311 / 325
287
しおりを挟む
答申委員会の翌日、藤堂元帥と安曇局長の二人に連れられて夜神は、軍のとある施設に向かった。
そこはかつて、夜神が帝國に行く前に数日を過ごした部屋だ。
懐かしいと言えば懐かしいが、余り嬉しい思い出ではない。
「余り、凪にとってはいい思い出はない部屋だがすまない」
「いいえ・・・・・宜しくお願いします」
ベッドに机とあの時と全く変わってない。変わったと言えば・・・・・・
「部屋のモノは特に変わったものはない。ただ一つ、部屋に監視カメラを付けさせてもらった。不審な動きや異常事態になったら人が来る」
部屋の四隅にカメラがある。仕方ないといえば仕方ないが、やはり気持ち的には悲しくなる。
「分かりました」
「今日は身体検査が主だと思って欲しいですね。胃カメラや血液検査と目白押しですが、健康診断だと思ってもらったら幾分ましですかね?」
安曇局長の言葉に夜神は軽く頷いて返事する。
やはり、体の事を徹底的に調べるとは思っていたが、その通りだった。
けど、自分も気にはなる。体の構造など、どれだけ変わってしまったのか・・・・・・
「後で人が来るから、ベッドに置いてある服に着替えて待ってなさい」
ベッドには既に病院着が置いてあり、いつでも準備万端になるようになっている。
「はい。ありがとう御座います」
夜神は二人に深々と頭を下げる。それを見て二人は軽く頷いて部屋を出ていく。
そして、ガチャと鍵を掛けられる。当たり前だが監視されるのだ。この部屋から自由に行き来は出来ない。
けど、全てを了承したのだから、このくらいの事に不満はない。
「カメラかぁ・・・・・着替えは何かに隠れてしないと駄目かなぁ?」
四隅のカメラ一台ずつぐるりと見てまわる。
取り敢えず病院着を掴み壁側を向いて着替えを始める。素早く着替えると脱いでいた服を畳みベッドに置いて、自分もベッドに腰掛ける。
実際、どんな検査があるのかは分からないし、これからの事は本当に分からない。
希望があるのかも分からない。前途多難の言葉がぴったりと合いそうなほど先が分からない。
部屋をゆっくりと見渡す。あの時と変わらない、まるでこの部屋だけ時が止まったと錯覚する程だ。夜神は腰掛けたベッドのシーツを撫でる。
本来ならあり得ないが、ここで庵君と愛し合った。最後だと、これで二人は永遠に別れてしまうと思った。
「けど、戻ってこれた・・・・色々とあったけど・・・・・・」
カメラからは見えない、俯いた顔には複雑な表情を浮かべて夜神はシーツを撫で続けた。
健康診断と、安曇局長は言っていたがそれ以上だったかもしれない。
身長・体重を始め、思いつく検査を色々したのでは?と、疑いたくなるほどだった。血液検査に至っては十本以上の血を抜き取られた。
心身共に疲弊した頃にはやっと解放されて、部屋に戻ると一直線でベッドに埋もれる。
大きなため息をして、うつぶせの状態から仰向けになると、机に食事が乗せられているのに気がつく。
吸血鬼になってから初めて、食事を見たような気がする。
果物は何度か口にしたが、「食事」は見てもなかったから口にもしてない。
ふらふらと起き上がり、食事をする為に席に着く。
冷めてしまっているが、ご飯に味噌汁、酢の物や焼魚とバランスの整った和食なのにちっとも美味しそうに感じない。
大好きな食堂のご飯なのに、食欲が微塵もない。けど、口にしないといけない・・・・そんな気持ちになり、恐る恐る手を合わせ感謝する。
「・・・・・・頂きます」
箸を持ち、酢の物を一口食べ、飲み込む。
「・・・・・・う゛っ!!」
強烈な吐き気が胃からこみ上げる。余りの気持ち悪さに居てもたってもいられず、トイレに駆け込み吐き出す。
口に入れた時から変な味だった。毒とかそんなものではない。きっとご飯自体は何にもない。
味覚の変化とかの部類かもしれない。けど、信じたくなくて必死になって飲み込んだ。
すると、今度は胃が受け付けないのか外に出そうとして吐き出した。
体が食べ物を欲してない。むしろ拒絶している。
「ははは・・・・・っぅ~~~」
涙が溢れてくる。辛いのか苦しいのか分からないほど頭の中がぐちゃぐちゃだ。
何も考えたくなくて泣いていると、扉を乱暴に開けて数人の人間が慌てて近くにやって来る。
「大丈夫ですか!!夜神さん!」
「食事に何か混入されてましたか!」
全てが監視されている。勿論、食事を取り、その後の行為も全て見られている。
異変があったから、軍の人間が慌てて駆けつけた。ただ、それだけだ。それだけなのに何故だろう?居た堪れない気持ちになる。
「・・・・・大丈夫です・・・・・・食事はなんともありません。混入もされてないんです・・・・されて・・・・っ~~~」
気丈に振る舞うとしたけど駄目だった。
泣かないように頑張ろうとしたけど駄目だった。
顔を見て話していたのに、段々と下を向いていつの間にか自分の太腿を見ていた。視界も涙で霞んでぼやける。
病院着のズボンを掴み、小さくなった夜神に駆けつけた二人の女性軍人は何も言えなくなる。
何となくではあるが大方の理由は分かる。
食事を取って、体が受け付けなくて、吐いて戻した。言葉にしたら簡単だか、そこに至る理由が受け入れられない程、夜神は悔しくて泣いていると二人は思ってしまった。
人間が本来なら普通にする行為が出来ない。それを意味している事が事だけに本人も悔しいのだろう。けど、そこに慰める言葉など見つからない。
けど、何も言わず立ち去るにも気が引ける。だからといって慰めの言葉も見つからない。
考えて辿り着いた答えは黙って背中を撫でるだった。
一人の軍人が横に座り背中を擦る。もう一人は近くの洗面所にあるコップに水を汲み夜神に渡す。
「口、濯ぎましょう。気持ち悪いですよね?」
赤い瞳を真正面から見ているのに臆することもなく、静かに寄り添う二人に目を見張り眉を下げる。
「・・・・・はい・・・・・ありがとう、御座います・・・・・・」
お礼を伝え、コップを受け取ると口を濯ぎ、すっきりさせる。
一通りの行為を済ませると夜神の両脇を抱えて立ち上げさせると、ゆっくりとベッドに向かう。
「今日は色々と疲れたでしょう?お風呂は朝でもいいし、今日は早く眠りましょう。ポットに温かい紅茶を用意しておくから、喉が渇いたら飲んでね?」
夜神をベッドに寝かせ、布団を被せながら眠ることを進める。
その言葉に夜神本人も素直に従い、静かに赤い瞳を閉じる。
大人しく眠りにつこうとする夜神の邪魔をしないように、二人は部屋を退出する。その時、「カチャカチャ」と音がした。
机に乗っていたお盆を下げる音が聞こえたが、夜神はその音を遮断するように耳を塞いだ。
電気が消され、静かに出て行くのを感じながら、自分を抱えるように小さくなる。
「自分は違う」
吸血鬼にされてしまったけど、元は人間。果物が食べられるなら、食事も出来るはず。
だから、「自分は違う」と思っていた。そう、思いたかった。
けど、結果は違った。やはり、自分は吸血鬼だ。食事が、大好きだった食堂のご飯が全く受け付けない。
味がしない。腐った物を食べてるような、不味いものを食べているような、食感も気持ち悪い。口の中に入った瞬間から吐き出したくなった。
けど、無理矢理飲み込んだけど駄目だった。結局は胃が受けつけない。だから、吐き出した。
そして、駆けつけた二人に介抱されながら今に至る。
「やだ・・・・・・」
全てが嫌になる。頑張ろうと思っていたのに、出鼻で挫かれる勢いだ。
きっとこの先も、色々と思い知らされる事が多々あるだろう。その一つ一つに私は対処出来るのか不安しかない。
今日は助けがあった。けど、毎回、助けがあるとは限らない。
一人で壁にぶち当たり、よじ登らなければいけない。
「・・・・・・出来るのかな・・・・・」
目を閉じて呟く。すると、一人の人が現れる。その人物は夜神が心から愛している人だ。
「・・・・・庵君・・・・・」
海斗に会いたい。会って抱きしめてもらいたい。何も言わなくてもいい。ただ傍にいて欲しい。
頭から布団を被り、自分を抱え込むようにして丸くなる。まるで自分を守るように・・・・・
そして、静かに涙で濡れた赤い瞳を閉じた。
翌日は体力測定の予定だったが「器具の調達不足」で明日に延期になった。
本当に「調達不足」なのかは疑わしい。前日の「食事問題」のせいなのでは?と、夜神は思ってしまった。
だからといって、自分から突っ込んだ質問は出来ない。
その為、部屋で一日を過ごす事になった。あれから魔法瓶のポットに紅茶が用意され、蜂蜜まである。
監視する人が用意してくれたものに感謝していると、「これも」と紙袋を渡された。
その見覚えのある紙袋の中を見ると、数冊のファッション雑誌と付箋、メモが入ってた。
メモにはこれまた、見覚えのある文字で「宿題」と、だけ書かれていた。
「・・・・・宿題・・・・・ここでか・・・・・」
この宿題を忘れると、もれなく恐怖の大魔王もとい、恐怖の総長が降臨するかもしれない。
夜神は何故か背中が粟立つ。寒くないのに寒いのは気の所為なのか?
けど、この変わらないやり取りが何故か嬉しくもある。
「大変な宿題だけど、頑張るか・・・・」
自然と涙が出てこようとするのを必死に堪える。
第四室の有栖川室長の優しさが、気持ちがこんなにも心にくるとは・・・・・
昨日の絶望した気持ちから少しだけ、温かい気持ちになり、夜神は椅子に座り雑誌を広げる。
そして、気になるコーディネートに付箋を貼っていく。雑誌に載っている季節のコーディネートを楽しめるのかは正直分からない。それでも真剣に自分が着たいと思う物には付箋を貼る。
そうして、一日を過ごしていった。この部屋に来て一番、心穏やかな日を過ごしたのかもしれない。そんな一日だった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
やっぱり食事は出来なかったようですね。そりゃー絶望するわ・・・・・・
そして、オシャレ番長?有栖川室長が名前だけですけど出てきました。
早速、宿題を出してましたよ。抜け目ない、容赦ないお人です。
けど、このやり取りが大佐的には嬉しいんです。
そこはかつて、夜神が帝國に行く前に数日を過ごした部屋だ。
懐かしいと言えば懐かしいが、余り嬉しい思い出ではない。
「余り、凪にとってはいい思い出はない部屋だがすまない」
「いいえ・・・・・宜しくお願いします」
ベッドに机とあの時と全く変わってない。変わったと言えば・・・・・・
「部屋のモノは特に変わったものはない。ただ一つ、部屋に監視カメラを付けさせてもらった。不審な動きや異常事態になったら人が来る」
部屋の四隅にカメラがある。仕方ないといえば仕方ないが、やはり気持ち的には悲しくなる。
「分かりました」
「今日は身体検査が主だと思って欲しいですね。胃カメラや血液検査と目白押しですが、健康診断だと思ってもらったら幾分ましですかね?」
安曇局長の言葉に夜神は軽く頷いて返事する。
やはり、体の事を徹底的に調べるとは思っていたが、その通りだった。
けど、自分も気にはなる。体の構造など、どれだけ変わってしまったのか・・・・・・
「後で人が来るから、ベッドに置いてある服に着替えて待ってなさい」
ベッドには既に病院着が置いてあり、いつでも準備万端になるようになっている。
「はい。ありがとう御座います」
夜神は二人に深々と頭を下げる。それを見て二人は軽く頷いて部屋を出ていく。
そして、ガチャと鍵を掛けられる。当たり前だが監視されるのだ。この部屋から自由に行き来は出来ない。
けど、全てを了承したのだから、このくらいの事に不満はない。
「カメラかぁ・・・・・着替えは何かに隠れてしないと駄目かなぁ?」
四隅のカメラ一台ずつぐるりと見てまわる。
取り敢えず病院着を掴み壁側を向いて着替えを始める。素早く着替えると脱いでいた服を畳みベッドに置いて、自分もベッドに腰掛ける。
実際、どんな検査があるのかは分からないし、これからの事は本当に分からない。
希望があるのかも分からない。前途多難の言葉がぴったりと合いそうなほど先が分からない。
部屋をゆっくりと見渡す。あの時と変わらない、まるでこの部屋だけ時が止まったと錯覚する程だ。夜神は腰掛けたベッドのシーツを撫でる。
本来ならあり得ないが、ここで庵君と愛し合った。最後だと、これで二人は永遠に別れてしまうと思った。
「けど、戻ってこれた・・・・色々とあったけど・・・・・・」
カメラからは見えない、俯いた顔には複雑な表情を浮かべて夜神はシーツを撫で続けた。
健康診断と、安曇局長は言っていたがそれ以上だったかもしれない。
身長・体重を始め、思いつく検査を色々したのでは?と、疑いたくなるほどだった。血液検査に至っては十本以上の血を抜き取られた。
心身共に疲弊した頃にはやっと解放されて、部屋に戻ると一直線でベッドに埋もれる。
大きなため息をして、うつぶせの状態から仰向けになると、机に食事が乗せられているのに気がつく。
吸血鬼になってから初めて、食事を見たような気がする。
果物は何度か口にしたが、「食事」は見てもなかったから口にもしてない。
ふらふらと起き上がり、食事をする為に席に着く。
冷めてしまっているが、ご飯に味噌汁、酢の物や焼魚とバランスの整った和食なのにちっとも美味しそうに感じない。
大好きな食堂のご飯なのに、食欲が微塵もない。けど、口にしないといけない・・・・そんな気持ちになり、恐る恐る手を合わせ感謝する。
「・・・・・・頂きます」
箸を持ち、酢の物を一口食べ、飲み込む。
「・・・・・・う゛っ!!」
強烈な吐き気が胃からこみ上げる。余りの気持ち悪さに居てもたってもいられず、トイレに駆け込み吐き出す。
口に入れた時から変な味だった。毒とかそんなものではない。きっとご飯自体は何にもない。
味覚の変化とかの部類かもしれない。けど、信じたくなくて必死になって飲み込んだ。
すると、今度は胃が受け付けないのか外に出そうとして吐き出した。
体が食べ物を欲してない。むしろ拒絶している。
「ははは・・・・・っぅ~~~」
涙が溢れてくる。辛いのか苦しいのか分からないほど頭の中がぐちゃぐちゃだ。
何も考えたくなくて泣いていると、扉を乱暴に開けて数人の人間が慌てて近くにやって来る。
「大丈夫ですか!!夜神さん!」
「食事に何か混入されてましたか!」
全てが監視されている。勿論、食事を取り、その後の行為も全て見られている。
異変があったから、軍の人間が慌てて駆けつけた。ただ、それだけだ。それだけなのに何故だろう?居た堪れない気持ちになる。
「・・・・・大丈夫です・・・・・・食事はなんともありません。混入もされてないんです・・・・されて・・・・っ~~~」
気丈に振る舞うとしたけど駄目だった。
泣かないように頑張ろうとしたけど駄目だった。
顔を見て話していたのに、段々と下を向いていつの間にか自分の太腿を見ていた。視界も涙で霞んでぼやける。
病院着のズボンを掴み、小さくなった夜神に駆けつけた二人の女性軍人は何も言えなくなる。
何となくではあるが大方の理由は分かる。
食事を取って、体が受け付けなくて、吐いて戻した。言葉にしたら簡単だか、そこに至る理由が受け入れられない程、夜神は悔しくて泣いていると二人は思ってしまった。
人間が本来なら普通にする行為が出来ない。それを意味している事が事だけに本人も悔しいのだろう。けど、そこに慰める言葉など見つからない。
けど、何も言わず立ち去るにも気が引ける。だからといって慰めの言葉も見つからない。
考えて辿り着いた答えは黙って背中を撫でるだった。
一人の軍人が横に座り背中を擦る。もう一人は近くの洗面所にあるコップに水を汲み夜神に渡す。
「口、濯ぎましょう。気持ち悪いですよね?」
赤い瞳を真正面から見ているのに臆することもなく、静かに寄り添う二人に目を見張り眉を下げる。
「・・・・・はい・・・・・ありがとう、御座います・・・・・・」
お礼を伝え、コップを受け取ると口を濯ぎ、すっきりさせる。
一通りの行為を済ませると夜神の両脇を抱えて立ち上げさせると、ゆっくりとベッドに向かう。
「今日は色々と疲れたでしょう?お風呂は朝でもいいし、今日は早く眠りましょう。ポットに温かい紅茶を用意しておくから、喉が渇いたら飲んでね?」
夜神をベッドに寝かせ、布団を被せながら眠ることを進める。
その言葉に夜神本人も素直に従い、静かに赤い瞳を閉じる。
大人しく眠りにつこうとする夜神の邪魔をしないように、二人は部屋を退出する。その時、「カチャカチャ」と音がした。
机に乗っていたお盆を下げる音が聞こえたが、夜神はその音を遮断するように耳を塞いだ。
電気が消され、静かに出て行くのを感じながら、自分を抱えるように小さくなる。
「自分は違う」
吸血鬼にされてしまったけど、元は人間。果物が食べられるなら、食事も出来るはず。
だから、「自分は違う」と思っていた。そう、思いたかった。
けど、結果は違った。やはり、自分は吸血鬼だ。食事が、大好きだった食堂のご飯が全く受け付けない。
味がしない。腐った物を食べてるような、不味いものを食べているような、食感も気持ち悪い。口の中に入った瞬間から吐き出したくなった。
けど、無理矢理飲み込んだけど駄目だった。結局は胃が受けつけない。だから、吐き出した。
そして、駆けつけた二人に介抱されながら今に至る。
「やだ・・・・・・」
全てが嫌になる。頑張ろうと思っていたのに、出鼻で挫かれる勢いだ。
きっとこの先も、色々と思い知らされる事が多々あるだろう。その一つ一つに私は対処出来るのか不安しかない。
今日は助けがあった。けど、毎回、助けがあるとは限らない。
一人で壁にぶち当たり、よじ登らなければいけない。
「・・・・・・出来るのかな・・・・・」
目を閉じて呟く。すると、一人の人が現れる。その人物は夜神が心から愛している人だ。
「・・・・・庵君・・・・・」
海斗に会いたい。会って抱きしめてもらいたい。何も言わなくてもいい。ただ傍にいて欲しい。
頭から布団を被り、自分を抱え込むようにして丸くなる。まるで自分を守るように・・・・・
そして、静かに涙で濡れた赤い瞳を閉じた。
翌日は体力測定の予定だったが「器具の調達不足」で明日に延期になった。
本当に「調達不足」なのかは疑わしい。前日の「食事問題」のせいなのでは?と、夜神は思ってしまった。
だからといって、自分から突っ込んだ質問は出来ない。
その為、部屋で一日を過ごす事になった。あれから魔法瓶のポットに紅茶が用意され、蜂蜜まである。
監視する人が用意してくれたものに感謝していると、「これも」と紙袋を渡された。
その見覚えのある紙袋の中を見ると、数冊のファッション雑誌と付箋、メモが入ってた。
メモにはこれまた、見覚えのある文字で「宿題」と、だけ書かれていた。
「・・・・・宿題・・・・・ここでか・・・・・」
この宿題を忘れると、もれなく恐怖の大魔王もとい、恐怖の総長が降臨するかもしれない。
夜神は何故か背中が粟立つ。寒くないのに寒いのは気の所為なのか?
けど、この変わらないやり取りが何故か嬉しくもある。
「大変な宿題だけど、頑張るか・・・・」
自然と涙が出てこようとするのを必死に堪える。
第四室の有栖川室長の優しさが、気持ちがこんなにも心にくるとは・・・・・
昨日の絶望した気持ちから少しだけ、温かい気持ちになり、夜神は椅子に座り雑誌を広げる。
そして、気になるコーディネートに付箋を貼っていく。雑誌に載っている季節のコーディネートを楽しめるのかは正直分からない。それでも真剣に自分が着たいと思う物には付箋を貼る。
そうして、一日を過ごしていった。この部屋に来て一番、心穏やかな日を過ごしたのかもしれない。そんな一日だった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
やっぱり食事は出来なかったようですね。そりゃー絶望するわ・・・・・・
そして、オシャレ番長?有栖川室長が名前だけですけど出てきました。
早速、宿題を出してましたよ。抜け目ない、容赦ないお人です。
けど、このやり取りが大佐的には嬉しいんです。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる