ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

神をも喰らう最強戦士(4)

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 魔術士からいくつかのクラスチェンジを経て、上級職の黒魔導師になったあたしだけど、今はランナーに転職できるくらいの速度で走っていた(※個人の感想です)。
 思っていたよりも自分には運動センスがあったようで、こんなに動けると知っていたら、魔法戦士の職業を選んで物理攻撃でも戦えるようにしていたのにと、地下迷宮で疾風かぜになりながら強く後悔する(※個人の感想です)。

「ぬおおおお!? ロ、ロア……オレが落っこちてしまうじゃないか! スピードを落とせぇぇぇッ!」

 あたしの右肩に前足だけでしがみつくダイラーが、下半身をなびかせながら抗議する。

「なに言ってんのよ!? ゆっくり走るなら、逃げる意味なんてないでしょうがっ! あーっ、もう! ここでおとなしくしてて!」
「お、おい?! いったいなにを……ムキュ~」

 ごちゃごちゃうるさいから、あたしの豊満な胸の谷間にダイラーをギュッて頭から無理矢理押し込む(※個人の幻想です)。なんか、後ろ足と尻尾がぷらーんてなってるけど、今はそれどころじゃない。

強制低速化魔法スロウ・ダウン!』
「──みゃッ!?」

 かなり突き放していたはずなのに、背後から状態変化の魔法をもろに受けてしまった。みるみるうちに、走る速度が亀並みにまで落ちていく。
 遅くなったのはそれだけじゃなくって、全部の動きが──攻撃や道具アイテムの使用、まばたきだって──しばらくのあいだ物凄くゆっくりでしか動けない。

「えぇ~……えぇ~っ……こぉん~なのぉ~……あ~りぃ~……っ……?」

 いつものくせでつい、貴重な時間を愚痴をこぼすのに使ってしまった。
 時間をかけてやっと振り返れば、真っ赤な目をしたマピガノスが、すぐそこにまで迫っていた。

「人間は活きがいい動物だな。どいつもこいつも、逃げまわってばかりだ。喰ったところでなんの得もないが、おまえだけは違う。闇の女神の分身である、おまえはな」

 さっきから〝闇の女神〟を連呼されるけど、それって、あたしよりもミメシスに関係があると思う。本来ならミメシスが出てきて解決してほしいけど、ずーーーーーっと、ミメシスは眠ったままで、寝言のひとつも前意識から聞こえてはこなかった。
 新たなミメシス問題に頭を悩ませるあたしに、マピガノスが次の攻撃を仕掛ける。

強制沈黙魔法デッド・サイレンス!』
「うぅぅ~……えへぇ~えぇ……ッ!?」

 ヘロロロッ!

 ……よし、ミスった!
 今度の魔法は回避できたから、これで少しだけ時間が稼げるはず。それでも、あたしが魔法詠唱しているあいだに次から次へと攻撃されてしまうだろう。状態変化が解けるまで、なんとか耐え抜くしか方法がもう──。

 ゴスン!

 一瞬のうちに目の前に現れたマピガノスの強烈な膝蹴りがあたしの身体をくの字に曲げて、ふわりと全身を宙に浮かせた。
 まさかの二回攻撃。
 背中から着地して、そのまま横向きに倒れる。お腹の鈍痛が酷過ぎるおかげで、うめき声すら出せない。骨は折れていないと思うけど、その代わり、どこかの内蔵が破裂しているんじゃないかと思うくらいの痛みだ。
 大ダメージで動けなくなってしまったから、今のあたしに出来る事といえば、仲間のふたりに──ミメシスとダイラーにあとを任せて意識を失うだけ。

「我らの前では、神すらも捕食される立場にある。生命体の頂点が竜人族だ……死出の旅支度として学ぶがよい、人間の娘よ」

 片手で髪の毛を掴まれ、ふたたび軽々と身体が浮き上がる。強引に姿勢を伸ばされたから、一気に血が口からあふれてこぼれた。
 薄れゆく意識の中、目の前に精悍な顔が現れたかと思うと、大きく顎が外れてまさに破顔となった。どうやら、あたしを頭から食べるつもりみたいだ。

氷槍連撃魔法アイスシャベリン!!』

 瞬時に巻き起こる冷気。
 そして、それを倍加させる衝撃波。
 上級氷結魔法が生み出した氷の槍が至近距離から無数に放たれ、ひらかれた顎ごとマピガノスの頭を突き破る。その反動で、あたしの身体も後方に大きく吹き飛んだ。

衝突回避魔法エアー・ガード!』

 銀色の風のクッションにやさしく包まれながら、仰向けのままゆっくりと床に下ろされる。この防御魔法のおかげで、追加ダメージを受けずに済んだ。

(いったいなにが起きたの……? あ……そうか……助けてくれたんだ……)

 攻撃と防御の連続技を繰り出してくる厄介なヤツを、あたしはひとりだけ知っている。

「グゴゴ……がぼっ! ブシュルルルル……」
「オレの得意技を喰らってもまだ立っていられるとは、さすがは竜人族、しぶとい生き物だな」

 石床を這いつくばって勇ましく進む、とっても小さな魔法戦士。
 その男の名はダイラー。
 六魔将軍の、あたしの大切な仲間だ。

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