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chapter.04
対等ではない立場
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いつもよりも遅れた時間に昼食が始まる。
谷村の指定席には、当然のように茉莉花がすわっていた。
同じ五人でも、ひとり代わるだけでこうも雰囲気が違うものになるのか。
航は茉莉花が一体どこまで知っているのか、気になっていた。
茉莉花のことは愛してはいなかったが、元彼としては、いや、元同棲相手としては現在の自分の役割を知られるのは気分が良いものではない。
ふだんは黙々と食べているだけの会長が、茉莉花の顔色を時々うかがっている。先程見た限りでは、このふたりの関係性は良好のように見えたのだが──。
「随分と静かなんだ。せっかく料理が美味しいのに残念」
大きな独り言を話す茉莉花に反応したのは、料理を褒められた帆波だった。
「ありがとうございます」少しぎこちない様子で応える。
「そう言えば、あなたたち、自己紹介がまだじゃない? お名前を教えてもらってもいいかな?」
笑顔で訊ねる茉莉花。会長と堤は無反応のまま食事を続ける。
「あっ、はい。申し訳ありませんでした。私は菱田帆波です。家事使用人をさせていただいております」
着席したまま頭を下げる帆波に、茉莉花は笑顔で「帆波ちゃんね。よろしく」と声をかけた。
次は航が答える番だ。さて、どうしたものか。
だが、先に言葉を発したのは茉莉花だった。
「あなたは……噂のイケメンのアオイ君ね。初めまして」
「……初めまして」
男娼としての源氏名を茉莉花は知っていた。それはつまり、航のすべてを知っていると言うことになる。
ほんの数秒前までは元恋人の関係であったが、今はもう違う。愛玩奴隷とその主人の孫娘になったのだ。
「あーっ……アレだ。茉莉花は何時までこっちに居られるんだ?」
微妙な空気を察したのか、それとも航とのやり取りになにかを感じ取ったのか、あの会長が気を利かせて話題を変えた。
「うーん、そうね……一週間か一ヶ月か、それともずっとかも! 御爺様、だめ?」
小首を傾げて答える孫娘に、会長は驚きを隠せないでいた。
「なにぃ!? 別に茉莉花が居たいだけ居てくれて構わねぇがよ……それにしても、めずらしいな。なにか向こうであったんなら、遠慮なく俺に言えよ。助けてやるから」
「うふふ、御爺様ありがとう。大好き!」
会長はよろこんでいるようだが、ほかの三人は無反応だった。とくに航は。
茉莉花がこの屋敷にやって来た目的は、なんとなく察しがつく。過去の仕返しに、愛玩奴隷に身を落とした自分をどうにかするつもりなのだろう。
「ところで御爺様、あの女のことなんだけど」
「あっ? ああ……今は海外へ出張中だ。しばらくは日本に帰っちゃ来ねえよ」
「そう! 良かった」
あの女……話の内容からして、谷村のことだろうか。理由はわからないが、どうやら茉莉花と谷村は犬猿の仲のようだ。
だとすると、谷村が不在のタイミングで突然現れたのも納得がいく。
なにか嫌な胸騒ぎがする。
航は冷めたスープを口に運びながら、そう感じていた。
谷村の指定席には、当然のように茉莉花がすわっていた。
同じ五人でも、ひとり代わるだけでこうも雰囲気が違うものになるのか。
航は茉莉花が一体どこまで知っているのか、気になっていた。
茉莉花のことは愛してはいなかったが、元彼としては、いや、元同棲相手としては現在の自分の役割を知られるのは気分が良いものではない。
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「随分と静かなんだ。せっかく料理が美味しいのに残念」
大きな独り言を話す茉莉花に反応したのは、料理を褒められた帆波だった。
「ありがとうございます」少しぎこちない様子で応える。
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笑顔で訊ねる茉莉花。会長と堤は無反応のまま食事を続ける。
「あっ、はい。申し訳ありませんでした。私は菱田帆波です。家事使用人をさせていただいております」
着席したまま頭を下げる帆波に、茉莉花は笑顔で「帆波ちゃんね。よろしく」と声をかけた。
次は航が答える番だ。さて、どうしたものか。
だが、先に言葉を発したのは茉莉花だった。
「あなたは……噂のイケメンのアオイ君ね。初めまして」
「……初めまして」
男娼としての源氏名を茉莉花は知っていた。それはつまり、航のすべてを知っていると言うことになる。
ほんの数秒前までは元恋人の関係であったが、今はもう違う。愛玩奴隷とその主人の孫娘になったのだ。
「あーっ……アレだ。茉莉花は何時までこっちに居られるんだ?」
微妙な空気を察したのか、それとも航とのやり取りになにかを感じ取ったのか、あの会長が気を利かせて話題を変えた。
「うーん、そうね……一週間か一ヶ月か、それともずっとかも! 御爺様、だめ?」
小首を傾げて答える孫娘に、会長は驚きを隠せないでいた。
「なにぃ!? 別に茉莉花が居たいだけ居てくれて構わねぇがよ……それにしても、めずらしいな。なにか向こうであったんなら、遠慮なく俺に言えよ。助けてやるから」
「うふふ、御爺様ありがとう。大好き!」
会長はよろこんでいるようだが、ほかの三人は無反応だった。とくに航は。
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「あっ? ああ……今は海外へ出張中だ。しばらくは日本に帰っちゃ来ねえよ」
「そう! 良かった」
あの女……話の内容からして、谷村のことだろうか。理由はわからないが、どうやら茉莉花と谷村は犬猿の仲のようだ。
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