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オーディナリー / ordinary
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水曜日の午後6時。仕事終わりに待ち合わせたのは、東口の改札付近。
ターミナル駅構内を行き交う人の群れ。それに逆らいながら、あたしはひたすら突き進む。腕時計を見る。約束の時刻には遅れなくてすみそうだ。
あっ、いた。
サイズの大きい木蘭色のカーディガンを着た女子高校生。髪型とかの特徴も同じだから、彼女に間違いないだろう。
「しおんちゃん、だよね?」
雑踏の中でも聞こえるように、目の前まで近づいて話しかける。あたしの声に反応して、スマホ画面から一瞬だけ顔を上げた彼女は「はい」と無表情で小さく返事をくれた。
「じゃあ、行こうか」
あたしの言葉を合図に、一緒に歩きだす。
最終目的地は決まっているけど、夕食も奢る約束だから、それが先だ。彼女の服装に配慮して、駅ビルにあるレストラン街へと向かった。
ステーキハンバーグが美味しいと評判のお店に入る。
あたしはおろしポン酢とグラスビールを、彼女はチーズのセットを注文した。
「ゴメンね、あたしだけアルコール頼んじゃって」
泡が消えるまえに咽喉の渇きを潤す。
彼女はスマホに夢中のままで、返事はすぐにくれなかった。
「……わたしのお金じゃないし」
「あはは、それでも気にするって。んー……しおんちゃんてさぁ、どういう字で書くの?」
ビールを飲みながら反応をうかがう。
画面を見つめたまま、「紙の音」とだけ答えてくれた。
「へぇー、素敵なお名前ね」
「別に」
相変わらず視線を合わせてはくれない。
そこで会話は途切れ、グラスの中身も飲みほした。
会話が弾まない食事を終えたあたしたちは、コンビニでお菓子やドリンク類を買ってから線路沿いのホテル街へと移動する。
満室が数件あったけれど、どれも入ったことのないホテルばかりだった。
ひょっとすると、あたしがよく利用するホテルも待たされるかもしれない。そこの待合室は間仕切りがないため、ほかのカップルに見られるから待つのは嫌だ。
でも、結果的には杞憂で、すんなりと〝休憩〟ができたから良かった。あたしは、ルームキイを握る手でエレベーターの3階ボタンを押した──。
「シャワー、どうしたらいい?」
学生鞄を深紅のカウチソファに置きながら、彼女が訊いてくる。〝どちらが先に浴びるか〟ではなく、〝自分も身体を洗うか〟の有無を訊いているのだろう。
「あたしは一緒に入りたいタイプなんよ。紙音ちゃん、ダメかな?」
返事はなし。でも、服を脱ぎ始めたからオッケーのはずだ。
ジェットバスに浸かりながら、身体を洗う彼女の背中やお尻を眺める。
眼福、眼福。あたしは、こういう無防備な瞬間がたまらなく好きだ。
シャワーで泡が流されて肌が露わになる。もう我慢が出来ない。あたしは立ち上がり、うしろから彼女を抱きしめて首筋に口づけた。
「ん? ベッド、行くの?」
「うん」
*
事を終えたあたしは、仰向けの彼女のとなりで指を絡ませる。
高揚感はまだ熱を帯びたままで、収まる気配はなかった。
「うふふふ♡ 恋人つなぎぃ♡」
「うん……ねぇ、そんなにコレがうれしい?」
「うれしいに決まってんじゃ~ん♡」
「……そうなんだ」
「そうだよ? えっ、いまの子たちって、ときめかないの?」
「わたし、そーゆーの全然感じない人だから」
「ふーん……」
でもまあ、そんなもんか。見ず知らずの年上オバサンを相手にできるくらいだから、心が結構ドライなんだろうな。
ホテルを出て、信号が変わるのと同時にお互い手を離し、あたしたちは別々の道へと歩いた。
ターミナル駅構内を行き交う人の群れ。それに逆らいながら、あたしはひたすら突き進む。腕時計を見る。約束の時刻には遅れなくてすみそうだ。
あっ、いた。
サイズの大きい木蘭色のカーディガンを着た女子高校生。髪型とかの特徴も同じだから、彼女に間違いないだろう。
「しおんちゃん、だよね?」
雑踏の中でも聞こえるように、目の前まで近づいて話しかける。あたしの声に反応して、スマホ画面から一瞬だけ顔を上げた彼女は「はい」と無表情で小さく返事をくれた。
「じゃあ、行こうか」
あたしの言葉を合図に、一緒に歩きだす。
最終目的地は決まっているけど、夕食も奢る約束だから、それが先だ。彼女の服装に配慮して、駅ビルにあるレストラン街へと向かった。
ステーキハンバーグが美味しいと評判のお店に入る。
あたしはおろしポン酢とグラスビールを、彼女はチーズのセットを注文した。
「ゴメンね、あたしだけアルコール頼んじゃって」
泡が消えるまえに咽喉の渇きを潤す。
彼女はスマホに夢中のままで、返事はすぐにくれなかった。
「……わたしのお金じゃないし」
「あはは、それでも気にするって。んー……しおんちゃんてさぁ、どういう字で書くの?」
ビールを飲みながら反応をうかがう。
画面を見つめたまま、「紙の音」とだけ答えてくれた。
「へぇー、素敵なお名前ね」
「別に」
相変わらず視線を合わせてはくれない。
そこで会話は途切れ、グラスの中身も飲みほした。
会話が弾まない食事を終えたあたしたちは、コンビニでお菓子やドリンク類を買ってから線路沿いのホテル街へと移動する。
満室が数件あったけれど、どれも入ったことのないホテルばかりだった。
ひょっとすると、あたしがよく利用するホテルも待たされるかもしれない。そこの待合室は間仕切りがないため、ほかのカップルに見られるから待つのは嫌だ。
でも、結果的には杞憂で、すんなりと〝休憩〟ができたから良かった。あたしは、ルームキイを握る手でエレベーターの3階ボタンを押した──。
「シャワー、どうしたらいい?」
学生鞄を深紅のカウチソファに置きながら、彼女が訊いてくる。〝どちらが先に浴びるか〟ではなく、〝自分も身体を洗うか〟の有無を訊いているのだろう。
「あたしは一緒に入りたいタイプなんよ。紙音ちゃん、ダメかな?」
返事はなし。でも、服を脱ぎ始めたからオッケーのはずだ。
ジェットバスに浸かりながら、身体を洗う彼女の背中やお尻を眺める。
眼福、眼福。あたしは、こういう無防備な瞬間がたまらなく好きだ。
シャワーで泡が流されて肌が露わになる。もう我慢が出来ない。あたしは立ち上がり、うしろから彼女を抱きしめて首筋に口づけた。
「ん? ベッド、行くの?」
「うん」
*
事を終えたあたしは、仰向けの彼女のとなりで指を絡ませる。
高揚感はまだ熱を帯びたままで、収まる気配はなかった。
「うふふふ♡ 恋人つなぎぃ♡」
「うん……ねぇ、そんなにコレがうれしい?」
「うれしいに決まってんじゃ~ん♡」
「……そうなんだ」
「そうだよ? えっ、いまの子たちって、ときめかないの?」
「わたし、そーゆーの全然感じない人だから」
「ふーん……」
でもまあ、そんなもんか。見ず知らずの年上オバサンを相手にできるくらいだから、心が結構ドライなんだろうな。
ホテルを出て、信号が変わるのと同時にお互い手を離し、あたしたちは別々の道へと歩いた。
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