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急の部
第49話 山の別荘で
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「翼、今日は気分転換に出かけましょうか」
翌朝、理子先輩が提案してくれた。
「出かけるって……どこにですか?」
「親戚の別荘が山の方にあるの。自然がいっぱいで、人も少なくて、静かなところよ」
理子先輩は優しく微笑んだ。
「きっと気分が良くなると思うわ。どうかしら?」
「はい……行ってみたいです」
僕は頷いた。確かに、ずっと家の中にいるより、少し外の空気を吸った方がいいかもしれない。
「それで、車で行くんだけど……田村先生にお願いして、運転してもらうことにしたの」
「田村先生……?」
その名前を聞いた瞬間、胸の鼓動が早くなる。
「あの……田村先生って……僕の担任の……?」
「ええ、そうよ。でも大丈夫。田村先生は私の叔父にあたる人で、翼のことを本当に心配してくれているの。それに、私がずっと一緒にいるから」
理子先輩が僕の手を握ってくれた。
「翼を助けてくれた人よ。きっと大丈夫」
「……わかりました」
僕は不安だったけど、理子先輩を信じることにした。
一時間後、田村先生が迎えに来てくれた。
「よう、体調はどうだ?」
田村先生が車から降りてきて、声をかけてくれた。
その瞬間、僕の体がびくっと震えた。
「あ……え……」
「おっと、すまん。驚かせちまったな」
田村先生は僕の反応に気づいて、少し距離を置いてくれた。
「……先生、翼はまだ男性に対して恐怖反応があると言っておいたでしょう」
理子先輩が説明してくれた。
「すまんすまん、そうだったな。無理はしなくていいぞ」
田村先生は全然怒ったりしなかった。むしろ、理解を示してくれた。
「俺は運転手だから、後部座席でゆっくりしててくれればいい。理子も隣にいるしな」
田村先生の飄々とした態度に、僕は少しずつ緊張が和らいでいった。
「あ、あの……」
「ん?」
「先日は……ありがとうございました」
僕は勇気を出して、田村先生にお礼を言った。
「おいおい、そんなに堅くならなくても」
田村先生は苦笑いを浮かべた。
「当たり前のことをしただけだ。気にすんな」
車に乗り込んで、僕は理子先輩の隣に座った。田村先生は運転席で、適度な距離を保ってくれている。
「それじゃあ、出発するぞ」
車が動き始めると、僕は少しずつリラックスできた。
* * *
山道を走っていると、外の景色がどんどん緑豊かになっていく。
「空気がきれいですね」
「そうだろう? この辺りは本当に自然が多いんだ」
田村先生が運転しながら答えてくれた。
「田村先生、昨日は本当に……僕を助けてくれて……」
「何度も言うが、気にするな。むしろ、もっと早く気づいてやれなくて悪かった」
田村先生の声は優しかった。
「でも、先生がいなかったら、僕は……」
「翼」
理子先輩が僕の手を握った。
「田村先生も、私も、みんな翼のことを大切に思ってるの。だから当然のことをしただけよ」
「理子先輩……」
「そうそう。理子の言う通りだ」
田村先生も同意してくれた。
「俺たちは仲間だからな。困った時はお互い様だ」
その言葉に、僕は温かい気持ちになった。
車は山道を登っていき、やがて小さな別荘の前に到着した。
「着いたぞ」
「わあ……素敵な場所ですね」
別荘は木造の可愛らしい建物で、周りは緑に囲まれていた。
「それじゃあ、俺はここで帰るからな。何かあったら連絡してくれ」
「はい、ありがとうございました」
僕は田村先生に深く頭を下げた。
「おう、ゆっくり休んでこい」
田村先生は手を振って、車で帰っていった。
僕は田村先生と話せたことが、少し嬉しかった。まだ完全に男性恐怖症が治ったわけではないけど、少しだけ前進できた気がする。
* * *
「翼、お散歩しましょうか」
別荘で荷物を置いた後、理子先輩が提案してくれた。
「はい」
僕たちは別荘の周りを歩いてみた。
空気は新鮮で、鳥の鳴き声が聞こえてくる。風も涼しくて、とても気持ちがいい。
「久しぶりに、こんなに静かな場所に来ました」
「そうね。都会とは全然違うわ」
理子先輩も嬉しそうに笑った。
「翼、少し元気になったみたいね」
「はい……田村先生ともお話できましたし」
「よかった。少しずつでいいのよ」
僕たちは小さな川のほとりまで歩いて、そこで休憩した。
水の音が心地よくて、僕は久しぶりに心からリラックスできた。
「理子先輩、この場所を選んでくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして。翼に元気になってもらいたくて」
理子先輩の優しさに、僕は胸が温かくなった。
夕食を食べた後、僕たちは別荘のベランダに出て、星空を見上げた。
「わあ……すごい星の数ですね」
「都会では見えない星も、ここなら見えるのよ」
満天の星空が、僕たちの上に広がっていた。
「理子先輩……」
「何?」
「僕……今日は本当に楽しかったです」
「そう? よかった」
理子先輩が僕の隣に座った。
「あの……理子先輩に、お話ししたいことがあるんです」
「何でも話して」
僕は深呼吸して、心を決めた。
「僕……女性になってから、もう半年くらい経つんですよね」
「そうね」
「この半年間、いろんなことがありました……」
僕は星空を見上げながら、ゆっくりと話し始めた。
「最初は、本当に困惑しました。急に女性の体になって、何が何だか分からなくて……」
「そうだったでしょうね」
「でも……だんだん、女性としての生活にも慣れてきて……」
僕は理子先輩の方を見た。
「嬉しかったこともたくさんありました」
「どんなこと?」
「可愛い服を着られることとか……メイクを覚えることとか……」
僕は微笑んだ。
「あかりちゃんと一緒にお買い物に行ったり、美月ちゃんと女子トークをしたり……男の時には経験できなかったことがたくさんありました」
「そうね、確かに楽しそうにしていたわ」
「理子先輩とも、もっと親しくなれて……同居生活も、最初は大変だったけど、今では本当に楽しくて……」
僕は理子先輩の手を握った。
「でも、辛いこともありました……」
「辛いこと?」
「男性からの視線とか……最初は気づかなかったけど、だんだん分かるようになって……」
僕は少し声を震わせた。
「生理になった時も、すごく戸惑いました。自分の体が、本当に女性になっているんだって実感して……」
「翼……」
「そして、今回のことが起きて……」
僕は昨日のことを思い出して、体が震えた。
「男性が怖くなってしまいました……今でも、男の人を見ると、心臓が……」
無意識に涙が溢れ出てきて、言葉が途切れ途切れになる。
「翼……」
理子先輩が僕を優しく抱きしめてくれた。その温もりがとても心地よくて――僕は目を閉じながら理子先輩の暖かさを感じていた。
翌朝、理子先輩が提案してくれた。
「出かけるって……どこにですか?」
「親戚の別荘が山の方にあるの。自然がいっぱいで、人も少なくて、静かなところよ」
理子先輩は優しく微笑んだ。
「きっと気分が良くなると思うわ。どうかしら?」
「はい……行ってみたいです」
僕は頷いた。確かに、ずっと家の中にいるより、少し外の空気を吸った方がいいかもしれない。
「それで、車で行くんだけど……田村先生にお願いして、運転してもらうことにしたの」
「田村先生……?」
その名前を聞いた瞬間、胸の鼓動が早くなる。
「あの……田村先生って……僕の担任の……?」
「ええ、そうよ。でも大丈夫。田村先生は私の叔父にあたる人で、翼のことを本当に心配してくれているの。それに、私がずっと一緒にいるから」
理子先輩が僕の手を握ってくれた。
「翼を助けてくれた人よ。きっと大丈夫」
「……わかりました」
僕は不安だったけど、理子先輩を信じることにした。
一時間後、田村先生が迎えに来てくれた。
「よう、体調はどうだ?」
田村先生が車から降りてきて、声をかけてくれた。
その瞬間、僕の体がびくっと震えた。
「あ……え……」
「おっと、すまん。驚かせちまったな」
田村先生は僕の反応に気づいて、少し距離を置いてくれた。
「……先生、翼はまだ男性に対して恐怖反応があると言っておいたでしょう」
理子先輩が説明してくれた。
「すまんすまん、そうだったな。無理はしなくていいぞ」
田村先生は全然怒ったりしなかった。むしろ、理解を示してくれた。
「俺は運転手だから、後部座席でゆっくりしててくれればいい。理子も隣にいるしな」
田村先生の飄々とした態度に、僕は少しずつ緊張が和らいでいった。
「あ、あの……」
「ん?」
「先日は……ありがとうございました」
僕は勇気を出して、田村先生にお礼を言った。
「おいおい、そんなに堅くならなくても」
田村先生は苦笑いを浮かべた。
「当たり前のことをしただけだ。気にすんな」
車に乗り込んで、僕は理子先輩の隣に座った。田村先生は運転席で、適度な距離を保ってくれている。
「それじゃあ、出発するぞ」
車が動き始めると、僕は少しずつリラックスできた。
* * *
山道を走っていると、外の景色がどんどん緑豊かになっていく。
「空気がきれいですね」
「そうだろう? この辺りは本当に自然が多いんだ」
田村先生が運転しながら答えてくれた。
「田村先生、昨日は本当に……僕を助けてくれて……」
「何度も言うが、気にするな。むしろ、もっと早く気づいてやれなくて悪かった」
田村先生の声は優しかった。
「でも、先生がいなかったら、僕は……」
「翼」
理子先輩が僕の手を握った。
「田村先生も、私も、みんな翼のことを大切に思ってるの。だから当然のことをしただけよ」
「理子先輩……」
「そうそう。理子の言う通りだ」
田村先生も同意してくれた。
「俺たちは仲間だからな。困った時はお互い様だ」
その言葉に、僕は温かい気持ちになった。
車は山道を登っていき、やがて小さな別荘の前に到着した。
「着いたぞ」
「わあ……素敵な場所ですね」
別荘は木造の可愛らしい建物で、周りは緑に囲まれていた。
「それじゃあ、俺はここで帰るからな。何かあったら連絡してくれ」
「はい、ありがとうございました」
僕は田村先生に深く頭を下げた。
「おう、ゆっくり休んでこい」
田村先生は手を振って、車で帰っていった。
僕は田村先生と話せたことが、少し嬉しかった。まだ完全に男性恐怖症が治ったわけではないけど、少しだけ前進できた気がする。
* * *
「翼、お散歩しましょうか」
別荘で荷物を置いた後、理子先輩が提案してくれた。
「はい」
僕たちは別荘の周りを歩いてみた。
空気は新鮮で、鳥の鳴き声が聞こえてくる。風も涼しくて、とても気持ちがいい。
「久しぶりに、こんなに静かな場所に来ました」
「そうね。都会とは全然違うわ」
理子先輩も嬉しそうに笑った。
「翼、少し元気になったみたいね」
「はい……田村先生ともお話できましたし」
「よかった。少しずつでいいのよ」
僕たちは小さな川のほとりまで歩いて、そこで休憩した。
水の音が心地よくて、僕は久しぶりに心からリラックスできた。
「理子先輩、この場所を選んでくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして。翼に元気になってもらいたくて」
理子先輩の優しさに、僕は胸が温かくなった。
夕食を食べた後、僕たちは別荘のベランダに出て、星空を見上げた。
「わあ……すごい星の数ですね」
「都会では見えない星も、ここなら見えるのよ」
満天の星空が、僕たちの上に広がっていた。
「理子先輩……」
「何?」
「僕……今日は本当に楽しかったです」
「そう? よかった」
理子先輩が僕の隣に座った。
「あの……理子先輩に、お話ししたいことがあるんです」
「何でも話して」
僕は深呼吸して、心を決めた。
「僕……女性になってから、もう半年くらい経つんですよね」
「そうね」
「この半年間、いろんなことがありました……」
僕は星空を見上げながら、ゆっくりと話し始めた。
「最初は、本当に困惑しました。急に女性の体になって、何が何だか分からなくて……」
「そうだったでしょうね」
「でも……だんだん、女性としての生活にも慣れてきて……」
僕は理子先輩の方を見た。
「嬉しかったこともたくさんありました」
「どんなこと?」
「可愛い服を着られることとか……メイクを覚えることとか……」
僕は微笑んだ。
「あかりちゃんと一緒にお買い物に行ったり、美月ちゃんと女子トークをしたり……男の時には経験できなかったことがたくさんありました」
「そうね、確かに楽しそうにしていたわ」
「理子先輩とも、もっと親しくなれて……同居生活も、最初は大変だったけど、今では本当に楽しくて……」
僕は理子先輩の手を握った。
「でも、辛いこともありました……」
「辛いこと?」
「男性からの視線とか……最初は気づかなかったけど、だんだん分かるようになって……」
僕は少し声を震わせた。
「生理になった時も、すごく戸惑いました。自分の体が、本当に女性になっているんだって実感して……」
「翼……」
「そして、今回のことが起きて……」
僕は昨日のことを思い出して、体が震えた。
「男性が怖くなってしまいました……今でも、男の人を見ると、心臓が……」
無意識に涙が溢れ出てきて、言葉が途切れ途切れになる。
「翼……」
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