【R18】陰に堕ちる 〜優しい彼女より、狂った彼女に溺れました〜

いろは杏⛄️

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第13話 残された誘惑

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 それは、まるで嵐のあとに訪れた静けさだった。

 澪の姿が準備室から消えて以降、晶の生活はゆっくりと、慎重に、日常へと戻り始めた。
 あの数週間は何だったのかと、自分でも不思議に思うくらいに、世界は変わらずそこにあった。

 朝が来て、授業があり、友人の声が飛び交い、
 ――そして、優里がそこにいた。

 彼女は気づかないふりをしてくれていたのかもしれない。
 あるいは、本当に過去を許してくれたのかもしれない。
 真実は分からない。けれど、優里は笑ってくれていた。

 手を繋いで帰る。
 カフェでおしゃべりをする。
 何気ないキスを交わす。
 恋人としての正常を、少しずつ取り戻していく。

 ――なのに。

 ふとした瞬間に思い出してしまう。
 柔らかな手のひらではなく、冷たく濡れた指先。
 優しい笑顔ではなく、歪んだ微笑み。
 身体に染みついた快楽は、記憶の底から這い上がってくる。

 それでも晶は、強く言い聞かせた。
 「もう終わった」と。「戻るんだ」と。
 優里となら、きっと戻れる。
 元の、ちゃんとした自分に――。

    * * *

 その日の夕方。
 久々に一人で帰宅し、制服のまま自室に入ると、机の上のペン立ての影に――それはあった。

 黒く、小さなUSBメモリ。
 見慣れたそれを目にした瞬間、心臓が跳ねた。

(……忘れてた)

 いや、忘れたかったのだ。
 ずっとポケットに入れていたくせに、あの日から一度も見ようとしなかった。

 晶はUSBメモリを手に取り、しばらくじっと見つめる。

 中に何があるのかは、まだ分からない。
 澪が言っていたのは「謝罪の気持ち」。
 それならば、大したものは入っていないはずだ。――はずだった。

 だけど、手が動かない。
 挿そうとして、引っ込める。
 また伸ばして、また止まる。

 理由を探していた。
 見てしまったら終わりだとどこかで分かっている。
 それでも晶は、自分に言い訳を作った。

(……ちゃんと、終わらせるために)

 深く息を吸い、吐いて。
 USBをPCのポートに挿す。
 冷たいカチッという音が、妙に重く響いた。

 エクスプローラーが自動で立ち上がる。
 そこにあったのは、ひとつだけのファイル。
 タイトルは、日付だけ。――数字の羅列。
 それが録画された日なのだろう。

 動画ファイルの上にカーソルを合わせる。
 名前も、詳細も、説明もない。
 ただ、無機質な日付が、画面の真ん中に静かに浮かんでいた。

(……これで最後だ)

 そう心でつぶやきながら、マウスを動かす。
 手は震えていた。
 でも――止まらなかった。

 そして、ダブルクリック。

 画面が切り替わり、ノイズが走る。
 映像が始まった。

    * * *
 
 映像が始まった瞬間、晶の呼吸が止まった。

 ノイズ混じりの映像のなかに、白い肌が浮かび上がる。
 画角は固定。部屋の照明は落とされ、間接照明の柔らかな光が女の身体を照らしている。
 ゆっくりと、カメラの前に澪が現れた。

 白い素肌と艶やかな黒髪。
 見慣れた制服の上着は脱がれ、シャツのボタンはすべて外されている。
 豊満な胸が露わになっていた。重力に逆らう柔らかな曲線。
 そして、指先に巻きつくような黒いレースの下着。

 澪はカメラに視線を向けたまま、何も言わず微笑む。
 その笑みは、挑発でも、慈愛でもない――呪いに近かった。

 ゆっくりとソファに腰を下ろし、脚を開く。
 画面の奥で、唾を飲む音がした気がしたのは錯覚だろうか。

「……久しぶりですね、晶くん」

 囁くような声が、ヘッドホン越しに脳を撫でた。
 呼吸が浅くなる。心拍が早まる。

「ちゃんと……優しくしてますか? 彼女さんに」

 言葉と同時に、澪の指が脚の奥に触れる。
 濡れているのが、画面越しにも分かった。

「……わたしは、少し寂しいです」

 そこからは、ただ見せつけるだけだった。

 ゆっくりと、指が入り、出る。
 膝が震え、肩が揺れ、息が乱れ、喉が鳴る。
 奥まで届くたび、澪の背筋がたわむ。

「ねぇ……晶くん……」
「これ、あなただったら、もっと気持ちよかったのに」

 もう一方の手が、胸元を撫でる。
 指先で乳首を転がし、爪を立て、濡れた音が画面いっぱいに響いた。

 ――ぴちゃ、ぴちゃっ……
 いやらしい音が、脳の奥にねっとりと貼り付いてくる。

「晶くんが、ここにいてくれたら……」
「こんな風に、舌で、奥までしてくれたら……」
「……ここに全部、出させてあげたのにね?」

 晶の身体が震えた。

 下腹部が、焼けるように熱い。
 触れていないのに、下着の中がじっとりと湿っている。
 息を止めようとしても、声が漏れそうになる。
 目を閉じたいのに、閉じられない。

 画面の中で、澪は首を反らせ、淫靡な喘ぎをこぼしている。
 指の動きが速くなり、喉が鳴り、脚が震え、絶頂の波が押し寄せ――

「んっ……はぁ、あぁ……晶くん……っ」

 その名前と共に、澪が仰け反った。

 部屋に静寂が戻る。
 カメラはそのまま。澪はぐったりとシーツに沈みながら、微笑む。

「……ばいばい、晶くん」
「これで……ほんとうに、最後ですね」

 そう言って、画面越しに手を振った。

    * * *

 映像が止まっても、晶の視線はそこから離れなかった。
 音もなく、ただ画面に向かって、呆けたように見続けていた。

 下半身がじんわりと温かい。

 ――あ、と、気づいたときにはもう遅かった。

 下着の中に、白濁が広がっていた。
 触れていない。何もしていない。
 ただ、見ていただけなのに――身体が、勝手に、澪に反応していた。

「……なん、で……」

 震える声が、唇の隙間から漏れる。

 澪の姿はもう画面には映っていない。
 ただ、無機質な一時停止のマークが、残酷なまでに冷たく光っていた。

 だが、その奥で微かに微笑むような錯覚が、まだ脳裏に焼き付いていた。
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