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chapter.04
再会2
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翌日の早朝。ルーティンとなっている湖畔の散歩を終えて屋敷へ戻る途中、突然背後から車のクラクションが小さく二回、連続で鳴らされた。
振り返れば、愛車の黒いポルシェに乗った葛城が、運転席から白い歯をのぞかせているではないか。
徐行していたポルシェにあわせて航も立ち止まる。パワーウィンドウがひらき、笑顔のままの葛城が話しかけてきた。
「アオイ、久しぶりだな。元気そうにしてるじゃないか。ところでお前、こんなところで、なにしてるんだ?」
「それはこっちのセリフだよ。葛城さんこそ、どうしてここに? もしかして、契約に関係ある?」
「まあな。じゃなきゃ、こんな山奥へ来ねぇーよ」意味深に口角を上げる葛城。「ところで、屋敷へ行くんだろ? 乗ってけよ」
「いや、いい。散歩の帰りだから」
「ハハッ、そうか。じゃあ、また後でな」
久々の再会を手短に済ませた葛城は、ポルシェを急発進させて屋敷の方向へ颯爽と走り去った。
会長とは長期契約のはず。まさか、もう自分は飽きられてしまったのだろうか?
それとも別の理由があって──脳裏に一瞬、茉莉花のあの鋭い目つきが蘇る。
「嫌な予感がまた的中しそうだな……」
今にも消えてしまいそうな遠くの黒いポルシェを見つめながら、航はつぶやいた。
*
朝食の時間になっても、会長と堤、茉莉花は食堂に現れなかった。もちろん葛城も。
事前にそのことを知らされていた帆波と航たちは、厨房で昼食と夕食の下準備をしながら、いつものように雑談を楽しんでいた。
朝の散歩同様、帆波との会話は航にとって癒やしになっており、とくに彼女と交わす他愛もない話は、白く汚染された心身を清めてくれるように感じられた。
誰の所有物でもない、ひとりの人間としていられる、そんな貴重な短い時間。
帆波がこの屋敷に居なければ、航の心は荒んだままだっただろう。
「あの……葛城さんて、洲崎さんのお仕事関係の方なんですよね? 昨日の茉莉花さんもそうですけど、近ごろ急に賑やかになりましたね」
悪気がないのは頭ではわかっているのだが、ふたりの名前を帆波の口から聞きたくはなかった。航の心のなかで、言葉では上手く言い表せられない、なにかドス黒い液体が渦を巻いた。
「そうだね……こんなに来客があるのは、夜会以来かな」
その言葉に皮肉が込められているのを察した帆波は、
「あの、ごめんなさい。……ちがう話題のほうが良かったですよね」と言い、笑顔から困り顔に変わった。そんな様子を見て、航は我に返る。
「俺のほうこそ、なんかごめん。ちょっと昔の嫌なことを思い出しちゃってね」
そう言いながら業務用冷蔵庫のドアを閉めた航に、帆波は歩み寄る。
「嫌なこと……それだったら、なおさらごめんなさい」
航の手を思わず両手で包み込む帆波。
と、同時に、いつの間にか厨房の出入口に立っていた茉莉花が、ふたりに微笑んで言う。
「せっかくのところを邪魔して悪いんだけど、早く朝食の用意をしてくれないかな? 商談が長引いちゃって、もうお腹ペコペコなの」
「す、すみません! すぐに用意します!」
「帆波、俺も手伝うから落ち着いて行動しろ」いつもどおりのスーツ姿で、堤が厨房へ入る。
今日は久しぶりに三人で料理を運んだ。
そんな様子を、食堂の壁に背をあずけた茉莉花が、腕を組んで冷淡に眺めていた。
振り返れば、愛車の黒いポルシェに乗った葛城が、運転席から白い歯をのぞかせているではないか。
徐行していたポルシェにあわせて航も立ち止まる。パワーウィンドウがひらき、笑顔のままの葛城が話しかけてきた。
「アオイ、久しぶりだな。元気そうにしてるじゃないか。ところでお前、こんなところで、なにしてるんだ?」
「それはこっちのセリフだよ。葛城さんこそ、どうしてここに? もしかして、契約に関係ある?」
「まあな。じゃなきゃ、こんな山奥へ来ねぇーよ」意味深に口角を上げる葛城。「ところで、屋敷へ行くんだろ? 乗ってけよ」
「いや、いい。散歩の帰りだから」
「ハハッ、そうか。じゃあ、また後でな」
久々の再会を手短に済ませた葛城は、ポルシェを急発進させて屋敷の方向へ颯爽と走り去った。
会長とは長期契約のはず。まさか、もう自分は飽きられてしまったのだろうか?
それとも別の理由があって──脳裏に一瞬、茉莉花のあの鋭い目つきが蘇る。
「嫌な予感がまた的中しそうだな……」
今にも消えてしまいそうな遠くの黒いポルシェを見つめながら、航はつぶやいた。
*
朝食の時間になっても、会長と堤、茉莉花は食堂に現れなかった。もちろん葛城も。
事前にそのことを知らされていた帆波と航たちは、厨房で昼食と夕食の下準備をしながら、いつものように雑談を楽しんでいた。
朝の散歩同様、帆波との会話は航にとって癒やしになっており、とくに彼女と交わす他愛もない話は、白く汚染された心身を清めてくれるように感じられた。
誰の所有物でもない、ひとりの人間としていられる、そんな貴重な短い時間。
帆波がこの屋敷に居なければ、航の心は荒んだままだっただろう。
「あの……葛城さんて、洲崎さんのお仕事関係の方なんですよね? 昨日の茉莉花さんもそうですけど、近ごろ急に賑やかになりましたね」
悪気がないのは頭ではわかっているのだが、ふたりの名前を帆波の口から聞きたくはなかった。航の心のなかで、言葉では上手く言い表せられない、なにかドス黒い液体が渦を巻いた。
「そうだね……こんなに来客があるのは、夜会以来かな」
その言葉に皮肉が込められているのを察した帆波は、
「あの、ごめんなさい。……ちがう話題のほうが良かったですよね」と言い、笑顔から困り顔に変わった。そんな様子を見て、航は我に返る。
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そう言いながら業務用冷蔵庫のドアを閉めた航に、帆波は歩み寄る。
「嫌なこと……それだったら、なおさらごめんなさい」
航の手を思わず両手で包み込む帆波。
と、同時に、いつの間にか厨房の出入口に立っていた茉莉花が、ふたりに微笑んで言う。
「せっかくのところを邪魔して悪いんだけど、早く朝食の用意をしてくれないかな? 商談が長引いちゃって、もうお腹ペコペコなの」
「す、すみません! すぐに用意します!」
「帆波、俺も手伝うから落ち着いて行動しろ」いつもどおりのスーツ姿で、堤が厨房へ入る。
今日は久しぶりに三人で料理を運んだ。
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