うちの母と心友♀がいつのまにかデキてる

黒巻雷鳴

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第4話 ほかの女とキスしてる

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 うちの高校の昼休みは四十分しかない。だから、委員会や部活の昼練習をする子たちは、五分くらいで食べ終えなきゃ間に合わないから大変だ。
 そのほかの生徒たちは、午後の小テストの予習を仲がいいグループとお喋りしながらやったり、騒がしい教室を抜け出して静かな図書室での勉強や、グラウンドで遊んだりして楽しく過ごしてる。
 ちなみにわたしは、交際の発覚前まで遊香ゆかと一緒に屋上運動場でお弁当を食べていたけど、最近は別の友だちと教室で食べていた。

 そんなある日の昼休み、遊香は知らない女子と工芸室でキスをしていた。正確にはされていた・・・・・だけど。
 ひとけのないD棟にふたりで向かっていたから、なんか嫌な予感がして、あとをつけてみたけれど……まさにそれは的中した。

(アイツふざけんなよ! お母さんと付き合ってるんじゃないの!?)

 引き戸のアルミフレームに触れている指先が、怒りでプルプルと震えてしまう。おでこに血管が浮き上がっているのだって、自分でもよくわかった。
 母親の彼女の裏切り行為。
 しかも、最後までする気なのか、お互いのスカートのなかに手をすべらせて愛撫まで始めた。
 さすがにセックスまでのぞくつもりはないし、見たくもない。その場を去ろうとしたとき、うっかり引き戸に体重をかけてしまったので、ガタンと大きく音が鳴ってしまった。

(やばっ!)

 逃げる必要はないのに、つい本能で走って逃げる。すぐに引き戸が開けられる音がきこえたから、わたしが覗いていたことは多分バレたはずだ。


     *


 その日の午後は、遊香と会話は特になにも無かった。そして放課後、あの工芸室に来てほしいとだけ声をかけられたので、ふたりで向かった。
 断りはしなかった。むしろ、その件を話したかった。本当になにを考えているのか、お母さんのことをどう思っているのかを知りたかったから。


 中間考査が三日後にあるため、美術部は休止中で工芸室は静かだった。
 先に入った遊香が、部室中央の作業台の上にすわる。わたしはそれを見届けてから近づいた。研磨剤特有のにおいが鼻をつき、よりいっそう気分が不愉快になる。

「バレちゃったよね?」

 彼女らしい、抑揚のない声。

「どういうことなの?」

 なるべく冷静に話をしたいけど、怒気を含んだ声はいつもより低くて、あからさまに感情的だった。

「あの人、三年生なんだけどね、わたしのことを愛してるって告白されたんだ。話したこともなければ自分の存在を認識されていない相手を愛せるだなんて、とても幸せな思考の持ち主だけど、すごく滑稽よね」
「……ちょっと待ってよ。それってつまり、さっき告られたの?」
「うん」
「意味がわかんない! 一緒にここへ来てから告られたの?」
「違う。屋上に向かう階段の踊り場で」
「踊り場……じゃあOKしたあと、エッチするためにここへ連れてきたの?」
「少し違うけど、大体そう」

 頭が痛い。こめかみがジンジンする。遊香は元々こーゆー性格の子なんだけど、いまの自分の立場をちゃんと理解して話しているのか疑問に思う。
 でも、勉強はできるし博識だから、バカじゃないのは間違いない。ただ、他人との協調性にどうしても欠けるから、生きるのが下手へたなだけなんだろうと、まえから思ってはいた。

「ねえ遊香、ハッキリさせてほしいんだけど、その先輩と付き合うの?」
「わかんない。セフレにするかも」
「……お母さんは? わたしのお母さんはどうなるの? まさか、セフレの一人だっていわないよね?」
「自分でもわかんない」

 それをきいた直後、身体からだが反射的に動いて遊香のほほを全力で平手打ちにしていた。
 そのまま作業台の上に勢いよく横向きで倒れた遊香は、たれた顔を押さえたまま動かない。

「おまえ最低サイテーだよ! なんなんだよ、わかんないって!? お母さんに謝れよ! 謝ってからすぐ別れてくれよ!」
「……それはしたくない」

 胸ぐらを掴んで仰向けの身体を少し浮かせてから、もう一発の平手打ち。今度はそんなに力が入らなかった。

「なんなんだよ、おまえ!? うちの家庭をめちゃくちゃにして、他人ひとの母親を寝取って、いったいなにがしたいんだよ!」

 覆い被さるようにして作業台に両手を着いたわたしは、涙ぐみながら言葉をぶつける。真下の遊香の薄い唇は赤く汚れていたけれど、そのは澄んでいて、とても綺麗だった。

「ごめんね、アイ。本当に自分でもわからないから、なにがしたいのか、きかれても答えられなくて……大切なことなのに、本当にごめん……ごめんなさい」

 いいながら遊香の両手がわたしの顔にそっとやさしく触れる。
 遊香の顔が、赤く潤む唇が、スローモーションで近づいてくる。

 やめろ……やめてよ……そんなでわたしを見つめるな……。


 これがわたしたちの、初めてのキスになった。


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