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エピローグ
【あなた】
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ある夏の、とても蒸し暑い日。
昼間の繁華街の空は快晴で、雲ひとつ見えない。
この気温のせいか、排気ガスや人混みがいつにも増して不快だ。
行き交う人々や車の喧騒を背に、〝あなた〟は旅行代理店の前にある数々のパンフレットを眺めて、どこか家族旅行のよい行き先がないかと探している。
格安の国内外のツアー……ずいぶんと安く行けるものだと感心する。
バスの日帰り旅……食べ放題や土産物の多さも十分に魅力的だ。
いくつか目に止まったパンフレットを手に取ってはみるが、人間、選択肢が多ければ多いほど迷ってしまうもので、結局決まらないでいる〝あなた〟に、突然誰かが話しかけてくる。
「あのう、すみませーん。ちょっとお時間宜しいでしょうか?」
そんな声に振り返ってみれば、細身のスーツ姿の色白の男が1人、笑顔をみせて立っていた。
きっと、何かの勧誘だろう。
〝あなた〟は冷たくあしらって会話の続きを断る。
「え? いえいえ! わたしは、スカウトでもキャッチセールスでもありませんよ! 怪しい者じゃありません!」
そのスーツ姿の男は、仰々しく両手を小刻みに振って否定をする。
どこか胡散臭い印象を受けるが、男の顔立ちや身なりはとても清潔そうなので、おおかた営業職のビジネスマンといったところだろうか。
「もしかしたら、あなた様は旅行先をお探しではありませんでしょうか?」
ほがらかに頬笑むと、男は細身の背広の内ポケットから何かのチケットを数枚取り出した。
「実はわたくし、こちらの系列会社のほうからやって参りました者でして……」
男は笑顔のまま、チラリと横目で旅行代理店のほうを見る。
なんだか遠回しのような言い方に少しだけ疑問を覚えるも、男は話をさらに続ける。
「今度ツアーを組む観光地のモニター様を探しておりましてですね……もちろん、宿泊費も交通費も、いっさいかかりません! 無料でございます! 御招待させていただきますので、はい、こちらをどうぞ!」
なかば強引に男から手渡されたチケットには、〝家族で行こう! ケツバット村大冒険ツアー(仮)〟と印字されていた。
ケツバット村……
聞き慣れないその村の名前に〝あなた〟は困惑するが、偶然にも家族と同じ人数分のチケットが無料で手に入るのである。
浮いたお金でお土産も沢山買えるし、次回の旅費にだって充てられる。
悪くはない話だ──
そう考えた〝あなた〟は、旅行先をケツバット村に決めた。
昼間の繁華街の空は快晴で、雲ひとつ見えない。
この気温のせいか、排気ガスや人混みがいつにも増して不快だ。
行き交う人々や車の喧騒を背に、〝あなた〟は旅行代理店の前にある数々のパンフレットを眺めて、どこか家族旅行のよい行き先がないかと探している。
格安の国内外のツアー……ずいぶんと安く行けるものだと感心する。
バスの日帰り旅……食べ放題や土産物の多さも十分に魅力的だ。
いくつか目に止まったパンフレットを手に取ってはみるが、人間、選択肢が多ければ多いほど迷ってしまうもので、結局決まらないでいる〝あなた〟に、突然誰かが話しかけてくる。
「あのう、すみませーん。ちょっとお時間宜しいでしょうか?」
そんな声に振り返ってみれば、細身のスーツ姿の色白の男が1人、笑顔をみせて立っていた。
きっと、何かの勧誘だろう。
〝あなた〟は冷たくあしらって会話の続きを断る。
「え? いえいえ! わたしは、スカウトでもキャッチセールスでもありませんよ! 怪しい者じゃありません!」
そのスーツ姿の男は、仰々しく両手を小刻みに振って否定をする。
どこか胡散臭い印象を受けるが、男の顔立ちや身なりはとても清潔そうなので、おおかた営業職のビジネスマンといったところだろうか。
「もしかしたら、あなた様は旅行先をお探しではありませんでしょうか?」
ほがらかに頬笑むと、男は細身の背広の内ポケットから何かのチケットを数枚取り出した。
「実はわたくし、こちらの系列会社のほうからやって参りました者でして……」
男は笑顔のまま、チラリと横目で旅行代理店のほうを見る。
なんだか遠回しのような言い方に少しだけ疑問を覚えるも、男は話をさらに続ける。
「今度ツアーを組む観光地のモニター様を探しておりましてですね……もちろん、宿泊費も交通費も、いっさいかかりません! 無料でございます! 御招待させていただきますので、はい、こちらをどうぞ!」
なかば強引に男から手渡されたチケットには、〝家族で行こう! ケツバット村大冒険ツアー(仮)〟と印字されていた。
ケツバット村……
聞き慣れないその村の名前に〝あなた〟は困惑するが、偶然にも家族と同じ人数分のチケットが無料で手に入るのである。
浮いたお金でお土産も沢山買えるし、次回の旅費にだって充てられる。
悪くはない話だ──
そう考えた〝あなた〟は、旅行先をケツバット村に決めた。
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