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第14話 笑顔と軋みと、脳裏の澪
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朝の光が差し込む教室の窓辺に、いつものように晶は座っていた。
机の上には開いた教科書、ペンケース。隣には優里。前の席の男子が、どうでもいいようなテレビ番組の話題で笑っている。
――世界は、何も変わっていないように見えた。
「ね、今日放課後どうする?」
優里が、小さな声で訊いてくる。
晶は一拍遅れて、顔を向けた。目を細めて笑う。癖になった作り笑いだ。
「ああ……うん、特に予定ないよ。どっか行く?」
「やった。じゃあ、カフェ寄って、それから……」
言葉は耳に届いていた。意味も分かる。返事もできる。
ただ、頭の中では、別の声が鳴っていた。
――「出しても、いいですよ」
囁くような、甘い、濡れた声。
あの夜。動画越しに見た、澪の姿。
あの白く細い指が――肉を掻き回し、蜜を垂れ流しながら自分の名を呼び続けた、あの光景が。
それが、脳裏にこびりついていた。
剥がれない。
焼き付いている。
目を閉じても、開けても。
息をするたびに、あの匂いが蘇るような錯覚。
気づけば、制服の下、下腹部に鈍い熱が宿っていた。
(……いけない)
そう思っても、思考が止まらない。
あの時、触れずに絶頂したあの感覚。
見られていた。許された。支配された。
――澪に、見られたまま、出してしまった。
その事実が、悦びと罪悪の区別を曖昧にしていく。
* * *
昼休み、教室の机に突っ伏していた晶の脳裏に、澪の喘ぎ声が走った。
脳が勝手に再生する。音も、動きも、あの映像そのままに。
「っ……」
慌てて身を起こす。
視界の端で、女子たちが戯れあっていた。
そんな些細な音すら、澪の淫音と重なって聞こえる。
(……もう、やめろ)
そう願っても、脳は従わない。
ノートに文字を写しているつもりが、無意識に線を引いていた。
細く、繰り返し。
まるで、誰かの太腿を撫でるかのように。
(まずい……本当に、俺……)
澪がいないのに、澪がいる。
いなくなったからこそ、身体の奥まで染み込んでいる。
「晶? どうかした?」
優里の声に、はっと我に返る。
「……え、ああ、大丈夫。ちょっと寝不足で」
笑顔で返したつもりだった。
でも、心の中では叫んでいた。
このままじゃ戻れないと。
日常という名の皮が剥がれ落ちていく音が、自分には聞こえていた。
* * *
放課後。
優里と別れた後、晶の足は無意識のうちに動いていた。
校門を越え、裏手の通路。夕陽に照らされた廊下を歩きながら、どこへ向かっているのか――意識はしていなかった。
気づけば、そこに立っていた。
旧準備室。
もう澪が姿を見せなくなって久しい、あの扉の前に。
手が、伸びる。
ノブに触れる。冷たい金属が、やけに心地よかった。
けれど――鍵がかかっていた。
当然だ。もう澪はいない。
それでも、数秒。いや、十数秒。
晶は扉の前で立ち尽くしていた。動けなかった。
耳を澄ませば、かすかに、室内から水音が聞こえたような気がした。
しゃぷっ、くちゅっ……と、濡れた音。
空耳だと分かっているのに、息が荒くなる。
音が止まった瞬間、扉の隙間からふわりと、甘い香りが漂ってきたような気がして――。
(……ここに、いる)
確信めいた錯覚。
澪が、いる。
扉の向こうで、自分を待っている。
自分を見ている。許してくれる。支配してくれる。
そう思っただけで、下腹部が膨張し始めていた。
熱い。
重たい。
苦しい。
でも、出せない。
ここではダメだ。
澪が「いいよ」と言ってくれないと――出せない。
* * *
その夜。
シャワーを浴び、部屋の明かりを消し、ベッドに潜り込んでも、澪の影が頭から離れなかった。
天井を見つめながら、晶は口を開く。
「……浅葱」
自分の声に、心臓が跳ねる。
ふいに、視線の先――鏡の奥が揺らめいた。
薄暗がりの中、そこに映ったのは、自分の姿ではなかった。
――澪だった。
白い肌。濡れた瞳。少しだけ開いた唇。
音はしない。けれど、その唇が確かに動いた。
『見てるよ』
心臓が止まりそうになった。
けれど、逃げなかった。目を逸らさなかった。
澪の幻影が微笑む。指先を唇に当てる。
まるで、「静かにして」「ここだけの秘密」とでも言うように。
その瞬間、晶は――笑った。
穏やかに、嬉しそうに、静かに、壊れたように。
「……うん。俺、出してもいいよね」
誰に問いかけているのか、自分でも分からなかった。
ただ、澪の微笑みが、肯定に見えた。
だから、身体を起こす。
ゆっくりとズボンを下ろし、震える指で自分を握る。
画面の中じゃない。記憶でもない。
ここにいる澪が、自分を見てくれている――その妄信だけを支えに。
「……浅葱……いや、澪……澪……澪……」
名を呟きながら、激しく扱き上げた。
あの映像の中の動きを、幻覚の中の指先を、妄想の中の喘ぎ声を、すべて混ぜ合わせながら。
――ぴちゃっ……くちゅっ……
空間に存在しないはずの音が、耳に響いた。
そして。
「――っ……は、あ……っ!」
頭の奥が真っ白になる。
自分の声すら聞こえない。
視界が、ノイズに染まる。
鏡の中の澪が、嬉しそうに笑っていた。
机の上には開いた教科書、ペンケース。隣には優里。前の席の男子が、どうでもいいようなテレビ番組の話題で笑っている。
――世界は、何も変わっていないように見えた。
「ね、今日放課後どうする?」
優里が、小さな声で訊いてくる。
晶は一拍遅れて、顔を向けた。目を細めて笑う。癖になった作り笑いだ。
「ああ……うん、特に予定ないよ。どっか行く?」
「やった。じゃあ、カフェ寄って、それから……」
言葉は耳に届いていた。意味も分かる。返事もできる。
ただ、頭の中では、別の声が鳴っていた。
――「出しても、いいですよ」
囁くような、甘い、濡れた声。
あの夜。動画越しに見た、澪の姿。
あの白く細い指が――肉を掻き回し、蜜を垂れ流しながら自分の名を呼び続けた、あの光景が。
それが、脳裏にこびりついていた。
剥がれない。
焼き付いている。
目を閉じても、開けても。
息をするたびに、あの匂いが蘇るような錯覚。
気づけば、制服の下、下腹部に鈍い熱が宿っていた。
(……いけない)
そう思っても、思考が止まらない。
あの時、触れずに絶頂したあの感覚。
見られていた。許された。支配された。
――澪に、見られたまま、出してしまった。
その事実が、悦びと罪悪の区別を曖昧にしていく。
* * *
昼休み、教室の机に突っ伏していた晶の脳裏に、澪の喘ぎ声が走った。
脳が勝手に再生する。音も、動きも、あの映像そのままに。
「っ……」
慌てて身を起こす。
視界の端で、女子たちが戯れあっていた。
そんな些細な音すら、澪の淫音と重なって聞こえる。
(……もう、やめろ)
そう願っても、脳は従わない。
ノートに文字を写しているつもりが、無意識に線を引いていた。
細く、繰り返し。
まるで、誰かの太腿を撫でるかのように。
(まずい……本当に、俺……)
澪がいないのに、澪がいる。
いなくなったからこそ、身体の奥まで染み込んでいる。
「晶? どうかした?」
優里の声に、はっと我に返る。
「……え、ああ、大丈夫。ちょっと寝不足で」
笑顔で返したつもりだった。
でも、心の中では叫んでいた。
このままじゃ戻れないと。
日常という名の皮が剥がれ落ちていく音が、自分には聞こえていた。
* * *
放課後。
優里と別れた後、晶の足は無意識のうちに動いていた。
校門を越え、裏手の通路。夕陽に照らされた廊下を歩きながら、どこへ向かっているのか――意識はしていなかった。
気づけば、そこに立っていた。
旧準備室。
もう澪が姿を見せなくなって久しい、あの扉の前に。
手が、伸びる。
ノブに触れる。冷たい金属が、やけに心地よかった。
けれど――鍵がかかっていた。
当然だ。もう澪はいない。
それでも、数秒。いや、十数秒。
晶は扉の前で立ち尽くしていた。動けなかった。
耳を澄ませば、かすかに、室内から水音が聞こえたような気がした。
しゃぷっ、くちゅっ……と、濡れた音。
空耳だと分かっているのに、息が荒くなる。
音が止まった瞬間、扉の隙間からふわりと、甘い香りが漂ってきたような気がして――。
(……ここに、いる)
確信めいた錯覚。
澪が、いる。
扉の向こうで、自分を待っている。
自分を見ている。許してくれる。支配してくれる。
そう思っただけで、下腹部が膨張し始めていた。
熱い。
重たい。
苦しい。
でも、出せない。
ここではダメだ。
澪が「いいよ」と言ってくれないと――出せない。
* * *
その夜。
シャワーを浴び、部屋の明かりを消し、ベッドに潜り込んでも、澪の影が頭から離れなかった。
天井を見つめながら、晶は口を開く。
「……浅葱」
自分の声に、心臓が跳ねる。
ふいに、視線の先――鏡の奥が揺らめいた。
薄暗がりの中、そこに映ったのは、自分の姿ではなかった。
――澪だった。
白い肌。濡れた瞳。少しだけ開いた唇。
音はしない。けれど、その唇が確かに動いた。
『見てるよ』
心臓が止まりそうになった。
けれど、逃げなかった。目を逸らさなかった。
澪の幻影が微笑む。指先を唇に当てる。
まるで、「静かにして」「ここだけの秘密」とでも言うように。
その瞬間、晶は――笑った。
穏やかに、嬉しそうに、静かに、壊れたように。
「……うん。俺、出してもいいよね」
誰に問いかけているのか、自分でも分からなかった。
ただ、澪の微笑みが、肯定に見えた。
だから、身体を起こす。
ゆっくりとズボンを下ろし、震える指で自分を握る。
画面の中じゃない。記憶でもない。
ここにいる澪が、自分を見てくれている――その妄信だけを支えに。
「……浅葱……いや、澪……澪……澪……」
名を呟きながら、激しく扱き上げた。
あの映像の中の動きを、幻覚の中の指先を、妄想の中の喘ぎ声を、すべて混ぜ合わせながら。
――ぴちゃっ……くちゅっ……
空間に存在しないはずの音が、耳に響いた。
そして。
「――っ……は、あ……っ!」
頭の奥が真っ白になる。
自分の声すら聞こえない。
視界が、ノイズに染まる。
鏡の中の澪が、嬉しそうに笑っていた。
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