、第一室の七海中佐と相澤中佐、式部大尉、第二室の長谷部中佐、第三室の藤堂中佐の五名をヘリの到着点まで向かわせるのですね?」
「そうだ。状況は先の説明通り、庵伍長の存在を確認し保護する事。そして、アンノウンの正体を確認する事。場合によっては殲滅する事。被害は出さないように最小に留める事だ」
長谷部室長の抑揚のない声が確認するように聞くと、藤堂元帥の重々しい声が肯定するように話していく。
二人の会話に入る事など出来ない隊長達は黙って聞いていた。
顔は緊張し、手は汗で湿っている状態で、声を出すことなど出来ない。出来ることは二人の会話を聞くことだけだ。
部屋の仲間であった夜神大佐がいなくなり、それから暫くして庵伍長もいなくなった。
夜神大佐の件で軍自体の被害は、建物と乗り物の破壊と、怪我人が多数出ただけだ。死人がいなかったのが奇跡に近いと思ってしまう程だ。
立て直しや軍の強化、そして内部の整理と慌ただしく過ごしているうちに、今度は庵伍長が「ブラッド・ゲート」をすり抜けて帝國に行ってしまった。
誰もが出来なかったゲート周辺の「結界」をすり抜けたのだ。
凄いと感心してしまうのと同時に、無事に帰ってこれるのか?と不安も生まれる。
単身、帝國に乗り込んだのだ。味方など一人もいない。
そんな絶望しかない場所に行ったのだ。「死」しか考えられなかった。
その行き先不安な人物が「生きているかもしれない」と連絡が来たのだ。
わずかでも希望があるのなら託したいし、望みたい。
それは、この部屋にいる人間みな同じ考えであった。
だけど、それを邪魔するのが「アンノウン」の正体だ。
一体、このアンノウンは何者だろう?
そして、クラスは?強さは?どれ程の力を秘めているのか?謎しかない。だから、慎重に事を進めると同時に、人の選出には慎重さを求められる。
七海は周りを見て考えた。ここにいるのは隊長クラス。そして、誰よりも庵青年の帰りを待っている人間しかいない。
欲を言えば、青年と一緒に夜神も帰ってきて欲しいが、それは叶っていない。
その答えが「アンノウン」だろう。
「長谷部室長!藤堂元帥!メンバーはこれで決まりでしょう?後は、俺達の技量を信じて下さいよ。大丈夫です。庵青年は必ずここに帰ってきますよ」
「七海中佐・・・・分かっていると思うが無理だけはするな。他のみんなもだ。応援が必要ならすぐに呼べ。退避が必要なら直ぐに退避しろ。分かっているな?」
普段と変わらない飄々とした声を聞き、藤堂は難しい顔で七海を諭す。
勿論、技量を疑うことはない。信頼している。しているからこそ心配もする。
幼い頃から成長を見てきたからこその心配だ。
そして、その中には夜神も含まれていた。けど、その夜神はここにはいない。
帝國に行って以降、安否の情報なんてない。ある訳が無い。
藤堂は夜神の事を思いながらも、今、確かな事「庵伍長が生きている」情報を元に、「庵伍長を救出する」に変えていく。
「七海中佐を筆頭に各々準備し、救出に早期に向かうように。我々はここで連絡を待つ。総員、直ちに準備せよ!!」
「「了解!!」」
藤堂の合図で全員が敬礼をすると、振り返ることなく司令室を出ていく。
残ったのは藤堂元帥と七海中将、長谷部室長と今成司令部長の四人だけだ。
それ以外の司令部の人間は各自の仕事をしている。
「せめて、庵伍長だけでも助かってほしい・・・・でなければ何のために帝國などと、危険な所に向かわせたのか・・・・・少しでも凪の情報が掴めればいいが・・・・・・」
藤堂はモニターに映し出された地図を睨んで小さく呟く。
その声は不安と期待、悲しみと色々な感情がまざっていた。
「進行方向は間違いないのよね?虎?」
「あぁ、これで間違いない。後は向こうと鉢合わせしたら最高だね。青年とアンノウン・・・・・少し、いや、かなりモヤモヤするな・・・・・」
各自の「高位クラス武器」を手に持ち進む。
向かう先は帝國のヘリから降りて、歩いているだろう庵達。
「虎と一緒か・・・・・俺もモヤモヤしている。言葉では伝えられないのが悔しいが」
ライフルを構えながら相澤が、自分の感情と七海の感情が同じな事を呟く。
「そうなんだよ・・・・・言葉では伝えられない程モヤモヤしてるんだよ。なんだろう?軍人の「感」とかそんな類いなんだよなぁ~~っと、そろそろ、接触ポイントだ気を引き締めろよ!!」
「「了解っ!!」」
森の中でも比較的に開けた場所に、七海達は武器を構え、隙なく動いていく。
すると、人影が見えてくる。二人で肩を寄せ合い、支えながら歩いている。
その人物は軍のレーダーが反応していた庵だった。そして、もう一人は腹部から出血したのか、半身を赤く染めた女性だ。
白い髪を一瞬見た時は、老婆だと思ったが老婆ではない。若い女性だ。
その雰囲気、懐かしい気配は知っている。
「や・・・・がみ?夜神なのか?!」
言葉よりも体が先に動いていた。軍人らしくない行動だったかもしれない。
それは、七海だけではなかった。他の人も何かを感じだったのだろう。感じてしまったからみんなして駆け出した。
近くまで来るとはっきりと分かる。満身創痍、それどころか瀕死の状態だ。こんな状態で動いていることに驚いてしまう。
みんなして口々に夜神や庵の名前を、無事を怪我を矢継ぎ早に言う。
それに気づいた夜神が顔面蒼白の顔をして赤く染まった瞳を向ける。
体を動かしたり、興奮すると赤くなる瞳は何度も見ているのに、妙な違和感を感じ取る。けど、今はそれどころではない。
「みんな・・・・・・・」
その、小さな掠れた声を出したかと思えば、赤い瞳は閉じられて足元から崩れ落ちる。
「夜神っ!!」
一抹の不安が駆け抜ける。この全ての状況をトータルで考えて導き出される答えは「死」しかないだろう。
だから、みんなして声を出した。
心配の声を
不安の声を
絶望の声を
望みを託す声を
その声を、一塁の望みを夜神に託す以外なかったからだ。
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今成司令部長覚えてますか?飴やガムでタバコを我慢する人です。
そして、一度ある事は二度あると身を持って知った方です。
七海達も大分お久しぶりです。覚えてますか?今回は七海サイドの話でしたが、このあとは普通に進んでいきます。
何事もなければいいんですけどねぇ~~
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