54 / 56
ここがケツバット村
【謎の男】
しおりを挟む
雷雲から降りしきる強い雨が、停車する1台の黒塗りのセダンを激しく濡らす。
そこは、ケツバット村を見下ろせる高台だった。
眼下では、一点の炎が闇の中で燃えている。
それは村人たちの赤黒い目玉にも見え、この狂乱の宴の終焉を意味していた。
「あーあ、全部燃えちゃってるよ。しょせん籠の中のお姫様は、女王蜂になれる器じゃなかったのかもね」
車内の後部座席で、燃えさかる刀背打邸を双眼鏡で覗く男がそっとつぶやく。
男は来日してまだ1年も経過してはいないが、今回の失敗で〝組織〟から帰国命令が出るかもしれない。もっとも、日本にはなんの未練も無いので、それはそれで構わないのだが。
眉間に縦皺をつくった男は双眼鏡を伏せて黒縁眼鏡を中指で直すと、細身の背広の内ポケットからスマートフォンを取り出す。
そして、何かのアプリを起動させると、六桁の数字を素早く打ち込んだ。
「これでおしまい……と。やれやれ、〝組織〟になんて言えばよいのやら。とりあえず紗綾のせいに全部するけどさぁ、それはそれで、こっちの責任問題になるんだよねぇ」
男が深い溜め息をつくのと同時に、車窓に稲光がまばゆく輝き、一撃の雷鳴が丘陵部に響きわたる。
荒天の夜空をほんの少しだけ気にした男は、運転手に不機嫌そうな強い口調で「出せ」とだけ命じ、背広の内ポケットにスマートフォンを無造作にしまう。そこでもまた、深く溜め息をついた。
今回の失敗により、必然的に次の計画は白紙になってしまう。だが、ケツバット村にはまだ利用価値がある。
さて、この先どうしてくれようか──
男の脳内では、もう答えが出ているようだった。
「あー、ところでさぁ、夕飯なんだけどね、お米は飽きたからパスタにしない? 確かあそこの道にさぁ、24時間営業のレストランがあったよね?」
今度は眼鏡を外すと、息を吐きかけてからレンズをハンカチで拭き始める。
やがて、黒塗りのセダンは降りしきる強い雨から逃げるように速度を上げ、どこか遠くへと走り去っていった。
そこは、ケツバット村を見下ろせる高台だった。
眼下では、一点の炎が闇の中で燃えている。
それは村人たちの赤黒い目玉にも見え、この狂乱の宴の終焉を意味していた。
「あーあ、全部燃えちゃってるよ。しょせん籠の中のお姫様は、女王蜂になれる器じゃなかったのかもね」
車内の後部座席で、燃えさかる刀背打邸を双眼鏡で覗く男がそっとつぶやく。
男は来日してまだ1年も経過してはいないが、今回の失敗で〝組織〟から帰国命令が出るかもしれない。もっとも、日本にはなんの未練も無いので、それはそれで構わないのだが。
眉間に縦皺をつくった男は双眼鏡を伏せて黒縁眼鏡を中指で直すと、細身の背広の内ポケットからスマートフォンを取り出す。
そして、何かのアプリを起動させると、六桁の数字を素早く打ち込んだ。
「これでおしまい……と。やれやれ、〝組織〟になんて言えばよいのやら。とりあえず紗綾のせいに全部するけどさぁ、それはそれで、こっちの責任問題になるんだよねぇ」
男が深い溜め息をつくのと同時に、車窓に稲光がまばゆく輝き、一撃の雷鳴が丘陵部に響きわたる。
荒天の夜空をほんの少しだけ気にした男は、運転手に不機嫌そうな強い口調で「出せ」とだけ命じ、背広の内ポケットにスマートフォンを無造作にしまう。そこでもまた、深く溜め息をついた。
今回の失敗により、必然的に次の計画は白紙になってしまう。だが、ケツバット村にはまだ利用価値がある。
さて、この先どうしてくれようか──
男の脳内では、もう答えが出ているようだった。
「あー、ところでさぁ、夕飯なんだけどね、お米は飽きたからパスタにしない? 確かあそこの道にさぁ、24時間営業のレストランがあったよね?」
今度は眼鏡を外すと、息を吐きかけてからレンズをハンカチで拭き始める。
やがて、黒塗りのセダンは降りしきる強い雨から逃げるように速度を上げ、どこか遠くへと走り去っていった。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる