ここがケツバット村

黒巻雷鳴

文字の大きさ
15 / 56
挿話 ある地下室にて

【金子光司】

しおりを挟む
 自分が村人たちに捕まってから、どれほどの時間が過ぎたのだろう。
 目を閉じる金子の顔は激しく殴られ、見るも無惨に腫れ上がっていた。
 しかも、天井から伸びる鎖付きの手錠に吊るされた状態で、両手首はとうの昔に自重じじゅうで肉が裂けて出血している。だが、感覚が麻痺したのか、不思議と痛みはもう感じられはしなかった。
 ぶら下がったままの両腕のあいだでは、力無くこうべが垂れる。汗や血がひどく腫れ上がった顔を濡らしては、忙しなく床に落ちて血溜りをつくる。
 薄れゆく意識の中、かすかな靴音が背後で遠退く。そして、ドアが開く音を聞いた金子は、「もうおしまいか、このボケ」と小さな声でつぶやいた。
 挑発的なその言葉に、立ち去ろうとしていた靴音が止まる。
 ふたたび靴音が金子に近づき、誰かが大きく息を吸って金属バットを構えてみせる。やがて、バットがぶつかる鈍い音と連動して、拘束された身体が前後に揺れた。
 それでも金子は、なんの言葉も発しない。
 ただ、弱りきった彼の身体だけが、鈍い音に応えて前後に揺れ動いていた。

「おい……死ぬぞ、おまえ。救いがあるのなら、助かる望みがまだあれば、それだけの我慢も意味がある。だが無駄だ。無意味だ。おまえたちに待っているのは、ケツバット村での暮らし・・・だけだ」

 若い男の淡々とした口調に、目を閉じたままの金子は口角を上げる。やがてすぐに、くぐもった笑い声が洩れ聞こえてきた。

「何がおかしい?」
「へっへっへっ、はっはっはっは…………誰がこないなド田舎で暮らすかい、ボケカス。金渡されてもお断り──がはぁッ!?」

 よりいっそう大きく振るわれた金属のバットが臀部に食い込むのと同時に、金子の額からは汗が、口からは血液が混じった唾液が、飛沫となって天井に舞い上がってはコンクリートの床に散った。

「ゴホッ……がはっ、カハッ! あ……ぐああっ! ううっ…………んぐッ!」

 拘束された金子の尻が、何度も何度も激しく打ちつけられる。そのたびに仰け反っては前へ倒れ、仰け反っては前へ倒れの単純動作を繰り返す。
 そしてその行為は、果てしなく何度も続けられた。
 まさに拷問であった。
 いつ終わるとも知れない無限の責苦。
 それでも金子は耐え続ける。意地なのか、自尊心プライドからなのか、ただひたすら拷問に耐えていた。
 理由は実に単純だ。
 気に入らないヤツの言いなりにはなりたくない──ただそれだけだ。

「いくら……何度たれようが……お断りや……アホが……」

 その言葉を最後に、金子はとうとう意識を手離した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

処理中です...