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酸素マスクから聞こえる寝息は穏やかにも聞こえた。
一定の間隔で機械音がして、脈の安定を教える。
穏やかな顔をして夜神は眠っていた。峠は越えて後は本人が起きるのを、今か今かと待つだけの状態だった。
その横では点滴から栄養を貰いながらも毅然とした態度で庵が座り夜神の白い手を握っていた。
この腕がいつになったら動くのかと待ちわびながら、今は手を握ることだけしか出来ないのが悲しい。
「早く、起きてくださいね。みんな、首を長くして待ってますから」
今は、それだけしか言葉が生まれない。色々と問題は山積みだ。けど、今、一番は白い睫毛がゆっくりと持ち上がり、そこから覗く赤い宝石のような瞳で見つめられ、鈴の音のような声で名前を呼んで欲しい。
いつものように微笑んで欲しい。貴方の微笑みでどれだけ胸が高鳴っていったか知ってますか?
「俺達は帰ってきたんですよ・・・・・・だから、後は、凪さんが目覚めれば勝つんです。勝利しましょう。皇帝に勝ちましょう・・・・・凪さん」
最後の勝負はまだ、続いている。本当に、勝利は目前なのだ。後は、一番、勝利を噛み締めなければいけない人が起きるだけ。
庵は動かない手を再び握り、冷たい体温の手の甲に一つ口付けを落とした。おまじないのように。起き上がることを願い口付けた。
庵の点滴も外され、明日が退院となった日も変わらず、庵は夜神の元にいた。
極度の緊張による精神衰弱、貧血、寝不足、栄養失調と判断された。点滴や十分な休養で済んだ庵は、動けるときは夜神の元に来て手を握り、話しかけるのが日課になっていた。
「俺は明日、退院が決まりました。こうして、ゆっくりと話すのも今日が最後かもしれないですね・・・・・・」
手を握り話しかけるのはいつもと変わらない。
けど、妙な胸騒ぎが朝からあった。予感のようなものだった。嫌なものではない。寧ろ、何か吉報のような・・・・・・
「早く、俺の名前を「海斗」と呼んで下さい・・・・・」
縋るように声を出す。届いているのか分からないが、声に出さないと駄目だと感じて声に出す。
点滴がいらなくなった両手を使い、夜神の白練色の髪を優しく撫でる。
何度目だろう?撫でていたら白い睫毛がピクッと、動いたような気がした。
「凪さん?」
庵は驚いて呼びかけてしまう。すると、ピクッ、ピクッと動いて、ゆっくりとだが身動ぎをする。
「ん~~」と小さな声で唸り、徐々に瞼が持ち上がる。そして、ずっと願っていた赤い瞳が現れて、庵と目が合ってしまう。
長い夢をみていたような気がした。私とよく似た顔をした女性がいたと思う。
白い髪に赤い瞳、服装はドレスだけど時代的に昔っぽい。十字軍がいた時代ぐらいの服装だと思った。
その人はずっと「ごめんなさい」と謝っていた。何に対して謝っていたのかは正直分からなかった。
けど、じっと見ているとなんとなくだけど分かったような気がした。
きっと、貴方は「ルルワ」でしょう?私の中に流れている血が「そうだ」と告げている。
私の中に流れる記憶が「そうだ」と教えてくれている。
皇帝が教えてくれた吸血鬼の世界の成り立ち
そして、皇帝だけが知っている歴史
そして、庵君が知った事実
それらを重ね合わせて出来た歪んだ物語
「愛」がどれだけ純粋、どれだけ危なくて、どれだけ狂気を孕んでいるのか・・・・・・
けど、それだけ危ないのに人は求めてしまう
「愛」がないと生きていけないは、語弊が生じるけど、何かを「好き」や「興味ある」は、極論「愛」に繋がると思っている。
だって、それらがなかったら人は死んでしまう。滅んでしまう。発展も途上もない。
けど、カインはルルワを愛して、けど、既に手の届かない存在で、諦められないからと奪った。
アベルを殺してでも手に入れようとした。結果、ルルワとアベルは逃げた。
ルルワの記憶と寿命を犠牲にして。「ブラッド・ゲート」と言われる扉を作り上げて逃げた。
その扉が、私たちの人間の世界にとって凶器で、生命を尊厳をもて遊び、蹂躙する扉になるとは知らず。
只々、愛しい人を逃がしたい、生かしたい一心で、己を犠牲にして作り上げた。
そして、カインから逃げ出した。全てを失くし、新たな人生を歩んでいった。
カインは呪のように子孫に「見つけ出せ」「逃がすな」「閉じ込めろ」と刻んだ。
その、呪によって皇帝・ルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲルは私を見つけ出した。
小鳥のように、逃さないように鳥籠に閉じ込めた。
己の物だと、誰にも渡さないと、私の全てを奪い尽くした。
家族も住む場所も友達も先生もそして、人間も・・・・・
「償わないといけない・・・・・・許される事は一生ないかもしれない。余りにも大きな罪。一生・・・・・・末代、血が途絶えるまで私たち、ルルワの子孫は償わないといけない。余りにも大きな代償を残した」
けど、貴方のした事は分かる。自分を犠牲にしてでも愛しい人を逃がそうとした。
それは、私も一緒・・・・・・
自分を皇帝に差し出しても、愛しい人を助けたかった・・・・・
「貴方と私は似ているのかもね・・・・・ルルワ?」
「ごめんなさい」と謝っていた女性が初めてこちらを見た。
ルルワと呼ばれた女性は謝ることをやめて、夜神の方をじっと見つめる。
すると、暗い背後から一人の男性が現れる。
ダークブロンドの髪に、金色の瞳の持ち主で、よく見ると皇帝にも似ている。
その男性はルルワを守るように、後ろから抱きしめてこちらを見る。けど、敵意は感じない。どちらかといえば許しを請うような・・・・・
「貴方は、アベルなの?」
ルルワは嫌がる素振りは見せない。むしろ、安心して身を任している。
皇帝に似ている顔、ルルワの様子・・・・それらを介して分かるのは、この男性はアベルだと言うこと。
言葉はなかったが、軽く頷いたのを見てアベルだと確認した。
「貴方の残してくれた組織のおかげで、私達は戦う事が出来ている。武器のおかげでここ迄来れている。本当に感謝しかないの。ありがとう・・・・そして、海斗と会わせてくれてありがとう・・・・・・・大切な人を失う恐怖をなくすぐらい、愛しい気持ちを教えてくれてありがとう・・・・・・」
言いたいことは沢山、本当に沢山あるけど、最初に出てきたのは「感謝」しかなかった。
貴方が、組織を、武器を、吸血鬼と戦うための力を作り、残してくれた。
ルルワを追いかけ、色々と諦めて、そして、残りの人生を過ごす世界の未来のために尽力してくれた。
この世界の人間を吸血鬼から守る為に・・・・・
そこには感謝しかなかった。だから、私は戦えているのだ。
「けど、罪は償わないといけない。貴方がたの子孫である私や海斗が償います。だから、見守っていて下さい」
吸血鬼から人々を守る為に━━━━━
「「ありがとう」」
二人の声が重なり、お礼を夜神に伝えた。
「っ!!」
すると、目を開けないほどの光が突然生まれて、夜神は目を閉じる。そして、意識が戻った。
誰かが、優しく頭を撫でているのが心地よくて、ずっと撫でて欲しかった。けど、その手が懐かしくて目を開いていく。
ずっと閉じていたのか瞼が重く、ゆっくりと開く。すると、黒い髪と瞳の男性が現れる。
知っている・・・・・
この人は私の大事な人、愛している人・・・・
「か、い・・・と・・・・・」
「っ・・・・・凪さん・・・・・凪、おはようございます・・・・・・」
涙が溢れてくる。何故だろう?分からないけど途切れることなく、次々に溢れては落ちていく。
けど、それは相手も同じだった。
顔をクシャと寄せて、けど、凄く嬉しそうに泣いていた。
「な、いてるの?」
「泣いてないです・・・・・泣いてないです。凪さんこそ泣いてますよ?」
否定しているのに、庵君の瞳からは次々に涙が溢れている。
「・・・・・嘘だ・・・・・わた、しこそ泣いて、ないよ・・・・・・」
体が怠い・・・・・腕を持ち上げようと思ったのに、思う様に腕が動かない。
夜神はゆっくりと腕を布団から出して、庵の頬を撫でた。涙で濡れた頬を手で拭い去った。
庵もその行為に驚いたが、大人しく受け入れる。両頬を拭い去ると、その手を庵の手が優しく重ね合わせる。
「おはようございます、凪さん。俺達は帰ってこれました。みんなの元に・・・・・七海中佐や藤堂元帥の元に・・・・・・俺達は、凪さんは勝負に勝てました。皇帝に勝てました・・・・・ありがとうございます。本当にありがとうございます・・・・・・・起きてくれて、目を覚ましてくれて・・・・・・・・」
庵が思いの丈を言い終わると、また、涙が頬を伝う。頬に添えていた夜神の手が再び、涙で濡れていく。
けど、そんな事どうでも良かった。
「うん・・・・・・帰れたね。はや、く、みんなにあ、いたいね・・・・・・」
会いたい人は沢山いる。共に戦った気の許せる仲間のみんなや、親のように成長を見守ってくれていた上司達・・・・・
「勝てたから、あん、しんだね・・・・・」
きっと危ない状況だったと思う。けど、色々な人が私を助けてくれた。生かそうと必死になってくれた。
それは、目の前で私が起きたことを喜び、泣いてくれている人も同じ。
「ありがとう・・・・・海斗が、いてくれた、から、ここまで来れたの・・・・・本当、に、ありがとう・・・・・・」
勝負の勝利も勿論、噛み締めたいが、今はそれよりも無事に目を覚ましたことに感謝したい。
「・・・・・・・俺は何もしてないです。頑張ったのは凪さんですよ・・・・・目を覚ましてくれてありがとうございます・・・・」
夜神の手を庵は両手で包みこんでそっと、シーツの上に置く。そして、寝ている夜神の額に軽く口づけをする。
「愛してます。目を覚ましてくれたことに心から感謝します。看護師さん達に連絡しますね。これからの事、問題は山積みですけど二人で乗り越えましょう。俺はどんな事があっても凪さんの味方です。けして、裏切ったりはしません。だから、安心して体を治すことだけに集中して下さい」
そう、問題は山積みだ。目下一番の問題は、凪さん本人の事だろう。
けど、何かしらの問題が生じたら俺は迷わず凪さんを連れだす覚悟は出来ている。
凪さんが自分を犠牲にしてでも俺を逃がそうとしたように、俺も覚悟を決めてます。
裏切ることも、逃げ出すこともしません。
万が一があったなら、その時は二人一緒です。
庵は夜神の赤い瞳から溢れた涙をそっと拭って、心の中で静かに決意を固めた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
何とかして目を覚ましてくれました~~
良かった、良かった
けど、問題は山積みですね。一番の問題はどうなる事やら・・・・・・・
一定の間隔で機械音がして、脈の安定を教える。
穏やかな顔をして夜神は眠っていた。峠は越えて後は本人が起きるのを、今か今かと待つだけの状態だった。
その横では点滴から栄養を貰いながらも毅然とした態度で庵が座り夜神の白い手を握っていた。
この腕がいつになったら動くのかと待ちわびながら、今は手を握ることだけしか出来ないのが悲しい。
「早く、起きてくださいね。みんな、首を長くして待ってますから」
今は、それだけしか言葉が生まれない。色々と問題は山積みだ。けど、今、一番は白い睫毛がゆっくりと持ち上がり、そこから覗く赤い宝石のような瞳で見つめられ、鈴の音のような声で名前を呼んで欲しい。
いつものように微笑んで欲しい。貴方の微笑みでどれだけ胸が高鳴っていったか知ってますか?
「俺達は帰ってきたんですよ・・・・・・だから、後は、凪さんが目覚めれば勝つんです。勝利しましょう。皇帝に勝ちましょう・・・・・凪さん」
最後の勝負はまだ、続いている。本当に、勝利は目前なのだ。後は、一番、勝利を噛み締めなければいけない人が起きるだけ。
庵は動かない手を再び握り、冷たい体温の手の甲に一つ口付けを落とした。おまじないのように。起き上がることを願い口付けた。
庵の点滴も外され、明日が退院となった日も変わらず、庵は夜神の元にいた。
極度の緊張による精神衰弱、貧血、寝不足、栄養失調と判断された。点滴や十分な休養で済んだ庵は、動けるときは夜神の元に来て手を握り、話しかけるのが日課になっていた。
「俺は明日、退院が決まりました。こうして、ゆっくりと話すのも今日が最後かもしれないですね・・・・・・」
手を握り話しかけるのはいつもと変わらない。
けど、妙な胸騒ぎが朝からあった。予感のようなものだった。嫌なものではない。寧ろ、何か吉報のような・・・・・・
「早く、俺の名前を「海斗」と呼んで下さい・・・・・」
縋るように声を出す。届いているのか分からないが、声に出さないと駄目だと感じて声に出す。
点滴がいらなくなった両手を使い、夜神の白練色の髪を優しく撫でる。
何度目だろう?撫でていたら白い睫毛がピクッと、動いたような気がした。
「凪さん?」
庵は驚いて呼びかけてしまう。すると、ピクッ、ピクッと動いて、ゆっくりとだが身動ぎをする。
「ん~~」と小さな声で唸り、徐々に瞼が持ち上がる。そして、ずっと願っていた赤い瞳が現れて、庵と目が合ってしまう。
長い夢をみていたような気がした。私とよく似た顔をした女性がいたと思う。
白い髪に赤い瞳、服装はドレスだけど時代的に昔っぽい。十字軍がいた時代ぐらいの服装だと思った。
その人はずっと「ごめんなさい」と謝っていた。何に対して謝っていたのかは正直分からなかった。
けど、じっと見ているとなんとなくだけど分かったような気がした。
きっと、貴方は「ルルワ」でしょう?私の中に流れている血が「そうだ」と告げている。
私の中に流れる記憶が「そうだ」と教えてくれている。
皇帝が教えてくれた吸血鬼の世界の成り立ち
そして、皇帝だけが知っている歴史
そして、庵君が知った事実
それらを重ね合わせて出来た歪んだ物語
「愛」がどれだけ純粋、どれだけ危なくて、どれだけ狂気を孕んでいるのか・・・・・・
けど、それだけ危ないのに人は求めてしまう
「愛」がないと生きていけないは、語弊が生じるけど、何かを「好き」や「興味ある」は、極論「愛」に繋がると思っている。
だって、それらがなかったら人は死んでしまう。滅んでしまう。発展も途上もない。
けど、カインはルルワを愛して、けど、既に手の届かない存在で、諦められないからと奪った。
アベルを殺してでも手に入れようとした。結果、ルルワとアベルは逃げた。
ルルワの記憶と寿命を犠牲にして。「ブラッド・ゲート」と言われる扉を作り上げて逃げた。
その扉が、私たちの人間の世界にとって凶器で、生命を尊厳をもて遊び、蹂躙する扉になるとは知らず。
只々、愛しい人を逃がしたい、生かしたい一心で、己を犠牲にして作り上げた。
そして、カインから逃げ出した。全てを失くし、新たな人生を歩んでいった。
カインは呪のように子孫に「見つけ出せ」「逃がすな」「閉じ込めろ」と刻んだ。
その、呪によって皇帝・ルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲルは私を見つけ出した。
小鳥のように、逃さないように鳥籠に閉じ込めた。
己の物だと、誰にも渡さないと、私の全てを奪い尽くした。
家族も住む場所も友達も先生もそして、人間も・・・・・
「償わないといけない・・・・・・許される事は一生ないかもしれない。余りにも大きな罪。一生・・・・・・末代、血が途絶えるまで私たち、ルルワの子孫は償わないといけない。余りにも大きな代償を残した」
けど、貴方のした事は分かる。自分を犠牲にしてでも愛しい人を逃がそうとした。
それは、私も一緒・・・・・・
自分を皇帝に差し出しても、愛しい人を助けたかった・・・・・
「貴方と私は似ているのかもね・・・・・ルルワ?」
「ごめんなさい」と謝っていた女性が初めてこちらを見た。
ルルワと呼ばれた女性は謝ることをやめて、夜神の方をじっと見つめる。
すると、暗い背後から一人の男性が現れる。
ダークブロンドの髪に、金色の瞳の持ち主で、よく見ると皇帝にも似ている。
その男性はルルワを守るように、後ろから抱きしめてこちらを見る。けど、敵意は感じない。どちらかといえば許しを請うような・・・・・
「貴方は、アベルなの?」
ルルワは嫌がる素振りは見せない。むしろ、安心して身を任している。
皇帝に似ている顔、ルルワの様子・・・・それらを介して分かるのは、この男性はアベルだと言うこと。
言葉はなかったが、軽く頷いたのを見てアベルだと確認した。
「貴方の残してくれた組織のおかげで、私達は戦う事が出来ている。武器のおかげでここ迄来れている。本当に感謝しかないの。ありがとう・・・・そして、海斗と会わせてくれてありがとう・・・・・・・大切な人を失う恐怖をなくすぐらい、愛しい気持ちを教えてくれてありがとう・・・・・・」
言いたいことは沢山、本当に沢山あるけど、最初に出てきたのは「感謝」しかなかった。
貴方が、組織を、武器を、吸血鬼と戦うための力を作り、残してくれた。
ルルワを追いかけ、色々と諦めて、そして、残りの人生を過ごす世界の未来のために尽力してくれた。
この世界の人間を吸血鬼から守る為に・・・・・
そこには感謝しかなかった。だから、私は戦えているのだ。
「けど、罪は償わないといけない。貴方がたの子孫である私や海斗が償います。だから、見守っていて下さい」
吸血鬼から人々を守る為に━━━━━
「「ありがとう」」
二人の声が重なり、お礼を夜神に伝えた。
「っ!!」
すると、目を開けないほどの光が突然生まれて、夜神は目を閉じる。そして、意識が戻った。
誰かが、優しく頭を撫でているのが心地よくて、ずっと撫でて欲しかった。けど、その手が懐かしくて目を開いていく。
ずっと閉じていたのか瞼が重く、ゆっくりと開く。すると、黒い髪と瞳の男性が現れる。
知っている・・・・・
この人は私の大事な人、愛している人・・・・
「か、い・・・と・・・・・」
「っ・・・・・凪さん・・・・・凪、おはようございます・・・・・・」
涙が溢れてくる。何故だろう?分からないけど途切れることなく、次々に溢れては落ちていく。
けど、それは相手も同じだった。
顔をクシャと寄せて、けど、凄く嬉しそうに泣いていた。
「な、いてるの?」
「泣いてないです・・・・・泣いてないです。凪さんこそ泣いてますよ?」
否定しているのに、庵君の瞳からは次々に涙が溢れている。
「・・・・・嘘だ・・・・・わた、しこそ泣いて、ないよ・・・・・・」
体が怠い・・・・・腕を持ち上げようと思ったのに、思う様に腕が動かない。
夜神はゆっくりと腕を布団から出して、庵の頬を撫でた。涙で濡れた頬を手で拭い去った。
庵もその行為に驚いたが、大人しく受け入れる。両頬を拭い去ると、その手を庵の手が優しく重ね合わせる。
「おはようございます、凪さん。俺達は帰ってこれました。みんなの元に・・・・・七海中佐や藤堂元帥の元に・・・・・・俺達は、凪さんは勝負に勝てました。皇帝に勝てました・・・・・ありがとうございます。本当にありがとうございます・・・・・・・起きてくれて、目を覚ましてくれて・・・・・・・・」
庵が思いの丈を言い終わると、また、涙が頬を伝う。頬に添えていた夜神の手が再び、涙で濡れていく。
けど、そんな事どうでも良かった。
「うん・・・・・・帰れたね。はや、く、みんなにあ、いたいね・・・・・・」
会いたい人は沢山いる。共に戦った気の許せる仲間のみんなや、親のように成長を見守ってくれていた上司達・・・・・
「勝てたから、あん、しんだね・・・・・」
きっと危ない状況だったと思う。けど、色々な人が私を助けてくれた。生かそうと必死になってくれた。
それは、目の前で私が起きたことを喜び、泣いてくれている人も同じ。
「ありがとう・・・・・海斗が、いてくれた、から、ここまで来れたの・・・・・本当、に、ありがとう・・・・・・」
勝負の勝利も勿論、噛み締めたいが、今はそれよりも無事に目を覚ましたことに感謝したい。
「・・・・・・・俺は何もしてないです。頑張ったのは凪さんですよ・・・・・目を覚ましてくれてありがとうございます・・・・」
夜神の手を庵は両手で包みこんでそっと、シーツの上に置く。そして、寝ている夜神の額に軽く口づけをする。
「愛してます。目を覚ましてくれたことに心から感謝します。看護師さん達に連絡しますね。これからの事、問題は山積みですけど二人で乗り越えましょう。俺はどんな事があっても凪さんの味方です。けして、裏切ったりはしません。だから、安心して体を治すことだけに集中して下さい」
そう、問題は山積みだ。目下一番の問題は、凪さん本人の事だろう。
けど、何かしらの問題が生じたら俺は迷わず凪さんを連れだす覚悟は出来ている。
凪さんが自分を犠牲にしてでも俺を逃がそうとしたように、俺も覚悟を決めてます。
裏切ることも、逃げ出すこともしません。
万が一があったなら、その時は二人一緒です。
庵は夜神の赤い瞳から溢れた涙をそっと拭って、心の中で静かに決意を固めた。
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何とかして目を覚ましてくれました~~
良かった、良かった
けど、問題は山積みですね。一番の問題はどうなる事やら・・・・・・・
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