【R18】牝騎士は仇敵に抱かれる夢を見るか ――誇り高き誓いが、快楽に溺れて蕩ける夜

いろは杏⛄️

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敗北の刻と鉄の牢

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 深夜。黒帝国・辺境要塞――ルクスの牙。

 黒岩のような外壁が月を遮り、鬱蒼とした霧が辺りを覆っていた。魔力を帯びた冷気が地を這い、警備兵たちの足元を這いずる。

 その影の隙間を縫うように、一つの身影が滑り込む。黒装束に身を包み、長い銀髪を後ろで束ねた女――その名は、ラグリナ=アル=フェンリル。

 かつて存在した王国の騎士。いや、誇り高き滅国の騎士と称された亡国の女傑だ。

(ここだ……奴の居所)

 蒼氷の瞳が鋭く光をとらえる。目的地は中央塔、敵将の私室――仇敵、ザイグル=ド=ラカレスの居城だ。

 剣の柄に手をかけながら、彼女はほんの一瞬、心に浮かんだ面影を振り払う。

(あの夜、あの誓いを……私は忘れていない)

 滅びの炎が夜空を焦がしたあの日。彼女は王女の命令で逃れたただ一人の騎士だった。

「行きなさい、ラグリナ。あなたの剣は、この国の未来のために振るうものよ」

 あの微笑み、あの声。守れなかった罪悪感が、心に痛みを残す。

 ――だからこそ。

(この刃で、すべてを終わらせる。お前を斬って、王女の仇を討つ)

 その思いこそが、彼女を今も動かす原動力だった。

     * * *

 中央塔――近い。

 壁面の窓をすり抜け、内側の廊下へ足を踏み入れたその瞬間だった。

「っ……!」

 足元が輝いた。魔術陣。発動と同時に、氷のような鎖が四肢を縛りつける。

 抵抗しようと魔力を練るが、全身を走る鈍い衝撃――封魔の障壁が展開されていた。彼女の剣も、魔も、今はただの飾りに過ぎない。

 壁の向こうから、ブーツの音が近づいてくる。

「やはり、来てくれたか――ラグリナ=アル=フェンリル。いや、最後の騎士とでも呼ぶべきか?」

 姿を現したのは、漆黒の軍装に身を包んだ男。整った輪郭に片眼鏡を光らせ、冷笑を浮かべる。

 ザイグル=ド=ラカレス。

 王国を滅ぼし、王女を処刑に追いやった黒帝国の将にして、堕としの魔将と呼ばれる男。

「……この声……!」

 ラグリナの瞳に殺気が宿る。鎖に縛られながらも睨みつけるその姿は、なおも騎士の威厳を保っていた。

 だが、ザイグルは笑う。

「怒りに満ちた女の瞳は美しい。だが、怒りはすぐに別の表情へと変わる――そう、快楽という名の表情へと」

「下劣な……!」

 唾を吐くラグリナ。だが、それすらも彼にとっては蜜のようだった。

「私は貴様を殺すためだけに、すべてを捨ててきた。体を穢されようとも、誇りまでは穢させない……!」

 その宣言に、ザイグルの口元がさらに歪む。

「誇りか。……ならば、それを味わわせてくれ。お前がその誇りを守れるかどうか。あるいは……その誇りごと悦びに堕ちていく姿を」

 手を振ると、兵士たちがラグリナを引きずっていく。

「どこへ連れて行くつもりだ……!」

「歓迎の準備は万全だよ。今夜から――いや、これから先の幾夜という夜を、我が私牢で楽しんでいってもらう」

 ラグリナの中に、初めて恐怖の影が差し込む。

 だが、彼女は噛み締める。

(誓いは、揺るがない。たとえこの身がどうなろうとも……心だけは、汚されはしない)

 その誇りが、どれほど甘く崩れるものなのか。
 彼女はまだ、知らなかった。

     * * *

 連行された先は、要塞の地下にある《私牢》。

 黒石で組まれた小部屋。壁からは鉄製の拘束具が伸び、中央の床には魔力封鎖陣が淡く輝いていた。

 ラグリナは乱暴に押し込まれ、両手を頭上の鎖に吊られる形で固定される。足元も開脚気味に鉄枷で封じられ、完全に無防備な状態に晒された。

 兵士たちは無言で彼女の鎧を外していく。胸甲、肩当て、脛当て……ひとつひとつを容赦なく剥がしていく。
 そして全ての衣類を剥ぎ取られた後、下着のように薄い拘束衣を着させられる。

 冷気が肌を撫でる。頬を朱に染めた彼女は、唇を噛みしめて耐える。

(見られている……だが、恥ずかしがるなど……)

 だが、それでも――彼女の身体は美しかった。

 引き締まった腹部、張りのある豊かな乳房。首筋から鎖骨、脇下の肉付きにいたるまで、騎士として鍛え抜かれた美と、女としてのしなやかさが同居していた。

 そんな彼女の前に、ゆっくりとザイグルが現れる。

 まるで舞踏会の貴族のように優雅な歩み。彼は彼女の顔を覗き込み、目元で笑う。

「鎧を剥がれ、鎖に繋がれ、肌を晒し……それでもまだ、お前の目は誇りに燃えているな。実に、美しい」

「……貴様のような男に、何をされようと……私は、誇りある騎士だ」

「そうだとも。だからこそ、興味が尽きない」

 ザイグルは腰の鞄から一本の香瓶を取り出した。淡く紫がかった液体を、部屋の香炉へと注ぐ。

 瞬間――

 甘く、濃厚な香りが部屋に満ちる。濡れた花弁のような、どこか生々しく淫靡な香気。

 ラグリナの眉がひそむ。

「これは……」

「《淫毒香》。快楽を直接与えるものではない。だが、呼吸をするだけで、体の奥に熱が宿っていく……。無意識のうちに、肌が敏感になり……ほんの風でも、指先でも、震えるほどに」

 そう言って彼は、ラグリナに触れようとはせず、背を向けた。

「安心しろ。私は、無理やりお前を奪うような真似はしない」

「……何を企んでいる?」

「私は見たいのだよ。お前が自分から悦びに堕ちる瞬間を」

 それは、恐怖よりもなお酷な宣言だった。

     * * *

 数時間が経った。

 牢の中には、音もなく、ただ沈黙と香りだけが漂っていた。

 鎖で吊られたままのラグリナは、やがて汗ばんだ額からひとすじの汗をこぼす。

(熱い……? 何故……ただ香りを嗅いでいるだけなのに……)

 肌がじんわりと汗を帯び、呼吸が浅くなっていく。
 拘束衣の内側で乳房の先端が硬さを持ちはじめ、脚の奥には、言いようのない疼きが生まれはじめていた。

 誰も触れていない。誰も責めていない。

 だというのに、彼女の身体は――勝手に反応していた。

(違う……こんなの、香りのせいだ。私が悦んでいるわけでは……)

 無理に腕を動かそうとすれば、鎖がわずかに軋み、乳房が拘束衣の布地に擦れる。

「あっ……!」

 喉の奥から漏れた、小さな声。

 すぐにラグリナは自分の口を閉ざす。

(だめだ……感じてなど、いない。私は誓ったのだ。誓いを貫き、心を殺せ……たとえ、この身が裏切ろうとも)

 彼女はそう言い聞かせながら、夜を耐えた。

 だが、その夜の香りはまだ、弱まる気配を見せていなかった。
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