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病室には似つかわしくない光景が広がる。
沢山のパイプ椅子に、重苦しい顔、険しい顔の男女。中には涙目になっている者もいた。
ベッドには白練色の髪と赤い瞳の、この世の人間とは思えないほど奇妙な色を持った女性が、自分に掛けられている布団を震える程掴み、必死に何かに耐えている。
側に立つ男性は黒い軍服を着用し、女性と同じように何かに耐えている様にも見える。
重苦しい、口を開いていいのか分からないこの現状を打破したのは、男性と同じく軍服を着た男性だった。その人物は軍のトップ━━━藤堂元帥だ。
「・・・・・理解の範囲を遥かに飛び越えてしまっているが、概ね分かった。「ブラッド・ゲート」の出来た経緯、帝國の成り立ち・・・・・我々が知らないことを理解したのはかなりの収穫だ・・・・・・」
知らない事を知れた・・・・・
この事は確かに、大いなる収穫なのかもしれない。
そうかもしれないが、これは余りにも・・・・・残酷なのかもしれない。
「私は「ブラッド・ゲート」を作り出した「ルルワ」の末裔・・・・・庵伍長は軍を、「吸血鬼殲滅部隊」を作り上げ「高位クラス武器」を生み出した「アベル」の末裔です・・・・・」
そう、何かしらの咎を受けないといけないのならば、今、私の言ったことを念頭に考えてほしい。
私は罪を、大きな十字架を背負うけど、庵君は違う。だから、何かしらの罰があるのならば、その事を頭の片隅でもいいから覚えていて欲しい。
「夜神さんの話を丸々受け入れるのは、些か・・・・かなり悩みますが・・・・本当の事なんですよね?」
パイプ椅子に座った一人が疑問の声を上げる。
無理もないだろう。ただでさえ、お伽話の中で語り継がれる「吸血鬼」などと言われる脅威から、人々を守る為に我々は存在している。
実際、目にしているから信じられるが、話だけだと実感が持てない。
ブラッド・ゲートの存在も見たことがあるから、そこが開かれて我々の脅威が降り立ち、人々を苦しめるのを見たことがあるから信じられる。
けど、その扉を作り上げたのが私の先祖だと言って、どれだけの人が信じてくれるのだろう?
人間の多くは、自分の目で見たことしか信じられない。当たり前だ。
特に実態の掴めない、幽霊や妖怪になれば事さらに多くなる。
今、話していることは、まさにその事に該当する。
「信じられないと思うかもしれません。ですが、全てを理解して欲しいとは言いませんが、事実なのは間違いないです・・・・・・私は大きな十字架を背負う者です。何らかの形で罪を償わないといけない者です」
どんな形にせよ、私は一生をかけて罪を償わないといけない。
そして、罪を償うこと同時に、私は自分の正体も晒さないといけない。
好きでなった訳でもないのに・・・・・・
無理矢理に変えられた・・・・・・・・・
「罪を償うと同時に、私は今の己の立場を説明しないといけません・・・・・・・既にお気づきの方もいらっしゃると思います。中には疑っている方も・・・・・・・・」
あぁ・・・・座っている人達の顔が見れない。
一人一人の表情を見て話そうと、心に決めていたのに、いざ、目の前にすると決めていたものが実行出来ない。
話そうと思っているのに、上手く口が開けないし、舌が張り付いている感覚になる。
喉が震え、それに連動しているのか体が、手が、指が震える。
その時、肩に重みが伸し掛かる。驚いて肩の方を見ると、隣に静かに立っていた人物の手が肩に乗っていた。
「?・・・・・・ん・・・・」
視界が歪むのは、必死になって堪えていたモノが原因なのだろうか?
その人物が歪んでいく。けど、歪んでいても分かるものがある。
私を守るように側に立ち、こうして言葉に詰まる私を励まそうとしている気遣いに背中を押される。
貴方がいてくれるから、私は前に進めるのかもしれない。
庵君がいてくれるから、庵君が私を支えてくれるから、私は前に進もうと頑張れる。
「私は皇帝の唯一無二の力によって、我々の敵である「吸血鬼」に体を作り替えられました。私は死ぬまで「吸血鬼」として生きなければなりません」
庵君を見た状態から、座っている人達に顔を向け、自分の事を話す。私の今の状態を。我々の敵である吸血鬼に体が作り替えられたことを。
夜神の告白で重苦しい静寂だった部屋は一気に様子が変わる。
座っている者達同士で話し出していく。中には頭を抱えてため息を付く者も現れる。
その様子を夜神は涙を流して見ていた。堪えていたモノが自分の告白と同時に赤い瞳から零れ落ちた。
すると、次々に溢れては頬を伝い落ちて、白いシーツを濡らしていく。
肩に励ますように置いてあった庵の手も、僅かに震えていた。
「自分から志願してなったのか?」「一体、どんな術を使ったのか分かるか!」「食事はやはり血液なのか?」「人を襲いたくる衝動になるものなのか?」「血が欲しくなると凶暴化するのか?」
次々に質問が出てくる。
未知の存在で、自分達を目の前にして襲うことをしない吸血鬼など、まして、軍の関係者の者が吸血鬼になったなど前代未聞。
気になることは山のようにある。だから、色々な質問が矢のように夜神に降り注ぐ。
その一つ一つを掴むように、夜神は聞かれた質問に答えていく。
「私は志願してはいません・・・・・・術を使われたのは私が帝國に拉致された時から始まっていました」
始まりは私が帝國に拉致された時からだ。その時から皇帝の手のひらで踊り、全てを奪われていった。
「皇帝しか使えない術です。他の吸血鬼は全く使えない・・・・皇帝の体の一部分を毎日、体内に取り込ませ、最後に血を投与し術を定着させる。そして、一定の期間で体内の構成を書き換えて、再び血を投与し、最後に術を発動させ人間を吸血鬼に変えていく・・・・・・・そうして私は吸血鬼にされました・・・・・・・」
胸が苦しい・・・・・・
心が痛い・・・・・・・
苦しい、痛い、苦しい、痛い・・・・・・
布団を掴んでいた手はいつの間にか自分の胸辺りを掴んでいた。
白い指先から見える爪は、マニキュアを使ったように赤く染まっていた。それは爪自体が赤くなっている。
人間のようで人間ではない吸血鬼になっていると、爪からも訴えているように見える。
「そして、食事は血液です。果物・・・・柑橘系は無理ですが、ある程度の果物は食べられます。紅茶に蜂蜜を溶かしたものもよく飲んでました。普通の食事は・・・・・正直分かりません。食べてみないと」
余りにも色々あり過ぎて、普通の食事を食べることが叶わなかった。もし、食事で賄えるなら食事で賄いたいと願うばかりだ。
「記憶が朧気で申し訳ないのですが、私の場合、血が足りなくなってしまったらよく眠ってました。少しでも活動を抑えようと自己防衛が働いてなのかもしれません」
眠っていたのは記憶にある。少しでも1人になりたくて温室や中庭に行っていて。そこで突然、睡魔が襲い眠っていた。今思えばそれは少しでも活動を抑えていたのかもしれない。自分の中にある「私は人間だ」と言う気持ちが働いていたのかもしれない。奥卒に過ぎないが・・・・・
「血を見て襲いたくなるのは正直分かりません。けど、吸血鬼になって皇帝と戦った時、皇帝の血を見ても凶暴化する事はなかったです。これは正直、私でも分からないです。もしかしたら人間の血を見て凶暴化するかもしれません」
自分でも正直分からない。分からないから「かもしれない」と曖昧な言葉しか出てこない。
「・・・・・・・色々と我々では考えられない事が多すぎて正直、対応に困ってしまうが・・・・・夜神さんはどうしたい?それによって我々は対応を決めていきたいとも考えている」
藤堂元帥より年上だと思う人物が聞いてくる。
落ち着いた声色に、少しだけ曇った心に一筋の光が見えたような気がします。
ギュッと体が縮こまる。答申委員会を言い渡された日からずっと考えていたことだ。
自分の立ち位置、自分の存在意義、これから先の事、未来・・・・・
ずっと、悩み、考えていた。そして、辿り着いた答えは・・・・・・
「私は・・・・・」
答えに、願いに戸惑ってしまう。頭では考えているのに、声が出ない。舌が張り付いたように動かない。
その時、私の肩がグッと掴まれる。痛い、と不快に思う痛さではない。むしろ私を勇気付けるような、励ますような力加減だ。
私を勇気付ける行為をした人物を仰ぎ見る。そこにある顔は私が大好きな人で、私を心から愛してくれている人。この人がいてくれたから私は自分の進むべき道を模索出来たし、歩もうと一歩を踏み出せる。
「庵君・・・・・・」
本来なら彼はここにはいない。けど、帝國に行った夜神凪が、帝國によって何らかの影響により、非戦闘員の委員会の人を襲う恐れがあるかもしれないから、万全の態勢を迎えるために人を配置した。その人物が庵伍長だった・・・・・・が、藤堂元帥の話だ。
だから、何か不穏な動きがあればすぐに対応出来るように、すぐ近くにいるとのことだった。
誰かを襲うと思われるのは癪に障るが、それでも構わない。
発言権は与えられてないが、すぐ近くにいて、こうして、私に寄り添うようにして励ましてくれる。それで、十分だ。
「私は・・・・こんな私ですが、誰かの役に立ちたいんです。私で何か役に立てるなら私は喜んで捧げます。なにかの足がかりになるなら、私を踏み台にして頂いても構わない。許されるならもう一度軍に戻りたいんです・・・・・・」
今の私は軍人ではない。正確には一時剥奪。時と場合によっては、軍の復帰は可能。しかし、私の場合は少々厄介かもしれない。
「なっ!世迷言も大概にしろ!!吸血鬼が軍になど馬鹿にしているのか!!」
「そうして、仲間を軍に引き入れるのだろう!!」
「ふざけるのもいい加減しろ!!いくら功績があろうと、認められるか」
「貴方は、自分の仲間に手を下せるの?」
否定的な言葉しか生まれ出てこないことは覚悟していた。
いくら実績があろうと、いくら軍の為に尽くしていようと、今の私は吸血鬼。
我が軍は、人類に牙を剥き、仇なす吸血鬼を殲滅する対吸血鬼殲滅部隊・・・・・
その部隊の中に、吸血鬼が混じっているなど言語道断
「皆様の懸念する事は重々承知しております。だから、私が暴走した時には迷わず存在を消して下さい。それだけの覚悟はしてます。そして、私を使って吸血鬼の解明をして下さい。少しでも役に立ちたいんです・・・・・」
私の肩に置いている手が震える。私の「覚悟」を一番知っていて、理解している。けど、それを聞いていて、気持ちのいいものではない事ぐらい分かっている。
だから、気持ちを抑える為に手が震えるのも分かっている。
「どうか、私の気持をご理解いただけないでしょうか・・・・・・」
ベッドの上からでは失礼だと分かっているが、布団に額を擦り付けるように深々と頭を下げる。
夜神の行為にザワついていた室内は、一気に静けさを取り戻す。
暫く静寂が続いたが、一人の声がその静かな室内に響き渡る。重々しく、けど、何故か優しさが所々に垣間見える声で・・・・・・・
「では、これならどうでしょうか?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自分は吸血鬼だと言った上で、もう一度軍に復帰したい事を告げました。
やっぱり反感はありますよね~
けど、それでも前に突き進むと気持ちを固めた夜神大佐と、庵伍長。
茨の道はまだまだ続きます。そして、提案を述べたのは誰なんでしょうか?
沢山のパイプ椅子に、重苦しい顔、険しい顔の男女。中には涙目になっている者もいた。
ベッドには白練色の髪と赤い瞳の、この世の人間とは思えないほど奇妙な色を持った女性が、自分に掛けられている布団を震える程掴み、必死に何かに耐えている。
側に立つ男性は黒い軍服を着用し、女性と同じように何かに耐えている様にも見える。
重苦しい、口を開いていいのか分からないこの現状を打破したのは、男性と同じく軍服を着た男性だった。その人物は軍のトップ━━━藤堂元帥だ。
「・・・・・理解の範囲を遥かに飛び越えてしまっているが、概ね分かった。「ブラッド・ゲート」の出来た経緯、帝國の成り立ち・・・・・我々が知らないことを理解したのはかなりの収穫だ・・・・・・」
知らない事を知れた・・・・・
この事は確かに、大いなる収穫なのかもしれない。
そうかもしれないが、これは余りにも・・・・・残酷なのかもしれない。
「私は「ブラッド・ゲート」を作り出した「ルルワ」の末裔・・・・・庵伍長は軍を、「吸血鬼殲滅部隊」を作り上げ「高位クラス武器」を生み出した「アベル」の末裔です・・・・・」
そう、何かしらの咎を受けないといけないのならば、今、私の言ったことを念頭に考えてほしい。
私は罪を、大きな十字架を背負うけど、庵君は違う。だから、何かしらの罰があるのならば、その事を頭の片隅でもいいから覚えていて欲しい。
「夜神さんの話を丸々受け入れるのは、些か・・・・かなり悩みますが・・・・本当の事なんですよね?」
パイプ椅子に座った一人が疑問の声を上げる。
無理もないだろう。ただでさえ、お伽話の中で語り継がれる「吸血鬼」などと言われる脅威から、人々を守る為に我々は存在している。
実際、目にしているから信じられるが、話だけだと実感が持てない。
ブラッド・ゲートの存在も見たことがあるから、そこが開かれて我々の脅威が降り立ち、人々を苦しめるのを見たことがあるから信じられる。
けど、その扉を作り上げたのが私の先祖だと言って、どれだけの人が信じてくれるのだろう?
人間の多くは、自分の目で見たことしか信じられない。当たり前だ。
特に実態の掴めない、幽霊や妖怪になれば事さらに多くなる。
今、話していることは、まさにその事に該当する。
「信じられないと思うかもしれません。ですが、全てを理解して欲しいとは言いませんが、事実なのは間違いないです・・・・・・私は大きな十字架を背負う者です。何らかの形で罪を償わないといけない者です」
どんな形にせよ、私は一生をかけて罪を償わないといけない。
そして、罪を償うこと同時に、私は自分の正体も晒さないといけない。
好きでなった訳でもないのに・・・・・・
無理矢理に変えられた・・・・・・・・・
「罪を償うと同時に、私は今の己の立場を説明しないといけません・・・・・・・既にお気づきの方もいらっしゃると思います。中には疑っている方も・・・・・・・・」
あぁ・・・・座っている人達の顔が見れない。
一人一人の表情を見て話そうと、心に決めていたのに、いざ、目の前にすると決めていたものが実行出来ない。
話そうと思っているのに、上手く口が開けないし、舌が張り付いている感覚になる。
喉が震え、それに連動しているのか体が、手が、指が震える。
その時、肩に重みが伸し掛かる。驚いて肩の方を見ると、隣に静かに立っていた人物の手が肩に乗っていた。
「?・・・・・・ん・・・・」
視界が歪むのは、必死になって堪えていたモノが原因なのだろうか?
その人物が歪んでいく。けど、歪んでいても分かるものがある。
私を守るように側に立ち、こうして言葉に詰まる私を励まそうとしている気遣いに背中を押される。
貴方がいてくれるから、私は前に進めるのかもしれない。
庵君がいてくれるから、庵君が私を支えてくれるから、私は前に進もうと頑張れる。
「私は皇帝の唯一無二の力によって、我々の敵である「吸血鬼」に体を作り替えられました。私は死ぬまで「吸血鬼」として生きなければなりません」
庵君を見た状態から、座っている人達に顔を向け、自分の事を話す。私の今の状態を。我々の敵である吸血鬼に体が作り替えられたことを。
夜神の告白で重苦しい静寂だった部屋は一気に様子が変わる。
座っている者達同士で話し出していく。中には頭を抱えてため息を付く者も現れる。
その様子を夜神は涙を流して見ていた。堪えていたモノが自分の告白と同時に赤い瞳から零れ落ちた。
すると、次々に溢れては頬を伝い落ちて、白いシーツを濡らしていく。
肩に励ますように置いてあった庵の手も、僅かに震えていた。
「自分から志願してなったのか?」「一体、どんな術を使ったのか分かるか!」「食事はやはり血液なのか?」「人を襲いたくる衝動になるものなのか?」「血が欲しくなると凶暴化するのか?」
次々に質問が出てくる。
未知の存在で、自分達を目の前にして襲うことをしない吸血鬼など、まして、軍の関係者の者が吸血鬼になったなど前代未聞。
気になることは山のようにある。だから、色々な質問が矢のように夜神に降り注ぐ。
その一つ一つを掴むように、夜神は聞かれた質問に答えていく。
「私は志願してはいません・・・・・・術を使われたのは私が帝國に拉致された時から始まっていました」
始まりは私が帝國に拉致された時からだ。その時から皇帝の手のひらで踊り、全てを奪われていった。
「皇帝しか使えない術です。他の吸血鬼は全く使えない・・・・皇帝の体の一部分を毎日、体内に取り込ませ、最後に血を投与し術を定着させる。そして、一定の期間で体内の構成を書き換えて、再び血を投与し、最後に術を発動させ人間を吸血鬼に変えていく・・・・・・・そうして私は吸血鬼にされました・・・・・・・」
胸が苦しい・・・・・・
心が痛い・・・・・・・
苦しい、痛い、苦しい、痛い・・・・・・
布団を掴んでいた手はいつの間にか自分の胸辺りを掴んでいた。
白い指先から見える爪は、マニキュアを使ったように赤く染まっていた。それは爪自体が赤くなっている。
人間のようで人間ではない吸血鬼になっていると、爪からも訴えているように見える。
「そして、食事は血液です。果物・・・・柑橘系は無理ですが、ある程度の果物は食べられます。紅茶に蜂蜜を溶かしたものもよく飲んでました。普通の食事は・・・・・正直分かりません。食べてみないと」
余りにも色々あり過ぎて、普通の食事を食べることが叶わなかった。もし、食事で賄えるなら食事で賄いたいと願うばかりだ。
「記憶が朧気で申し訳ないのですが、私の場合、血が足りなくなってしまったらよく眠ってました。少しでも活動を抑えようと自己防衛が働いてなのかもしれません」
眠っていたのは記憶にある。少しでも1人になりたくて温室や中庭に行っていて。そこで突然、睡魔が襲い眠っていた。今思えばそれは少しでも活動を抑えていたのかもしれない。自分の中にある「私は人間だ」と言う気持ちが働いていたのかもしれない。奥卒に過ぎないが・・・・・
「血を見て襲いたくなるのは正直分かりません。けど、吸血鬼になって皇帝と戦った時、皇帝の血を見ても凶暴化する事はなかったです。これは正直、私でも分からないです。もしかしたら人間の血を見て凶暴化するかもしれません」
自分でも正直分からない。分からないから「かもしれない」と曖昧な言葉しか出てこない。
「・・・・・・・色々と我々では考えられない事が多すぎて正直、対応に困ってしまうが・・・・・夜神さんはどうしたい?それによって我々は対応を決めていきたいとも考えている」
藤堂元帥より年上だと思う人物が聞いてくる。
落ち着いた声色に、少しだけ曇った心に一筋の光が見えたような気がします。
ギュッと体が縮こまる。答申委員会を言い渡された日からずっと考えていたことだ。
自分の立ち位置、自分の存在意義、これから先の事、未来・・・・・
ずっと、悩み、考えていた。そして、辿り着いた答えは・・・・・・
「私は・・・・・」
答えに、願いに戸惑ってしまう。頭では考えているのに、声が出ない。舌が張り付いたように動かない。
その時、私の肩がグッと掴まれる。痛い、と不快に思う痛さではない。むしろ私を勇気付けるような、励ますような力加減だ。
私を勇気付ける行為をした人物を仰ぎ見る。そこにある顔は私が大好きな人で、私を心から愛してくれている人。この人がいてくれたから私は自分の進むべき道を模索出来たし、歩もうと一歩を踏み出せる。
「庵君・・・・・・」
本来なら彼はここにはいない。けど、帝國に行った夜神凪が、帝國によって何らかの影響により、非戦闘員の委員会の人を襲う恐れがあるかもしれないから、万全の態勢を迎えるために人を配置した。その人物が庵伍長だった・・・・・・が、藤堂元帥の話だ。
だから、何か不穏な動きがあればすぐに対応出来るように、すぐ近くにいるとのことだった。
誰かを襲うと思われるのは癪に障るが、それでも構わない。
発言権は与えられてないが、すぐ近くにいて、こうして、私に寄り添うようにして励ましてくれる。それで、十分だ。
「私は・・・・こんな私ですが、誰かの役に立ちたいんです。私で何か役に立てるなら私は喜んで捧げます。なにかの足がかりになるなら、私を踏み台にして頂いても構わない。許されるならもう一度軍に戻りたいんです・・・・・・」
今の私は軍人ではない。正確には一時剥奪。時と場合によっては、軍の復帰は可能。しかし、私の場合は少々厄介かもしれない。
「なっ!世迷言も大概にしろ!!吸血鬼が軍になど馬鹿にしているのか!!」
「そうして、仲間を軍に引き入れるのだろう!!」
「ふざけるのもいい加減しろ!!いくら功績があろうと、認められるか」
「貴方は、自分の仲間に手を下せるの?」
否定的な言葉しか生まれ出てこないことは覚悟していた。
いくら実績があろうと、いくら軍の為に尽くしていようと、今の私は吸血鬼。
我が軍は、人類に牙を剥き、仇なす吸血鬼を殲滅する対吸血鬼殲滅部隊・・・・・
その部隊の中に、吸血鬼が混じっているなど言語道断
「皆様の懸念する事は重々承知しております。だから、私が暴走した時には迷わず存在を消して下さい。それだけの覚悟はしてます。そして、私を使って吸血鬼の解明をして下さい。少しでも役に立ちたいんです・・・・・」
私の肩に置いている手が震える。私の「覚悟」を一番知っていて、理解している。けど、それを聞いていて、気持ちのいいものではない事ぐらい分かっている。
だから、気持ちを抑える為に手が震えるのも分かっている。
「どうか、私の気持をご理解いただけないでしょうか・・・・・・」
ベッドの上からでは失礼だと分かっているが、布団に額を擦り付けるように深々と頭を下げる。
夜神の行為にザワついていた室内は、一気に静けさを取り戻す。
暫く静寂が続いたが、一人の声がその静かな室内に響き渡る。重々しく、けど、何故か優しさが所々に垣間見える声で・・・・・・・
「では、これならどうでしょうか?」
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自分は吸血鬼だと言った上で、もう一度軍に復帰したい事を告げました。
やっぱり反感はありますよね~
けど、それでも前に突き進むと気持ちを固めた夜神大佐と、庵伍長。
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