彼女と彼女の物語

黒巻雷鳴

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 智花が昼食にラージサイズのピザを頼んでくれたので、それが届くまでのあいだ、グラスにつがれた氷入りのコーラとサワークリーム味のポテトチップスを食べながら、他愛もない話を続ける。
 いつもどおりの内容だけど、今日はなんだか智花は饒舌で、気分も高揚しているのか赤ら顔だった。

「あっ……ごめんなさい、わたしばっかり話しちゃって。うるさかったら言ってくださいね」
「そんなことないよ。それに、ふたりきりなんだから、黙られるほうが気まずいし。ところでさ、今さらなんだけど、このあとどうする?」

 言い終えてからポテチを1枚つまむ。
 そしてすぐに、冷えたコーラで流し込んだ。

「このまま楽しくおしゃべり……とか……そのう……」
「わたしを呼んだのって、おしゃべりがしたいだけ? 遠慮なく言ってよ。せっかく来たんだし」
「…………このまえ学校でキスしたじゃないですか。あの続きがしたいです」
「そっか」

 室内に響く乾いた咀嚼音。
 わたしは、グラスに浮かぶ氷を見つめていた。
 視線を合わせないのは故意じゃなくって、ただなんとなく、そうしたかったから。

「いいよ、しても」

 そんな返事に智花は眼をまるくする。
 けれどもそれは、ほんの一瞬だけ。
 すぐに笑顔を見せると、リビングルームからインターフォンの鳴る音が微かに聞こえた。


     *


 届いたばかりのピザの箱を開けないまま、わたし達はキスをする。

 智花の部屋で。

 彼女のベッドの上に横たわって。

 抱きあって。

 舌を絡ませる感覚と甘い唾液が口内に広がると、智花の指先がわたしの胸にやさしく触れた。

「小日向先輩……電気、消しましょうか? そのほうがいいですよね?」

 吐息まじりの声に、わたしはまぶたを開ける。
 潤んだ瞳に映る自分と眼が合った。

「うん……あっ、これ邪魔でしょ? いま脱ぐね」

 身体からだを起こしてから、セーターの裾を交差させた両手で掴む。
 それと同時に、智花も起き上がって服を脱ぎ始めた。


     *


 薄闇の世界に斜陽の光が伸びる。
 いつの間にか眠っていたようで、隣からも小さな寝息が聞こえていた。
 咽喉のどの渇きに急かされ、裸のままベッドをそっと抜け出してカーペットにすわり、ローテーブルに置いてあったコーラを飲む。
 すっかり氷が溶けてしまって分離していたけれど、わたしはこの味が嫌いじゃないので気にはならない。
 お腹も空いていたから、冷めたピザもついでに食べる。
 この時のわたしは、固くなったチーズを頬張りながら、智花と別れるまであと何回自分はセックスをするんだろうと考えていた。

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