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別れの予兆と、狂おしい夜 後編
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彼のすべてを受け入れた瞬間、全身が、細胞のひとつひとつまで、彼で満たされていくような感覚に包まれた。
「ふ、あ……んっ……ぅ、あ……っ……」
何度目かの挿入。
けれど今夜は、どこか違っていた。
彼の動きが、焦がれるように、そして惜しむように、ひとつひとつ刻まれている。
「クラウディア……痛くないですか……?」
「……だめ、そんな顔、しないで……やさしく、しないで……」
涙が滲む。
優しさは凶器になる。
わかっているのに、それを拒めない。
エリアスは、彼なりのやさしさで、彼女の内奥を何度も何度も撫で上げる。
膣壁がきゅっと収縮し、彼を締めつけるたびに、私の中で何かが壊れていく。
「……もっと、強く、して……あなたの全部、わたしに、残して……っ」
願いとも、懇願ともつかない囁きに、エリアスの動きがわずかに荒くなる。
打ちつけられるたびに、ベッドが軋む音が部屋に響き、喉から、途切れ途切れの嬌声が零れ落ちる。
「ひっ、んっ、あああ……っ、あ……」
目の奥が熱い。
もう、快感だけでは追いつけない。
心の深部が、引き裂かれるように痛い。
彼が果てるたびに、その熱が体の奥深くに残ってしまうと、わかっているのに。
それでも。
──それでも、最後まで彼を中に留めておきたい。
「お願い……エリアス……忘れさせて……この夜だけは、ぜんぶ、あなたに壊されたいの……っ」
その言葉に、エリアスは眉を歪め、クラウディアの髪を掻き抱くようにしながら、ただ静かに、彼女の名を呼んだ。
「クラウディア……クラウディア……愛してる……」
快感の波が、身体を上へ上へと運ぶ。
深く貫かれるたび、心がもう、どこにも行き場をなくしていく。
「っ、や、だめ、もう、やだ……これ以上、忘れられない……っ」
果ての瞬間、目からは、熱い涙が一筋、こぼれ落ちた。
その涙に気づいたエリアスが、動きを止める。
目を見開き、そっと、私の頬に触れた。
「……ごめんなさい。僕……」
「違うの……違うのよ、あなたが優しいから……つらくなるの……」
熱い涙を流しながら、彼の頬に手を伸ばす。
触れた指先が、震えていた。
「……選べないわよね。わたしを。あなたは王子だもの……」
静寂が、部屋に降りる。
エリアスは、そっと私を腕に引き寄せると、耳元で囁いた。
「あなたを選べないのが、僕の一番の不幸です」
その言葉は、夜の闇よりも深く、甘く、けれどどうしようもないほど、悲しかった。
二人の肌は重なったまま。
けれど心は、もうどこか別の場所にあるようで──
そのまま、涙の中でふたりは眠りに落ちていく。
まるで、夢の終わりを予感していたかのように。
* * *
朝日が、部屋の厚いカーテンの隙間から、細く射し込んでいた。
金糸を引いたような光が、寝台にしっとりと広がり、
白いシーツにふたりの影を落としていた。
──のはずだった。
目を覚ました時、そこにエリアスの姿はなかった。
横たわる白いシーツの上には、彼の熱だけが、まだ微かに残っていた。
その痕跡は、まるで「夢ではなかった」と告げる最後の証のようで、
同時に、どうしようもなく残酷な現実でもあった。
「……あぁ……っ」
咄嗟に伸ばした手が空を切る。
何度触れても、そこに彼はいない。
抱き締めたかった。髪を撫でたかった。もう一度、名を呼びたかった。
けれど、それらすべては最後の夜に置いていかれてしまった。
彼の温もりが、まだ内奥に残っている。
快楽と愛情の余韻が、子宮の奥で疼いているのに。
「こんな朝が、来るなら……」
呟きは涙に濡れ、声にならなかった。
白い寝衣の下、胸元に爪を立てる。
どこかに、彼を刻んでいたかった。
目には見えずとも、どこかに「これは私のもの」と示せる何かが欲しかった。
ふと、枕元に置かれた紙片に気づく。
──それは、彼の筆跡だった。
『ありがとう、クラウディア。あなたの愛が、僕の支えでした。これから先、僕がどんな道を選ぼうとも……この夜を、生涯忘れません』
文字は整っているのに、ところどころ滲んでいるのは、涙だろうか。
彼が泣いたのか、それとも──
「ずるいわよ、あなた……」
彼の言葉は優しくて、
彼の触れた場所はすべてが心地よくて、
だからこそ、いま胸が裂けそうになる。
──これで、すべて終わったのだ。
私は、ゆっくりと身を起こし、床に落ちていた寝衣を拾い上げる。
脚にぬるりと流れる感触があった。
昨夜、彼が内奥に注ぎ込んだ証が、まだ身体に留まっている。
「……まだ、あなたがいるみたい」
そう思えたことが、嬉しくて、悲しかった。
ふらりと立ち上がり、カーテンを開ける。
差し込む朝日はまぶしく、冷えた肌に優しい。
庭園では、王妃選定の式典の準備が進んでいた。
誰も彼もが、未来を見つめて動いている。
──なのに私は、この夜に取り残されたままだ。
私は、ゆっくりと目を閉じる。
愛した男は、もういない。
けれど、愛した記憶だけが、痛いほど鮮明に焼きついている。
「もう……泣かないって、決めたのに……」
流れ落ちる涙を、拭おうともしなかった。
それは、今だけ許される喪失の儀式のようなものだったから。
そして静かに部屋を後にする。
再び教育係という肩書に戻ることはない。
けれど、あの夜の彼を、ずっと胸の奥で愛し続けるだろう。
──ふたりの関係は、たった一夜で終わった。
けれどそれは、何よりも深く、永く、熱を持った愛だった。
「ふ、あ……んっ……ぅ、あ……っ……」
何度目かの挿入。
けれど今夜は、どこか違っていた。
彼の動きが、焦がれるように、そして惜しむように、ひとつひとつ刻まれている。
「クラウディア……痛くないですか……?」
「……だめ、そんな顔、しないで……やさしく、しないで……」
涙が滲む。
優しさは凶器になる。
わかっているのに、それを拒めない。
エリアスは、彼なりのやさしさで、彼女の内奥を何度も何度も撫で上げる。
膣壁がきゅっと収縮し、彼を締めつけるたびに、私の中で何かが壊れていく。
「……もっと、強く、して……あなたの全部、わたしに、残して……っ」
願いとも、懇願ともつかない囁きに、エリアスの動きがわずかに荒くなる。
打ちつけられるたびに、ベッドが軋む音が部屋に響き、喉から、途切れ途切れの嬌声が零れ落ちる。
「ひっ、んっ、あああ……っ、あ……」
目の奥が熱い。
もう、快感だけでは追いつけない。
心の深部が、引き裂かれるように痛い。
彼が果てるたびに、その熱が体の奥深くに残ってしまうと、わかっているのに。
それでも。
──それでも、最後まで彼を中に留めておきたい。
「お願い……エリアス……忘れさせて……この夜だけは、ぜんぶ、あなたに壊されたいの……っ」
その言葉に、エリアスは眉を歪め、クラウディアの髪を掻き抱くようにしながら、ただ静かに、彼女の名を呼んだ。
「クラウディア……クラウディア……愛してる……」
快感の波が、身体を上へ上へと運ぶ。
深く貫かれるたび、心がもう、どこにも行き場をなくしていく。
「っ、や、だめ、もう、やだ……これ以上、忘れられない……っ」
果ての瞬間、目からは、熱い涙が一筋、こぼれ落ちた。
その涙に気づいたエリアスが、動きを止める。
目を見開き、そっと、私の頬に触れた。
「……ごめんなさい。僕……」
「違うの……違うのよ、あなたが優しいから……つらくなるの……」
熱い涙を流しながら、彼の頬に手を伸ばす。
触れた指先が、震えていた。
「……選べないわよね。わたしを。あなたは王子だもの……」
静寂が、部屋に降りる。
エリアスは、そっと私を腕に引き寄せると、耳元で囁いた。
「あなたを選べないのが、僕の一番の不幸です」
その言葉は、夜の闇よりも深く、甘く、けれどどうしようもないほど、悲しかった。
二人の肌は重なったまま。
けれど心は、もうどこか別の場所にあるようで──
そのまま、涙の中でふたりは眠りに落ちていく。
まるで、夢の終わりを予感していたかのように。
* * *
朝日が、部屋の厚いカーテンの隙間から、細く射し込んでいた。
金糸を引いたような光が、寝台にしっとりと広がり、
白いシーツにふたりの影を落としていた。
──のはずだった。
目を覚ました時、そこにエリアスの姿はなかった。
横たわる白いシーツの上には、彼の熱だけが、まだ微かに残っていた。
その痕跡は、まるで「夢ではなかった」と告げる最後の証のようで、
同時に、どうしようもなく残酷な現実でもあった。
「……あぁ……っ」
咄嗟に伸ばした手が空を切る。
何度触れても、そこに彼はいない。
抱き締めたかった。髪を撫でたかった。もう一度、名を呼びたかった。
けれど、それらすべては最後の夜に置いていかれてしまった。
彼の温もりが、まだ内奥に残っている。
快楽と愛情の余韻が、子宮の奥で疼いているのに。
「こんな朝が、来るなら……」
呟きは涙に濡れ、声にならなかった。
白い寝衣の下、胸元に爪を立てる。
どこかに、彼を刻んでいたかった。
目には見えずとも、どこかに「これは私のもの」と示せる何かが欲しかった。
ふと、枕元に置かれた紙片に気づく。
──それは、彼の筆跡だった。
『ありがとう、クラウディア。あなたの愛が、僕の支えでした。これから先、僕がどんな道を選ぼうとも……この夜を、生涯忘れません』
文字は整っているのに、ところどころ滲んでいるのは、涙だろうか。
彼が泣いたのか、それとも──
「ずるいわよ、あなた……」
彼の言葉は優しくて、
彼の触れた場所はすべてが心地よくて、
だからこそ、いま胸が裂けそうになる。
──これで、すべて終わったのだ。
私は、ゆっくりと身を起こし、床に落ちていた寝衣を拾い上げる。
脚にぬるりと流れる感触があった。
昨夜、彼が内奥に注ぎ込んだ証が、まだ身体に留まっている。
「……まだ、あなたがいるみたい」
そう思えたことが、嬉しくて、悲しかった。
ふらりと立ち上がり、カーテンを開ける。
差し込む朝日はまぶしく、冷えた肌に優しい。
庭園では、王妃選定の式典の準備が進んでいた。
誰も彼もが、未来を見つめて動いている。
──なのに私は、この夜に取り残されたままだ。
私は、ゆっくりと目を閉じる。
愛した男は、もういない。
けれど、愛した記憶だけが、痛いほど鮮明に焼きついている。
「もう……泣かないって、決めたのに……」
流れ落ちる涙を、拭おうともしなかった。
それは、今だけ許される喪失の儀式のようなものだったから。
そして静かに部屋を後にする。
再び教育係という肩書に戻ることはない。
けれど、あの夜の彼を、ずっと胸の奥で愛し続けるだろう。
──ふたりの関係は、たった一夜で終わった。
けれどそれは、何よりも深く、永く、熱を持った愛だった。
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