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第13話 残された誘惑
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それは、まるで嵐のあとに訪れた静けさだった。
澪の姿が準備室から消えて以降、晶の生活はゆっくりと、慎重に、日常へと戻り始めた。
あの数週間は何だったのかと、自分でも不思議に思うくらいに、世界は変わらずそこにあった。
朝が来て、授業があり、友人の声が飛び交い、
――そして、優里がそこにいた。
彼女は気づかないふりをしてくれていたのかもしれない。
あるいは、本当に過去を許してくれたのかもしれない。
真実は分からない。けれど、優里は笑ってくれていた。
手を繋いで帰る。
カフェでおしゃべりをする。
何気ないキスを交わす。
恋人としての正常を、少しずつ取り戻していく。
――なのに。
ふとした瞬間に思い出してしまう。
柔らかな手のひらではなく、冷たく濡れた指先。
優しい笑顔ではなく、歪んだ微笑み。
身体に染みついた快楽は、記憶の底から這い上がってくる。
それでも晶は、強く言い聞かせた。
「もう終わった」と。「戻るんだ」と。
優里となら、きっと戻れる。
元の、ちゃんとした自分に――。
* * *
その日の夕方。
久々に一人で帰宅し、制服のまま自室に入ると、机の上のペン立ての影に――それはあった。
黒く、小さなUSBメモリ。
見慣れたそれを目にした瞬間、心臓が跳ねた。
(……忘れてた)
いや、忘れたかったのだ。
ずっとポケットに入れていたくせに、あの日から一度も見ようとしなかった。
晶はUSBメモリを手に取り、しばらくじっと見つめる。
中に何があるのかは、まだ分からない。
澪が言っていたのは「謝罪の気持ち」。
それならば、大したものは入っていないはずだ。――はずだった。
だけど、手が動かない。
挿そうとして、引っ込める。
また伸ばして、また止まる。
理由を探していた。
見てしまったら終わりだとどこかで分かっている。
それでも晶は、自分に言い訳を作った。
(……ちゃんと、終わらせるために)
深く息を吸い、吐いて。
USBをPCのポートに挿す。
冷たいカチッという音が、妙に重く響いた。
エクスプローラーが自動で立ち上がる。
そこにあったのは、ひとつだけのファイル。
タイトルは、日付だけ。――数字の羅列。
それが録画された日なのだろう。
動画ファイルの上にカーソルを合わせる。
名前も、詳細も、説明もない。
ただ、無機質な日付が、画面の真ん中に静かに浮かんでいた。
(……これで最後だ)
そう心でつぶやきながら、マウスを動かす。
手は震えていた。
でも――止まらなかった。
そして、ダブルクリック。
画面が切り替わり、ノイズが走る。
映像が始まった。
* * *
映像が始まった瞬間、晶の呼吸が止まった。
ノイズ混じりの映像のなかに、白い肌が浮かび上がる。
画角は固定。部屋の照明は落とされ、間接照明の柔らかな光が女の身体を照らしている。
ゆっくりと、カメラの前に澪が現れた。
白い素肌と艶やかな黒髪。
見慣れた制服の上着は脱がれ、シャツのボタンはすべて外されている。
豊満な胸が露わになっていた。重力に逆らう柔らかな曲線。
そして、指先に巻きつくような黒いレースの下着。
澪はカメラに視線を向けたまま、何も言わず微笑む。
その笑みは、挑発でも、慈愛でもない――呪いに近かった。
ゆっくりとソファに腰を下ろし、脚を開く。
画面の奥で、唾を飲む音がした気がしたのは錯覚だろうか。
「……久しぶりですね、晶くん」
囁くような声が、ヘッドホン越しに脳を撫でた。
呼吸が浅くなる。心拍が早まる。
「ちゃんと……優しくしてますか? 彼女さんに」
言葉と同時に、澪の指が脚の奥に触れる。
濡れているのが、画面越しにも分かった。
「……わたしは、少し寂しいです」
そこからは、ただ見せつけるだけだった。
ゆっくりと、指が入り、出る。
膝が震え、肩が揺れ、息が乱れ、喉が鳴る。
奥まで届くたび、澪の背筋がたわむ。
「ねぇ……晶くん……」
「これ、あなただったら、もっと気持ちよかったのに」
もう一方の手が、胸元を撫でる。
指先で乳首を転がし、爪を立て、濡れた音が画面いっぱいに響いた。
――ぴちゃ、ぴちゃっ……
いやらしい音が、脳の奥にねっとりと貼り付いてくる。
「晶くんが、ここにいてくれたら……」
「こんな風に、舌で、奥までしてくれたら……」
「……ここに全部、出させてあげたのにね?」
晶の身体が震えた。
下腹部が、焼けるように熱い。
触れていないのに、下着の中がじっとりと湿っている。
息を止めようとしても、声が漏れそうになる。
目を閉じたいのに、閉じられない。
画面の中で、澪は首を反らせ、淫靡な喘ぎをこぼしている。
指の動きが速くなり、喉が鳴り、脚が震え、絶頂の波が押し寄せ――
「んっ……はぁ、あぁ……晶くん……っ」
その名前と共に、澪が仰け反った。
部屋に静寂が戻る。
カメラはそのまま。澪はぐったりとシーツに沈みながら、微笑む。
「……ばいばい、晶くん」
「これで……ほんとうに、最後ですね」
そう言って、画面越しに手を振った。
* * *
映像が止まっても、晶の視線はそこから離れなかった。
音もなく、ただ画面に向かって、呆けたように見続けていた。
下半身がじんわりと温かい。
――あ、と、気づいたときにはもう遅かった。
下着の中に、白濁が広がっていた。
触れていない。何もしていない。
ただ、見ていただけなのに――身体が、勝手に、澪に反応していた。
「……なん、で……」
震える声が、唇の隙間から漏れる。
澪の姿はもう画面には映っていない。
ただ、無機質な一時停止のマークが、残酷なまでに冷たく光っていた。
だが、その奥で微かに微笑むような錯覚が、まだ脳裏に焼き付いていた。
澪の姿が準備室から消えて以降、晶の生活はゆっくりと、慎重に、日常へと戻り始めた。
あの数週間は何だったのかと、自分でも不思議に思うくらいに、世界は変わらずそこにあった。
朝が来て、授業があり、友人の声が飛び交い、
――そして、優里がそこにいた。
彼女は気づかないふりをしてくれていたのかもしれない。
あるいは、本当に過去を許してくれたのかもしれない。
真実は分からない。けれど、優里は笑ってくれていた。
手を繋いで帰る。
カフェでおしゃべりをする。
何気ないキスを交わす。
恋人としての正常を、少しずつ取り戻していく。
――なのに。
ふとした瞬間に思い出してしまう。
柔らかな手のひらではなく、冷たく濡れた指先。
優しい笑顔ではなく、歪んだ微笑み。
身体に染みついた快楽は、記憶の底から這い上がってくる。
それでも晶は、強く言い聞かせた。
「もう終わった」と。「戻るんだ」と。
優里となら、きっと戻れる。
元の、ちゃんとした自分に――。
* * *
その日の夕方。
久々に一人で帰宅し、制服のまま自室に入ると、机の上のペン立ての影に――それはあった。
黒く、小さなUSBメモリ。
見慣れたそれを目にした瞬間、心臓が跳ねた。
(……忘れてた)
いや、忘れたかったのだ。
ずっとポケットに入れていたくせに、あの日から一度も見ようとしなかった。
晶はUSBメモリを手に取り、しばらくじっと見つめる。
中に何があるのかは、まだ分からない。
澪が言っていたのは「謝罪の気持ち」。
それならば、大したものは入っていないはずだ。――はずだった。
だけど、手が動かない。
挿そうとして、引っ込める。
また伸ばして、また止まる。
理由を探していた。
見てしまったら終わりだとどこかで分かっている。
それでも晶は、自分に言い訳を作った。
(……ちゃんと、終わらせるために)
深く息を吸い、吐いて。
USBをPCのポートに挿す。
冷たいカチッという音が、妙に重く響いた。
エクスプローラーが自動で立ち上がる。
そこにあったのは、ひとつだけのファイル。
タイトルは、日付だけ。――数字の羅列。
それが録画された日なのだろう。
動画ファイルの上にカーソルを合わせる。
名前も、詳細も、説明もない。
ただ、無機質な日付が、画面の真ん中に静かに浮かんでいた。
(……これで最後だ)
そう心でつぶやきながら、マウスを動かす。
手は震えていた。
でも――止まらなかった。
そして、ダブルクリック。
画面が切り替わり、ノイズが走る。
映像が始まった。
* * *
映像が始まった瞬間、晶の呼吸が止まった。
ノイズ混じりの映像のなかに、白い肌が浮かび上がる。
画角は固定。部屋の照明は落とされ、間接照明の柔らかな光が女の身体を照らしている。
ゆっくりと、カメラの前に澪が現れた。
白い素肌と艶やかな黒髪。
見慣れた制服の上着は脱がれ、シャツのボタンはすべて外されている。
豊満な胸が露わになっていた。重力に逆らう柔らかな曲線。
そして、指先に巻きつくような黒いレースの下着。
澪はカメラに視線を向けたまま、何も言わず微笑む。
その笑みは、挑発でも、慈愛でもない――呪いに近かった。
ゆっくりとソファに腰を下ろし、脚を開く。
画面の奥で、唾を飲む音がした気がしたのは錯覚だろうか。
「……久しぶりですね、晶くん」
囁くような声が、ヘッドホン越しに脳を撫でた。
呼吸が浅くなる。心拍が早まる。
「ちゃんと……優しくしてますか? 彼女さんに」
言葉と同時に、澪の指が脚の奥に触れる。
濡れているのが、画面越しにも分かった。
「……わたしは、少し寂しいです」
そこからは、ただ見せつけるだけだった。
ゆっくりと、指が入り、出る。
膝が震え、肩が揺れ、息が乱れ、喉が鳴る。
奥まで届くたび、澪の背筋がたわむ。
「ねぇ……晶くん……」
「これ、あなただったら、もっと気持ちよかったのに」
もう一方の手が、胸元を撫でる。
指先で乳首を転がし、爪を立て、濡れた音が画面いっぱいに響いた。
――ぴちゃ、ぴちゃっ……
いやらしい音が、脳の奥にねっとりと貼り付いてくる。
「晶くんが、ここにいてくれたら……」
「こんな風に、舌で、奥までしてくれたら……」
「……ここに全部、出させてあげたのにね?」
晶の身体が震えた。
下腹部が、焼けるように熱い。
触れていないのに、下着の中がじっとりと湿っている。
息を止めようとしても、声が漏れそうになる。
目を閉じたいのに、閉じられない。
画面の中で、澪は首を反らせ、淫靡な喘ぎをこぼしている。
指の動きが速くなり、喉が鳴り、脚が震え、絶頂の波が押し寄せ――
「んっ……はぁ、あぁ……晶くん……っ」
その名前と共に、澪が仰け反った。
部屋に静寂が戻る。
カメラはそのまま。澪はぐったりとシーツに沈みながら、微笑む。
「……ばいばい、晶くん」
「これで……ほんとうに、最後ですね」
そう言って、画面越しに手を振った。
* * *
映像が止まっても、晶の視線はそこから離れなかった。
音もなく、ただ画面に向かって、呆けたように見続けていた。
下半身がじんわりと温かい。
――あ、と、気づいたときにはもう遅かった。
下着の中に、白濁が広がっていた。
触れていない。何もしていない。
ただ、見ていただけなのに――身体が、勝手に、澪に反応していた。
「……なん、で……」
震える声が、唇の隙間から漏れる。
澪の姿はもう画面には映っていない。
ただ、無機質な一時停止のマークが、残酷なまでに冷たく光っていた。
だが、その奥で微かに微笑むような錯覚が、まだ脳裏に焼き付いていた。
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