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別れの予兆と、狂おしい夜 前編
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春の名残を感じさせる穏やかな風が、王宮の回廊をそよいでいた。
けれど足取りは、どこか重たかった。花の香りさえ、今の彼女には遠く霞んでいる。
王宮内に響く、祝宴の準備音。
侍女たちの弾むような声。
次代の王妃を迎える儀が、数日後に正式に執り行われる──その報せは、すでに全宮廷に知れ渡っていた。
「……そう、なのね」
儀礼担当官からの通知を受け取ったその瞬間。
私は凍てついた微笑みを浮かべ、まるで自分とは関係のないことのように頷いた。
彼の名は、どこにも書かれていない。
けれど、わかっていた。
これは選定という名を借りた、既定の婚姻なのだと。
エリアス――彼は、王となる運命を背負う者。
そして私は、たまたま彼に選ばれた一人の教育係に過ぎない。
身分も、血筋も、未来も違う。
「……わかっていたことじゃない。最初から」
ひとりつぶやきながら、回廊の奥を見つめる。
その先には、王子が日課として通る庭園への抜け道がある。
だが、その姿を見ることはなかった。
──あれから、彼は公の場で私を見ようとしない。
視線すら合わない。
けれど、それが彼なりの優しさであることも、理解していた。
「距離を置くことで、忘れさせてくれようとしているのね……」
なのにどうして、こんなにも痛むのだろう。
彼の沈黙が、無関心ではなく苦悩の証だと気づいているのに──
胸の奥に拭えぬしこりが残る。
執務室に戻ると、机上には王宮から届いた辞令案が置かれていた。
《クラウディア・レインハルト、王子教育任満了に伴い、退任の手続きに入ること》
乾いた文字列は、いっそ残酷なほどに明確で。
椅子に腰を下ろすと、両手で顔を覆った。
涙は出なかった。ただ、指の隙間から吐息が洩れる。
(ねえ、どうして、あんなふうに抱いたの……?)
身体を重ねたあの夜。
彼の腕の中で、自分のすべてを捧げた。
あのぬくもりは、愛ではなかったのか。
それとも、彼の若さがくれた一夜の幻想だったのか。
──教師でいるべきだった。
もっと早く、自分の役目を終えるべきだった。
なのに私は、あの手を受け入れた。
あの唇に、あの熱に、あの優しさに――心まで溺れてしまった。
「……それでも、忘れられないのよ」
椅子に凭れ、そっと自らの胸元に手を当てた。
彼に触れられた場所が、未だ熱を持って疼いている気がする。
彼が私を選ぶことなどないと、最初からわかっていたのに。
それでも、あの夜のぬくもりを、私は……。
そのとき、執務室の扉が小さくノックされた。
「失礼いたします、クラウディア様。……こちら、王子殿下より」
差し出されたのは、小さな封筒。
紋章もなければ、署名もない。けれど、見間違えるはずもない――これは、彼の筆跡。
胸が震え、手がわずかに震える。
封を切り、中の便箋を取り出す。
『今夜、あの部屋で待っています。これが、最後のお願いです』
思わず便箋を胸に抱き、深く目を閉じた。
遠ざけようとしたはずの人が、今、自分を求めている。
もう戻れないと知りながら、身体が熱を帯びていく。
愛と後悔、快楽と理性の狭間で、心が揺れる。
けれど。
たった一夜だけでも、彼のすべてを受け止められるのなら――。
* * *
夜の王宮は、昼の喧騒とは打って変わって、静謐な闇に包まれていた。
厚い天蓋のような夜気が、罪深きふたりを隠す帳となって降りてくる。
私は、手紙に記されていたあの部屋の前に立っていた。
教育を名目に、数ヶ月だけ割り当てられていた離れの小間──ふたりが初めて唇を交わし、心と心を重ねた場所。
躊躇いが指先を鈍らせる。
扉の前に立つだけで、鼓動がうるさく耳の奥を叩いた。
けれど、逃げなかった。
この夜がすべての終わりならば、せめて最後は、彼の腕の中で。
ゆっくりと扉を押すと、灯された蝋燭の柔らかな光の奥に、彼がいた。
「……来てくれたんですね」
ベッドの縁に腰かけていたエリアスが、ゆっくりと立ち上がる。
白い寝衣を纏った彼の姿は、少年の面影を残しながらも、どこか男の翳りを纏っていた。
「来ないつもりだったのよ」
声を震わせまいと、喉を絞るようにして言葉を絞り出す。
「でも……会わずに終わるのは、きっと、もっと後悔すると思ったから」
エリアスはそっと近づき、私の手を取った。
その手の温もりだけで、胸が痛くなる。
「これで、終わりです。だから、せめて……あなたのすべてを、もう一度、抱きたい」
言葉の隅々に、決意と痛みが滲んでいた。
彼もまた、わかっている。
これは、引き返せない夜だと。
抱きしめられた瞬間、私の意識は、彼の香りと体温に溺れていった。
「お願い……優しくしないで。優しくされると、忘れられなくなるの……」
「……できません。優しくしか、できないんです、あなたには」
くちづけは、静かに、けれど深く落ちていく。
上唇をなぞられ、下唇を噛まれ、舌を絡められるたびに、
心が解けていくのを止められなかった。
着ていた薄衣が、音もなく滑り落ちる。
肩を伝って落ちていくその感触が、妙に艶めかしく、背筋をぞわりと撫でていく。
「……何も、言わないで」
「わかりました。言葉よりも、身体で、伝えます」
ベッドに押し倒され、シーツの感触が背にひやりと触れる。
エリアスの指が、首筋から鎖骨、そして胸元へと、愛おしげに這ってくる。
「あっ……や、あ……んっ……っ……」
胸の尖りが指先で優しく転がされ、やがて吸い上げられる。
舌が乳首の周囲をくるくると円を描き、時折キスのように甘く啜られる。
そのたびに、腰が勝手に浮いてしまう。
「……いや、もう、だめ、そこ、そんな……!」
声が震える。
脚の奥が、疼いて、濡れて、どうしようもないほどに熱を持っている。
わかっているのに、理性では止められない。
脚を開かされる羞恥に震えながらも、彼の指が蜜壺に触れた瞬間、身体が小さく跳ねた。
「や……っ、そんなに……」
「クラウディア、濡れてます……こんなに」
その声に、全身が火照る。
恥ずかしくて、嬉しくて、狂いそうだった。
指がゆっくりと中へ沈んでくる。
膣内が、彼を迎えるようにぎゅっと収縮して、熱が一気に身体を支配していった。
「ひぁ……ん、だめ、だめぇ……!」
「気持ちよくなって……ください。もう、あなたを泣かせたくないんです」
焦らすように、何度も擦り上げられる内壁。
愛撫のたびに、快感が波のように押し寄せ、私は彼の名前を、何度も、何度も叫んでいた。
「エリアス……お願い、もう……早く……」
彼が導き出した絶頂の余韻が引かぬうちに、ゆっくりと、自身の昂りをそこへあてがってくる。
「あたしの、全部……あなたのものにして」
彼が貫いた瞬間、痛みと悦びが混ざり合い、涙が自然に溢れた。
「ごめんなさい……あなたを……愛してしまった」
その言葉に、エリアスの動きが止まる。
けれど、すぐに深く沈みこみ、囁いた。
「僕も……あなたを、愛してしまいました」
身体の奥で響く熱。
心の奥で響く言葉。
今夜限りの、二人だけの儀式が、ゆっくりと幕を上げた。
けれど足取りは、どこか重たかった。花の香りさえ、今の彼女には遠く霞んでいる。
王宮内に響く、祝宴の準備音。
侍女たちの弾むような声。
次代の王妃を迎える儀が、数日後に正式に執り行われる──その報せは、すでに全宮廷に知れ渡っていた。
「……そう、なのね」
儀礼担当官からの通知を受け取ったその瞬間。
私は凍てついた微笑みを浮かべ、まるで自分とは関係のないことのように頷いた。
彼の名は、どこにも書かれていない。
けれど、わかっていた。
これは選定という名を借りた、既定の婚姻なのだと。
エリアス――彼は、王となる運命を背負う者。
そして私は、たまたま彼に選ばれた一人の教育係に過ぎない。
身分も、血筋も、未来も違う。
「……わかっていたことじゃない。最初から」
ひとりつぶやきながら、回廊の奥を見つめる。
その先には、王子が日課として通る庭園への抜け道がある。
だが、その姿を見ることはなかった。
──あれから、彼は公の場で私を見ようとしない。
視線すら合わない。
けれど、それが彼なりの優しさであることも、理解していた。
「距離を置くことで、忘れさせてくれようとしているのね……」
なのにどうして、こんなにも痛むのだろう。
彼の沈黙が、無関心ではなく苦悩の証だと気づいているのに──
胸の奥に拭えぬしこりが残る。
執務室に戻ると、机上には王宮から届いた辞令案が置かれていた。
《クラウディア・レインハルト、王子教育任満了に伴い、退任の手続きに入ること》
乾いた文字列は、いっそ残酷なほどに明確で。
椅子に腰を下ろすと、両手で顔を覆った。
涙は出なかった。ただ、指の隙間から吐息が洩れる。
(ねえ、どうして、あんなふうに抱いたの……?)
身体を重ねたあの夜。
彼の腕の中で、自分のすべてを捧げた。
あのぬくもりは、愛ではなかったのか。
それとも、彼の若さがくれた一夜の幻想だったのか。
──教師でいるべきだった。
もっと早く、自分の役目を終えるべきだった。
なのに私は、あの手を受け入れた。
あの唇に、あの熱に、あの優しさに――心まで溺れてしまった。
「……それでも、忘れられないのよ」
椅子に凭れ、そっと自らの胸元に手を当てた。
彼に触れられた場所が、未だ熱を持って疼いている気がする。
彼が私を選ぶことなどないと、最初からわかっていたのに。
それでも、あの夜のぬくもりを、私は……。
そのとき、執務室の扉が小さくノックされた。
「失礼いたします、クラウディア様。……こちら、王子殿下より」
差し出されたのは、小さな封筒。
紋章もなければ、署名もない。けれど、見間違えるはずもない――これは、彼の筆跡。
胸が震え、手がわずかに震える。
封を切り、中の便箋を取り出す。
『今夜、あの部屋で待っています。これが、最後のお願いです』
思わず便箋を胸に抱き、深く目を閉じた。
遠ざけようとしたはずの人が、今、自分を求めている。
もう戻れないと知りながら、身体が熱を帯びていく。
愛と後悔、快楽と理性の狭間で、心が揺れる。
けれど。
たった一夜だけでも、彼のすべてを受け止められるのなら――。
* * *
夜の王宮は、昼の喧騒とは打って変わって、静謐な闇に包まれていた。
厚い天蓋のような夜気が、罪深きふたりを隠す帳となって降りてくる。
私は、手紙に記されていたあの部屋の前に立っていた。
教育を名目に、数ヶ月だけ割り当てられていた離れの小間──ふたりが初めて唇を交わし、心と心を重ねた場所。
躊躇いが指先を鈍らせる。
扉の前に立つだけで、鼓動がうるさく耳の奥を叩いた。
けれど、逃げなかった。
この夜がすべての終わりならば、せめて最後は、彼の腕の中で。
ゆっくりと扉を押すと、灯された蝋燭の柔らかな光の奥に、彼がいた。
「……来てくれたんですね」
ベッドの縁に腰かけていたエリアスが、ゆっくりと立ち上がる。
白い寝衣を纏った彼の姿は、少年の面影を残しながらも、どこか男の翳りを纏っていた。
「来ないつもりだったのよ」
声を震わせまいと、喉を絞るようにして言葉を絞り出す。
「でも……会わずに終わるのは、きっと、もっと後悔すると思ったから」
エリアスはそっと近づき、私の手を取った。
その手の温もりだけで、胸が痛くなる。
「これで、終わりです。だから、せめて……あなたのすべてを、もう一度、抱きたい」
言葉の隅々に、決意と痛みが滲んでいた。
彼もまた、わかっている。
これは、引き返せない夜だと。
抱きしめられた瞬間、私の意識は、彼の香りと体温に溺れていった。
「お願い……優しくしないで。優しくされると、忘れられなくなるの……」
「……できません。優しくしか、できないんです、あなたには」
くちづけは、静かに、けれど深く落ちていく。
上唇をなぞられ、下唇を噛まれ、舌を絡められるたびに、
心が解けていくのを止められなかった。
着ていた薄衣が、音もなく滑り落ちる。
肩を伝って落ちていくその感触が、妙に艶めかしく、背筋をぞわりと撫でていく。
「……何も、言わないで」
「わかりました。言葉よりも、身体で、伝えます」
ベッドに押し倒され、シーツの感触が背にひやりと触れる。
エリアスの指が、首筋から鎖骨、そして胸元へと、愛おしげに這ってくる。
「あっ……や、あ……んっ……っ……」
胸の尖りが指先で優しく転がされ、やがて吸い上げられる。
舌が乳首の周囲をくるくると円を描き、時折キスのように甘く啜られる。
そのたびに、腰が勝手に浮いてしまう。
「……いや、もう、だめ、そこ、そんな……!」
声が震える。
脚の奥が、疼いて、濡れて、どうしようもないほどに熱を持っている。
わかっているのに、理性では止められない。
脚を開かされる羞恥に震えながらも、彼の指が蜜壺に触れた瞬間、身体が小さく跳ねた。
「や……っ、そんなに……」
「クラウディア、濡れてます……こんなに」
その声に、全身が火照る。
恥ずかしくて、嬉しくて、狂いそうだった。
指がゆっくりと中へ沈んでくる。
膣内が、彼を迎えるようにぎゅっと収縮して、熱が一気に身体を支配していった。
「ひぁ……ん、だめ、だめぇ……!」
「気持ちよくなって……ください。もう、あなたを泣かせたくないんです」
焦らすように、何度も擦り上げられる内壁。
愛撫のたびに、快感が波のように押し寄せ、私は彼の名前を、何度も、何度も叫んでいた。
「エリアス……お願い、もう……早く……」
彼が導き出した絶頂の余韻が引かぬうちに、ゆっくりと、自身の昂りをそこへあてがってくる。
「あたしの、全部……あなたのものにして」
彼が貫いた瞬間、痛みと悦びが混ざり合い、涙が自然に溢れた。
「ごめんなさい……あなたを……愛してしまった」
その言葉に、エリアスの動きが止まる。
けれど、すぐに深く沈みこみ、囁いた。
「僕も……あなたを、愛してしまいました」
身体の奥で響く熱。
心の奥で響く言葉。
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