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口を開いたのは先程の藤堂元帥より年上の人だった。
「夜神さんには暫くの間、軍の管理下のもと待機してもらいます。場所は・・・・・以前にも夜神さんが帝國に行く前にいた所がいいかもしれませんね?あそこは軍の中なので何かあったら即座に対応出来るでしょう・・・・・」
そう言って、藤堂元帥の方を見る。
「吸血鬼殲滅部隊日本支部監査局」
我々、「吸血鬼殲滅部隊」を監査・監視する行政機関「吸血鬼殲滅部隊日本支部監査局」がある。
そして、この人物こそこが、そこのトップ「局長」と言われる人物だ。
けど、夜神の知っている人物とは全く違う。常に人を馬鹿にする様な態度をしていた。とくに我々、軍に対して・・・・・
その人物は本條 一志で、吸血鬼の世界で生まれた二世・三世と名乗っていた。
自分達の人権取得、生活の向上の為に人間の世界にスパイ活動をし、吸血鬼の世界に情報を流していた。
ある意味、吸血鬼の被害者だけど、人類にとっては敵の人物だった人だ。
けど、今の局長は違う。性格が真逆なのかと疑う程温厚な人物だ。
その人物が温情なのか、それとも計算なのか全く読めない感情で「軍の管理下のもと」を掲げて話す。
「時間は・・・・・そうですね~一ヶ月ぐらいですかね?人間は食事をしないとお腹が減ります。それは吸血鬼も同じ・・・・・飢えた状態で人間を襲わなければいいですし、襲えば軍の施設・・・・即座に対応出来るでしょう?」
柔和な顔なのに眼光だけは違う。鋭い、全てを切り裂くような目で、藤堂元帥と私を見る。
泣いていたのに、涙が一瞬で止まる程の威圧にたじろいでしまう。
「えぇ・・・・対応は即、可能です」
けど、そこを真っ向から迎えているのに、恐れも何も微塵に感じさせない藤堂元帥に夜神は賞賛してしまった。
流石、百戦錬磨。潜り抜けた場数が夜神とは圧倒的に違うだけある。
「吸血鬼は不老不死、などと言われているけど、流石に不死はないと思うけど、夜神さんはそこの所はどうなのかな?」
「・・・・・・不死ではないです。元々の体は人間なので、寿命も人間と同じと言われました。勿論、年もそれ相応に取ります。身体能力は人間と比べれば高いですが、吸血鬼並みかと問われれば・・・・違うと思います。あくまで私個人の判断ですが・・・・・・」
先祖が吸血鬼なのか、今までも身体能力は高かった。そして、吸血鬼になってしまったせいで、更に向上しているとは思う。けど、吸血鬼並の力を手に入れたのかと問われると疑問があるが。
「そうなんですね。なら、やはり、軍の監査かの元、夜神さんは暫くの間、待機してもらいましょう。その間に我々、人類の為に協力をお願いします。勿論、非人道的行為はしません。血の提供等の協力はするかもしれませんが・・・・・それで構いませんか?藤堂元帥?」
顔は笑っているが、やはり目は笑っていない。そして、有無を言わせない威圧的が言葉の端々に感じられる。
一体、今度の局長はどんな人物なのか末恐ろしさもある。
けど、そんな相手に臆することなく藤堂元帥は対応する。
「承知しました。こちらとしても何かあった場合の対応が、可及的速やかに出来るためにも、軍にいてくれたほうがありがたいです。そして、その間に判断頂ければと思います」
藤堂元帥の返答に満足した新しい局長は、今度は返答委員会のメンバーを見る。すると、委員会の面々も背筋を伸ばして話を聞く態勢になる。
「藤堂元帥もああ、言ってますし、夜神さんもそれなりの覚悟がおありのようだ。それに、何かあった場合、軍は元・軍人の夜神さんでなく、吸血鬼の夜神さんとして対応してくれる。それに、我々では不可解な吸血鬼の謎に一歩前進する機会です。ただでさえ、人間より強い吸血鬼。それが仲間になるのであれば、これ程心強い事はないでしょう。いかがでしょうか?」
顔は見えないが、先ほどと同じようにに、言葉の端々に威圧を感じる。
それは、私の肩に手を置いている庵君も同じだったようで、僅かに手が震えているのが伝わる。
息の詰まる、一瞬の隙もない「間」があった後、委員会の一人が声を出す。その声は局長の意見に賛成するものだった。
一人が賛成すると、次々に賛成する者が現れる。そして、満場一致で賛成になる。
「結果は賛成になりました。夜神さんは退院は可能だと日守衛生部長から確認はとってます。準備もあるでしょうから明日、退院しましょう。そして、軍の施設に移動して、我々に証明して下さい。味方だと言うことを。体は吸血鬼になってしまっても、心は人間だと証明して下さい。全てはあなた次第です」
励ますような、味方のような雰囲気が伝わるがそうではない。
言葉の端々に伝わる威圧が、別の何かを伝える。前・局長の本條局長とはまた違う「何か」が、この新しい局長には感じられる。
けど、それでも、私に新たな進む道を示してくれた事には変わりない。
その先に何が待ち構えているのかは不明だが、それでも構わない。
「はい。例え何があろうと私は証明してみせます」
夜神の赤い瞳が、局長をはじめとした委員会の面々を見る。
訝しみ、疑惑的な眼差ししかない。けど、もし、味方ならば?これ程心強い事はない。
人間の数倍の身体能力がある吸血鬼。数人掛かりで一人の吸血鬼を討伐することがやっとだ。
けど、少しでも負担が減ることが出来るならば、これ程喜ばしいことはない。
その為に、自身を提供してくれる存在は大変有意な存在・・・・・・
疑惑の中には「もしかして」と何かを見出したモノも含まれている。
そんな、複雑な眼差しを一辺に受け、夜神は固唾を呑む。緊張か、恐怖かは分からない。自分に向けられる眼差しの種類が複雑すぎて処理が出来ないせいで、自分を落ち着けるために固唾を呑んだのかもしれない。
「夜神さんの心意気重々承知ました。藤堂元帥もそれで構いませんよね?時と場合によっては貴方が最終的判断を下さなければなりませんよ?それを込みにしても貴方は夜神さんの意見に賛同し、軍に協力といった形で夜神さんを迎え入れますね?」
静かな声で藤堂元帥に語る。考えたくないが、何かあったら判断をしないといけない。それは実に悲しいことだか、万が一はある。
「勿論です。我々に味方してくれるならば喜ばしいことです。実力は既に知っていると思います。これ程の実力者がいるならば日本軍はさらなる飛躍があることでしょう。世界の軍の中でトップを維持できることが可能です」
軍の上層部は常に世界のトップを目指している。それが存在意義だと思っているからだ。
その中でも「夜神凪」は最強のカードだ。実力はトップクラス。単体で吸血鬼の討伐を可能にしてきた。
そして、帝國に拉致ではあったが行き、帰ってきて、情報を伝えた。
更には、吸血鬼になり、それでも人間の味方だと、自分の置かれている立場を理解しているうえで存在意義を伝える。
これ程、扱いやすい手駒は中々いないだろう。
「そうですね。軍がさらに飛躍する事は喜ばしいことです・・・・・・皆さんも藤堂元帥、監視下の元、夜神さんを一時的に監視する事で宜しいですか?」
軍の飛躍を願うから、夜神の監視をする。そして、問題なければそのまま軍に居続ける。我々の敵である吸血鬼を殲滅する為に。
共食いのように、吸血鬼に吸血鬼を与える。
自分の置かれている立場は脆く、不安定な場所だ。足場なんて足、一個分しかないのかと疑う程。
それ程、自分の存在は危うい。その、危うい存在を守ろうとする藤堂元帥。骨の髄までしゃぶり尽くし、自分達の良いように使い捨てようとする上層部や委員会の面々。
未だに、どっちの立場か分からない局長。渾渾沌沌とした空気が、白い病室に重く漂う。
「軍がしっかりと監視するならば問題ないと思います。前・局長の不正を暴いた藤堂元帥なら間違いないてしょう」
「おぉ、そうだ。藤堂元帥なら大丈夫でしょう。夜神さんの監視任せましたよ」
一人の賛同が感染したように次々に広がる。中には抗体を持っているのか、感染せずに固い表情のまま夜神達を見つめる者もいる。
「多数の賛成により夜神さんの監視を軍にお願いします。勿論、不正な動き、我々人類に不利な動き、自我を失くし人類を襲うならば即刻、その命は刈り取られると思って下さい・・・・・そうならない事を祈ります」
ずっと張り詰めた声だったのに、最後の言葉だけは縋るような、そうならない事を本当に願う、切ない声にも聞こえる。
その声を聞いて夜神は局長の瞳をまじまじと見つめる。藤堂元帥の眼差しにも似ていた。威厳があるのに何処か優し眼差し。それは、子の成長を見守る親の眼差しにも似ている。
「はい。けして、人類の敵にはなりません。最後まで私は人の味方でいたいです・・・・・願うならば最後まで・・・・・」
最後まで・・・・・死ぬ瞬間まで、私は人に寄り添いたい。それが願いだ・・・・・
たとえ、誰かの「血」をもらいながら生きていこうとも、私は人に寄り添いたい。指をさされ、傷付く言葉を投げ付けられようと気持ちは変わらない。
「分かりました。では、藤堂元帥後はお任せします。部屋を整えたりしないといけないと思いますしね。我々、委員会もこれで終了です。あとは、夜神さん次第ですからね?・・・・・・では、委員会を終了します。皆さん、お疲れ様でした」
解散を知らせる言葉で、張り詰めていた空気が一気になくなる。
様々な事を思う気持ちがある中、委員会の面々はバラバラに立ち上がり部屋を出ていく。中には、こちらを何度も見返す者も。
そして、部屋には夜神と庵、藤堂と新しい局長の四人だけが残る。
「自己紹介が遅くなったね。私の名前は安曇といいます。元・軍出身で虎次郎の師匠なんだ。だから軍の事もよく分かっているよ。勿論、夜神さんの事もね。色々と試すような事や、脅しをかけてすまない。けど、こうでもしないと委員会・・・・上層部は納得しないからね」
笑ってこちらを見る顔は、先程の冷たい顔とは違い優し、陽だまりのような印象だ。
「いえ・・・・・上層部の事は色々と承知してます。虎次郎の先生なんですか?だから二手、三手先を読んで話を進めていたんですね?」
話を進める話術。先を見据えていく先見の眼。虎次郎の先生ならば何となく納得してしまう。
「けど、貴女を信じたい気持ちは十二分にあるが、それと同時に疑いもある。だから、証明して下さい。他の吸血鬼は仕方ないとしても、貴女は違うと言う事を。貴女は我々の味方だと、己で証明して下さい。まずは、血を、食事を抜かれての行動がどうなるのかです。そこが貴女のこれからの人生の分かれ目だと思って下さい・・・・・・幸運を祈ります」
差し出された手をまじまじと見てしまう。一瞬の躊躇いが生まれたが、夜神はゆっくりと手を差し出して手を握る。
大きな温かい手に安堵してしまう。その温かさが手から伝わり、自分の緊張で冷たくなった心を温めてくれるようにも感じてしまう。
「はい。自分で証明します。私はみんなの味方だと。居場所は自分で掴み取ります」
じんわりと広がった心の温もりに勇気付けられて、声も心なしか上向きなような気がする。
「信じてます・・・・・・私はそろそろ退出しましょかね。藤堂元帥もこれからの事を色々と詰めないといけないのでお付き合い下さい」
「承知した。では、凪、明日迎えに来るから今日はゆっくりとしなさい。庵伍長もありがとう」
「いえ。同席の許可ありがとう御座いました」
庵に労いの言葉を送った藤堂に向かって、庵は敬礼で返答を返す。
本来ならいないはずの庵が同席した。そこには色々とあったことは有意に考えられる。けど、そんな苦労を微塵も感じさせずに藤堂は庵に労いの言葉を送る。だから、庵も心からの返答を送った。
「ありがとう御座います。明日、宜しくお願いします」
一瞬、敬礼してしまいそうになったが、今は軍人ではない自分に気が付き、深々と頭を下げる。
二人の挨拶を見て、藤堂と安曇は病室を出ていく。
「ありがとうね。庵君・・・・・傍にいてくれたから心強かった」
庵の方を向き、夜神はいつもの微笑みを庵に向ける。変わらないその微笑みに、庵は居ても立ってもいられず思わず抱きしめてしまう。
「・・・・・傍にいます。たとえ、何があっても傍にいます」
一瞬、驚いて体が固まってしまった夜神だったが、ゆっくりと庵の背中に腕を回し同じように抱きしめる。
「ありがとう」
色々と言葉が出てくるのに、今の自分が言えるのは「ありがとう」と簡単な言葉しか出ない。
だから、その分抱きしめる力を強くする。自分の気持ちを知って欲しくて。
庵も夜神の気持ちを理解して、同じように強く抱きしめる。
長いような短いような・・・・・けど、心には十二分に伝わった抱擁だった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
これから軍の軟禁?監禁?みたいな事があるんでしょうなぁ~~
人体実験とかあるのか?いや、そこまで酷いの?・・・・・大佐、大丈夫?生きてられる?
さぁ、どうなることやら・・・・
「夜神さんには暫くの間、軍の管理下のもと待機してもらいます。場所は・・・・・以前にも夜神さんが帝國に行く前にいた所がいいかもしれませんね?あそこは軍の中なので何かあったら即座に対応出来るでしょう・・・・・」
そう言って、藤堂元帥の方を見る。
「吸血鬼殲滅部隊日本支部監査局」
我々、「吸血鬼殲滅部隊」を監査・監視する行政機関「吸血鬼殲滅部隊日本支部監査局」がある。
そして、この人物こそこが、そこのトップ「局長」と言われる人物だ。
けど、夜神の知っている人物とは全く違う。常に人を馬鹿にする様な態度をしていた。とくに我々、軍に対して・・・・・
その人物は本條 一志で、吸血鬼の世界で生まれた二世・三世と名乗っていた。
自分達の人権取得、生活の向上の為に人間の世界にスパイ活動をし、吸血鬼の世界に情報を流していた。
ある意味、吸血鬼の被害者だけど、人類にとっては敵の人物だった人だ。
けど、今の局長は違う。性格が真逆なのかと疑う程温厚な人物だ。
その人物が温情なのか、それとも計算なのか全く読めない感情で「軍の管理下のもと」を掲げて話す。
「時間は・・・・・そうですね~一ヶ月ぐらいですかね?人間は食事をしないとお腹が減ります。それは吸血鬼も同じ・・・・・飢えた状態で人間を襲わなければいいですし、襲えば軍の施設・・・・即座に対応出来るでしょう?」
柔和な顔なのに眼光だけは違う。鋭い、全てを切り裂くような目で、藤堂元帥と私を見る。
泣いていたのに、涙が一瞬で止まる程の威圧にたじろいでしまう。
「えぇ・・・・対応は即、可能です」
けど、そこを真っ向から迎えているのに、恐れも何も微塵に感じさせない藤堂元帥に夜神は賞賛してしまった。
流石、百戦錬磨。潜り抜けた場数が夜神とは圧倒的に違うだけある。
「吸血鬼は不老不死、などと言われているけど、流石に不死はないと思うけど、夜神さんはそこの所はどうなのかな?」
「・・・・・・不死ではないです。元々の体は人間なので、寿命も人間と同じと言われました。勿論、年もそれ相応に取ります。身体能力は人間と比べれば高いですが、吸血鬼並みかと問われれば・・・・違うと思います。あくまで私個人の判断ですが・・・・・・」
先祖が吸血鬼なのか、今までも身体能力は高かった。そして、吸血鬼になってしまったせいで、更に向上しているとは思う。けど、吸血鬼並の力を手に入れたのかと問われると疑問があるが。
「そうなんですね。なら、やはり、軍の監査かの元、夜神さんは暫くの間、待機してもらいましょう。その間に我々、人類の為に協力をお願いします。勿論、非人道的行為はしません。血の提供等の協力はするかもしれませんが・・・・・それで構いませんか?藤堂元帥?」
顔は笑っているが、やはり目は笑っていない。そして、有無を言わせない威圧的が言葉の端々に感じられる。
一体、今度の局長はどんな人物なのか末恐ろしさもある。
けど、そんな相手に臆することなく藤堂元帥は対応する。
「承知しました。こちらとしても何かあった場合の対応が、可及的速やかに出来るためにも、軍にいてくれたほうがありがたいです。そして、その間に判断頂ければと思います」
藤堂元帥の返答に満足した新しい局長は、今度は返答委員会のメンバーを見る。すると、委員会の面々も背筋を伸ばして話を聞く態勢になる。
「藤堂元帥もああ、言ってますし、夜神さんもそれなりの覚悟がおありのようだ。それに、何かあった場合、軍は元・軍人の夜神さんでなく、吸血鬼の夜神さんとして対応してくれる。それに、我々では不可解な吸血鬼の謎に一歩前進する機会です。ただでさえ、人間より強い吸血鬼。それが仲間になるのであれば、これ程心強い事はないでしょう。いかがでしょうか?」
顔は見えないが、先ほどと同じようにに、言葉の端々に威圧を感じる。
それは、私の肩に手を置いている庵君も同じだったようで、僅かに手が震えているのが伝わる。
息の詰まる、一瞬の隙もない「間」があった後、委員会の一人が声を出す。その声は局長の意見に賛成するものだった。
一人が賛成すると、次々に賛成する者が現れる。そして、満場一致で賛成になる。
「結果は賛成になりました。夜神さんは退院は可能だと日守衛生部長から確認はとってます。準備もあるでしょうから明日、退院しましょう。そして、軍の施設に移動して、我々に証明して下さい。味方だと言うことを。体は吸血鬼になってしまっても、心は人間だと証明して下さい。全てはあなた次第です」
励ますような、味方のような雰囲気が伝わるがそうではない。
言葉の端々に伝わる威圧が、別の何かを伝える。前・局長の本條局長とはまた違う「何か」が、この新しい局長には感じられる。
けど、それでも、私に新たな進む道を示してくれた事には変わりない。
その先に何が待ち構えているのかは不明だが、それでも構わない。
「はい。例え何があろうと私は証明してみせます」
夜神の赤い瞳が、局長をはじめとした委員会の面々を見る。
訝しみ、疑惑的な眼差ししかない。けど、もし、味方ならば?これ程心強い事はない。
人間の数倍の身体能力がある吸血鬼。数人掛かりで一人の吸血鬼を討伐することがやっとだ。
けど、少しでも負担が減ることが出来るならば、これ程喜ばしいことはない。
その為に、自身を提供してくれる存在は大変有意な存在・・・・・・
疑惑の中には「もしかして」と何かを見出したモノも含まれている。
そんな、複雑な眼差しを一辺に受け、夜神は固唾を呑む。緊張か、恐怖かは分からない。自分に向けられる眼差しの種類が複雑すぎて処理が出来ないせいで、自分を落ち着けるために固唾を呑んだのかもしれない。
「夜神さんの心意気重々承知ました。藤堂元帥もそれで構いませんよね?時と場合によっては貴方が最終的判断を下さなければなりませんよ?それを込みにしても貴方は夜神さんの意見に賛同し、軍に協力といった形で夜神さんを迎え入れますね?」
静かな声で藤堂元帥に語る。考えたくないが、何かあったら判断をしないといけない。それは実に悲しいことだか、万が一はある。
「勿論です。我々に味方してくれるならば喜ばしいことです。実力は既に知っていると思います。これ程の実力者がいるならば日本軍はさらなる飛躍があることでしょう。世界の軍の中でトップを維持できることが可能です」
軍の上層部は常に世界のトップを目指している。それが存在意義だと思っているからだ。
その中でも「夜神凪」は最強のカードだ。実力はトップクラス。単体で吸血鬼の討伐を可能にしてきた。
そして、帝國に拉致ではあったが行き、帰ってきて、情報を伝えた。
更には、吸血鬼になり、それでも人間の味方だと、自分の置かれている立場を理解しているうえで存在意義を伝える。
これ程、扱いやすい手駒は中々いないだろう。
「そうですね。軍がさらに飛躍する事は喜ばしいことです・・・・・・皆さんも藤堂元帥、監視下の元、夜神さんを一時的に監視する事で宜しいですか?」
軍の飛躍を願うから、夜神の監視をする。そして、問題なければそのまま軍に居続ける。我々の敵である吸血鬼を殲滅する為に。
共食いのように、吸血鬼に吸血鬼を与える。
自分の置かれている立場は脆く、不安定な場所だ。足場なんて足、一個分しかないのかと疑う程。
それ程、自分の存在は危うい。その、危うい存在を守ろうとする藤堂元帥。骨の髄までしゃぶり尽くし、自分達の良いように使い捨てようとする上層部や委員会の面々。
未だに、どっちの立場か分からない局長。渾渾沌沌とした空気が、白い病室に重く漂う。
「軍がしっかりと監視するならば問題ないと思います。前・局長の不正を暴いた藤堂元帥なら間違いないてしょう」
「おぉ、そうだ。藤堂元帥なら大丈夫でしょう。夜神さんの監視任せましたよ」
一人の賛同が感染したように次々に広がる。中には抗体を持っているのか、感染せずに固い表情のまま夜神達を見つめる者もいる。
「多数の賛成により夜神さんの監視を軍にお願いします。勿論、不正な動き、我々人類に不利な動き、自我を失くし人類を襲うならば即刻、その命は刈り取られると思って下さい・・・・・そうならない事を祈ります」
ずっと張り詰めた声だったのに、最後の言葉だけは縋るような、そうならない事を本当に願う、切ない声にも聞こえる。
その声を聞いて夜神は局長の瞳をまじまじと見つめる。藤堂元帥の眼差しにも似ていた。威厳があるのに何処か優し眼差し。それは、子の成長を見守る親の眼差しにも似ている。
「はい。けして、人類の敵にはなりません。最後まで私は人の味方でいたいです・・・・・願うならば最後まで・・・・・」
最後まで・・・・・死ぬ瞬間まで、私は人に寄り添いたい。それが願いだ・・・・・
たとえ、誰かの「血」をもらいながら生きていこうとも、私は人に寄り添いたい。指をさされ、傷付く言葉を投げ付けられようと気持ちは変わらない。
「分かりました。では、藤堂元帥後はお任せします。部屋を整えたりしないといけないと思いますしね。我々、委員会もこれで終了です。あとは、夜神さん次第ですからね?・・・・・・では、委員会を終了します。皆さん、お疲れ様でした」
解散を知らせる言葉で、張り詰めていた空気が一気になくなる。
様々な事を思う気持ちがある中、委員会の面々はバラバラに立ち上がり部屋を出ていく。中には、こちらを何度も見返す者も。
そして、部屋には夜神と庵、藤堂と新しい局長の四人だけが残る。
「自己紹介が遅くなったね。私の名前は安曇といいます。元・軍出身で虎次郎の師匠なんだ。だから軍の事もよく分かっているよ。勿論、夜神さんの事もね。色々と試すような事や、脅しをかけてすまない。けど、こうでもしないと委員会・・・・上層部は納得しないからね」
笑ってこちらを見る顔は、先程の冷たい顔とは違い優し、陽だまりのような印象だ。
「いえ・・・・・上層部の事は色々と承知してます。虎次郎の先生なんですか?だから二手、三手先を読んで話を進めていたんですね?」
話を進める話術。先を見据えていく先見の眼。虎次郎の先生ならば何となく納得してしまう。
「けど、貴女を信じたい気持ちは十二分にあるが、それと同時に疑いもある。だから、証明して下さい。他の吸血鬼は仕方ないとしても、貴女は違うと言う事を。貴女は我々の味方だと、己で証明して下さい。まずは、血を、食事を抜かれての行動がどうなるのかです。そこが貴女のこれからの人生の分かれ目だと思って下さい・・・・・・幸運を祈ります」
差し出された手をまじまじと見てしまう。一瞬の躊躇いが生まれたが、夜神はゆっくりと手を差し出して手を握る。
大きな温かい手に安堵してしまう。その温かさが手から伝わり、自分の緊張で冷たくなった心を温めてくれるようにも感じてしまう。
「はい。自分で証明します。私はみんなの味方だと。居場所は自分で掴み取ります」
じんわりと広がった心の温もりに勇気付けられて、声も心なしか上向きなような気がする。
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「承知した。では、凪、明日迎えに来るから今日はゆっくりとしなさい。庵伍長もありがとう」
「いえ。同席の許可ありがとう御座いました」
庵に労いの言葉を送った藤堂に向かって、庵は敬礼で返答を返す。
本来ならいないはずの庵が同席した。そこには色々とあったことは有意に考えられる。けど、そんな苦労を微塵も感じさせずに藤堂は庵に労いの言葉を送る。だから、庵も心からの返答を送った。
「ありがとう御座います。明日、宜しくお願いします」
一瞬、敬礼してしまいそうになったが、今は軍人ではない自分に気が付き、深々と頭を下げる。
二人の挨拶を見て、藤堂と安曇は病室を出ていく。
「ありがとうね。庵君・・・・・傍にいてくれたから心強かった」
庵の方を向き、夜神はいつもの微笑みを庵に向ける。変わらないその微笑みに、庵は居ても立ってもいられず思わず抱きしめてしまう。
「・・・・・傍にいます。たとえ、何があっても傍にいます」
一瞬、驚いて体が固まってしまった夜神だったが、ゆっくりと庵の背中に腕を回し同じように抱きしめる。
「ありがとう」
色々と言葉が出てくるのに、今の自分が言えるのは「ありがとう」と簡単な言葉しか出ない。
だから、その分抱きしめる力を強くする。自分の気持ちを知って欲しくて。
庵も夜神の気持ちを理解して、同じように強く抱きしめる。
長いような短いような・・・・・けど、心には十二分に伝わった抱擁だった。
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これから軍の軟禁?監禁?みたいな事があるんでしょうなぁ~~
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さぁ、どうなることやら・・・・
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