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chapter.04
真夜中の訪問者
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その日の夕食を終えても、茉莉花からの接触は一切なかった。
居心地が悪いまま今日を過ごした航は部屋へ戻り、ベッドに寝そべって考えた。
茉莉花の狙いは一体なんなのか──?
今日一日、同じ事ばかり考えている。
すると、扉が小さく叩かれる。
この屋敷で航の部屋をノックする人物は帆波か谷村だけ。帆波は夜遅くに部屋へは訪れない。谷村も海外出張中で留守だ。しかも、ノックのリズムはふたりのそれではなかった。とすれば、訪問者の正体に察しがつく。
航はゆっくりと起き上がり、覚悟を決めて扉を開ける。
いつかのように、上目遣いの茉莉花がそこに立っていた。
お互いなにも喋らず、時間だけが過ぎていく。
やがて茉莉花は、「中に入っていい?」と訊いてきた。
航は無表情のまま、彼女を部屋へ招き入れた。
窓辺まで進んだ茉莉花の姿が、カーテンが開け放たれたままの闇夜の窓に映る。
「ここの暮らしには、もう慣れた? 都会と比べて不便でしょ?」
灯りひとつない外界を見ながら話しかけてくる茉莉花。
航はただ、「そうだね」とだけ答えた。
「うふふ、あれからもう二年くらい経ったのかな?」
今度はなにも答えない元恋人に、尚も話し続ける。
「あのとき、全部話してくれれば良かったのに。会っていたのは男なんだよって」
茉莉花は窓から離れ、静かにこちらへ歩きだす。
視線は合わせられなかった。過去の出来事を──すべてが狂い始めた葛城との出会いを思い出していたからだ。そして、茉莉花は顔を近づけて耳元でささやく。
「……自分は女よりもチンポを咥え込むのが大好きな変態ホモ野郎だって、最初から正直に教えてくれていれば、あなたのこと好きになんてならなかったのに」
「──なっ!?」
航がその言葉に反応した頃には、茉莉花はベッドに腰掛けていた。
やはりすべてを知っていた。あの日の痴態も、現在までの自分も。
数秒間、無言のまま見つめ合うふたり。気まずい空気に航は居た堪れず、重い口をひらいた。
「俺は……いや、謝るのが先だよな。茉莉花、あのときは傷つけてすまない、ゴメン。金が欲しかったんだ。仕事がうまく見つからなくて、つい──」
「つい、見ず知らずの初対面の男を受け入れたの?」
「…………ああ、そうだ。最低な経験だった。後悔しているよ」
「後悔? なにに? 私に対してじゃないよね?」
自分は利用されただけで、はじめから愛されてはいなかった。しあわせに感じていた同棲生活の日々も、虚構で塗り固められた幻だった。そう確信しているような鋭い目つきで睨まれる。
実際そのとおりなだけに、航は言葉を詰まらせた。そんな様子を見た茉莉花は、ベッドをきしませて立ち上がると、航の頬に平手打ちをした。
「勘違いしないで。これは久しぶりに再会した、ただの挨拶だから。それじゃあアオイ君、また明日ね」
そう言って茉莉花は部屋を去った。
たしかな痛みと熱を頬に残して。
居心地が悪いまま今日を過ごした航は部屋へ戻り、ベッドに寝そべって考えた。
茉莉花の狙いは一体なんなのか──?
今日一日、同じ事ばかり考えている。
すると、扉が小さく叩かれる。
この屋敷で航の部屋をノックする人物は帆波か谷村だけ。帆波は夜遅くに部屋へは訪れない。谷村も海外出張中で留守だ。しかも、ノックのリズムはふたりのそれではなかった。とすれば、訪問者の正体に察しがつく。
航はゆっくりと起き上がり、覚悟を決めて扉を開ける。
いつかのように、上目遣いの茉莉花がそこに立っていた。
お互いなにも喋らず、時間だけが過ぎていく。
やがて茉莉花は、「中に入っていい?」と訊いてきた。
航は無表情のまま、彼女を部屋へ招き入れた。
窓辺まで進んだ茉莉花の姿が、カーテンが開け放たれたままの闇夜の窓に映る。
「ここの暮らしには、もう慣れた? 都会と比べて不便でしょ?」
灯りひとつない外界を見ながら話しかけてくる茉莉花。
航はただ、「そうだね」とだけ答えた。
「うふふ、あれからもう二年くらい経ったのかな?」
今度はなにも答えない元恋人に、尚も話し続ける。
「あのとき、全部話してくれれば良かったのに。会っていたのは男なんだよって」
茉莉花は窓から離れ、静かにこちらへ歩きだす。
視線は合わせられなかった。過去の出来事を──すべてが狂い始めた葛城との出会いを思い出していたからだ。そして、茉莉花は顔を近づけて耳元でささやく。
「……自分は女よりもチンポを咥え込むのが大好きな変態ホモ野郎だって、最初から正直に教えてくれていれば、あなたのこと好きになんてならなかったのに」
「──なっ!?」
航がその言葉に反応した頃には、茉莉花はベッドに腰掛けていた。
やはりすべてを知っていた。あの日の痴態も、現在までの自分も。
数秒間、無言のまま見つめ合うふたり。気まずい空気に航は居た堪れず、重い口をひらいた。
「俺は……いや、謝るのが先だよな。茉莉花、あのときは傷つけてすまない、ゴメン。金が欲しかったんだ。仕事がうまく見つからなくて、つい──」
「つい、見ず知らずの初対面の男を受け入れたの?」
「…………ああ、そうだ。最低な経験だった。後悔しているよ」
「後悔? なにに? 私に対してじゃないよね?」
自分は利用されただけで、はじめから愛されてはいなかった。しあわせに感じていた同棲生活の日々も、虚構で塗り固められた幻だった。そう確信しているような鋭い目つきで睨まれる。
実際そのとおりなだけに、航は言葉を詰まらせた。そんな様子を見た茉莉花は、ベッドをきしませて立ち上がると、航の頬に平手打ちをした。
「勘違いしないで。これは久しぶりに再会した、ただの挨拶だから。それじゃあアオイ君、また明日ね」
そう言って茉莉花は部屋を去った。
たしかな痛みと熱を頬に残して。
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