ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

光と闇の戦士たち(6)

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 地下迷宮は、すでにもう崩れだしていた。
 地鳴りと揺れが凄まじく、瓦礫の下敷きになった魔物たちの死骸もむごたらしい。
 急いで地上に出なきゃ、禁忌の扉まで消えちゃう!

「こっちだ、みんな!」

 マルスはプリシラの手を引いて先を急ぐ。
 あたしはそんなふたりの背中を、少し遠く離れた距離から追いかけた。

「……くっ!」
「ヴァイン!?」

 ミメシスの声に振り返ると、ヴァインが片膝を着いて倒れるところだった。

「ちょっ、どうしたのよ!? さっきの戦いでそんなにダメージが残っていたの!?」
「……違う。ヴァインはダ=ズール様の牙から生み出された魔人、言わば分身だ。ゆえに、本体であるダ=ズール様が死んだ影響で、ヴァインの身体も……」

 あたしが驚きの声を上げるよりも先に、ミメシスの身体から舞い上がる金色のきらめきが、より強い輝きを見せた。

「我の生命いのちもここまでのようだな」

 そう言ってミメシスは、消えかかっている両手でヴァインの鉄仮面を脱がすと、横たわる彼の上半身を抱き起こした。

「我らにかまわずに行け」
「そんな……ミメシス!」
「……ここまで連れて来てくれて、ありがとう。本当に感謝しているぞ、ロア。どうか、幸せに暮らしてくれ」

 微笑みかけてくれた顔もまた、うっすらと消えかかっていた。
 なんて言葉をかけたらいいのか、まるでわからない。
 胸が締めつけられて苦しい。
 だけど、なにをすればいいのかわからないし、なにもしてあげられない自分にも苛立っていた。
 そんなあたしの肩を、ダイラーが静かに触れる。

「ロア……行こう。もう時間がない」

 そんなことわかってる。
 わかっているけど、わかっていても──!

「ロアお嬢様、ふたりきりにしてあげましょう。わたくしたちに出来ることは、それだけです」

 とても穏やかな口調で、セーリャが言った。

「……うん」

 後ろ髪を引かれる思いで先を急ぐ。
 涙が頬を伝い、声を出してあたしは泣いていた。
 周囲の天井や壁が崩れてきて、砂煙がさらにあたしの視界を奪う。揺れもひどく、うまく走れない。何度か転びそうにもなった。
 最後にもう一度だけ振り返る。
 ふたりは、お互いに見つめ合っていた。

「ミメシス……ここは外なのか? 輝く星がとても綺麗だ……いつか見た流星群を思い出す……」
「ああ、そうだな。あれはとても美しかった。……ヴァイン……せめて最後は、ひとつになろう……」

 ヴァインの頬に手を添えたミメシスは、なにかをつぶやいてから唇を重ねた。
 そして、瓦礫の雨がふたりの姿を覆い隠してしまった。


 移動魔法陣を次々と抜けて、上層階をひたすらめざす。
 崩落の影響で、どのフロアも形状がだいぶ変わってしまい、通れなくなった道も少なくなかった。そのため、いつの間にかマルスたちを見失ってしまっていた。
 プリシラも一緒だから、迷子にはなっていないとは思うけれど、やっぱり少しだけ心配になる。

「みゃ? ここってたしか……」

 このフロアには、特別嫌な思い出があった。
 見渡す限りの水晶がきらめく神秘的な群生地──クリスタルドラゴンの巣だ。
 どんなに強力な攻撃魔法も効かなかった、難敵たちの巣窟。ヤツらもどこかへ逃げ出していてくれるといいんだけれど……。

「アンギャアアアアアアアアッ!!」
「グァァァァオオオオオオオン!!」
「ガァフォォォォォォォォォン!!」

 はい、詰んだ。
 さっきと同じ数だけ待ち構えてたパターンじゃないのよ、これ!
 絶体絶命。あたしたちの魔力は空っぽだし、体力だって満タンじゃない。万全の状態でも勝てるかわからない最凶モンスターと戦える状態じゃない。
 だけど……それでもやるしかない。
 こうなったらもう、力の限り戦うしかない!

「ギィギャアアアアアアアアス!!」

 やっぱり逃げよう。
 あたしの心が折れるのと同時に、ダイラーがおもむろにクリスタルドラゴンの群れへと歩きだした。

「……ちょっと? ダイラー?」
「おまえたちは逃げろ。コイツらはオレが引き受ける」
「引き受けるって……そんなの無茶よ!」

 いくら六魔将軍だからって、クリスタルドラゴンの群れを相手にひとりで戦うのは無謀極まりない話だ。

「例え逃げたとしても、これだけの数のドラゴンからは逃げきれはしない。オレが引きつけているあいだに、先へ行け」
「そんなこと出来るわけないじゃない!」

 と、あたしのとなりにいたセーリャも、ダイラーのあとに続く。

「えっ、セーリャ!?」
「そんなカッコつけて、ロアお嬢様の記憶に一生残るつもりですわね? このエロトカゲが」
「おまえ……」
「わたくしも戦います」

 並び立ったふたりが、お互いの顔を見つめる。

「ちょっと……なに言ってんのよ!? ふたりとも──」

 あたしの言葉を遮るように、セーリャの右手が天井に向かって勢いよく上げられる。次の瞬間には見えない力が働いて、あたしのすぐそばに次々と巨大な落石が降ってきた。

「きゃあっ?!……セーリャ! ダイラー!」

 あたしが最後に見たふたりの姿は、背中を向けたままのダイラーと、天使のような笑顔の横で片手をひらひらと振るセーリャだった。

「そんな……嫌よ……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 岩石の壁ごしに凶暴な咆哮が聞こえる。
 地鳴りとはまた別の震動が辺りを激しく揺らす。
 あたしは両耳を塞いだまま、泣きながら全力で次の魔法円まで走った。

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